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最弱陰陽師は、自分にかけた呪いとまだ向き合えていない  作者: ふみよ
2部

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【文化祭】4

129話文化祭──4☆


 キッチンに入った僕は、すっかり料理担当になった女子達へと注文を伝える。

 先程よりも客の数が増え始め、店内(きょうしつ)は大忙しだ。さぞかし女子達も目を回していることだろう……なんて思っていたのだが、みんなは何だか楽しそうだ。


「一年生の中でうちのクラスが売り上げ一位だって! この調子でバンバンお客さん集めちゃってね!」

「はあ……」


 よく分からないがクラスに貢献出来てるなら良いことだ。それに頼られるのは悪い気はしない。うちのクラスが一番というのもやる気が出てくるし。


「楓くん、お疲れ。水分補給!」


 ぽん、と僕の背中を叩いたのは伊南朱音さんだ。その手には、買い出しに行ってくれたのかペットボトルが握られている。中身は、お茶でもコーラでもない。ただの水だ。


「ありがとう、助かる」


 僕は受け取ったペットボトルを見て、ふとさゆのことを思い出していた。

 水着を買いに行ったあの日、細かいお釣りを葵に返せなくて困っていた僕に水を奢ってくれた彼女。

 カエルが好きで、ちょっとミステリアスだった……水流紗雪(あの子)。


「飲まないの?」


 伊南さんが不思議そうに目を丸くしている。


「いや……水着を買いに行った時もこれ、飲んだよなって思って」


 水滴のついたペットボトルを見つめて目を細める僕に、伊南さんは小さく笑うとペットボトルのお茶をぐいっと飲みこむ。


「あの時はさゆに奢ってもらう形になって……」

「ふふ……立て替えてもらった分、まだ返してないの? なら早く清音に返さなきゃね」


 伊南さんがキャップを締めながら笑う。僕もつられて笑った。


「楓くんは少し休憩してなよ。今度は私が売り場に出るからさ。葵のいい加減な接客も指導しておかないとだし!」

「はは……ありがとう。じゃあちょっとだけ休ませてもらおうかな」


 僕の返事を聞いて、伊南さんが笑いながら自分のスポーツバッグにお茶のペットボトルを仕舞う。

 彼女のスポーツバッグには、見慣れた綿毛のキーホルダーがついていた。


「それ、ケサランパサランか?」

「違うよ、うさぎのしっぽ……を模したフェイクファーってヤツ。モコモコしてて気持ちいいんだよね」


 伊南さんは人懐っこく笑うと、不意に僕に向き直った。


「そういえばさ、前に楓くんにあげたケサランパサランはちゃんとお世話してる?」

「あ? あー……」


 もしかしたらバッグの中に眠っているかもしれない、と口にすると伊南さんは唇を尖らせた。


「もー、ちゃんとお世話してよね。あれはシアワセを呼ぶケサランパサランなんだから」

「幸せなことなんか起きてないぞ」


 むしろ……。

 最近は立て続けに妖怪と遭遇したり、僕自身線路に突き落とされたりとロクな目に遭ってない。


「それはお世話が足りないんだよ。愛情を込めてお世話するのッ! いい? たまには光合成もさせてあげるんだぞ」


 伊南さんは僕の顔前に指を突きつけて反論の隙も与えず一息に告げると、颯爽と売り場へ出ていく。

 僕は苦笑しながら休憩用の椅子に腰掛けた。手の中ではペットボトルの中身が静かに揺れている。


 伊南さん、最近僕にも葵と同じように接してくれるようになったな。最初の頃は僕が近寄り難い雰囲気を出していたらしくて、どこか遠慮のある接し方だったけど。今はすっかり遠慮なく話してくれるようになった。

 それが嬉しい。はずなのに。


 何故だろう。伊南さんとの会話の中に、妙な違和感を感じる。

 それが何なのか、今の僕には気づく余裕がなかった。

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