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衝撃


 俺は幼女(仮)を拉致監禁した。字面がヤバイが何も間違っちゃいない。俺は罪を犯してしまった。今は深く反省している。

 その証拠に俺は今、自主的に犬骨にスネを齧られ、出涸らしに頭頂を毟られている。かなり痛い。しかし、まだ骨少女の監禁は継続中だ。今も俺の肋骨の中にいる。……仕方がないのだ。


 俺は骨少女を盾にするという卑劣な行為をした。骨少女を人質に骨コンビに「動くな」と脅したのだ。……脅したつもりだったけど、俺、スケルトンじゃん? 声が出ないから話通じないっての。うん、見事に待った無しで攻撃されました。

 しかし、先に悪事をしでかしたのは俺だ。俺が悪い。だからこの罰は甘んじて受けようと思う。

 だが、それで骨少女を開放するかというと、それで罪を償った事になるのだろうか? 今のこの島の状況でそれをしてしまえば、骨少女は再びその身を危険に晒されてしまうだろう。骨コンビだけでは守り通す事が難しいのは先の通りだ。そして無残に砕け散るだろう。その運命を見過ごすことは出来ない。

 だから、俺はこの骨少女を危険が無くなるまで守ることにした。詰まりは、これは監禁ではなく保護だ。しかし悲しいかな、この俺の優しい配慮を伝えるすべがない。


 故に、俺は今、噛み付く犬骨をズルズル引き摺りながら、頭に集る出涸らしに耐えながら、荒野を歩いている。俺の静止を無視して問答無用で攻撃してきた骨コンビがムカつくから骨少女を解放しないのではない、決して。

 俺は反省している。あの時、軽率にも骨少女を誘拐し、肋骨に閉じ込めるなどとはせずに、そのまま手に握っていた方が絵面としては人質感が伝わり易かったんじゃないかなぁ、と反省している。

 ああ、痛い。こっちが反撃しないからといってちょーし乗りやがって、この骨コンビ。マジで痛い。まぁ、何でか傷は勝手に治るんだけどね……。


 それに比べてこの骨少女。

 最初は怒涛の事態にアワアワしてた。骨少女を取り戻そうと必死な骨コンビを、肋骨の中から心配そうに震えて見てた。やっぱり仲間なんだろう。

 でも、骨コンビじゃ俺はどうにも出来ないし、俺は何もしないしで、状況は硬直。彼女自身も何も出来ない籠の鳥。今は諦めたのか大人しい。

 それどころか、横隔膜あたりを塞いでいる俺の掌の上に座って寛ぎモードだ。展望台よろしくキョロキョロしてる。おーい、骨コンビは今も必死に頑張ってますよ?

 この骨少女、実に肝が座っている。その聡明さで是非とも骨コンビを説得して欲しい、今すぐに。……でも勘だけど、この子はたぶんアホの子だ。こんな感じ。


 ――アワワワ。どーしよう、鬼に捕まっちゃたぁ。食べるの? わたし食べられちゃうの? わたし、美味しくないよー! ……あれ? 大丈夫っぽい? わたし今ホネになっちゃたし、食べるトコない? ……なら、いっか! 犬ちゃんと鳥ちゃんも平気そーだし。むしろココって安全? 眺めは良いけど周りは何にもないねー。


 これでは骨コンビも心配で過保護にもなろう。哀れ。

 そんな残念な子を見る視線を感じてか、骨少女は鎖骨の間から俺を目上げてくる。うん、その白い歯は絶対笑顔だね……。


 半ば諦めムードでトボトボ歩いていると、先に魔力の反応が現れる。先生方だ。

 俺は戦う構えをとることもなく骨コンビへ視線を向ける。その時ばかりは大人しくなる犬骨と出涸らし。俺は顎をしゃくる。ほらヤれよ、と身体を揺する。肋骨の中で骨少女の首がカラカラ揺れた。

