第12話 SLOの魔法使い
近況日記(2019/1/17)
書き溜め全然進まないワロス。
ここ最近のモチベの低下は由々しき事態であります。
なので書き溜めストックが切れたら、投下は不定期になりますので悪しからず。
「スターライト・オンライン」における魔法の仕様について解説しよう。
ファンタジー世界を冒険するSLOには、一般的なファンタジー系の作品の例に漏れず「魔法」と呼ばれる超常的な能力が存在している。
プレイヤーの力として冒険の手助けをする強力な武器であると同時に、敵が振るえばプレイヤーに仇為す脅威のパワーとしての側面も持つ魔法。
SLOの世界における魔法の仕組み・体系などは割愛するとして、当然ながら然るべきスキルを習得すれば、プレイヤーが行使する事も可能である。
そして最も重要なのが、魔法の使用方法。今まさに迫り来るハウンドに対して、蜜秀が魔法を行使するべく取った行動は──
「《スペル・セット》!」
音声入力。蜜秀の可憐で、しかし確かな力強さを宿した発声に対してシステムが呼応する。
彼女がプレイヤーである事を表す、頭頂部のアイコン。その上部にゲージを表示するバーが出現した。バーは黒く塗りつぶされているが、時間と共に左端から黄色に染まっていく。
SLOにおける魔法の行使には、詠唱時間と呼ばれる待機時間を必要とする。とはいえ、実際に呪文を詠唱する訳ではない。蜜秀の音声入力によって出現したゲージがそれだ。
出現した詠唱バーが満タンに、つまりゲージの全てが黄色に染まって初めて魔法が発動する。無論、コストとしてMPを別途で消費する必要もあるのだが。
ともあれ重要なのは、魔法の発動には時間がかかる、という事だ。知力ステータスの数値や使用したい魔法の種類によって詠唱完了の速度は異なるが、蜜秀が選択したのは攻撃魔法。必要とする詠唱時間もそれ相応だ。
彼女のアイコン上部に詠唱バーが出現したという事は、周囲のプレイヤーだけでなく、MOBにも視認されるという事を意味する。同時に詠唱時間が発生した瞬間から、MOBからのヘイト数値も上昇していく。
事実、蜜秀が魔法を行使せんとした事で、2匹のハウンドは彼女を標的と定めた。その場にいる3人のプレイヤーの中で、MOBからのヘイトが最も高い存在は蜜秀である。
「不味っ……!」
「だっ、大丈夫なの蜜秀さん!?」
すかさず、オケアノスが蜜秀を守護するべくラウンドシールドを構えた。ヤエザクラもまた、2人をフォローする為に2人とハウンドの間に立ち、刀を抜き放つ。
対して、余裕の表情を一切崩していないのは当の蜜秀だ。彼女は笑みを浮かべると「大丈夫大丈夫」と2人に声をかける。
「《マナ・チャージ》!」
次いで、発声によるアクティブスキルの起動。その瞬間、全体の5分の1ほどしか溜まっていなかった詠唱バーを黄色いエフェクトが埋め尽くし、一気に満タンになった。
それは即ち、魔法を発動できる段階へと到達した事を意味している。
蜜秀が発動した《マナ・チャージ》は、魔法使いに必須のアクティブスキルとされている。その効果は今しがた発揮された通り、プレイヤーのINTステータスに応じて詠唱時間を大幅に短縮するものだ。
とはいえ少なからずMPを消費する為、序盤、それもレベル1の段階では早々連発する事はできない。
その上蜜秀が使用したのは、パーティメンバーであるヤエザクラとオケアノスの2人に、自分ができる事を教える為だ。
2人はまだ彼女の能力を把握していない。故に「自分はこんな事ができる」という認識を得てもらう為には、あまり出し惜しみする訳にもいかない。
クルっとワンドを回転させた蜜秀は、宝石があしらわれたワンドの先端をハウンドへと向けた。
詠唱時間が終わった事で、彼女の視界には魔法が使用できる旨がシステムメッセージとして表示される。それを認識した蜜秀は、自分が行使しようとしていた魔法を、改めて音声入力で発動する。
「【ファイヤー・ボルト】!!」
蜜秀の持つワンドから迸る閃光が、ヤエザクラとオケアノスに驚きを与えた。閃光をその場に残しながら放たれたのは、真っ赤に燃える炎の太矢。
炎はまるで本物の矢のような速度で、3人の下へと近付いていたハウンドの内の1匹を目掛けて真っ直ぐに飛翔していく。
蜜秀の放った魔法【ファイヤー・ボルト】は射撃攻撃の属性も保有しており、彼女が習得している《射撃マスタリー》のパッシブスキルによって、誤射する事なく確実にハウンドへと命中した。
ボンッ!
