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魔法


 シュプレヒコールの響く中、人魚たちの苦難の歴史が語られる。

 ……正直、どうしてこうなった?って感じだが、情報収集は大切だから大人しく聞いている。人魚さんたちの協力がないと俺たちだけじゃどうしようもないし。


 で、簡単に纏めると。

 南へ旅立った人魚たちは、聞く限りアジアンな地域に入った。元いた町とは違う、黒目黒髪の見慣れぬ人種。言葉も通じす、しかしそこは念話でどうにかなった。人魚の故郷は白人系だったらしい。

 そして環境や文化の違いに悩まされながも、何とか友好を結ぼうとした。が、やはり上手くはいかない。何度となく住人に拒絶された。その度にまた南を目指す。

 途中にはいい出会いもあり、人魚に手を差し伸べ、助けてくれる人達もいたが、それも束の間の安息だった。暫く留まれば、別の人間に襲われた。

 南では人魚は珍しかった、大雑把にいえばそんな理由だ。その肉は不老不死の薬だの何だのと根も葉もない噂。その頃には痩せ細っていた人魚の見た目は美しく、邪な人間の欲望を惹き付けた。……だからやたらと「本当に」とか連呼しちゃうようになっちゃったと考えると、悲しい……のか? 余計に狙われそうだけど。

 そうして、一人…また一人と狩られていく仲間達。犠牲を積み重ねながらも、新たなる安住の地を求めて旅は続く。南へ…更に南へと……。


『……そして私達は、この島へと辿り着いた。犠牲となった仲間たちの……家族の託した希望を! 命を背負い! 私達は生きるっ! この場所でっ!!』

『『『うおおおお〜〜っ!!』』』

『もうね、ホントにね、お魚不味いんだけどね』


 黙れシェメリ。あと、心の準備もないままこの突然のシリアスに巻き込まれた俺たちは…一体どうすればいいんでしょうか? いや、可哀想だとは思うよ? でもね、俺たちがしてたの、そんな話だったっけ? ツッコむ勇気なんて無いけど。


 しかし、この世界って何だろう? 地球のパラレルワールド的な? だいぶ昔だけど。魔法とかファンタジー入ってるけど、文明というか文化というか、世界は似が寄るものなのか。まぁ、日本語あるなら中国語あっても不思議じゃないんだけど。


『と、言うわけで、ガイコツ君』

『あ、はい』


 急に正気に戻るなよ。ビックリするじゃん。


『済まないが、君たちの助けにはなれそうもない。私たちも狙われる立場だからな。寧ろ私たちの方が助けて欲しいくらいだ』

『……ああ、そうですか……』


 いや、人魚さんたち、そんなウンウン頷かないでくれよ。何なんだこの種族……。


『――話が……』

『長い。てゆーか回りくどい』


 ま、周囲は当てに出来ない事はよく分かった。人魚が追い回されているんじゃ、骨が島の外の人へ助けを求めてもダメだろ。


『でも、皆さんそんなに…その…やられっぱなしなんですか? 女性が多いのは分かりますけど、水中から攻撃するなり、逃げるなり、簡単には負けないような気がしますけど。ほら、魔法も使えるわけですし』


 人魚たちは、見える限りで二百〜三百人、実際には島中に五百人程とか。魔法に男も女も無い気がするから、それだけいれば結構な戦力だろう。全員が戦えないにしても、水中という有利があれば少なくとも一方的にはならないはず……と思う。多分、きっと。

 それとものこの世界の魔法って意外とヘボいの? 攻撃魔法とか見たことないし。


『漁師の私たちでは兵士に敵うわけないだろう。たしかに、私たちも魔物のいる海で漁をする身。それなりの心得はあるが、兵士相手では分が悪い』


 へー。そんなもんなんだ。やっはり専門家には敵わないって事か。多勢に無勢ってのもあるだろうし、何より人魚には陸地が必要だ。守り通すのも大変だろう。


『……ちなみに、魔法の攻撃ってどんなモノなんですか? 俺、見たことなくて』


 巫女さんのアンデッド殲滅早口言葉を除く。


『どんなも何も……こんなモノだか?』


 そう言ってシェルドさんはおもむろに海へと手を伸ばす。すると詠唱とかしてないのに、その手の平に水玉が湧き出てきて中に漂う。マジ魔法。

 バレーボール大の水玉は、なんら前兆を見せる事なく唐突に海へと撃ち出された。パンッ!と弾けた僅かな飛沫だけを手元に残し、砲弾の速度で飛翔するウォーターボール。目で追いかけるも、水玉は遥か彼方。青に紛れて消えてしまった。……おーい、どこまで飛んでくんだよ。

