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最弱陰陽師は、自分にかけた呪いとまだ向き合えていない  作者: ふみよ
3部

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【家族団欒?】3

 賑やかに食事を楽しむ彼らから離れた部屋で、黒猫と赤髪の鬼王が静かに語らっている。しかし、その雰囲気は穏やかなものではない。


「姫、一刻も早く常夜へお帰りください」


 前足を行儀よく揃えた黒猫が言う。しかし鬼王は、黒猫の顎を手でくすぐるだけで応える様子はない。


「此度の戦い、姫は無理を重ねすぎました。このままではいずれ白夜様のように──」

「貴様は心配しすぎだ、魔鬼」


 布団の中で鬼王が笑う。魔鬼がすかさず反論しようとするが、すぐにその鼻先に冥鬼の指がちょんと触れた。


「オレさまを誰だと思ってる? 最強の鬼王、冥鬼サマだぜ。……今はちょいと疲れてるだけだ。すぐ元に戻る」


 勝気に笑ってみせた冥鬼だったが、その瞼はすぐに力が抜けたように伏せられてしまう。

 以前と比べ、楓には仲間が増えた。護るべき対象だった少年は、徐々にその頭角を表しつつある。けれどまだまだ一人にはしておけない。彼には、これからも自分が隣にいなければダメなのだ。

 それらは彼女の個人的な感情によるものであり、教育係である魔鬼にはその胸の内を見抜かれている。


「寒くなってきた。来い、魔鬼」


 冥鬼の命令に逆らえない魔鬼が大人しく歩み寄った。冥鬼の腕が、暖を取るように魔鬼の体を抱き寄せる。その低い体温は明らかに妖気が少なくなっていることの証だ。魔鬼は慌てて腕の中でもがいた。


「姫、やはりお体が──!」


 魔鬼の声と被るように、タイミングよくハクがトレイに食事を乗せて冥鬼の部屋へとやってくる。ハクと目が合った魔鬼は、バツが悪そうにゴロゴロと喉を鳴らしていた。


「──体調は、どう? 冥鬼ちゃん」


 何か言いたそうに口を開いたハクは、少しの間を置いてから普段と変わらない穏やかな口調で問いかける。別に大したことねーよ、と言いかけようとした冥鬼だったが、その鼻腔を食事の匂いが刺激した。


「それオレさまの飯か? 食っていい?」

「もちろん。全部冥鬼ちゃんの分よ」


 冥鬼は瞳を輝かせながら体を起こすと、すぐさまハンバーグにかぶりつく。食欲が有り余っていることに安心した様子のハクだったが、その顔はどこか心配そうだ。しかし、ぐっと言葉を飲み込んで笑顔を作る。なるべく、普段通りの。


「……おかわりが欲しくなったら、言ってね」

「おう!」


 ハクはにこりと微笑んで体を起こすと、食事を続けている冥鬼に背を向けて部屋を出た。廊下を歩くハクの後をついてくるのは黒猫の魔鬼だ。部屋を出た途端、ハクは唇を震わせて耐えきれずに俯いた。


「……ッ」


 とめどなく溢れてくる涙を隠すように、両手で顔を覆う。戦いの後、冥鬼はずっと寝たきりのままだ。元気に振舞ってはいるが、以前のような覇気は無い。人間であるハクにも分かるほど、彼女は弱っている。

 ハクの足元に近づいてきた黒猫は、じっとハクを見上げていたがやがてその体をハクに擦り付けた。


「うにゃあ……」


 甘えるような鳴き声を上げる黒猫の仕草は、ハクを心配しているように見える。ハクは小さく鼻をすすると、遠慮がちに座り込んでその体を撫でた。ゴロゴロ、と気持ちよさそうに黒猫の喉が鳴る。


「冥鬼ちゃん──」


 古御門家で捕らわれた自分を励ましてくれた時のこと、部活仲間として冥鬼と過ごした日々が脳裏によぎる。元気が有り余るという言葉がピッタリな少女から奪われたものを取り戻したい。ハクが願うのはただそれだけだ。


「……」


 ふと、ハクの脳裏に過ぎったのはある人物の存在。鬼原の分家であり、ハクと同じように異界の魂を分けし者。彼の持つ癒しの力があれば、冥鬼を救うことが出来るかもしれない。

 今度は自分が、冥鬼を助ける番だ。

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