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不安


 魔法とか魔術とか、話を聞いていると何だかスキルやステータスの存在がよく分からなくなってきた。レベル上げたり反復訓練したりで武器スキルや魔法スキルを獲得して使える様になるんじゃないの?


『……いや、知らないな』


 何でだよっ。


『私たちは漁師だ、そういうのは学者にでも訊いてくれ。それに住んでいた町は結構な田舎だったからな。そんな話は聞いた事がない』


 ステータス最先端説である。人間は、世界のシステムにアクセスしてデータを参照する方法を遂に編み出したのか。それとも、ステータス鑑定=健康診断書、スキル=ぼくの かんがえた ひっさつわざ…なんて事なのか。

 不安だ……。俺の周りには情報弱者しかいない。


『俺にもさ、いい加減【カンフー】スキルとか生えてもいいと思うんだ。なんちゃってじゃなくてさ……』

『……???……。大丈夫、きっと……』


 サヨは俺の天使だ。


 愚痴を言っても今の状況ではサヨを家に帰すという目標には程遠い。

 ミズホの国がどの方向にあるかも分からなければ、旅立つ事も出来ない。そもそもが、俺たちスケルトンに友好的なのは今のところ人魚たちだけだ。そして人魚の苦境にあっては情報収集さえままならない。あれ? 詰んでね?

 どーしようもないので、とりあえず人魚の生活を手伝ってみる。いや、サヨがさ、何となくウルウルした目で見つめている気がするのよ。「おじちゃん、お願いっ!」ってさ。


『おじちゃんに任せろっ!』

『いけーっ、ガイコツさん! 力持ちぃ〜!』


 俺は重機になった。

 海から岩を運び上げ、砕いて石材にしたり、浜辺を整備したり。

 人魚たちを手に乗せマングローブみたいな森へ入り、魔法で切られた巨木を担ぎ、家を建てたり。


『ガイコツさん、助かるわ〜』


 シェメリの母親、アメリさんはタレ目のおっとり美人。他の人魚さんたちの声援も心地良い。ムフフ、俺に任せろ!


『――嬢、いいのか?』

『……大、丈夫。いつか、帰る……』

『サヨ、アイツもう置いて行こうよ』


 少しでも友達を助けてあげたい……。そんなサヨは俺の天使だ。出涸らし、テメェは悪魔だ。

 しかし、これだけでは人魚たちの現状は好転しない。人魚は未だ狙われる身だ。何か考えねば。


『ん? そういえばシェメリ、何で兵士に狙われるんだよ?』

『ん〜とね、偉い人の命令だって。コーテーって人みたい』


 ……皇帝って……国のトップじゃん。何? ヨボヨボの老帝が「朕に永遠の命をっ!」とか言ってんの? 変な占い師が唆したりしてさ。それとも奴隷だろうか。なんてベタな。


『ここ、大丈夫?』

『ん〜……。ちょっと危ないかもしれないわね〜。だいぶ遠いけど、船で来れない事もないと思うわ』


 アメリさんが頬に手を当てて眉を下げる。困った顔も美人だ。


『もっと遠くへ逃げた方が良くないですか?』


 一国と揉めるなんて、土台無理だ。逃げるに限る。


『そうしたいのは山々なんだけど、ここよりも南は海が深いの。魔物も強いし、何より私たちの体力が持たないと思うわ。ここよりいい陸地があるか分からないもの』


 人魚はイルカみたいに寝ながら泳いだり出来ないしな。痩せてしまって体力もない。認めたくない事実だけど。


『……舟でも作れば、何とかなる…か?』

『舟?』


 要するに、海の上でも休める場所があればいいわけだ。筏でも丸太の一本削りでもいいから、海上に浮かぶ休憩所があれば遠出できそうな気がする。


『……そうね。シェルドに訊いてみるわ』


 そう言って尾をピョコピョコさせて離れるアメリさん。萌える。


『――……それは、また……』

『沈む。絶対沈む。脳無しじゃ無理』


 うるせぇよ! この前は沈んだけど、今度こそ大丈夫だ! ……お、おいおいサヨ、何でそんなに不安そうなんだよ!? お、おじちゃんに任せろっ!