 すると、渋々、ホントーに渋々と骨コンビは俺から離れ、かったるそーに骨先生へ向かって行く。

 だって、俺は骨少女を守らなきゃいけないしー? 危険なこととか、暴れるなんて以ての外だしー。

 そこんとこ分っているのか、骨コンビは率先して戦うしかないのだ。へっ、ザマァ。

 

 そんなわけで、俺は余裕綽々、骨コンビの戦いをノンビリ観戦出来る。

 犬骨はまさに地を這う獣。その瞬発力と機動力は圧倒的で、並の相手では姿を捉えることも出来ない。攻撃方法は主に噛み付き、たまに引っ掻き。相手がデカい鬼だから火力不足に思えるが、その爪も牙も鋭く、攻撃力は十分高い。

 出涸らしは風だ。空を自由に翔ける翼は、地上からは犯し難い優位性を持つ。その代わりに鉤爪の攻撃力は低いが、犬骨とのコンビネーションは抜群。頭がイイのかヘイトコントロールが上手く、上と下とで鬱陶しいこと、この上ない。クソ厭らしい。

 あと、魔法は攻撃には使えないのだろうか? 飛べるのも、喋れるのも魔法の力だと思っているのだが……違うの? 現に俺たち他のスケルトンは喋れないんだからさ。

 そう考えている間に戦闘はサクサク進む。犬骨が骨先生の足を砕く。出涸らしのダイビングキックも強烈だ、決定力はないけど、そこは犬骨が補う。地面に倒れた先生の首に跳びつき、首の骨を折る。頭だけでも先生方は動けるが、身体はそれで力を失う。あとはもうコレでもかと砕くだけ。徹底的だ、どんだけだよ。


 その様子を呆れて見ていれば、下顎がコツンと音を起てた。顎を引いてみれば、骨少女が肋骨をハシゴに鎖骨の間から顔を覗かしている。中々に自由だね。

 指で頭をグリグリする。程々に撫で回されれば、骨少女は素直に肋骨の中へ戻っていった。……この子はホントに今の状況をどう思ってるんだろうか?

 そして戦闘終了と共に骨コンビが戻って来る。ダッシュで。そして俺イジメを再開する。

 尾てい骨にぶら下がるんじゃねぇよ、犬。尻尾みたいじゃん。鼻の穴は止せ、出涸らし。前が見づらい。骨少女よ、笑うんじゃない。歯が光ってるぞ。

 ……これ、人質作戦は完全に失敗ではなかろうか……。






 暫くはそんな二人と二匹の日々が続いた。その間、俺達の関係性に変化は一切ない。なんでかって、それは意思疎通が全く出来ないからだ。

 そう、いい加減に何か喋りやがれ出涸らし。コイツは俺を痛ぶったり骨少女にかまったりするだけで、俺に対して全然譲歩しない。でも、もう少し何か違うアクションがあってもいいのではないでしょうか? あ、俺が無視するからですか。


 ――この骨少女を解放して欲しくば、言う通りにしろ


 上から目線で睨んでみる。イニシアチブは俺にあるんだよ、ドヤァ。

 そんな俺の厭らしい視線に気付いたのか、出涸らしが俺の肩に移動してくる。ふむ、目を合わせての対談とは、殊勝なり。


「………放せ!」


 開口一番に要求を突きつけ、同時にヤツの鉤爪が肩に喰い込む。……ほほう、強気だね? あくまでも交渉はしない構えか。

 しかし、やっぱり悪いのは俺。でもさ、もうちょい何か言うことあるんじゃない? 俺、役立ってるじゃん。


「………ぷふーー!」


 ………おい。


「………ちょーし乗んな」


 こら。


「………ぷぷーーー!」


 ……イニシアチブってどんな意味だっけ? 俺の理解は間違っていただろうか。


「………放せ!」「………ぷふーー!」「………ちょーし乗んな」


 何故か出涸らしはソレしか喋らない。インコかよ。


 ――……え? もしかして、ホントにソレしか喋れないの?


