【金策の導】2
今日の依頼は、高齢のため陰陽師を引退した男性からのもの。
年配の陰陽師たちは皆、鬼道家を知っている。そして、鬼道柊の名を耳にすれば皆が顔を顰めた。彼には他人を魅了する力があり、依頼主には特に好かれていたと以前柊に救われた依頼主は言った。けれど同業者にとっては商売敵でしかない。柊が引退したことでようやく自分たちのやりやすいように仕事をしていた陰陽師たちは、柊の子である楓が表舞台に上がってきたことで再び危機感を覚えた。
最弱とは言え、由緒正しい鬼道の血筋を継ぐ楓はいずれ必ず自分たちの脅威になると判断した陰陽師たちは、右も左も分からない楓に対してわざと冷たく当たった。だからこそ、報告会では討伐数を発表するように泰親に進言する者がおり、月に一度嫌味を聞かされるのが楓の悩みの種となっていた。
だから、彼は自分がどう思われようと慣れている。
「楓、さっきのじーさんの態度だけどさ、気にするなよ」
肩の上で豆狸が言った。心配そうに鼻をひくつかせている。今日の依頼は庭木の手入れだ。顔に深く皺を刻んだ老齢の依頼人は、依頼を受けたのが鬼道家当主だと分かると謝礼を投げて寄こした。
「ありがとう」
多少なりとも夢を見ていたその職は、いつしか正義感の強い少年の心に暗い影を落とした。自己肯定感も低くなり、彼の表情から笑顔を消す。
豆狸にとって嬉しいことと言えば、古御門家が崩れたことで報告会も休止となり、悩みの種がひとつ無くなったこと。
「オイラ、もっともっと稼ぐからな。柊にもガツンと言ってやる」
「その気持ちだけで充分です、師匠」
楓は肩の上に居る豆狸を、学生服の上に着た羽織の中へと仕舞う。すっかり暗くなった路地を歩いていた。学校の後に依頼をこなすのが日課になっていたが、冬が近づくほどに寒さも厳しくなっていく。
「冷えるな……」
ぽつりと呟いた小さな声は冬のからっ風にかき消された。楓は、冬が嫌いだ。冬生まれではあるが、まだ夏の方がいい。手足の先から凍りつくような寒さは毎年のことながら慣れない。
「もうすぐ十六だな」
「え?」
「十二月四日! お前の誕生日だぞ。もう十六歳だろ? 早いなあ」
懐の中で豆狸が言った。日々の忙しさですっかり忘れていた楓は不思議そうに目を丸くしていたが、やがて立ち止まる。
「……ああ、そうか」
彼がまたひとつ大人に近づく日。
ふとハクのことが脳裏をよぎった。今は恋愛に現を抜かしている場合ではないことは、楓が一番理解している。けれどハクの存在は、楓にとって心の大きな支えになっていた。
「鬼原とデートしないのか?」
「そ──そんなことしてる暇があったら修行します」
楓がぶっきらぼうに答えた。言葉に詰まる辺り、まだまだ子供だ。豆狸が笑った、その時だった。
豆狸が背負っているスマートフォンが振動する。一緒に震えている豆狸ごと掴んだ楓がスマートフォンを耳に当てた。
「もしもし」
『あ──楓くん? ごめんね、お家に電話したらセンセイと一緒だって聞いたから。またお仕事してたんだ?』
「は、はい」
『あのね──』
ハクが僅かに緊張した声色で語りかける。
『楓くん、今度の日曜日暇? よかったら……お買い物しない?』
願ってもいなかった誘いに、みるみる破顔していく楓を見上げて、豆狸が心底嬉しそうな笑顔を見せた。




