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【怪異を探せ】2

 小鳥遊先輩にもらったキャンディのおかげか、その日は授業によく集中できた。甘いものは脳にいいって聞いたが本当だな。今度から常備しておこうか……なんて。

 そんなことを考えながら帰りのホームルームを終えた僕は、まっすぐ部室へ向かう。既に部室には高千穂レン先輩、鬼原ハク先輩、鬼原ゴウ先輩が揃っていた。


「早いですね……」

「そりゃあ新生東妖オカルト研究部の設立日だもの!」


 高千穂先輩はツインテールを鞭のようにしならせながら腰に手を当てて振り返る。


「本当はカトリーヌにも出席してもらいたかったんだけど、朝から居ないし──仕方ないわね。設立パーティーの日程について説明をするから聞きなさい!」

「わーいっ♡」


 部長の高らかな宣言に、ハク先輩が嬉しそうに拍手をする。ああ、やはりハク先輩は今日も綺麗だ。

 そんなことを考えていたせいか、僕は先輩と目が合ってしまう。


「鬼道くん……どうしたの、そのおでこ。怪我したの?」

「え? ああ……」


 ハク先輩が目を丸くして僕を見つめている。

 僕の額には、朝に替えたばかりのガーゼが貼られていた。

 先日、二口女にやられた傷だ。僕は前髪を片手で軽く押さえながら苦笑した。


「昨日、走ってたら転んじゃって」

「まあ……! 痛くないの? 大丈夫……?」


 ハク先輩は、心配そうな表情で前髪を押さえる僕の手を取ると、ガーゼで覆われたおでこを見つめた。

 とんでもなく距離が近い……。


「だっ、大丈夫です……あひゃっ!?」


 ドギマギしながら答えようとした僕は、やにわに後ろから脇腹をくすぐられて変な声を上げてしまう。犯人はゴウ先輩だ。

 僕の腕の下から顔を覗かせたゴウ先輩は、冷やかすような視線を送っていたずらっぽく笑った。


「鼻の下伸びてるぜ、新入り」

「なっ……」


 ゴウ先輩の言葉に、慌てて僕は口元を押さえる。


「にゃははっ! わかりやすい奴だな、オマエ」


 どうやら冗談だったらしく、ゴウ先輩は楽しげに笑いながら僕から離れた。


「オマエら、昨日は一緒に帰ったんだろ?」

「うん、楓くんも同じ路線だったからいっぱいお話したのよ」


 ゴウ先輩の問いかけに、ハク先輩が嬉しそうに答える。ちょっとだけ照れくさい。


「ふーん、そいつは良かったな。オレはバカ鳥に付き合わされてアニメ映画を見せられた後に本屋とコスプレショップのハシゴに付き合わされたってのによ」

「ふふ、いかにも香取ちゃんって感じね」


 肩を竦めながら答えたゴウ先輩のため息混じりの呟きに、ハク先輩が微笑む。続けて、僕にも説明するように教えてくれた。


「……あ、香取ちゃんっていうのは私たちと同じ二年の──小鳥遊香取ちゃんよ。同じ部の仲間なの」

「今朝、会いましたよ──部室で」


 僕の返事を聞いたハク先輩は、珍しいと言わんばかりに目を丸くした。


「えっと……あの人、レアキャラかなんかですか?」

「あいつは普段視聴覚室にこもってアニメを見てるか──もしくはバイトのどっちかだぜ。部室に来ること自体がまず無い。マジのレアキャラだ。いわゆる幽霊部員だな」


 ハク先輩同様、ちょっと驚いた様子のゴウ先輩が腕を組んで答える。

 バイト……そう言えば、今朝出会った小鳥遊先輩もバイトを理由に部室を出て行ったっけ。


「小鳥遊先輩の──学校を早退するほどのバイトって何なんですか? すごく美人ですし……もしかして芸能人、とか?」

「へ?」


 僕の問いかけに、ハク先輩は目を点にしているし、もちろんゴウ先輩も怪訝そうな顔をしていた。


「鬼道、オマエ……部外者を部室に入れたんじゃねえだろうにゃ〜」

「ち、違いますよ! 確かに小鳥遊香取って名乗ってましたから……」


 ゴウ先輩は再度僕をくすぐろうとするように両手を伸ばして脅しにかかる。僕は慌てて身の潔白を証明するべく両手を振って答えた。


「えーっと……香取ちゃんは意外とスタイルいいし、手足もほっそりしてて羨ましいなって思うわ。肌も白いし」


 ハク先輩が僕を助けるように同調する。が……。


「でも、芸能人……は、香取ちゃんのイメージじゃないかも……」


 うーん、と声を上げてハク先輩が眉を寄せた。

 ……おかしいな。

 僕の出会った小鳥遊香取先輩と、ハク先輩たちが知っている小鳥遊香取先輩には明らかな違いがある。同姓同名の別人や双子がいるとも思えないが……。


「あっ、日熊センセイ」


 首を傾げている僕達の沈黙を破るようにして部室の扉を開けたのは、先日ハク先輩に脅され……もとい、交渉を受けていた日熊先生だった。

 日熊先生は眠そうな顔でオカルト同好会メンバーをぐるりと見やってから、高千穂部長に目を留める。


「あー、お前が部長か」

「その通りですが、何か?」


 ふん、と高千穂部長が鼻を鳴らす。思いのほか強気で返されたせいか、日熊先生はちょっとだけたじろぐような素振りを見せたが、すぐに気を取り直して咳払いをする。


「こほん……今日から東妖オカルト研究部の顧問をすることになった日熊大五郎だ。先に言っておくが、俺は妖怪やオカルトの類は一切信じないからな。仕方なく顧問になってやるんだ──そこを忘れるなよ」


