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【怪異を探せ】5

「鬼道、オマエ……スマホくらい持てよなあ」


 目の前に居たならどつかれそうなくらい不機嫌なゴウ先輩の声が受話器から聞こえる。

 慌てて電車から飛び出したゴウ先輩は僕と連絡先を交換する術を思いつくことがないまま帰路につき、仕方なく部長である高千穂先輩に僕の家の連絡先を聞いてから電話をかけてきたらしい。

 僕が携帯電話を持っていないのは当然、貧乏だからだ。今まで不便に感じたことはないし今後も持つ予定はないが……。


「すみません……ところで、何の用ですか?わざわざ電話なんて……」

「そのことなんだけどさ」


 ゴウ先輩は少し言い淀むように言葉を濁す。やがて受話器の向こうで、先輩の舌足らずな声が聞こえた。


「オマエ、今から学校に来られるか?」

「はっ?」


 突然の問いかけに、僕は思わず間抜けな声を上げてしまう。今からって……もう夜の二十時を過ぎたぞ。


「えーと、さすがに今からだと三十分くらいかかりますし……滞在時間によっては帰りの電車の時間が心配なんですが……」

「ああ、時間なら問題ねえよ。オマエんち門限ある? ないだろ」

「……ないです」


 夜に学校に来いなんて、本当に何の用だろう。まさか焼却炉を二人で調べよう、なんて言うつもりじゃないだろうな。さすがに僕の腕前じゃ先輩を守れないぞ……。いや、自分の身だって守れるかどうかわからないし。

 内心冷や汗をかいている僕に対して、ゴウ先輩は少し小声になった。


「さっきの焼却炉の話、ハクに話したら……馬鹿千穂に聞かれててよ──アイツら長電話しやがって──で、部長命令で今から学校に集合って話になったんだ」

「今からって……急ですね」


 僕は苦笑しながら返事をする。ゴウ先輩のため息が聞こえた。


「だからオマエもすぐに出かけられる準備しとけよ……ってハクッ! 押すな!」

「楓くーん、こんばんは♡」


 な……今のは聞き間違いでなければハク先輩の声だ……! 僕は思わず受話器を握りしめた。


「は、ハク先輩……こっ、こんばんは……」

「もう着替えた? 今ね、楓くんの──」

「うにゃっ! 体を押し付けんじゃねーッ!」


 電話口からゴウ先輩の心底迷惑そうな羨ましい悲鳴が聞こえる。僕は受話器を握ったままハク先輩の笑い声を聞いていた。電話口で聞くハク先輩の声もすごくかわいい。


「あのね、もう楓くんの家の前だから──出てこられる?」

「えっ」


 突然のお誘いで目が点になると同時に、無断で玄関を開ける音が聞こえる。


「こちら鬼道楓くんのお宅でよろしいでしょうか!」


 この自信満々な声、間違いない──高千穂部長だ……。

 僕は受話器を持ったまま固まった。同時に、ペタペタと廊下を歩く小さな足音が玄関へ向かう。


「はーいっ!」


 嬉しそうに玄関へ向かったのは僕の式神、冥鬼だ。

 僕は大慌てでリビングから抜け出すと迷うことなく木製の壁掛け棚に引っ掛けてある子供用の帽子を取って勢いよく冥鬼に被せる。


「ふにゃ……?」

「ツノ……! 丸見えなんだよ……」


不思議そうに振り返ってくる冥鬼に小声で注意をしてから玄関へ向かうと、そこには既に部長とゴウ先輩、そしてハク先輩の姿があった。私服のハク先輩は……とてもかわいい。

 って、そんなことを考えてる場合じゃなかった。


「おにーちゃんの、おともだちですか?」


 帽子の両端を掴んで、冥鬼が舌足らずな声で礼儀正しく問いかける。さすが小さくてもお姫様だ。


「あたしは東妖オカルト研究部部長、高千穂レンよ!あなた、鬼道くんの妹さんかしら?」

「いいえ、かえでのつまでございます! いつもしゅじんがおせわになっております!」


 部長の問いかけに、冥鬼は嬉しそうに返事をする。待て待て待て、それ何かのドラマの台詞パクッたな。ツッコミたくてウズウズしている僕に気づいた冥鬼が、甘えて足に抱きついてくる。


「あらあら……ふふっ、かわいい奥さんね?」

「ち、違うんですハク先輩! コイツは親戚の子で……」

「メイ……シンセキノコじゃないもん! そのキノコ、おいしくなさそう」


 冥鬼は心底不思議そうに首を傾げている。意味はわからない様子だったが、何となく不満そうだ。


「子供がこんな時間まで起きてんじゃねーよ」

「メイ、こどもじゃないもん! おひめさまだもん!」


 僕が冥鬼の口を塞ぐよりも早く、冥鬼はものすごく大事な秘密を口にしてしまう。冥鬼よりちょっと背が高いことで気を良くしたらしいゴウ先輩が、冥鬼のおでこを指で小突く。幸いにも、冥鬼の発言は子供特有の妄想だと思われたらしくて、ゴウ先輩が特に顔色を変えることはなかった。


