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説明


「ゴンっ、弓で援護を。足止めするぞ! アケビは【大祓】を頼む!」

「おおっ、任せろ!」

「はいっ!」


 三人組のリーダーらしき侍が仲間に指示しながら俺へと突っ込んでくる。気構えなんてなかった俺は、その様子をスルーして立ち尽くしてしまった。

 棒立ちの俺を目掛けて足軽が弓を射る。


「【射貫き】っ!」


 何かの掛け声と共に放たれた矢はモノ凄いスピードで俺の額にブチ当たり、矢の衝撃で頭が後ろへ仰け反る。コレがさっきの攻撃か?


「【縮地】っ!」


 その隙にいつの間にやら侍が俺の足元へ潜り込んだ。手に持つ刀が妖しく光る。……オイ。


「【鉄斬】っ!」


 何事かの叫びが刀を加速させる。水平に振り抜かれた斬撃は、俺の脛に深々と傷を刻む。……オイオイ。


「くっ!? 硬いぞコイツ! スキルが通じないっ。権っ、続けろ! 進ませるなっ」

「応っ!」


 ――オイオイオイオイオイーーッ!? なんじゃそりゃ!! とりあえず待てっ!?


 ナニが何だか分からない、そんな俺の心の叫びが届くわけもなく。侍と足軽は矢鱈滅多らと攻撃を続ける。矢が降り、刃が奔る。凄く痛い。

 とりあえずは防御して耐える。助けを求めて周りを見るも、骨コンビも骨少女もいやがらない。探せばだいぶ遠い場所へ避難している。……そーね、別に仲間じゃないしね。ロリータを守るには良い仕事してると思うよ。


「――祓い給へ清め給へいと高き間に坐す尊に依りて天つ祝詞を言祝ぎ給へと叢雲の陰末の山凪の波間の天原の國津神磐門払いては芽を食み風を食む火をば打ち払いては罪と言ふ罪は在らじと――」


 そして遠くで巫女さんが、なんか句読点憎いとばかりの早口言葉に挑戦してる。何を言ってるのか全然分からないが、息、大丈夫?


 ――あれ? もしかしなくてもソレって……詠唱でしょうか?


 さっき『大祓』とか言ってたよね? ソレって所謂、浄化とかいうアンデッド殲滅魔法ではないでしょうか?


 ――まてまて待て待てっ!? ヤバいヤバいヤバいヤバいぃっ!


 パニックです。

 ここに来て初めて命の危機に気付き、慄く。自分の防御力に胡座をかいていたが、所詮、俺はアンデッド。ソレが予想通りなら実に拙い。


 ――逃げよう


 咄嗟に思った。

 俺は人類の敵、モンスターだ。問答無用とはそういうことだろう。しかし気分は「ボク、悪いスケルトンじゃないよ」である。人間と戦う覚悟なんてない。未だに血を見たことはないし、骨しかいない環境だったから油断していた。

 考えるのは後でいい。とにかく逃げよう。無理に戦う必要はないんだし。鈍臭い俺でもその決断は早かった。

 でも、やっぱり現実は非情である。


「――畏み畏み頼み申すっ! ………ぜぇ、ぜぇ………」


 俺の決断より先に、巫女さんの詠唱が完成する。ちょーガンバったね。


 ――ちょ、ま、ギャーーーッ!!


 同時に暖かな何か場に降り注ぎ、俺の周囲を包んでいく。ぬるま湯みたいな、母に抱かれる安息感。そんな馬鹿な。死にたくない……そんな思いも湧いてこない。


 ――あ、あ、あぁぁ〜〜……。気持ちえぇ〜〜………


 思わず顎がだらしなくはずれ、身体中から力が抜ける。膝が崩れて地面に倒れる。あまりの心地良さに最後の理性すら保てない。嗚呼、昇天。


 ――……逝ってまう〜〜……


 それなりにデカイ音をたてて身を投げ出す俺から、侍が距離をとる。刀を構えて警戒を解かないその姿を見ながら、自分の視界が狭まっていくのを感じた。


 嗚呼、哀しきかな俺の今生。結局何も成せぬままに閉じ逝くチーレム物語。せめて骨少女は無事であってくれと、その願いを骨コンビへと託す。アイツら自身はどーでもいいけど。

 俺は最期に遠い骨少女のその姿を視界に収めて、静かに光を絶った。


 ………

 ……

 …


「………やったか?」


 ………?


