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大炎上


 いやぁ〜、恐ろしいところッスわ、異世界。

 骨に鞭打つ死者復活。

 肉が無くても弱肉強食。

 不眠不休の強制労働。

 出会い頭の喧嘩上等。

 疑心暗鬼の百鬼夜行。

 ステレオな怨嗟の再生機となってしまった先生方は、魂を失くしたロボットだ。そこにはもう他者を呪うアンデッドとしての機能しかない。昔は違ったんだろうけど、今は眼窩に光が無いし、もうこれレイプ目っすわ。

 どんだけブラックでハードラックなんだよ。人生設計に老後どころか死後まで含めんの? アンデッドの労基法には定年退職の項目ないんじゃない? そこんとこハッキリさせてないからココの皆さんは何時までも働き詰めで、心が擦り切れてしまったのではなかろうか?

 

 そんな光景が今、俺の目の前に広がっている。




 出涸らしでスープを作る。その思いに囚われてしまった俺は、ヤケクソになってレベルを上げた。その結果手に入れた高スペックは、骨先生が何十人いても切り抜けられる実力だ。

 これ以上ココで功夫を練る必要はない。次のステップ、山を目指すことにしたのだ。


 その決意の元、歩き出した俺の前に次々と先生方が立ちはだかる。オレの屍を越えていけ……。そう理解し、遠慮なく砕く、砕く、砕く。

 こう言うと、なんだか無双しているように感じるが、そんな事は無い。パンチもキックも貰いまくりである。しかし、よろめいても、吹き飛ばされても、倒れても、とにかく殺るだけ。

 そんな俺のドコが成長したかといえば、攻防の回転が速く上手くなったこと。簡単に言えば殲滅速度が上がったということ。詰まりは慣れだ。戦闘思考が身について判断が早くなった。更にはスペックアップした事により、先生方に掴みかかられて動けなくなることがなくなった。骨山に押し潰されるとマジでどうしようもないからね。


 ………それでも、先生方の熱烈歓迎は予想外だった。山の方から現れる、骨、骨、骨の大行進。まさにアンデッド軍団、数え切れません。俺がこの世界に来てもう数ヶ月。知らないうちに総員起床していらした様子。

 こう、全員の上半身がユラユラ左右に揺れながら迫って来るって………ちょー怖ぇ〜。あとね、もう音が凄いんです。近づく俺に気付けば地獄絵図である。曲がりなりにも骨ホネしてた音が………


 カタ………

 カタカタ……

 カチャチャチャ

 カタタタタタッ!

 ガダガダガダッ!!

 ガガガがガダダダダダゴゴゴゴゴドドドドドオオオオーーー!!!


 ………みたいな感じである。足音とか骨の音とか、そんなんじゃなくて。こう、ずっと雷が鳴っているが如く重苦しく響く。地面が揺れます。

 千単位の突進って、もう個人でどうにもならない。しかも先生方も興奮してるのか半狂乱である。最初に見たときは逃げたね。だって無理じゃね?


 ――え、あ、ちょ、ま。う……うえええ〜〜〜っ?! ムリ無理まりむり! 逃げて〜、俺ちょーにげてぇ〜〜!? ヘォープッ!? 誰かぁ〜〜〜!? いぃぃやあぁぁ〜〜……


 この数になると俺が逃げても先生方は中々諦めてくれなくなる新事実。皆で殺れば怖くない精神のアイドル狂信者だ。俺のハーレムはココにあった。

 現場はまさに阿鼻叫喚。前が詰まっててもお構いなし。圧し潰し、踏み砕き、轢き殺す。さながらボーリングのピンかドミノだ。統率ってないの? 逃げに逃げ、気が付いたら俺のハーレムは壊滅状態、皆さんヤンデレだ。

 後は勝ち残った先生方とササッと組んず解れつする簡単なお仕事でした。……荒野とあんま変わらない。別にいいんですけどね。


 そんな状況なんで、進んでは戻りを繰り返し、山へ向けて少しずつ前へ近付いていく。気が付けば、地面は砕けた骨で真っ白だった。諸行無常である。

 ……やはり先生方はどこか壊れている。その思いを強くした。


 一方で犬骨と出涸らしは、まだまだ衰えぬ勤労意欲に溢れているようで。やっぱり俺の周りをウロウロしてるし、先生方とも戦っている。何か俺達オーガっぽいヤツらにご執心らしい。俺のことは区別しろよ。

