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最弱陰陽師は、自分にかけた呪いとまだ向き合えていない  作者: ふみよ
2部

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【文化祭】8

「ご主人様、もう行ってしまうんですかにゃ?」


 食事を終えて席を立った僕達は、ルナに見送られる形で店の扉の前にいた。

 ほかのメイドたちも横一列に並んで僕達を見送ってくれるようだ。すごいVIP待遇だな……。


「ボクたちはいつもご主人様とお嬢様たちのお帰りを待ってますにゃ♡」

「行ってらっしゃい、ご主人様~!」


 賑やかに見送られた僕達が店を出ると、むせ返るような客の海に飲まれかける。

 その中の一人……やたら小太りで眼鏡をかけた男に話しかけられた。


「お前、ルナちゃんと話したか?」

「る、るな、ちゃん……?」


 太い眉毛が特徴的な男がスマートフォンの画面を突き出す。

 そこには先程僕たちに良くしてくれたメイドのルナ……もとい、ゴウ先輩がかわいらしくポーズを撮って写っている。


「ルナちゃんはな、猫の国上結店の上級猫様だぞ! CDも出しておられる!」


 男がなにを言っているのかわからない僕は、ぽかんとしながら話を聞いていた。

 その時、男たちの列が大きく動く。


「ハイハイ、ちゃんと並んでくださいよー! ルナちゃんのチェキはまだいっぱい残ってますからねー!」


 聞きなれた声が列の先頭から聞こえた。

 僕がその声の主の名前を言う前に、冥鬼が駆け出す。


「カトちゃんだー!」


 そう言って駆け出した冥鬼の向かった先には、長机の上に大量のグッズを乗せて販売している小鳥遊香取先輩が居た。

 小鳥遊先輩は、何かのアニメのコスプレだろうか、ふりふりしたスカートにふとももを露出したスタイルの良さを強調した格好をしている。それでも牛乳瓶底メガネは相変わらずかけているようだ。


「タオル残りわずか! 限定抱き枕カバーの在庫五十切りましたー!」


 小鳥遊先輩がよく通る声を上げる。

 い、一体何をやってるんだ……この人たちは。そして何なんだ、この異様な光景は。

 男たちはきちんと二列に並んで割り込みをすることなく礼儀正しく列が捌けるのを待っている。


「お、楓さんじゃないですか~! ゴウにゃんとニャンニャンできました?」

「その言い方やめてくださいよ……何なんですか、この列」


 相変わらずテンションの高い小鳥遊先輩に引き気味になってしまう。小鳥遊先輩は気にする様子もなく『むふふ』と笑った。


「物販の列ですにゃー。上結店限定グッズと、東妖高校限定グッズもありますよ。おひとつどうです?」

「いや、要りません……」

「カトちゃんのおようふくかわいい~!」


 冥鬼が小鳥遊先輩の衣装をキラキラした眼差しで見つめている。


「これはディアブル魔法少女ネージュたんに登場するポンコツ魔法少女の衣装ですよ、えへん。完成度が高いって評判なんです」

「いや、衣装はどうでもいいんですけど……このグッズのメイドってゴウ先輩ですよね?」


 グッズにされたゴウ先輩を見つめて同情的に尋ねると、小鳥遊先輩はぐるぐる眼鏡の奥の瞳をキョトンとさせたのかもしれない。大きく首をかしげていた。


「およよ? 楓さん、ゴウにゃんからバイトのこと聞いてないんです?」

「いや、聞いた事ありません……」


 そう答えると、小鳥遊先輩は壁に貼られているかわいらしいポスターを指して言った。


「ゴウにゃんは、上結駅徒歩五分にあるメイド喫茶の人気メイドさんなのですにゃ!」

「ああ、そうなんですか……」


 僕はポスターにされたゴウ先輩を見て気の抜けた返事をする。


「ええっ? なんですかその反応! 薄くないですかあ!?」

「いや、あそこまで完璧な接客はプロのメイドでないとできないから、ようやく合点がいったと納得してたんです」


 僕はポスターに載っているゴウ先輩を見ながら答える。

 ゴウ先輩の接客も仕草も、何から何まで完璧だった。

 そりゃ文化祭での賞を総なめにもするよな。さすがに、僕に勝ち目はない。


「楓さんのメイド姿も完璧でしたよぉ? ちょっとぎこちないですけど初々しい感じが出てて〜……」


 ふと、小鳥遊先輩が一枚のチェキを見せる。

 そこには僕が胸の前でハートマークなんぞを作っている恥ずかしい姿があった。


「なッ……いつ撮ったんですかッ!」


 慌てて小鳥遊先輩の手からチェキを取り返そうとするが、先輩は机を挟んで距離を取るとニヤニヤ笑いながらチェキを見せびらかした。


「にゃはは……スパイを何人か送り込んでおきましたゾ! いやあ、良い絵が撮れましたなあ」


 何枚も焼き回したのか、先輩の手の中には同じ写真がたくさん握られている。人生の汚点のような写真が小鳥遊先輩の手の中に……。


「このチェキ、一枚三百円で売るつもりなんですけど……どうです? 売り上げの半分、楓さんにあげますぞ」

「……ッ!」


 僕は息を飲んだ。小鳥遊先輩の手の中に握られたチェキは、ざっと見て五十枚くらいある。

 売り上げの半分が僕のものに……そんなおいしい話があるか? いや、そもそも……。


「だ、誰が男のメイドチェキなんか欲しがるんですか。変態じゃあるまいし」

「ああ大丈夫です、ここに並んでる人みんな変態なんで」


 小鳥遊先輩がケロッと答える。

 手書きの値札と見本のチェキをぶら下げた先輩は、最後尾の列にも届くくらいのよく通る声で宣言した。


「新人メイドのチェキ入荷しましたーっ! 東妖高校(ここ)でしか買えないレアチェキですぞー!」


 その言葉と共に、最前列の客がグッズの並んだ棚のそばへやってくる。

 まず当然のようにゴウ先輩の抱き枕カバー、チェキ、アクリルキーホルダーを手に取ると最後に僕のチェキを自然な動作で手に取って会計の列に移動した。


「ねえねえ、メイもおにーちゃんのチェキほしい!」

「そんなことしたらおやつ抜きだ」


 甘えた口振りでチェキをねだる冥鬼に真顔で呟いた僕は、顔を背けて大きなため息をつく。

 金欲しさにチェキの販売を許してしまった気がするけど、これってものすごく僕にとってリスクが高いんじゃ……?

 僕の知らないところでチェキが広まって、インターネットに拡散されたり、訳の分からないところから電話がかかってきたりして……ネット社会、恐ろしすぎる。


「わ、儂も一枚ください」

「我も」

「ちょっ、おい!」


 八重花とハルの申し出に思わずツッコミを入れるが、時既に遅し。

 ちゃっかりチェキを購入した八重花は冥鬼に一枚手渡していた。


「やえちゃんにもらった! かったんじゃないからおやつぬきじゃないもん!」


 冥鬼が嬉しそうに答える。僕は叱る気力も起きなくてため息をつくと、冥鬼とハル、そしてチェキを眺めて嬉しそうな八重花を連れて上級生の階を後にするのだった……。

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