 で、作ってみた。


『成功だ!』

『うむっ、やったな!』

『もうね、ホントにね、大変だったね!』


 作り始めて早数日。アッという間の完成だ。目の前に浮かぶ巨大な筏と丸太舟。その周りで人魚さんたちが喜んでいる。


『――……馬鹿なっ……!?』

『う、うそっ!? そんなハズないっ!?』


 バカめ! 俺は脳無しだか能無しではないのだ!


『ありがとう、ガイコツ君。君のお陰だ』

『いやぁ〜、そんな。皆さんの力があったればこそですよ』


 実際その通りだ。

 幾度かの丸太の浮力実験。舟にするのに相応しい木の選定。人魚さんたちは精力的に働いた。魔法で丸太の水分を抜き、蔓を編んでロープを作り、石のノミで丸太を削る。

 人魚は水と共に生きる種族。舟の知識はあった。かつては漁で小舟を使ってたらしいが、逃避行の中で失い再製造を諦めていたとか。確かに丸太を運んだり組んだりするのは人魚には厳しいものがある。だから今まで出来なかったんだろう。余裕も無かったし。

 しかし、そんなところに俺登場。力仕事は任せてくれ。パワーだけはあるからね。丸太を組むのも削るのもお手の物だ。


『……おじちゃん、すごい……』


 ふふんっ、だろ〜! 人魚さんの指示通り作業しただけだけど、それも立派な貢献だ。


『ま、待って! まだダメ! 沖に出てみるまで分からない。お前が手伝った舟なんて、不安しかないから! 絶対何かあるから!』

『――っ! そ、そうだ! まだ安心してはいけないっ』


 いや、そこまで必死にならんでも……何の拘りだよ。俺、落ち込んじゃうよ? 君たち、人魚さんたちに失礼じゃない?


『確かにな。まだまだ数を作らなければならないし、その前に一度、沖へ出てみよう』

『アタシも行く!』


 シェメリが元気よく手を上げる。うん、行ってらっしゃい。


『お前も行け!』


 何でだよ。厄払いか。


『――重りだな。人魚達の代わりだ。最後まで責を負え』


 納得いかねぇー! 犬骨っ、お前、沈むんなら責任とって俺が沈めとか思ってないよな!

 だがまぁ、仕方ないか。


『……サヨ、行ってきます』

『……行ってらっしゃい……』

『『『頑張ってねー!』』』


 あぁ、手を振るサヨは俺の天使だ。人魚さんたちもありがとう。絶対沈まずに帰ってくるぞ!


 そうして筏に乗せられ沖へと出る。

 人魚さんたちが筏の後ろに横一列に並んで、ビート板みたいに手を添えながら水を蹴って進む。意外とパワフルだ、進むスピードは速い。筏の前でも、先導役の人魚さんが筏に繋いだロープを引っ張っている。人魚の島は随分前に後方の海の彼方だ。

 筏の横には小舟が並走し、やはり同じく人魚さんが押して牽いてだ。そっちにはシェルドさんが乗っている。順調だ。


『進めぇー! ドンドン行けー!』


 筏の上に座る俺の後ろでシェメリがはしゃいでいる。他の人魚さんたちも笑顔だ。希望が見えたからだろうか。

 俺たちの周りをで人魚さんがイルカの様に海面を跳ねる。「あはは」「うふふ」って感じで戯れるやつだ。陽射しに輝く水飛沫が眩しい。いいね、綺麗だ。めっちゃファンタジー。


『むぅ、やはり沖は波が高いな……。皆、何か異常はあるか!』

『『『ありませーん!』』』

『よーし! 皆、筏に乗れぇー!』

『『『はーい!』』』


 シェルドさんの掛け声と共で、人魚さんたちが筏を留めて上へよじ登ってくる。えっ、マジで!?