 日熊先生は一方的に喋ると、おもむろにハク先輩に視線を向けた。


「今日から三日で学校に貢献できなければ顧問権限でこの部を廃部にする。そういう条件だったな、鬼原」

「ええ」


ハク先輩が頷くと、慌てたようにゴウ先輩が口を挟んだ。


「お……おい、顧問権限で廃部ってどういうことだよ?」

「そのままの意味よ、ゴウくん」


ハク先輩は、真剣な表情で僕達を順番に見つめると、ゆっくり口を開いた。


「今日から三日の間で、東妖オカルト研究部として何か学校のために貢献が認められたら部活として存続させてもいいって日熊センセイは仰ってるの。部活って本来は学校教育の一環として行われるべき活動だし──つまり日熊センセイとしては、何かしらの活動実績が欲しいってことみたい」


 ……先生の言いたいことはわかる。

 だが、三日で何をどう貢献しろって言うんだ? ゴウ先輩も同じことを思ったようで、僕達は揃って顔を見合わせてしまう。

 部長はと言えば、黙ったまま胸の前で腕を組んでいた。


「ごめんね……譲歩できたのはこれが精一杯だったの」


 ハク先輩が、両手を合わせて口にする。

 日熊先生はあくまでもオカルト研究部に関わりたくないようだ。そんな日熊先生をどうやって説得したんだろう……ちょっと気になるな。


「──面白いじゃない」


 黙りこくってしまった部員一同を前にして、鼻で笑ったのは高千穂先輩だった。


「いいわ。我々、東妖オカルト研究部は今日から三日間で学校に貢献しますッ! あたしたちの活動が認められ次第顧問になってもらうわよ、日熊先生!」

「お、おう……指をさすな指を」


 突然大声を出されて怯んだ様子の日熊先生を指して声高々と宣言をした高千穂先輩は、すぐに身を翻すなり古い丸テーブルに勢いよく手をついた。どこから持ち込んだんだ、こんなテーブル……。


「というわけだからパーティーの話は後回しよ! 作戦会議をするわ! 部員達! 円卓に集まりなさい!」


 部長の招集を受けて、僕達は円卓……と呼ばれた古めかしいテーブルを囲む。円卓の中央には今朝小鳥遊先輩が置いていった美少女フィギュアが立っていた。

 彼女(フィギュア)を見つめながら作戦会議とは、なんとも間抜けな光景だが……。


「日熊先生……いま、何か学校に貢献できそうな事ってありますか?」

「つ……つーん」


 ハク先輩の問いかけに、日熊先生は腕を組んだまま慌ててそっぽを向く。何だ、「つーん」って。成人済みの男性が「つーん」って。しかもやたらとわざとらしいぞ。

 高千穂先輩は円卓に手をついたまま何やら考え込むように目を瞑っていた。

 ゴウ先輩といえば、頬杖をついて足を揺らしている。──ああ、背が低すぎて地面に足がつかないんだな。


「楓くん、何か思いつかない?」


 ハク先輩が、何だか楽しそうに尋ねてくる。僕は顎に手を当てて少し考えてから言った。


「妖怪を研究する部活らしく……学校で起きている怪異を僕達で解決するとか?なんて……」


 冗談交じりで僕が言った時、突然高千穂先輩……もとい部長が立ち上がる。


「それよ! あたしもいまそれを考えていたのッ! 鬼道くん、やっぱりあたしの目に狂いはなかったわ。後で怪異ルーキーの称号を与えるからありがたく思いなさい!」


 そんな称号もらっても嬉しくない。嬉しくないのだが、ハク先輩が羨望の眼差しで見つめている手前、礼を言わないわけにはいかず、僕は引きつった笑みを浮かべて部長に礼を言った。


「んで? 怪異なんてどこに落ちてんだ?」


 ゴウ先輩が足をぶらぶらさせながら問いかける。ネコミミ(のような髪の毛)が彼の動きに合わせてぴょこぴょこと揺れた。


「先生、校内でチラシ配りをしてもいいでしょうか?」

「つーん……じゃなかった。構わんぞ」


 ハク先輩の問いかけに、またもや「つーん」とした態度を取ろうとした日熊先生が咳払いをする。

 日熊先生の承諾を得たハク先輩は、両手を合わせて僕達に向き直った。


「チラシを配って、七不思議や噂話、何でもいいから怪異についての情報を集めるの。私たちだけじゃ骨が折れるもの……みんなにも手伝ってもらって、有力かつ学校に貢献できそうな情報を手に入れたら私たちで解決する……っていうのはどうかな、楓くん」


 ハク先輩が僕に問いかける。ニヤニヤとしたゴウ先輩の視線でちょっと恥ずかしくなった僕は上擦った声で返事をした。


「か、完璧だと思います……」

「──決まりね!」


 高千穂先輩がテーブルを叩いた。そのはずみでフィギュアが倒れそうになるのを、僕は慌てて支える。


「チラシ作成に関してはあたしとハクがします。あんたたち男子はその間、校内で妖怪にまつわる噂がないか調べなさい!」

「ごめんね、ゴウくん……今日も一緒に帰れないみたい」


 しょんぼりした様子のハク先輩がゴウ先輩に謝罪をするが、当のゴウ先輩は大きな欠伸で返事をした。

 椅子から飛び降りたゴウ先輩が足元のスクールバッグを拾い上げる。黒猫のキーホルダーが揺れた。


「ったく、めんどくせーこと思いつきやがったにゃー……」


 そう言って、ゴウ先輩は欠伸を噛み殺しながら僕の椅子の背もたれに手を置いた。


「行こーぜ、鬼道」

「は、はい……!」


 こうして僕とゴウ先輩は、校内での異変を探すことになったのだ。

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