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最弱陰陽師は、自分にかけた呪いとまだ向き合えていない  作者: ふみよ
3部

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219/435

【家族団欒?】1★

「久しぶりの我が家だ〜!」

「はしゃぐな馬鹿親父」


 楓の注意も聞かずに柊はスキップをしながら鬼道家の門を潜る。楓は、そんな柊の後ろですっかり冷たくなった息を吐き出した。季節は、既に冬が近づいている。


 その日は、柊が鬼道家へと帰ってきた日。本来ならばもう少し入院が必要な体ではあったが、消灯後に看護師を片っ端から口説きに行くのは当たり前、勝手に病院から抜け出してゲームアプリに課金するためのカードをコンビニへ買いに行くなど、ことごとく決まりを守らない彼は病院側から出ていって欲しいと頼み込まれてしまった。

 主治医に苦い顔をして『研修生にまで手を出されるのは、ちょっと……困るんですよね……』と言われた時の気持ちを思い出して、楓は大きなため息が漏れる。暗闇に白い吐息が溶け込み、揺れながら消えた。


 古御門家での戦いが終わったあと、楓はハクと共に柊の入院する病室へ赴いた。そこで語られた母の死の真相。鬼道すみれは彼女の妹である古御門ゆりによって殺された。ゆりが凶行に走った理由、それは──。


『その時がきたら、話してやる』


 不自然なほど曖昧な言葉だった。どんなに残酷な真実でも受け入れる覚悟を決めてきた楓にとって、その返答はあまりにも受け入れ難い。


『その時って何だよ。あんなことがあったばかりで、僕にだって知る権利が──』

『んあ〜大声出すな、傷に響く……』


 思わず声を荒らげた瞬間、柊がわざとらしく腹を押さえた。楓はさらに声を上げそうになるが、柊の様子を見て口を噤んだ。飄々と振舞ってはいるが、一時は意識不明だった父。重傷なのは事実だ。その額に浮かぶ脂汗を見て、楓は追求したいのをぐっとこらえる。


挿絵(By みてみん)

「今よりもっとお前が強くなったら、全部話してやる。怖い顔すんな。約束するって」


 幼子をなだめるように、柊は笑った。

 古御門泰親は楓一人の力で倒したわけではない。冥鬼や八雲の助力があったからこそ楓は無傷でハクの元に戻ることが出来た。今の状態では本当の強さとは程遠い。


(強くならないとダメだ。もっと、みんなに認められるくらい強く……)


 楓は、退院してすっかり浮かれている柊の後を歩きながら険しい表情を浮かべている。これからのことはもちろんだが、楓にはもうひとつ気がかりなことがあった。


「キイチたちは、これからどうなるんだろう」

「うん? そいつはお前が心配することじゃねーよ」


 歩みを止めた柊が、彼に追いついた楓の背中をパンパンと叩く。楓はどこまでも脳天気な父を見て呆れたような視線を送った。すぐに柊を追い越して鬼道家の玄関へと手を伸ばす。


「何だよそれ。大体親父はいつもそう──」

「お帰りなさい、楓くん」


 不意に、玄関の戸から待ち構えていたかのように少女が顔を覗かせた。エプロンを身にまとった彼の想い人、鬼原ハクだ。忘れていたわけではなかったが、そのあまりの不意打ちに楓は口から心臓が出そうなほど驚いた。


「ははぁ、まるで新妻だなあハクちゃん。相変わらずべっぴんさんだ。エプロンもよく似合ってる。見なよ、月も照れて雲に隠れちまった」

「何言ってんだ馬鹿親父」


 ペラペラと歯の浮く台詞を並べ立てる柊に息子が白い目を向けている。戸惑いながら肩を竦めて笑ったハクが腰の後ろで手を組んだ。


「元気そうでよかったです、おじさま」

「ははは、この俺が簡単にくたばるわけねーだろ?」


 柊は腹を擦りながら笑うと、改めて久しぶりの自宅に足を踏み入れた。


「楓くんも、おかえりなさい」


 柊の着替えが入った荷物を楓から受け取りながらハクが微笑む。その一連の流れは、もはや夫婦のそれだ。感極まった楓は背を向けて幸せのため息を吐く。


「……生きててよかったッ……」

「もう」


 ハクは少しだけ恥ずかしそうに唇を尖らせてみせたが、すぐに身を翻した。


「今日はおじさまの退院祝いに、八重花さんと一緒にごちそうを作ったの。お腹空いてるでしょ?」

「空いてる空いてる! 病院食なんか独房の飯より酷かったんだぜ〜?」

「独房の飯食ったことあるのかよ……」


 呆れ顔の楓のことなどよそに、柊は軽い足取りで廊下を進んだ。術後の痛みはどこへいったのかと楓が呆れながら玄関に鍵をかけようとしたその時、外から褐色の手が伸びてきて楓の腕を無造作に掴む。


「ひっ」


 思わず悲鳴に近い音が喉から漏れる。その手の主が、ぬっと顔を出した。癖のある白髪と、血のように赤い瞳をした少年。


「さ、猿神ッ……」


 予想外の訪問者に楓の表情が強ばる。ハクの後に続いていた柊が玄関先に居る猿神を見て特に驚いた様子もなく振り返った。


「お前、よく結界の中に入ってこれたな」


 その声に悪意はない。むしろ世間話のように友好的ですらある。けれど、べーっと舌を出した猿神は柊と目も合わせずに勝手に家に上がり込み、ハクの背中に抱きついていた。


「ハクちゃん、ボクもうお腹ペコペコ!」


 まるで子供が甘えるようにハクの肩に腕を回す。その自由な振る舞いに堪忍袋の緒が切れた楓は、大股で猿神の元へ向かった。


「お前なッ──!」

「キヒヒ……怖い怖い。助けてぇ〜」


 猿神はハクを盾にするように体を隠す。ハクは最初こそ驚いていたが、猿神をなだめるように話しかけた。


「えっと……あなたの口に合うかどうかは分からないけど、たくさん作ったから一緒に食べましょう、日吉……くん?」


 ハクが少し困ったように笑うと、猿神は一瞬目を丸くしたがすぐに嬉しそうな笑顔を浮かべて肩を抱き寄せる。


「食べる食べるッ! あ、楓サンは夕飯要らないってサ」

「そ、そんなこと言ってない! ハク先輩に馴れ馴れしくするなって!」


 忠告も聞かずにハクにベタベタしている猿神の後を追いながら、楓は慌てて家に上がる。その後ろ姿を見つめていた父親の表情に、楓は気づかない。静かに顎髭を片手で撫でながら黙っていた柊は、遅れて子供たちの後に続いた。

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