 そして……海が弾けた。ドバァァンッ!!と遠くで水柱が噴き上がる。スゲー。何だコレ、艦砲射撃か? どんな威力してんだよ、虹が出来てんぞ。俺ボー然っすわ。


『……えっ!? コレで勝てないんですか? マジで、身を守れないと?!』

『そうだが? 確かに、少しは気合を入れたが……普通だぞ?』


 何それ。魔法スゲー!

 はて?と横を見下ろす。屍ーズも特に驚いてない。ほぉ〜って感じだ。


『――出来る』

『……中々ね』

『……すごい……』


 ……マジかよ。コレで勝てないとか、兵士どんだけ強いんだ。


『……いや、本当に大した事ないんだぞ? 防ごうとすれば簡単に見を守れるからな。ほら』


 そう言ってシェルドさんはすぐ側に立つシェメリへ手を向ける。浮き上がる水玉。それをキョトンと見つめたシェメリが、ウンと頷く。え、ちょ、待った!?

 慌てる俺の目の前でウォーターボールが発動する。それを何の気負いもなく見つめるシェメリ。至近距離だ、避ける間もない。

 ……そう思っていたんだが、俺が予想される惨状に目を逸らすべくもなく、水玉は忽然とその猛威の姿を消していた。


『……えーっと、どうなってんの?』


 一瞬過ぎんだよ。


『だから』


 今度は少し距離を置いてもう一度。

 ウォーターボール、発射。シェメリに当たる……前に霧となって消えていく。ニッコリドヤ顔のシェメリうぜぇ。


『……ディスペル……?』

『いや、単に打ち消しただけなんだか……』


 頭を居心地悪そうに掻くシェルドさん。だからディスペルでしょ、それ? はて?と横を見下ろす。


『……お前ら、何ボー然としてんの?』

『――……はっ!? いや……驚いたっ。よもやシェメリがこれ程の達人だったとは』

『……ちょーし乗んなし』

『……シェメリ、すごい……』


 ああ、うん、そっか。魔法の技術は日進月歩。俺たち皆、時代遅れなんだね!


『シェルドさんっ。俺たちに魔法の事、教えて下さい!』

『あ、う、うむ。分かった』


 土下座である。こんなんで俺たち大丈夫か?


 そんなこんなで横一列に並んで座る俺たち骨ーズ。人魚さんたちは解散した。目の前には先生のシェルドさんと、その隣にシェメリがいるのに納得いかない。胸を張るな。


『もうね、ホントにね、マホーは誰にでも簡単に使えるの。以上!』


 無視。


『うむ、そうだな。簡単だ』


 えぇー…。


『あの……俺、使えないんですが……』

『適性なしっ!』

『そうだな』


 いや、誰にでも使えるのって言ったじゃん。骨の顔でもジト目が伝わったのか、シェルドさんは咳払いをする。


『おほんっ。そもそも、私たちは余り魔法に詳しくない。だから「やれば出来る、出来ないものは出来ない」と、それ以上は言えない』

『テキトーだよ!』


 テキトー過ぎんだよ! サヨも屍ーズもウンウン頷くなよ! それでいいのか魔法。


 そんな憤慨する俺を宥めて、シェルドさんが説明する。

 兎に角、魔法というのは求める現象をイメージして、術者にその適性があればなんとなく出来ちゃうそうだ。勿論、適性が無ければ何も起きない。

 生き物には必ず何かしら使える魔法の適性があり、人魚種の場合は水とか風……というか空気。ドワーフなら火と土……というか金属など。


『属性か』

『いや、昔はそう呼ばれてたらしいが、今は違うそうだぞ。何処かの偉い先生方が騒いでいたらしい』

『……あ、そっすか』


 なにこの…俺だけがゲーム脳してる感じ。皆こっち見ないで! 屍ーズも知らなかっただろ! なに「ほー」って頷いてんだよ。


『――我らの頃は、人間たちは余り術理は得意では無かったのだ。それがこうも変わるとは……』


 術理とか古臭い呼び方だしね。その頃は神仙様とやらも俺tueeしてたんだね、きっと。

 このパターンは、魔法が科学してるって事だろうか? 知恵や知識が付いたから、魔法が簡単になったとか。それで、俺の使える魔法って……何?


