オルゴール
ああ、とても綺麗…。
覚えてるわ、この曲小さい頃いつも聞いてた、母さんのオルゴール。
母さん、久しぶり。私の事わかる?
みずほよ。あなたのたった1人の娘よ。
懐かしいわ、この町。13年振りだもんね。
けど、びっくりした。
まさか母さんが死んでいたなんて…。
ごめんね、何も知らなくて。
管理人のおじさんに聞いたわ。たった1人で死んでたって。
1週間もたってからやっとみんな気付いたんですって?
寂しい…でも母さんらしい終り方よね。
あの、管理人さん、こんな立派なお墓を立ててくれたのよね。
他人の為にここまでしてくれるなんて、本当にいい人。
そういう人が身近にいたことが、かあさんの唯一の救いかも…
感謝しなきゃね。
そうそう、母さん私ね、結婚したの。ホラ、見て、子供もできたの。
今6ヶ月目よ。この事を知らせたくて、この町に戻ってきたんだけど…。
残念ね、あなたがどんなおばあちゃんになるか見たかった気もする。
でも本当はね、あなたが死んだって聞いた時、正直言ってホッとしたの。
だって、あなたにどんな顔してあえば良いのかわからなかった。
恐かったの。
でも、彼 ―この子の父親― に言われたの。
「ここへ戻る事は私にとって、凄く大事な事」なんだって。
だから勇気を出して来たんだけど。
そうそう、母さんが死んだって聞いたから、私、これ、買ってきたのよ。
お酒。
母さん、お酒好きだったもんね。
私は今でもお酒はダメ。
思い出すの。酔っぱらった母さんに、毎日殴られたり、蹴られたりしたこと…
ほら見てこの二の腕の傷跡、あの時タバコの火でできた火傷のあとよ。
これを見せた時、彼、泣いちゃったのよ。
本当はね、私、とても不安だったの。
『私はちゃんと、お腹の子を愛せるかしら?』
って…。
だって、私はあなたに愛された記憶がなかったから。でもね…
このオルゴール、管理人さんがくれたの。
死んだ母さんの枕元に、このオルゴールがフタをあけたままで置いてあったって。
覚えてるわ、母さんの白い手が、こうやってネジを巻くと魔法みたいに
曲が零れて来る、ほら、こんなふうに…
ああ、綺麗…この曲。私が子供のころ、毎日母さんが聞かせてくれた。
楽しかったねあのころ。まだ父さんがいて、母さん、とても優しかった。
私にとっても、宝物のような記憶…母さんも大切にしていてくれた、だからね
私、母さんを許してあげられると思ったの。
母さん…不幸だった母さん。私幸せになるわ。あなたの分まで。
ああ、綺麗、とても綺麗…。
up 1998 :オルゴール




