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襲撃


 結局、拳を交えたところで友情は芽生えないということだろうか。今どき流行らないしね、そーゆーの。

 それでも、俺は手を伸ばしてしまった。この荒野で初めて出会った心を持つ存在。犬だけと、骨だけど。それでも骨先生達よりは通じ合えると思ってたわけで。ボコボコにしといて何言ってんだって話ですよ、はい。


 ――……ま、要するに、寂しかったんだろう俺は


 そんな気持ちに見切りをつけて、俺は功夫を練り続けた。先生方の無味乾燥な憎悪を受け流し、弾き、受け止め、叩きつけられながら。それを砕く、無慈悲に、容赦なく、彼らのワケも知らず。

 犬骨は、あれ以来挑んでこない。偶に視線を感じれば、遠くでこちらを見ていたりする。偶に荒野を彷徨えば、遠くで戦っていたりする。でも、俺が近寄ったりすればどっか行く。それは逃げたとかではなく、いつかの為に牙を研いでいる、といった感じで。………もう完璧に根に持たれてます、はい。


 ――だから俺、魔法使いになります……


 だってココ、めちゃくちゃ居心地わりーんだもん。早くココから逃げ出したい。でも先生方が俺を放してくれない。なら逃げ道はお空しかないんじゃね? お空を飛ぶしかなくね? じゃあ魔法でしょ。カンフー飽きたし。


 で、魔法使いになるにはどうすればいいのか。

 前世の俺は、操を守って三十とウン年、魔法使いの称号は持っていた。しかし、生まれ変わってしまった今は、これから三十年も待つ気はない。……冗談だよ、誰かツッコめ。

 ……真面目な話、ココは異世界だ。骨が生きてるファンタジーワールド。魔法も魔力もあるだろう。なら、例え魔法で空が飛べなくても、少なくとも俺の戦闘力は上がるハズだ。それなら先生方も突破出来るはず。


 ――スケルトンメイジに、俺はなるっ!


 てなもんで、瞑想でもして魔力を感じてみた。経験値を得た時とは違う別のパワーを自分の中に探してみたら確かにあった。意外と簡単。骨の身体に窮屈そうにギュウギュウ詰めになっていたパワーには、不思議な万能感を感じる。

 でもなんかコレ、使える気がしねー……。なんと言うか……

チョップスティックを知らない外国人? 拳銃をブン投げる原始人? 食事どきや戦闘中に手渡されても使い方が分からない、そんな感じ。なんじゃこりゃ。

 俺は標準的な元日本人、魔法のイメージもバッチリだ。無詠唱に並列詠唱、○ラだってフ○イアだって知ってるぜっ。でもな、何だこの…足りて無い感……。誰かコントローラーを貸してくれ。それくらいに、魔法を使うには何かが決定的に不足している。


 ――才能? 呪文か? 道具か? ……確かに、俺は杖をなくしてしまったが………


 股間を見る。………冗談だ。確かに失くしてしまったモノはあるが、俺は巫山戯てはいない。

 ぶっちゃけ、骨の身体でラノベ的表現であるところの魔力循環とか操作とかはイメージ出来ない。それ以前にこの力、うんともすんとも反応しない。


 ――……兎に角、瞑想でもするか。


 ………。


 ………先生方に襲われた。

 いや……ね? 地面に座ってじっとしてたら「○○く〜んっ、あっそびっましょ〜!」的なノリでワラワラ寄って来るわけですよ。呼んでねぇよ。俺はゲーム好きの白豚ちゃんだ。ソレを邪魔されたらキレる嫌なヤツだ。故のボッチ、今更リア充なぞ求めていない。

 仕方がないので先生方とカンフーする。そしてまた瞑想。


 ………からのカンフー。

 ………からの瞑想。

 ………からの。

 ………。


 結論、全然集中できない。先生方は熱心な脳筋信奉者なので、精神論には根性しか認めて下さらない。気が付けば俺の周りは骨の山でバリケードが出来ていた。………意外と頑張ってた。


 ――ふむ、これなら座れば周りから見えないのではなかろうか? じゃ、瞑想だね!


 結果オーライ、嬉々として魔法使いとなるべく瞑想に没頭する。

 俺はやれば出来る男。只のデブから転生し、カンフーさえ身につけた骨。魔法さえも手に入れてみせるっ。

 ……しかし、気合を入れてもデブはデブ、俺はオレ、といったとこか。基本、俺は鈍くさい。集中し過ぎて、攻撃を受けるまで襲撃に気が付くことが出来なかった。……自分、不器用なんで。

 

 それは突然頭を襲った衝撃だった。瞑想中だった俺には、ちょっと居眠りしていたところを叩かれた感じ。……寝てないよ?


 ――っ!? 何ごとっ!?


 目蓋もないのに暗闇に意識を沈めていた俺は、慌てて周囲に視線を奔らせる。……しかし何もない。骨のバリケードは健在で、先生方も、犬骨も辺りには見当たらない。

 不思議に思って頭をカキカキ。更に立ち上がり頭をキョロキョロ。しかしそれでも……何もない。

 ……首を傾げる。また衝撃。


 ――っっ!? 誰だ?!


 慌てて首を巡らせるも……誰もいない。……ひょっとして、オバケ? ホラーですか?