『ちなみにね! もうね、ホントにねっ、アタシが人魚の中では一番マホーが得意!』

『……ちょーし乗んな』

『……シェメリすごい……』


 否定したい。

 で。

 魔法の素養というのは、筋肉みたいに鍛えればある程度は育って下地が出来るらしい。才能や個人差はあるが、人間はほぼ何らかの魔法が使える。

 そして、固有の特異な魔法を使い、人間にとって危険な生き物を魔物と呼ぶ。


『お前らもそうなの?』

『――そうだな。魔の物…と言うならばそうだ。物の怪だな』

『ちなみに犬骨は何て妖怪?』

『――うむ。送り狼だ』

『………』


 エロ担当? チャラ男か。シェメリ、まさかの慧眼!

 で。

 やっはり昔は余り魔法が得意でなかった人間たちは、魔物に四苦八苦してたそうな。剣や弓矢、魔法を交えて一進一退。その中で、相手の魔法を無力化する術を手に入れた。


『それが先程のものだ。強く、相手の魔法を否定する。魔力の壁で相手の魔法を飲み込むのだ』

『――ほぅ……』


 それなりに難しいが達人しか出来ないものじゃない。それこそ、兵士だったら出来るヤツは沢山いるとか。魔法の力に余程の差がない限り、大抵は打ち消せる。

 元はドラゴンや等の強力な魔物が使う能力を真似たものらしい。だけど、それ等が使う馬鹿みたいな威力の魔法は打ち消せない。ドラゴンまじヤバイ。

 兎に角。魔法は魔物相手にはそれなりに有効だが、対人では決め手にはならないと言う事だ。


『だが、魔術は違う。あれを使われては、私たちは消耗するばかりで逃げるしかない』

『え? 魔術?』


 またファンタジーなのが出て来た。


『もうね、こう……魔法がすんごく固くなるヤツ!』


 うん、分かんねぇ。

 シェルドさんの角角云々。

 魔術とは、シェメリの言うとおり「固い」魔法だ。道具とか詠唱とか儀式とかで補助されて、儚い幻想の魔法が確固たる現実の硬度を得て物理的な脅威度が肉付けされる。

 これは魔法を打ち消すように消滅させる事は出来ないが、例えば水や土の壁で防ぐ事は出来る。しかし、魔力の消費効率が良い事、より複雑な効果を付与できる事などの部分で魔法に優る。

 欠点は、魔力以外に別のリソースが必要な事。道具、準備時間、厳しい修練、才能等々。それでもそれを使って人間は魔物や自然に打ち勝ったんだとか。


『私たちは流浪の身。だから魔術に使う道具や武器は消耗するばかりで新しく補充出来ない。普通の銛や生活道具さえな』


 シェルドさんがチラリと後ろを振り返る。そこには人魚の集落がある。

 歪な切り口の木を組んだだけの家。ヤシの葉の屋根。外にある竈は積んだ石で出来ている。人魚も陸で生活するのだ。今はサバイバルじみたものだけど。


『私たちは殆ど身一つの漁師だったからな。陸の大工仕事など勝手が分からん。鍛冶も出来ないしな。皆には苦労をかけている、やはり町にいた頃の様にはいかん。どうにか他の種族と手を取り合いたいが……それもままならない』


 痩せてしまったと言う人魚たちが使う銛は、木を尖らせただけのものだ。金属の穂先がある物は少ない。魔術を使えない今は、魔法を使った漁は控えているそうだ。敵に備えて余力を残さなければ逃げられない。火起こしも大変だろう。道具を作ろうにも材料もない。

 その苦難、察して余りある。


『もうね、ホントにね、お魚不味いし』


 ……シェメリよ、お前はソレばっかだね。


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