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牡丹

作者: 石橋千晶

牡丹(ぼたん)


 中国から来た「王様」と言われる牡丹の花は、1輪だけでも見事な華やかさ。

 そのような女と一夜だけでも愛し合いたいものだ、と健一は花屋の牡丹を見ながら空想に浸っていた。


 今年で50になる健一は、昔から女遊びが絶えなかったので、結婚して一人の女と共に生きていくなんてことは自分には有り得ないと思い独身貴族を貫いてきたが、それも50手前になって寂しいと感じてきたようだ。

 大手企業の社長として名が通っている健一は金に不自由がなく、外見も整っていて寄ってくる女も多い。

 「社長が好きなんです・・・。」

という女も多く、その気になればいつでも一夜を明かせる相手はいる。

 だが、そういうことが虚しいと感じるようになった健一は、ため息をつきながら休日の街を彷徨っていた。

 前方にふと、目をやる。

 そこには和服の女が座り込んで何か苦しんでいる様子だ。

 健一は近づいた。

 「どうしたのですか?具合でも悪いの?」

 と。

 その女を見た途端、健一は胸が熱くなるのを覚えた。その美しさはあの時、花屋で見た華麗な牡丹そのものの美しさだったからだ。

 「あっ、すみません…ちょっとめまいがして・・・。でも大丈夫です、少しこうしていたら・・・。」

 健一はパッと肩と腕を持ち、

 「こんな冷たいコンクリートのところででうずくまっていてはいけない。あそこのベンチに座りましょう。」

 と連れて行った。

 「ご親切、有り難うございます・・・。」

と女は健一に身を任せた。

 少し具合が良くなった女と話ができた。

 女の名前は琴子(ことこ)。年は40前半といったところだろうか。紺色に薄紫の花模様と白い花びらの着物姿。着物の着付けを仕事とする琴子は、もちろん普段からも着物を着ているという。

 琴子は以前、夫がいたがひどいDVの夫で離婚した。子供は居ない。

 顔立ちが華やかな琴子に一目惚れをした健一は、琴子の話を聞いてますます燃えた。

 「私はこういう者です。いつでも貴女の力になりますよ。遠慮なく連絡下さい。」

 渡した名刺には、

『㈱○○○ 取締役社長 徳大寺健一』

携帯の番号も書いてある名刺を見て、琴子は、

「社長さん・・・?私、こんなお恥ずかしい姿を・・・失礼致しました・・・。」

 ポッと赤らめた頬に、健一は(よし、落とせる!)と興奮する気持ちを堪え、あくまでも冷静を装いながら、

「どこか行く途中だったのですか?良ければ送りますよ。」

と琴子にいかにも優しい紳士的口調で言った。

 「いえいえ・・・健一さんのお陰でもうすっかり良くなりましたわ。もう大丈夫です。」

 女には最初からしつこくしないことがテクニックの健一は、

「では私はこれで。」

と、その場を後にした。


 それからの健一は琴子からの電話を待っていたが、一向にかかって来ずしびれを切らしていた。

 次第に待ちきれなくなり、琴子と初めて会った場所に行った。ここに来れば絶対、琴子に会える自信があったから。

 その勘は鋭く当たった。

 だが歩いていたのは琴子と、もう一人の男。

 琴子はその男と話しながら笑みを浮かべている。偶然を装って健一は近づいた。

 琴子はすぐに健一の方に目をやり、

「あら、健一さん。この前はご親切にどうも有り難うございました。」

 と会釈をし、健一も

「あっ、琴子さん、もう大丈夫なのですね。」

としらじらしく答えた。

「ええ、もうすっかり良くなりましたわ。あ、紹介しますわね、彼は私のパートナーの大光路和幸。こちらはこの前、ここで具合が悪くなった時に助けて頂いた徳大寺健一さん。」

 パートナー? 健一は心の中で納得した。

 (そうか、DV元旦那の話は聞いたが、だからといって、こんな華麗な女が今も一人でいるわけがない。ハハハ、見事にやられたな。)

 大光路に会釈をし、琴子に目をやった。

 「琴子さん、いやぁ良かったです。心配してたんですよ、あの後、大丈夫かなぁって。」

 「お礼のお電話もせずに申し訳ありません。ちょっと持病がありまして・・・めまいも、そのせいで時々起こるんです。」

 大光路の方に少し寄りながら、

 「先日はご親切にしてもらったと彼女から聞いて感謝しています。いつもは私と一緒なのですが、あの日は私の仕事が残ってしまって・・・。」

 がっちりした体格の大光路に、健一は

「いや、貴方のような方がいたとは。良かったですね、琴子さん。お二人お幸せに。」

 そういって、その場を後にした。

 健一は、いい女には男も一人にしておかないものだなぁ~とつくづく感じた。


 (さて、やっぱり今夜は相手を探すことにしよう)と、健一は会社に戻り自分に寄って来る女を誘った。


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