 ポカンと口を開けてキョトンと見つめれば、出涸らしは首を縦に振った。


「………ァ、ア、ア〜〜、ンんっ! ………厶、厶ジュガ、ヂー……」


 ソレは口をパクパクさせながらの、途切れ途切れのか擦れた言葉。……何となく分かった。魔法で喋るのは本当に難しいらしい。


 ――あれ? でもその堂に入った嘲り文句はなんなんだ? 嫌に流暢だよね?


「………ぷふぅーーっ!」


 うん、分かった。コイツは俺を馬鹿にする為だけに、随分と練習したらしい。……ホントに性格悪いね!? 最悪だよっ!

 しかし、さっきから何だか上手く意思疎通出来ている。何でだ? 念話とか?


「………ぷっ」


 違うらしい。だが本当に何となく互いに意図する事がわかる。

その大元は、魔力的な波動?みたいな、よく分からない。なんじゃこりゃ。念話でいいじゃん。

 兎に角、これで骨コンビとも和解の道が開けるかもしれない。


 その時、俺達の周囲に光りが差した。空を見上げれば、分厚い雷雲が薄れて所どころが割れている。


 ――おおっ! 空だ! 遂に呪いが解けたのか?!


 空を見るのは何時ぶりだろうか。骨の鈍い感覚で、暖かな光りが肌を撫でるのを感じる。

 

 空が晴れる。光りが溢れる。世界が色を取り戻していく。

 異世界の空も青かった、雲も白い。

 大地は腐ってはなかった。日に照らされた荒野は鉄錆色で、影など何処にも感じない。

 空気が澄んでいる。肺腑のない身体を風が突き抜ける。

 何もない、原色の世界。


 美しい……と言うほどでもない。しかし、ソレは俺にとっては間違いなく祝福だった。

 そこでハッと気付く。アンデッドって日の光は平気なのか?

 慌てて胸の中の骨少女や骨コンビを見るも、どうやら大丈夫らしい。皆、ボーっと空を見ていた。それでいいのか、アンデッド。

 このタイミングで呪いが解けた理由は分からないが、幸先はいい。明るい雰囲気で一気に平和条約を結ぶチャンスである。


 ……しかし、そうはならなかった。

 どちらともなく目を合わせた犬骨と出涸らし。そして見つめる骨少女。暫くの沈黙の後に俺へと巡ってきた視線には燃え滾る熱があった。


 ――………何でだよ………


 影を深くした虚ろな眼窩には、消えない炎が宿っている。幾分か落ち着いた憎悪の中に、確かな闘志が燃えていた。……どうにも和解は出来ないらしい。

 胸の中にいる骨少女をみる。こちらは意気消沈の諦めムード。肩を落として俯いている。何コレ? 意味が分からん。

 ……イライラする。この意味の無い出会い、運命、俺の転生。

 俺はワールドワイドな国際派。ネトゲで暴れるインテリだ。肉体言語は趣味じゃない。……だがいいだろう。こちとら声を無くしたスケルトン。なら拳で語れるだけ上等ではないか。

 胸の中から骨少女を出す。掌の上で怯えた様子の少女をそっと地面に下ろした。

 そして前へ進み出る。


 ――ボッコボコにしてやんよ


 俺達は互いに離れて構えをとる。手足を広げた中国武術っぽいなんちってカンフーで骨コンビを睨みつける。それはヤツらも一緒だ。互いに闘志が高まっていく。晴れた空の下、空気はギスギスしたものに逆戻りだ。

 一触即発。さぁ、ゴングはまだか……と思ったら、


 ………ガンッ!


 と重い音を起てて何かが俺の頭を揺さぶった。痛ぇ。

 俺達は誰も動いていない。……とするならば、まさに横槍。


 ――誰だっ!


 勢いよく首を巡らす。衝撃の来た方を見やれば……遠くに、人影?


 ――……誰だ?


 それはコチラへ走り寄る三人組。……人間だ。パッと見、刀を構えた侍、弓を持った足軽、それと……巫女さん? なんじゃそりゃ。見るからに殺る気満々である。

 最後尾の巫女さんが叫んだ。


「気を付けてっ。その大きなスケルトン、ステータスが見えないっ!」


 ………は? 今なんて?


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