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孤立無援


 もはや朽ちた身とは言え、女子供を粉々にするのは、仕方がないけど気が進まなかった。つらたんである。

 でもね、そんなの問題じゃないんすわコレ。

 俺が血涙流して頑張ってるところに、とんでもねぇヤツらが現れたのだ。犬骨と出涸らしである。

 アイツら、相手がか弱い子女だからって容赦しない。むしろそれをチャンスと、嬉々としてボーナスタイム突入である。

 犬は骨を噛み砕き、千切っては投げ千切っては投げ。出涸らしは更に容赦がない。子供ばかり捕まえて、空に攫って上から地面に叩き付けるは、他の骨にぶつけるは。殺りたい放題の入れ食い大漁旗。こんな感じ。


 ――獲物はっけ〜ん! うわー何コレ? 据え膳ってやつ〜? どうぞ食べてって感じ? でも言われなくてもってゆ〜か〜。そんなの関係なくない? 黙って滅べ


 ――ひゃっはぁ〜〜!!(※犬骨)


 ――あーはっはっ! 骨がゴミのようだ!!


 そんな世紀末に俺ボー然。このコンビ、マジでどんだけオーガ嫌いなんだよ。流石の俺もドン引きっすわ。

 そんなん見せられたら「くっ、ヤツらに殺らせるくらいならこの俺が!」って思うっしょ?

 ……だから、この都市の跡が壊滅的被害を被ったのは、仕方のないことなのである。もうね、跡形もないよ。どっかの爆撃跡地みたい。ゴメン先生方。

 骨コンビは戦闘が粗方片付くとアッと言う間に去っていった。マジ最悪。どこのテロリストだ。ボコボコになった跡地に、俺はヤツらに天誅を下すこと誓った。

 ……それにしても巨人相手に普通に有効打浴びせてるんですけど、強くなり過ぎじゃねアイツら? リベンジ間近か?


 戦々恐々としながらも、ソレはソレ、コレはコレ。俺の目的はアンデッド社会の世直しじゃない、この暗黒世界から抜け出すことだ。俺だってスケルトン、このままではアンデッド労基法の闇に飲まれかねない。目指せ勝ち組、成り上がりからのチーレムっすわw

 だから俺は山を越える。大して高くもないハゲ山だ、崩れる山肌にへばりつきながらもGの如くシャカシャカ登る。俺って実は4m弱の巨人だし、実際見た目より重いのよ。二足歩行じゃ脆い山の踏破は無理っす。

 しかしその分遠くはよく見える。背が高いからね。しかし、なんじゃこりゃ。


 山を越えた先にあったのは闇だった。

 天地は黒。空の黒は、延々と続く稲光を伝播させる雷雲。地の黒は、雷光を吸って鈍く荒々しく猛る海原。……見渡す限り、邪気に充ち満ちているんですが?

 とりあえず見ているだけではどうにもならぬと海へ向かって山を下る。海岸線に辿り着くまで先生方は殆ど現れなかった。

 そして行き着いたのは断崖絶壁。寄せる波風が岩肌を激しく叩く。どこか粘つく空気は確かに潮の香りがした。やっぱり海です。後ろを振り返れば、直ぐそこには山の斜面。なんだこの難攻不落の天然自然。何から身を守ってんだよ。

 ……どうやら進んだ方向が悪かったようだ。いやぁ〜、あんなに広大な荒野から一発目で行き止まりを引いてしまうなんて、トゥーバットである。

 俺は呻る海を傍目に歩き出した。


 ………。


 はい、丸っと一週して帰ってきました。……大地を一周だよ。だから島だよココは、孤島だよ!

 実はわかってた。山頂から海を見てからそんな気はしてたんだ。

 山々に囲まれた荒野は多分円形、キレイな盆地だ。どんな地形だとツッコんだが、そんな場所は意外とある。カルデラとかね。しかし、その直ぐそばが海って何だと考えたが、これもあり得そう。例えば、海底火山が隆起して出来た火山島が崩落して出来たカルデラ島、なんてものは普通に有るのではなかろうか。


 ――ははっ、そんなバカな〜


 普通に考えて、全ての島が火山であるわけがないわけで。それよりも、海に面していたからって島であるわけないっしょ?

 だから歩いたんです。片や海、片や山を眺めながら。何日も、何日も……。方角なんて分からないけど、自分がなんか常に一方向に向かって曲がっているなとは感じましたよ? 何度か山に登っても見ました。そしたら何処からでも荒野と、山と、海が見えました。浜辺とかもあったけどね、島を三周したらそれが同じ浜辺だって納得したさ!

