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最弱陰陽師は、自分にかけた呪いとまだ向き合えていない  作者: ふみよ
2部

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【文化祭】9

 上級生の教室から出た僕達は、自分の教室に戻るため階段を下りていく。もちろん先頭を歩いているのは冥鬼だ。ご機嫌そうに鼻歌を歌って両腕をぶんぶん振り回している。


「メイもメイドさんやりたくなった!」

「はは……冥鬼に着られるメイド服があるかな」

「あるもーん!」


 冥鬼は頬を膨らませてお下げを揺らす。腕を振りながら僕の教室に戻った冥鬼は、ふりふりのメイド服を着たクラスメイトに抱きついた。持ち前の人懐っこさで、冥鬼はすっかりクラスの女子たちにかわいがられている。


「冥鬼ちゃん、メイド服好き?」


 女子の一人が問いかける。すると、冥鬼は元気よく頷いてこう答えた。


「うん! おかーさんもメイドふくきてたから!」

「お母さん?」

「あっ」


 僕が聞き返した途端、冥鬼はワンテンポ遅れて自分の口を両手で塞ぐ。まるで言葉を飲み込むみたいに。


「なあ、冥鬼のお母さんってどんな……」


 深い意味なんてない。ほんの少しの興味だった。僕は母を知らないが、冥鬼は自分の母を知っている。彼女の母親がどんな人なのか気になったから聞いてみたかった……のだが。


「え、えっと、メイ……おなかいたーい!」

「は?」


 何の前触れもなく、突然冥鬼がその場に座り込む。慌てたように八重花が駆け寄ってきた。


「め、冥鬼様! どうされました? 大丈夫ですか?」

「だいじょーぶじゃない! やえちゃん、トイレいこ〜!」


 冥鬼は慌てた様子で八重花の足にしがみついた。そのままぐいぐいと押しながら教室から出ていこうとしている。


「わわっ……主様、儂は冥鬼様を御手洗にお連れいたしますので……」

「あ、ああ……悪いな」


 八重花はおろおろと冥鬼の手を繋いで教室を出ていく。僕は二人の背中を見守りながら首を傾げた。……なんか、母親のことを聞いた途端誤魔化されたような気がするんだが……気のせいか?


「あれ」


 気がつくとハルの姿が見えない。彼を探して廊下に出ると、人混みに紛れてふらふらと歩くチャイナ服が見えた。


「ハル、迷子になるから僕と一緒に──」


 ちょっと恥ずかしくて声が小さくなってしまう。案の定ハルは僕の声に気づかない。もう一度声を上げようとすると、教室から僕を呼ぶ声がした。


「楓ー!」


 間延びした声が教室から聞こえる。僕はハルの後ろ姿と教室を交互に見ると、少しだけ考えた。一応ハルは妖怪だ。いくら迷子になっても帰巣本能くらいはあるだろう。

 僕はハルに呼びかけるのを諦めて教室の中を覗き込んだ。ええと、僕を呼んでいたのは……。


「何だ葵か」

「何だって何だよ! お呼び出しだぞ」


 葵はメイド服のスカートを暑そうにパタパタさせながらスマートフォンを差し出す。発信者は『アカネ』と表示されていた。


『楓くん? そこに居るの?』


 スマートフォンを受け取ろうとした時、突然女の子の声が聞こえた。びっくりして思わず手を引っ込めようとすると、同時に手を離そうとしていた葵が慌ててスマートフォンを両手で握りしめる。


「こらあッ、楓! 持つならちゃんと持てっての!」

「ご、ごめん。びっくりして……えっと、伊南さんか?」


 思いのほかクリアに聞こえた声にびっくりしてしまった。

 気を取り直して電話の相手に話しかけてみると、どこか緊迫した声の伊南さんが語りかけてくる。


『お願い、今すぐ校門に来てくれないかな。変な奴が楓くんのことを呼んでて──』


 小さなノイズと共に、伊南さんが短い悲鳴を上げる。


『……なぞなぞでーす』


 伊南さんではない男の声。もちろん尾崎先生とも違う。もっと若い……僕や葵と同年代くらいの子供の声だ。


「誰だ……?」

『酔っ払ってないのに顔が赤い生き物はなーんだ?』


 電話の相手は、軽快な口調で妙なことを口にする。


「何、を言って……」

『答えられたら、コイツらは喰わない』


 楽しげに、ゆったりとした口振りで男が言う。どこかで聞いたことがあるような、すごく嫌な感じがする声。


「僕に……何の用だ」

『ん〜〜〜……心当たり、なーい?』


 間延びした声が笑いをこらえるように震えている。早く伊南さんの言う通り校門に行ってみよう。

 嫌な予感がして、すぐにその場から離れようとすると……。


「猿じゃね?」


 僕を呼び止めたのは、スマートフォンを突き出したままの葵の声だった。


「な、何が?」

「だからさ、酔っ払ってないのに顔が赤い生き物。猿だよ、多分」


 僕の脳裏に浮かんだのは、あの妖怪の名前。いや、でもまさかそんな。


「……猿神?」


 震える声で尋ねる。頼む、違うと言ってくれ。こんな昼間から出るわけない。よっぽど頭のイカれた奴じゃない限り、人間がたくさん居る場所に、学校に現れるはずがないだろ?


『正解〜』


 僕の祈るような気持ちを間延びした声が否定した。喉の奥で楽しそうに笑ったそいつの声が近づいてくる。


『早く来ないとお友達……食べちゃうよ』


 通話は、一方的に途切れた。

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