顔面へと着弾した炎は軽い爆発音を響かせながら、ハウンドを後方へと吹っ飛ばしながら地面を転がせる。突然の出来事に、もう1匹のハウンドもまたその足を止める。
燃え盛る矢がクリーンヒットしたハウンドは、顔面を中心に炎で焼き尽くされながら、自らのHPバーを真っ黒に染め上げた。
ハウンドが無数のポリゴンの欠片となって飛散すると同時、その全身を舐めるように炎上していた炎もまた消滅する。
「グッ、グルゥ……?」
同胞の突然の死に対して、僅かに動揺を見せるハウンド。しかし一瞬で3人へと向き直り、同胞を倒された怒りを瞳に宿した。
唸り声と共にハウンドの牙が大きく剥かれ、今まさに蜜秀へと飛び掛からんとした、その時。
──仲間の死に戸惑うなんて、MOBのAIも案外高性能なのね。
そんな場違いな事を考えながらも、ハウンドの右側面から奇襲をかけてきたのはヤエザクラだ。ハウンドが戸惑っていた隙を狙って、AIの意識の外から攻撃を仕掛けんとする。
《ランニング》スキルによって強化された速度で走りながらも、その勢いを一切落とす事なく。ハウンドを己の間合いに捉えた彼女は、右後方の下段から刀を振り上げた。
「《スマッシュ》!!」
かち上げるように切り裂かれ、衝撃で空中を舞うハウンド。初戦の際はレベル1であったヤエザクラも、現在のレベルは4。筋力ステータスやスキルレベルも上昇した今ならば。
「ギャウンッ!?」
ゴリゴリと音を立てるように、目まぐるしい勢いでハウンドのHPバーが減少していく。地面を無様に転がり、最終的にバー全体の8割が黒く塗り潰された。
ヨロヨロと立ち上がるハウンド。ヤエザクラが大きな一撃を与えた事で、ハウンドの中でのヘイト値に変動が起きる。
自分にダメージを与えたヤエザクラか、強力な魔法で仲間を倒してしまった蜜秀か。どちらを攻撃対象にするかで一瞬逡巡する。然れども──
「今です! 《シールドバッシュ》!」
今この場にいるプレイヤーは、ヤエザクラと蜜秀の2人だけではない。ハウンドが顔を上げてみると、そこに立っていたのはオケアノス。
《ランニング》スキルを習得していない彼だが、ヤエザクラが攻撃を加えた隙に移動できないほど鈍足でもない。
走った勢いを殺す事なく、手に構えたラウンドシールドで以てハウンドを殴り飛ばす。ヤエザクラの刀による斬撃とは違い、オケアノスの盾による《シールドバッシュ》は打撃攻撃である。
故にこそ、盾を用いた重い突進を受けたハウンドは地面をバウンドしながら吹っ飛んでいき、地面に衝突すると同時にポリゴンとなって弾け飛んだ。
戦闘終了を知らせるシステムメッセージが3人の視界に出現する。それを確認した蜜秀は、ヤエザクラとオケアノスの2人へと、力強くピースサインをしてみせた。
「どーよ、お姉さんの実力は! とーっても頼りになるとは思わないかしら?」
────────────
「んっ……んっ……」
腰に手を当てて、まるで風呂上がりにコーヒー牛乳を飲むかのようなポーズで水薬を一気飲みしていく蜜秀。口から僅かに漏れたポーションの雫が彼女の頬を伝い、下へ落ちると同時に消滅していった。
やがてガラス瓶の中身を全て飲み干して「ぷはぁ」という声と共に瓶を口から離す。蜜秀の口とポーションの瓶の間に白い唾のアーチが生じ、役目を終えたガラス瓶が消滅すると同時に、艶やかに途切れて消えていく。
その一連の動作がなんとも艶めかしくて、一部始終をまじまじと見つめていたヤエザクラとオケアノスは、何とも説明し難い気持ちを顔面に貼り付けていた。
「これでよし」と声を上げた蜜秀は、2人が自分へと向けている目線に対して首を傾げてみせる。
「あら? 2人ともどうしたのよ」
「へっ? あっ、いや……なんでもないわよ?」
「あ、はい。そうですね、なんでもありません」
「そう? なら良いのだけど」
何とも不思議そうな表情を浮かべる蜜秀。彼女に対する2人の心境は大きく異なっていた。
(綺麗な人だなぁ。本物の女性ってああいうところが綺麗よねぇ)
(迂闊でした……少し、ドキッとしてしまった……!)