 しかも見事な孤島ぐあい。どこを見ても他の島も陸地も見当たらない。こんな呪われた島、船さえ寄り付かないだろう。

 浜辺で三角座りしながら黒い海に向かって黄昏れてみる。潮の渦巻く入り江に入れば、トイレの汚物の如く没シュートとなるだろう。なんだこの島。


 ――何てところに住んでたんだよ先生方……。アルカトラズもイースター島も真っ青っすよ、このオーガ島……


 ……ふむ、オーガ島……。言い得て妙な。

 俺、多分オーガ。犬がいて、鶏ガラもいるな。あとは猿か……。これで、恐らくは日本で二番目に有名な太郎さんの完成だ。ちなみに一番有名なのは山田の太郎さんだ。

 更にちなみに、俺の額に角は一本。先生方は角二本。これは俺の貞淑さを表したユニコーンの如き一本角だと思っていたんだが……何か違うの? オーガ島? オニガ島? ははっ、何言ってんだよ。


 ………ちゃぷちゃぷ。


 俺がハテナと首を捻っていると、波に紛れて何やら水音が聞こえてくる。音の在り処へ顔を見やれば、海面からコチラを覗くシャレコウベ。うん、怖ぇよ。


 ………ちゃぷちゃぷちゃぷっ。


 それが増えた。見える範囲で沢山増えた。皆がみんな、虚ろな眼窩でいらっしゃる。レイプ目。コッチ見んな。

 シャレコウベは波を掻き分けコチラへ迫る。段々と姿を晒すその骨格は猿じゃない。それは身長2mに満たない人間の骨だ。何でだよ。そこはフラグ通りに猿でいいじゃん。

 次々と浜辺へ上がる人骨達は、長い年月を海に沈んでいた為か、フジツボ着けてたり海藻が生えたりしている。コレを見たらもう一生海水浴したいとか思えねぇ。


 ………カタカタカタッ!


 歯を打ち鳴らして威嚇する方々は、もう殺る気満々です。うん、なんかこのオーガ島の滅亡の歴史を垣間見た気がする。

 仕方なく構えをとる。俺を区別してくれって言っも無駄だろう。むしろ一本角はエース級の証である。参ったね!


 ――上等だ、やってやらーー!!


 一触即発の空気から合図もなしに乱闘の幕開けだ。

 しかし、ハッキリ言って全く怖くない。俺の稽古相手は常に先生方だったので、その半分以下の身長の骸骨なんて鎧袖一触である。裏拳一発、蹴りの一本で数人纏めて吹き飛んでいく。

 対して人骨は俺に向かって数に任せて蹴る殴るを繰り返し、腕や足を捕ろうと掴みかかってくる。が、勿論効かない。武器も持ってないしね。まさしく骨折り損となっている。

 言ってはなんだが鬱陶しい。でも、海から次から次へと増援が来て、全然減らない。う〜ん、過去には相当大規模な戦をしていたってことだろうか?


 そんな消化試合をこなすような対応が拙かった。ボンヤリ適当に戦っていると、不意に足に激痛が奔った。


 ――いっ!痛えーーっ!? なんじゃこりゃ?!


 その原因を求めて見てみれば……いつの間にやら犬骨が足に噛み付いてた。何処から湧いて出た?!

 反撃すべく掌底を繰り出す。しかし、レベルアップしたであろう犬骨の動きは予想外に速かった。足から牙を放してアッと言う間に骸骨達の中へ退避する。……小賢しい。

 歯軋りしてたら、今度は後頭部に衝撃を受けた。頭が前につんのめる。こ、この攻撃はっ!?

 グラリと揺れる頭を支えて上を見上げれば、そこに居たのは言わずもがなの出涸らしである。……ぐぬぬ、猪口才な!

 その後も骸骨達に紛れてしつこく攻撃して来る骨コンビ。中々に痛い。致命的ではないが、俺の骨には傷痕がくっきり刻まれていく。なんてこったい、ヤツらはそこまで強くなっていたのか。下っ端っぽい戦法は変わってないけど。

 ……これはやはり「そういう事」なのか? 骸骨達はヤツらを襲わない。詰まりは骨コンビは人間側の戦力ということか。それとも俺しか眼中にないのか。俺の知ってる話とはちょっと違うけど、まぁそこは異世界だし。だったら俺って敵役?


 ――だからと言って、殺られるつもり無いけどね!


 そんな昔むかしの因縁なんて、俺、知らんし。「ぶっちゃけカンケーねぇー」とばかりに骸骨達を薙ぎ倒す。手に掴んで投げ飛ばす。地面に叩き付け踏み潰す。もう完全に悪役っすわ。


 ――はぁーはっはぁ〜っ!! 骨がゴミのようだ!!


 浜辺を埋め尽くす人骨の中心で歯を打ち鳴らす。コレ気分いいね!

 砕けた骨を波が浚っていく中、離れた場所で骨コンビが俺を睨んでいる。忌々しい……そんな視線を感じる。俺達は無言で見つめ合う。


「………ちょーし乗んなっ」


 ――出涸らしが喋ったっ!?


 俺がビックリしている間に、二匹は浜辺から去っていった。


 ――……ふぅ〜。戦いは何時も虚しい………


 冷静になって、モンスターと同レベルの事しか出来ない大人ってどうよ?


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