「お姫様ならなおさらこんな時間まで起きてたらダメだろ、ぶくぶくの豚になっちまうぞ」

「ゴウくん、女の子にそんなこと言っちゃダメよ」


 ゴウ先輩先輩の軽口を優しくたしなめたハク先輩は、冥鬼の目線と同じになるように腰掛けた。


「メイちゃん、私は鬼原ハク。楓お兄ちゃんのお友達なの。私とお友達になってくれる?」


 ハク先輩が優しく語りかけると、冥鬼は目を丸くしてから何だか恥ずかしそうにもじもじとして頷きを返した。


「ふにゃ……うん」

「ふふふっ、メイちゃんとお友達になれて嬉しいな」


 ハク先輩は冥鬼の髪を優しく撫でて微笑んだ。僕同様、冥鬼もハク先輩には弱いのか、それとも人間の女性に免疫がないのか、恥ずかしがってふにゃふにゃになってしまっている。

 そんな僕達の会話を中断させるように、部長が身を乗り出してきた。


「鬼道くん、話は子猫ちゃんから聞いたわ。とっても面白……怖い思いをしたわね! 東妖オカルト研究部として、東妖七不思議のひとつ、鬼火の焼却炉を調べに行くわよ!」


 部長が僕の肩をガッチリと掴んでくる。

 いや……それより今、面白いって言いかけなかったか? この人。


「オレは止めたからな」

「一応私も〜……」


 先輩二人が口を挟むが当然のように部長は聞いてない。

 僕たちのやりとりを不思議そうな顔で聞いていた冥鬼は、僕のズボンを引っ張りながら言った。


「おにーちゃん、どこいくの? メイもいきたい!」


 無邪気にぴょんぴょんと跳ねながら冥鬼がお出かけをねだってくる。僕は冥鬼の頭に手を置いて苦笑した。


「い、いや……夜も遅いし僕達子供だけで学校に行くのはちょっと……」

「メイがおにーちゃんをまもるんだもん!」


 いつもは聞き分けのいい冥鬼が、今日は何故か食いついてくる。先日の二口女との戦いの後から、冥鬼は妙に僕に対して過保護だ。

 僕が頼りないのは認めるが……。


「楓くん、お父さんとお母さんは?」

「いや、出かけてて……日付が変わる頃には帰ると思うんですけど」


 出かけてるというか、いつものパチンコなんだが。僕が苦笑気味に答えると、ハク先輩は冥鬼に声をかけて抱き上げた。


「こんなに小さい子をひとりきりで留守番なんてさせられないわ。一緒に連れていきましょ? メイちゃんのことは私が見るから」


 ハク先輩は、優しい笑顔を冥鬼と僕に向ける。天使か……?

 冥鬼も、ハク先輩に抱き上げられて悪い気はしないのか甘えるようにハク先輩の首筋に両腕を回した。


「焼却炉には近づけんなよ。怪我でもされたら責任取れねーぞ」


 珍しくゴウ先輩も反対はしない。満場一致で冥鬼を連れていくことが決定すると、僕達は部長の指示で家の外にある高級車へと乗り込んだ。


「東妖高校まで全速力で飛ばしなさい」

「かしこまりました、お嬢様」


 運転手はそう告げて車を発進させる。さすが高級車、座席はふかふか。体への振動もないしブレーキのかけ方もとってもスムーズだ。僕は落ち着かなさそうに抱きついている冥鬼の髪を撫でた。冥鬼は顔を上げると、小声で僕に囁いてくる。


「おにーちゃん……メイ、こんなにおっきいくるまのったのはじめて」

「僕もだよ」


 僕は引きつった笑顔で答えた。

 さっきから僕の隣にはハク先輩が座っており、僕は冥鬼とハク先輩に挟まれている。ハク先輩は僕に体を押し付けるようにして座っており、時々僕の腕にハク先輩の……その、発育のいい胸が当たるのだが、そのたびに申し訳ないようなちょっと嬉しいような、変な気分になった。


「馬鹿千穂、夜の学校なんて入れるのかよぉ」

「問題ないわ。あたしを誰だと思ってるの?あとあたしは高千穂よ、子猫ちゃん」


 座り心地がいいせいか、いつも以上に眠そうなゴウ先輩の問いかけに部長が悪い笑顔を返す。車は部長の言う通り、速度制限に引っかからない程度の全速力で学校へと向かって行った。

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