本当の女性としての魅力に惹かれ、僅かな憧れを抱くヤエザクラ。
艶やかな仕草にドキッとしてしまい、思わず口を塞ぐオケアノス。
凡そ現実の人格とは差異の見受けられる感情。それに気付いた2人は、各々が心の中で首を傾げた。
自分が確かに抱いた、しかし自分らしからぬ気持ちに対して疑問を覚え、暫し思考の海に沈む。それを見かねたのか、蜜秀が「さって」と声を発する事で2人を我に返す。
「私の実力は見せたけど……流石に連発は無理なのよネ。レベル1だからINTもMPも低いったら」
「まぁ、最初期はそのようなものでしょうね」
正気に戻ったオケアノスは自分の思考を一旦脳裏へとおいやり、蜜秀の言葉に対して反応を返した。
「レベルを上げていけば使い勝手も増すでしょうが、しかし……」
「今のままでもとっても強いよねぇ。魔法って凄いのね」
横から口を挟むヤエザクラ。オケアノスが彼女へと振り向いてみれば、ニヘラとした笑みを浮かべているのが分かった。
そのやり取りと発言を見聞きし、蜜秀は「そうよー」と人差し指を立てながら歯を見せて笑ってみせる。
「詠唱時間の長さとMPを消費するのがネックだけど、その分だけ魔法は1発1発が強力なのだワ」
「確かにそうだよね。あ、蜜秀さんはどんな魔法持ってるの?」
「魔法の種類? そうネ……魔法毎に取得するんじゃなくて、なんたら属性魔法っていうパッシブスキルを習得して、そのスキルレベルに応じて使える魔法も増えるのだけど……」
頬に人差し指を当てて、艶めかしい仕草と共に思考する蜜秀。やがて、何かを数えるように指を立てたり曲げたりを繰り返していく。
「さっき見せた【ファイヤー・ボルト】の他に攻撃魔法の【ファイヤー・ボール】、後は【ファイヤー・エンチャント】っていう、武器に火属性を付与する魔法も使えるわネ」
「火属性ばかりなのですね」
「そうよー。私が習得したのは《火属性魔法》だもの! 火や爆発でドッカンドッカンするのが私の夢なのだー!」
ニヒヒ、と大人な見た目に見合わぬ子供っぽい笑顔を見せる。手の中でワンドを回転させながら「あ、そうそう」と声を発した。コテン、と首を傾けるヤエザクラ。
「ここぞって時の大技だけど、【エクスプロージョン】も使えるわネ」
「エクスプロージョン……爆発、って事?」
「モチのロン! とっても強いわよー。今の私だと、MPを9割くらい使わないといけないんだけどネ」
「それは……文字通りの切り札ですね。MP9割となると《マナ・チャージ》による詠唱時間の短縮もできません」
「まーネ。レベルが上がれば、少しは何とかなると思うんだけどネー。でもでも、その分威力はお墨付きだワ!」
再びピースサイン。蜜秀の、子供っぽい明るさを帯びた笑顔が、もう1度2人へと向けられた。
彼女の見せる明るさがなんとも魅力的で、ヤエザクラとオケアノスもまた、自然と笑みを浮かべていく。その様を確認して、蜜秀は更に自らの笑顔の明るさを増した。
両手をパン、と音を立てて叩き、改めて向き直る。
「さってさて、2人は森の教会まで行く予定だったわネ?」
「ええ、その通りです。僕達はメインクエストを進めて、2つ目の街まで進む事を一先ずの目標にしているので」
「蜜秀さんも一緒に行くんだよね? その前にレベルを上げなくちゃだけど」
「そうネー。今日一杯はご一緒させてもらいたいのだけど……」
そう言う蜜秀は前で手を合わせて「ごめんネ」と2人へ謝罪の言葉を紡いだ。
何の事だと首を傾げるヤエザクラに、訝し気な表情を見せるオケアノス。2人の様子を見て、蜜秀は更に発言を続ける。
「私は現実の都合で今日が初ログインだって事は言ったけど……今後も似たような感じなのよネ」
「あー、成る程? つまり、あたし達と継続してパーティを組むのは難しいって事かしら」
「そうなのよ……ごめん。ただ、臨時のパーティとしてなら、私がログインできる日は協力できると思うのよネ」
「なんだ、そういう事でしたか」
ふぅ、と息を吐きながらオケアノス。彼の表情は先ほどまでの怪訝なものではなく、友人を見る親し気なものであった。
「リアルの都合なら仕方ありませんし、むしろリアルの方を優先するべきです」
うんうんと、同意するように頷くのはヤエザクラだ。それを横目で見ながら「それに」と言葉を続けるオケアノス。
「僕達とパーティを組める時はいつでも言ってください。むしろ僕達の方からお誘いしますよ。ですよね、ヤエ?」
「そのとーりよオキー! ずっと話してて、蜜秀さんが頼りになる人だって事は分かってるしねー」
「うん……ありがとネ2人共」
先ほどの子供っぽい笑顔とは異なる、大人っぽく、それでいて嬉しさを隠しもしない笑み。蜜秀のそんな表情を見て、互いに顔を見合わせた2人もまた静かに笑った。
「さて、そうと決まれば狩りを再開しましょうか。蜜秀さんが次にログインする時に備える意味も込めて」
「分かったワ! いつ敵が来ても大丈夫、お姉さんにまっかせなさーい!」
ワンドを天高く突き上げる蜜秀。
そうして3人は、森へ向けて歩き始めたのだった。