『わっ!? 結構揺れるね』『ホント』『きゃー!』『ちょっと引っ張ってー』


 筏の上は、アッという間に人魚さんでぎゅうぎゅう詰め。


『ガイコツさん。持ち上げてぇー!』

『おうっ、任せろ!』


 シェメリのおねだりに応え、手の平に乗せてやる。俺は今、気分がいいからな。お安い御用だ!


『あっ、私もー!』『ねぇねぇ、掴まっていい?』『乗せてー』


 うっはぁ! 人魚さんたちが群がってくる! これはサヨには見せられない顔になってしまうっ。ガイコツだけど!

 シットリと濡れた髪を耳へ掛ける仕草! 筏に両手を着いて寝そべり潰れる胸元! 眩しい笑顔で肩を寄せ合う姿!

 ご馳走様ですっ! ビバッ、人魚パラダイス!!

 ……でもね、俺、アンデッドだから。欲望はあるけど、欲求はないのよ。性欲とか。ぶっちゃけ嬉しいはずなんだけど……なんか物足りない……。具体的にはムラムラしない。芸術を愛でてる感覚。あと、対比として対象が小さいしね。

 そして、人魚さんたちにとって俺は、アスレチック的な何かなんだと思う。帆船のマストにかかるロープや縄梯子的な。完全に男として見てません。ちくせう。


『……よし、問題無さそうだな!』


 俺には大有りじゃい。


『ホントにね、時化のとき大丈夫かな?』


 既に俺の心は大時化じゃい。俺、童貞なのに……。

 落ち込む俺に構わずに人魚さんたちは海へと戻る。今度は筏の逆側へと配置。でも動く気の起きない俺は、背中を丸めて正面下から見上げられる格好だ。


『? ガイコツさん、どーしたの?』

『……シェメリ。俺は……杖を……失くしてしまった……』

『ガイコツさんってお爺ちゃんなの!? 骨だから分かんなかったよ〜!』


 あははと笑うシェメリ。そうだね、性欲減退って意味じゃ年寄りじみてると思うよ? 前世でもオッサンだったけど、今の俺はそれ以下だ。果たして俺は、杖を取り戻す事が出来るのだろうか?

 人魚さんたちは夕日に向かって、俺は夕日を背負って海を行く。人魚さんたちの顔は明るい。しかし、俺の顔には影が差す。見事な明暗。夕日よ、俺はもう燃え尽きてるから、それ以上俺の背中を焼かないでくれ……。

 あと、この結果って俺たち骨ーズの本来の目的からだいぶ遠ざかってるんだけど…大丈夫か? どんどんサヨの故郷から離れていく気がするんだか。




 水平線の向こう、沈む真っ赤な夕日の影に島が見えてくる。案外遠かったな。ボーっと見つめる先に、赤く燃える島が……あれ? 煙立ってる?


『なんだとっ!?』

『っ!? 大変!』


 突然人魚さんたちが慌て出す。尋常じゃない雰囲気で、幾人か筏を放り出して先へ泳いでいく。これは…人魚の遠距離念話だろうか? 何か連絡があったみたいだ。


『どうしたんですか?!』


 隣の小舟に立つシェルドさんへ問いかける。腕を組んで俯き唸るその姿は落ち着いて見えるが、悪い予感を抱かせる。これは……やっぱり……。


『……島が……襲われた』


 マジかよ。血の気も感じない冷めた不安が思考に突き刺さる。サヨは無事なのか? 犬骨と出涸らしが上手くやっているとは思うが、アイツらも弱ってるし。今はどんな状況だ?


『あとねっ、皆が…お母さんが捕まっちゃった! サヨちゃんとアヤメちゃんとソウさんも!』

『なにぃ!? サヨが?!』


 俺のサヨが捕まった!? ……捕まった? サヨは勿論可愛いけど…骨だぞ? そんな事するなんて、どこのお目の高い変態野郎だっ!


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