 姿の見えない襲撃者。新たなる異世界のモンスターの出現の気配に、緊張が奔る。ゴーストには魔法で対抗するのが常識だ。しかし、未だに魔法を使えない俺は、果たしてカンフーで霊体に勝てるのか?

 身構える。それでも殺るんだっ、と意気込んで。……だが、現実はコメディーだ。俺は道化だ。

 何度も何度も後頭部を叩かれる。出て来いコラ。

 その後も一方的な展開に頭にくる。卑怯だぞ。

 正体不明の攻撃に恐怖で腰が引けてへっぴり腰。もう勘弁してくれ。

 終いにはとうとう腰が抜けて地面にへたり込んだ。お許しをぉ〜。

 天に祈りを捧げて……気が付いた。あ、何か飛んでる。

 しつこいくらいに執念を燃やして襲ってきた相手は………骨でした。それで飛べんの?


 ――あれは………何だ?


 暗い黒雲の空で羽ばたくそれは、よく見えない。たまの雷光に浮かび出る姿は、骨の翼、骨の鉤爪、そして小さな身体。まったく持って滞空出来そうもない姿は、頼りなくか細い。不思議だね、魔法だね。

 アゴを外して見上げる俺の前に、ソイツは優雅に降り立った。バリケードの頂点で見せつける翼の堂々たる広がりは、まるで孔雀のよう。めっちゃポージングしとる。絶対ドヤ顔やん。


 ――………スケルトン……ハーピー?


 威張り散らした空虚な眼窩は人のソレ。華奢な骨格は子供のソレ。白い翼は枯れ枝同然。鋭い鉤爪も近くで見れば俺にとっては釣り針だ。犬骨よりは大きいが……ひ弱そう。


 ――こんなヤツに、俺はビビってたのか。くそっ、情けないっ!


 自分への怒りに奮い立つ。散々としてやられたが、正体が判ったからには恐るるに足らず。ここからが本当の勝負だっ!

 拳を構える俺に、ヤツは片方の羽を自分の口元へと運び……。


「………ぷふっ!」


 んがぁっ!? 笑いやがった。コイツ、絶対に今、俺を笑いやがった! なんでだよっ、スケルトンが声出せるわけないだろ?! ……魔法か? 魔法まで使って俺を嘲笑ったってんのか! マジで腹立つ!!


 そう、この出涸らしは俺をからかって遊んでいたのだ。気付かれないように、常に後ろから、静かに、一方的に。右往左往する俺を見て、高い所からゲラゲラ笑っていやがったのだ!

 ………気付かない俺もどうかと思うが、そんなことは関係ない。許すまじ。即刻討つべしっ!


 ――ほぉあたあああーーーっ!!


 瞬速の飛び込みで拳を打ち出す。瞑想を経たからか、湧き出る怒りからかは分からないが、それはここ一番の鉄拳だったと思う。決まった……そう思った。

 しかし、それは空を切った。拳が捉えた空間に、ヤツはいなかった。風を感じて上を見上げれば、ゆっくりと羽ばたく出涸らしがこちらを見降ろしている。厭らしくも、飛んでも跳ねてもギリギリ届かないような微妙な距離。上と下で視線が絡み合うのが分かった。


「………ぷぷーーーっ!!」


 ヤツは笑った。細い身体を震わせて、それは見事な嘲笑だ。こんな感じ。


 ――ねぇねぇ、今どんな気持ち? 子供にからかわれて本気でキレるってどんな気持ち? 大人気ない人の気持ちって、子供のワタシにはワカンナイからさぁ? あれ? 大人じゃないなら子供じゃないの? 不思議だねぇ〜? ねぇ、どっちなの? 教えて? あっ、喋れないなら赤ちゃんか! よちよ〜ち、ワタシはここでちゅよ〜?


 ………ブッ殺す。

 目の前にある白い塊を掴み、出涸らしに向かって投げ飛ばす。ヒラリと避けられたそれは骨先生の頭蓋骨だったが関係ない。次々と手に取り、憎っくき鳥を撃ち落とす為に投げ続ける。

 しかし、当たらない。楽しく遊びまわる子供のように空を跳ねる出涸らしは、しっかりと俺に視線を向けて挑発するほどの余裕を魅せる。本気で感じ悪いわ〜!

 ヤケクソ気味に半狂乱になって骨やら石やら投げつけたが、とうとう周りから投げる物が無くなった。ぐぬぬっ。

 歯軋りして睨み上げる俺を、またしても出涸らしが嘲笑う。小首傾げてんじゃねぇよ。


 ――あっれれぇ〜? もう終わり?もう終わり〜? 詰まんなぁ〜い。もっと一生懸命遊んでよ〜。えっ、それで限界なの!? うっそゴメ〜ン。大っきい見た目のわりにぃ、大したことなかったんだねぇ〜。これも過大評価ってヤツ? 中身スッカスカァ。骨だけに? ぷふーーっ!


 多分こんな感じ。絶対に、絶対にだ。ムキィーッ!

 地団駄を踏む俺の周りを、ヤツはクルクル飛び回る。さっきまでは骨の擦れる音さえ立てなかったはずなのに、今度はヤケに高い調子で響かせている。そのまま空の彼方へ消えていく姿は、ケラケラとした笑い声のようだった。


 ――………いつか、絶対に、スープの出汁にします


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