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最弱陰陽師は、自分にかけた呪いとまだ向き合えていない  作者: ふみよ
2部

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【イサヨと八雲】3

イサヨと八雲に案内された病室では、鬼道柊が静かに眠っていた。一命を取り留めたとはいえ、意識がまだ戻っていない。

 尾崎八雲と尾崎十六夜、彼らの目的は何なのか、楓には聞きたいことがたくさんある。


「……話してくれますか」


 先程よりも警戒はゆるんでいたが、ゴウへ危害を加えられることを心配した楓は体を強ばらせたまま言った。

 楓に向き直った八雲は、真剣な表情で答える。


「俺は君の知りたいことを知っている。だがそれは、君にとってショックな出来事も話さなくてはいけない。それでも──」


 言葉を選ぶようにゆっくりと八雲が語りかける。楓は静かに眠る父を見つめるとすぐに八雲に向き直った。


「話してください。親父をこんな目に遭わせた奴のこと。あなたたちは陰陽師狩りの仲間なんですか? 古御門先生はどうしてあんな手紙を僕に送ったんですか」


 物言わぬ父を前にして、すっかり気が動転した楓は矢継ぎ早に質問を口にする。冷静な装いをしてみても、まだ十代の子供だ。八雲は真剣な表情で楓の質問を全て聞くと、ゆっくりと口を開いた。


「鬼道柊殿は、古御門泰親の部屋で刺された」


 その返事を聞いて、楓が赤い瞳を大きく見開く。瀕死の柊を発見した八雲は、古御門泰親の目を盗んで小森病院に連れて行ったのだと話した。小森病院は表向きは大学病院だが、古くから陰陽師の研究をしており一般の病院には見せられない患者も受け入れている。古御門家を始め多くの陰陽師に支援を受けている病院だ。小森七月海が院長となってからは、さらに多くの陰陽師を受け入れるようになっていった。そして、小森七月海が死んだ今、陰陽師の霊力を抜き取ろうと目論む医者も居ない。なぜなら今の院長は反古御門派だからだ。


「副院長の素性に関しては信頼できる。院長の夫である小森五百里と親友だった人だ」


 小森五百里がもうこの世に居ないことも、彼の死に九兵衛が関わっている可能性があることも八雲が説明した。

 話を聞いたゴウがぶるぶると体を震わせながら楓の後ろに隠れて問いかける。


「尾崎は、何で自分の兄弟を殺すんだ? 憎いのは古御門家だろ?」

「それが分かったら苦労しないからね……」


 イサヨが少し引きつった顔で笑う。

 楓は何か思うところがあるようで、目を細めて考え事をしている。その険しい表情に何を思ったのか、八雲が静かに頭を下げた。


「鬼道楓、俺たちに協力してくれ。君の力が必要だ」


 八雲が尾崎九兵衛とよく似た顔で言った。九兵衛のように嫌な気配は微塵もなく、彼の言葉には説得力がある。しかし……。

 楓は静かに眠り続ける柊を見下ろした。古御門泰親の部屋で背中から深く刺されていたという。あと一歩病院へ連れていくのが遅かったら命は無かったそうだ。


(八雲さんは、親父の命を助けてくれた……)


 楓にとって柊は、たった一人の大切な家族。陰陽師について何一つ教えてはくれず、その技すら息子の楓に継がせようとはしなかった彼が何を考えて古御門家に行ったのか、楓には分からない。

 楓は静かに瞼を伏せると、八雲をまっすぐに見つめて頷いた。

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