 ――………ヤラれてない?


 侍の声が近くに聞こえる。目蓋もないのにそこを見やれば、やっぱり見えるフラグ侍。………あれ? 俺、死んでない?

 慌ててガバッと起き上がる。直ぐそこでフラグ侍が「うわあっ!」って驚いてるけど関係ない。自分の身体をペタベタ触って確かめる。

 身体のどこかが崩れて砂になってるとか、力が入らないとか、そんな異常は感じられない。うん、五体満足。むしろ絶好調。でも何で?

 肩を回したり首を回したり屈伸したりして、よくよく調子を測っていれば、離れたところで三人組が集まって俺を警戒していた。


「アケビ……【大祓】は失敗したのか?」

「そんなっ! 確かに為されたはずです。この場は清い気で満ちています」

「じゃあ、ありゃ何だよ? ピンピンしてるぞ」


 何やら期待されているようなのでポーズをとる。手足を広げて腰を落として、ついでに舌を出して威嚇する世紀末ポーズ。邪悪感満載なヤツね。それを見て思わず身を竦める巫女さん。かわゆす。

 改めて落ち着いて見てみれば、三人組は比較的若い連中だ。

 まげを結ったイケメン素浪人風の侍は、篭手や具足だけの軽装。

 ザンギリ頭の足軽は、まんま足軽装備。生意気そうなやんちゃ坊主。

 黒髪パッツンの巫女さんは、なんちって戦巫女。胸デカイ。

 三人とも二十代前後どいったところ。しかし、チグハグな装いは下手なコスプレ感が半端ない。

 まぁ、こう正義の味方の匂いのする三人組である。こちらはそれに命を狙われたわけだが、敵意は湧いてこない。いきなり過ぎて実感がないし。どうにか話せないものか。


「……スケルトン・キング……か? いや……あけび、ステータスはやっぱり?」

「見えませんっ。【隠蔽】か、レベル差か……。兎に角途轍もなく危険な相手です。それも【耐性】持ちなんて!」

「……マジかよ」


 ……マジかよ。そこんトコもうちょっと詳しく。君なら出来る、看破しろっ、教えて俺のステータスっ!


「………退くぞ」


 え?


「っ! ミツマサっ、彼奴を野放しにすんのはヤバいぞ!」

「分かってる! しかし、拙者らの任はこの鬼ヶ島の調査っ。この危急を報せるが大事!」

「でもよぉ!」

「ゴンキチさん、退きましょう。私、もう霊力があまりありません。これ以上は危険です」

「くっ!」


 結論がでたのか、三人組は俺を警戒したままジリジリと後ろへと下がっていく。睨む顔は苦渋に満ちていて、やたらとシリアス。ボク、わるいスケルトンじゃないよ? そう言うべく、俺は一歩前へ出る。

 しかし俺の思いは伝わらず、三人組は荒野の向こうへと駆け出す。


 ――ああっ、待って!


 希望に手を伸ばすように縋るも、その後ろ姿は砂埃をたてて地平の端へ消えていった。めっちゃ脚速い。


 ………。


 突然に現れて、唐突に去っていく。嵐の様なヤツらである。鈍臭い俺は、只々ボー然と事態に置いてけぼり。なんじゃこりゃ。

 ……言いたい事、ツッコみたい事は多々あるが……とりあえず一つ。


 ――巫女さん、ステータスとかいっちゃうんだ……


 純和風な方々が真面目にゲーム脳していらっしゃる。流石異世界。漢字で言えないのか、ステータス。……個体情報?


 ――兎に角、誰か俺に……説明してくれ


 期待を込めて骨コンビの居たところを見やるが、ヤツらは骨少女と共にキレイさっぱり消えていた。……マジでムカつく。


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