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最弱陰陽師は、自分にかけた呪いとまだ向き合えていない  作者: ふみよ
2部

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【転校生?】2

 こんな時期の転校生は特殊だと楓は思う。キイチの纏う雰囲気は独特だった。しかし誰もキイチのことを気にする様子はない。あの葵でさえも、まるでそこに誰も存在していないかのように振舞っている。


「楓、本なんか読んでないで構えってばぁ」

「僕じゃなくて伊南さんに構ってもらえば良いだろ。犬かお前は」


 楓はため息をついて文庫本を捲る。異質な状況のせいで、本の内容など頭に全然入ってこない。


「な、何で朱音が出てくるんだよ! そもそもあいつ、学校来てねえんだってば」

「……そうなのか?」


 楓は教室の中を見た。楓の言う通り、今日は伊南朱音を見ていない。いつも元気な彼女が欠席だなんて珍しいこともあるものだと楓は思った。


「お前はボーッとしてたから気づいてないかもしれないけどな」


 どこか不機嫌そうな葵の話を聞きながら教室の中を見回していた楓の目は、何となくキイチへと向けられる。血のように赤い目と視線が交わり、楓はビクッと肩を震わせてしまう。


「ふふ……」


 キイチは、なぜ東妖高校に転校してきたのだろうか。古御門家は冥鬼が欲しくてたまらないはずだ。そして何より、キイチを自分に近づけた理由は?

 様々な考えが楓の頭の中を支配する。とても読書を楽しむ気分にも、葵と話をする気分にもなれなかった。


「兄さん、学校の中を案内してくれる?」


 ふと、視界に眩しい白髪が映った。顔を上げると、キイチが妖しく微笑んでいる。楓は、少し引きつった顔で文庫本を鞄に仕舞った。


「……葵、悪いけど僕はキイチを案内してくるから……」

「へ? きいち?」


 楓はそう言って葵に声をかける。この時点で、楓がもう少し冷静になっていれば違和感の正体に気づけたのかもしれない。

 ひたひたと足音を立ててキイチが楓の後ろを歩く。その気配を気にしながら、楓は自然と早歩きになってしまう。


「兄さんの部活、行ってみたいんだ」

「オカルト研究部の、ことか……?」

「うん」


 彼を部室に連れていくということは、鬼原ハクと接触させることになる。今の楓は古御門家に対して疑惑しかなかった。少しでもハクから遠ざけたほうがいい。そう思った楓は、校内を案内するふりをして回り道をするために階段をのぼる。


「部室は本当にこっち?」

「あ、ああ……」


 返事が上擦る。楓は聞かなくてはいけない。彼にずっと問いたかったことの答えを。


「なあ、キイチ──」


 楓はキイチの真意を聞くために口を開く。同時に、小さな耳鳴りが遠くで聞こえる。楓は軽く頭を押さえながら口を開こうとした。

 その時……。


「ごめん。部室はこっちだ」


 楓の口が勝手に動く。まるで他人の体のように。楓はおもむろに階段を降りて部室に繋がる廊下を歩いた。キイチは楓の隣を歩きながら白い髪を靡かせる。

 体の自由が、きかない──。

 指先ひとつ、目線ひとつですら、楓の意思で動かすことはできなかった。明らかに、何かの術を仕掛けられたようだ。


「アハッ、許してあげる」


 キイチが楓の傍で微笑んだ。寝たきりだった時は乏しかった表情も、今ではずいぶん豊かになっている。よほど治療が効いたのだろうか。それとも……。


「古御門キイチが心配? 優しいね、鬼道楓」


 キイチ(?)が後ろから楓の体を抱きしめてきた。冷たくてしなやかな指が頬を撫でる。鼻腔をくすぐるのは、キイチには似つかわしくない煙草の匂い。一体彼の正体はなんなのか、暴こうとしたところで今の楓には体の自由も、声を発することもできない。


「お前は何が知りたい? 古御門キイチのこと? 泰親のこと? それとも、古御門家がお前の式神を欲しがっていること?」


 そんなの全部に決まってる、と言おうとするが、言葉にできない。楓の唇はかたく閉ざされ、自分の意思で言葉を発することもできないのだから。


「式神よりもお前のほうが欲しいな。ふふ……嘘だけど」


 冷たい指が、ゆっくりと楓の首に絡んだ。身体中の血が冷たくなっていくのを感じる。霊気を奪われた時の感覚によく似ていた。

 楓の脳裏に、幼い自分とキイチの記憶がチラついた。母に見守られて、一緒に花火をしながら過ごした夜のこと。


(キイチでないなら、お前は一体……)


 その返事を聞くよりも前に、柔らかな唇に塞がれた。指先から力が抜け、真っ黒に染められていく意識の中で、耳障りな声がくすくすと笑う。

 男とも女ともつかない不気味な声が楓の頭の中で響く。キイチが好むとは思えないその強い香水は、まるで何かを隠すようにむせ返るような匂いだった。

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