 コイツらはブラック労働者って感じじゃなくて、何かこう……悪役令嬢の取り巻きって気がする。話通じない、やたら忠誠心高いやつね。

 あと、コイツら何気に仲がいい。いつの間にやら一緒に行動してた。何でだよ。敵の敵は味方なのか、それとも友達だったりするのか。………これでボッチは俺ばかり、ちくせう。

 さらには弱った先生方にトドメを刺して、こっそりレベルアップしてるっぽい。コスい。マジでハイエナ。強くなったら、やっぱりリターンマッチを挑んでくるんだろうか? しかも二対一? チンピラみたいなヤツらである。


 そんなこんなで漸く山の麓へ近付いてきた。……ここまで本当に長かった。ネトゲ的に言えばリンクする大量のMobを延々と釣ってたような状況だ。しかもトレインした獲物を横からPKに奪われる。誰かヤツらを垢バンしてくれ。

 その甲斐あって……甲斐もなく?先生方は壊滅した。トレイン跡を辿っていけば、何かが見えてくる。

 これは、……川の跡だろうか? 大地に薄っすらと緩く曲がった窪みがある。一方は荒野へ、もう一方は斜面……視線の先は山の渓谷だ。昔は豊かな自然があったのだろうか、今は枯れてる。

 道しるべには丁度いい、これを辿って行くとしよう。


 ………。


 また暫くすれば、何かがある。

 荒野にはない見た目の変化はワクワクするが、今度は、石垣……だろうか? 渓流跡に転がる岩石は、治水の為の護岸処理の成れの果ての様に見える。………先生方って脳筋なだけじゃなかったのね。


 ………。


 更に進む。山間の開けた場所。そこには、半ば予想していたモノがあった。

 山奥の集落……そんなモノを考えていたわけだが、規模が違った。山の斜面に築かれた整地された土地。見渡す限りの段々。それは都市の名残りだ。

 石材は規則性を持って地面に埋められたモノが殆ど、建築物の基礎部分だろう。木造が主だったのか、そこには生活の残滓は何も残っていなかった。遺跡とは呼べない、朽ちた文明の跡。崩れかけた石垣だけが、かろうじてソレを物語っている。

 中々に広い空間だが、俺が出会った先生方が全て収まる程ではない。荒野では何も見かけなかったので、恐らくは他の山にも都市が築かれていたのだろう。先生方は山岳民族だったようだ。


 しかし……諸行無常である。この盆地一帯を支配したであろうオーガ文明は、何故に滅びた? ココの呪われ様はただ事ではない。怨念溜まりまくりだ。よっぽど酷い最期だったのだろう。せめてもと静かに手を合わせる。南無〜。


 ………ボコボコッ!


 ………先生方が現れた。供養したじゃん。何でだよ。

 遣る瀬無い気持ちで拳を構える。溜息吐きたい、俺、スケルトン。

 そんな中で更に嫌な事実に気付く。寝起きの先生方は動きが鈍い。ヨロヨロ立ち上がる姿は、どことなくか弱かった。若干低く、細い、女性的な骨格だ。周りは殆どそうだ。……マジかよ。スタイルいいね。ココが本当のハーレムか。

 更に目覚めは続く。何かを掴むように、求めるように、宙へ手を伸ばし這い出る姿は頼りない。それは小さく華奢な、子供の骨格。………マジかよ。子供の角ちっちぇー。


 胃が重い。顔が引き攣る。血の気が引けて四肢が冷たい。

 ……そうなれたら、少しは気分は楽だったかもね。俺は救われたかもしれない。

 しかし、目の前の現実に救いは無い。もう終わった事だとしても、救われてない。全員眼窩に火を感じない。全く持ってどうしようもない話である。


 ――………畜生め


 群がる無念を砕く。埋れたままの妄執を浚う。その為に拳を固める。

 胸糞悪い。いやぁ〜、異世界ってホント酷いところっすわ〜。


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