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愛歌 <紫穂&水葵 ゼファー&メサイア>

冬愛

作者: 紫



冬の様な女 詩歌


木枯らしが吹きすさび 雪の下へ全てが隠れて行くわ

木々たちは息を潜めている ……ね、聴こえる?

冬の支度をしなくては

銀花たちが花びらを広げゆく

……ねえ貴方にも、聴こえるかしら?

白のヴェールを翻し ラララ 唄う

雪たちの美しい歌声が キラキラと囁いて

耳を澄ませて 耳をそばだてて ホラ、ゆっくり頷いて

全てを包み込む柔らかな言葉が 貴方へと届くように

月光さえあたたかな色をたたえている

見える?そっと目を開けて 静かに見上げて

優しい息吹が 森の中通り過ぎて 行くけれど

立ち尽くしてみると 語り掛けて来るよう

白の野 銀に輝く中 足跡をつけてみようかしら

そっと、そっと花びらが辿るように

はだしで何処までもそっと歩みゆく ね

結晶たちはあたしを包み込み スターダストたちが煌くわ

視線を風に持って行かせて 

 白の森の中振り向くけれど 

  いつまでも美しい世界は広がるから

歩み行く その中の一部に あたしもなりゆく

吐息が 煌くように 柔らかく微笑んで 雪の中

木枯らしが吹き荒び 全てを雪の下へ送るわ

聴こえるかしら……貴方にも あたしの生きて来た愛の賛歌が ……聴こえるかしら…… 



雪原


雌狼は夜の雪を見上げた。白の世界は美しい。


ダイヤモンドダストは銀に煌き、彼女は見回すが、彼はいない。


どこを振り向いても白の世界で、彼女は歩く。


足跡が、花びらの様にてんてんと、ついていく。


いくら人間なりたくとも人間にはなれないのよ。


分かっている事なのに、凄く悲しかった。


その男に恋をしてしまったのは、一目見た時からだ。


人間になりたいって、いけない事とは思わない。


『お前に名前をつけてあげなけりゃあな』


とびきり綺麗な名前を。


狼は白の毛並みのとても美しい大きな狼だった。


あたしはあなたが迎えに来るまで待っている。


貴方をあたしは忘れない。


貴方がどんな姿で現れたって、あたしには見破れる。


その自信がある。


お願い。あたしの事を忘れないでいて……運命の人


月光に彼女は吠えて、彼を思う。


目覚めると思う。


あの人が……あの日の様にいてくれる事をよく思う


それでも狼がその命を終えても、彼は現れることは無かった。


あたしは山脈の中、雪原を見回した。


彼に捨てられ、別れてから自分以外には、雪兎達や銀狐達だけしか視界には掠めない。


白い空はどこまでも光っていた。


時に青い空が厚い白の天を切り裂き覗く。


それは信じられないほどの濃い青で、彼の瞳を思わせる深い青。


見たことの無い美しい海と同じ色。


悲しい思いを重ね合わせ、この指を差し伸べる。


雪が、ダイヤモンドダストが掠めて行く。あたしを凍てつく中包み込む。


どこまでも飛んで行く鷲は、海の上さえも飛ぶ。


空気たちは全てを伝えずに、凍らせては雪に含めて地に落ちた。


あたしの元へ降り注ぎ戻って来た。


叶わないならばそのままでもいい。


迎えに来てくれなくても構わないから、忘れないで欲しい。


あたしがいる事。


あなたは今、遠い場所で何をしているのかしら。




狼のグローリア。

美しい狼に似合ったその名を思いついたのは、山脈を降りた後だった。

彼女の思想をダイヤモンドダストに乗せ、男に伝える。

彼女は銀の長い髪を風に流させて、柔らかな真っ白のドレスに身を纏い、雪原を歩いている。

月を見上げ、柔らかく歩いていく。

『再び出会えることや笑い会える事、貴方と愛し合う事、奇跡だ何て思って無い。ずっと夢見てきた事。何度も、真実の様に……

叶わない事、諦めるしか無い夢……それでも、

全てが全て、一つの軸の上を廻ってるって、思わない?』

美しい女は雪原を行き、夢で見た女は独り歩き、月を見上げて彼を思っていた。

男は瞳を閉じ、顔を覆った。



窓際へ向い、雪のこびりつき視野の狭い山中の林を見回した。

純白と黒い木影の世界は暗鈍と広がり、生命は凍り付いていた。

「……グローリア……」

おぼろげに俺は口を突いた。

きっと、あの狼は今頃冬眠に入ったところだろう。

自分が起こしてしまったのだ。洞窟に入って行き、松明がくすぶる中を、あの真っ白の狼の毛並みを照らした。

丸まった狼は顔をむくりと上げ、俺の前までのそのそ歩いて来た。

俺は気に入ってしばらく過した。

野生動物と人は生きる場所が違う。

自然の生命体には手を出さないほうがいい。

狼を山脈に残して山を降り、雪の吹雪く窓を見つめる。



 雪のような女★                   


      *※雪の様な女※*


          心が寂しいわ……雪が降って全てを隠す


          愛の息吹が 愛を呼び……


          それでもあたしは貴方を忘れてしまうかしら


          哀しい程愛していると……伝えたい


          銀の朝陽に目が焼ける

                     涙を流し、透明にする


           あたし達は 待ち焦がれの後の喜びを 知っている


          目がさめて あの日の様に 貴方がいてくれることを よく想う


          貴方が独りの時間 あたしも貴方を失っている時




{雌の白狼グローリア}


あたしは目を覚ます。


眠りは1度起こされるとなかなか寝付けなかった。


暗い洞穴の中は、ひとり寂しくて、外から細かい雪が入っては消えて行く。


低い音を立てて、風が外を乱雑にかき回す。


あたしは、あの人が、あの日の様にいない事を見て、また肌に顔をうずめた。


もうあえないのかと、思う。


もう目を覚ましても二度と、目の前にいてくれないんだと。


生きてきて永い。今までもいろいろしてきた。


オスと連れ立って山脈を歩く事だとか、一緒にご飯を食べること、共に子供を育むこと。

成長する生命たちを見守ること。


あたしは今ひとり。


瞳を閉じる。

深くは無い眠りに入る。一晩明ければ目覚めてしまう眠り。


目を覚まし、どこにもあの炎は無い。


ゆっくり立ち上がって外に出る。


闇の中、満点の星たちが美しかった。


月を見上げて、感情が吠えさせた……


貴方には届かない。あたしがここにいる事。いま、ここにいる事……。




木枯らしが吹き荒び 全てを雪の下へ送るわ

聴こえるかしら……貴方にも


聴こえてるかしら……貴方にも 貴方への 愛の賛歌が

聴こえてるかしら……あたしの生きている 証が




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