【豆狸の冒険】1
「うー……」
楓がハクねーちゃんちに行っちまったから、今日のオレさまはタヌキの野郎と共に留守番だ。
親父殿は一度帰ってきたけど、すぐまた外出しちまったみてーみたいだし魔鬼もいつの間にかどこか行っちまった。ハルは父親のところで、八重花は飯の買い出し……。
つまりオレさまは……。
「暇だー!」
ゴロンと畳の上で寝転がる。
それを真似るように豆狸もオレさまの傍で転がった。
今日は休日。午前中は楓とハクねーちゃんと一緒にぶらぶら買い物をして、午後からはオレさまだけ家に戻った。アイツら、文化祭の後からずいぶん良い感じだしオレさまも応援してやってもいいかなーとかほんのちょっとだけ思っていたりする。本当にちょっとだけだぞ。
豆狸の奴は午前中から家に居て、外出する予定もないせいかちっこいタヌキの姿のままぐうたらしてた。
「オマエ、何にでも化けられるんだろ?」
「えっへん! そうだぜ」
豆狸は短い両手を腰に当ててふんぞり返る。何か機嫌良さそうで腹立つな……。
「じゃあ、そうだな……顧問に化けてみろ」
オレさまがそう言うと、豆狸は驚いたように両手を上げた。何故だか顔が赤くなってる。
「な、何で尾崎なんだァ!? そこは楓にしとけって!」
「うっせ。楓は一人しか要らねえだろ。軽く化けるだけじゃねーか。やらないと鍋にするぞ」
やけに狼狽えている豆狸が面白いから強くせがんでやると、豆狸はしぶしぶ頭を垂れてからピョンと一回転した。
豆狸のみみっちい体があっという間に人間の男へと変わる。
腹が立つほどキレーな顔立ちに長い手足。ヒトを小馬鹿にしたようなその表情、間違いなく顧問だ。
「おー、マジで化けやがった」
「まあね。オレ天才なんで♡」
豆狸は金髪をかきあげて自信たっぷりに笑う。声も姿かたちも顧問そっくりだ。
顧問(の姿をした豆狸)は、すっかり本人になりきっているらしくて、からかうようにオレさまの顎を掴む。
「冥鬼ちゃん、相変わらずかわいいね」
オレさまは反射的に顧問(豆狸)の鳩尾を殴っていた。
「ヤメロ! 気色悪いことすんなこのバカタヌキ!」
「う、ぐぐぐ……ひ、ひでぇし〜……」
顧問(豆狸)はその場にへたりこんで腹をさすると、先程と同じようにオレさまの横で大の字になった。手足が長い上に大人の男だからか、さっきより場所を取っている。
「オマエの変化がすげーのはわかったから、早く元のちんちくりんに戻れ。邪魔だぜ」
オレさまは顧問(豆狸)の腰を蹴りながら部屋の隅へと追いやる。
「そうしたいのは山々だけどさァ〜、オレって一度変化をすると丸一日変化が解けない面倒な体質なんだよね。ついでに言うとこの口調もわざとじゃないんスよ。姿も口調も性格も全てコピーをする……変化ってそういう術なわけ」
顧問(豆狸だぞ)はそう言うと、再度オレさまの顎に手を添えて言った。
「だから今夜は……オレと同じ布団で眠れるよ。嬉しい?」
「外で寝てろッ!」
オレさまは顧問の姿をした豆狸を背負い投げで畳の上に放る。
顧問(豆狸だが)は背中を強打して『いてて』とか言ってたが、おもむろに体を起こした。
「ったく、冥鬼ちゃんってば乱暴なんだから。オレも散歩してこようかなァ〜」
「一人で行ってこい」
「えー、寂しいってば。一緒に行かない?」
「うぜえ」
オレさまが睨むと、顧問(豆狸)はわざとらしいため息をついて立ち上がる。
「分かったよ、つれないっスね」
そう言って壁にかけられた鏡を覗き込んだ顧問(豆狸)は、前髪を指先で弄ってから自分の顔を見てどこか恥ずかしそうに視線を泳がせるのだった。




