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不明


 一面の黒に白が瞬く。

 それはまるで危急を告げる心電図のようで。身体を揺さぶる轟音で、それが雷だと気がついた。それは視界を覆う暗い雲の空。


 ――………はて? 俺は何故、それを見上げているのだろう?


 そんな疑問で自分が屋外で地面に転がっている事実を知る。寝ていたのか、はたまた倒れていたのか?

 そのまま首を左右に振れば、土、石、岩と、早い話が見わたす限りの荒野と言うやつだ。後頭部がゴリゴリと、頭に音を響かせる。………なるほど、寝るには最悪の環境だ。

 今ひとつ働かない頭と、鈍い反応しか返さない身体にムチを打ち、起き上がる。ぼんやりとした思考でも、この状況が異常だとは感じるらしい。


 カタカタッ……。カチャカチャ……。


 自分でもビックリするほど軽快に上体が持ち上がる。身体が嫌に軽く、変な軽い音がなる。いつものブヨブヨ感がない。腹の脂肪はどこ行った?

 頼りない感覚の場所へ目線を向ける。


 ――………!? 骨ッ!?


 言葉がない、絶句というヤツだ。身体を起こした足元に白骨がある。見た感じ、人の足。


 ――うおおおおおぉっ!?


 思わず叫ぶ。骨から離れようと必死に手足をバタつかせる。そのまま後退するも、骨も必死に追いかけてくる。何故だっ!?


 カタカタカタッ!!


 ――いやあああぁーーーっ!? 何で追って来るんだよ! いったい俺に何の恨みがあるっ?! それ以上近付くならへし折るぞ! あ、ウソですゴメンナサイ許して下さい。だからついてこないでぇ〜〜〜!


 パニックである。ホラーである。

 そんなこんなで泣きながら骨から逃げまわり。気がついたら、いつの間にか腕の骨まで登場して追いかけてきて。

 その白骨がまさか自分の身体であると理解するには、無駄に時間がかかった。


「………なんじゃこりゃあああ〜〜〜っ!!」


 自分ではそう叫んだつもりだったが、実際にはカタカタとアゴの骨を鳴らしただけだった。……俺、息してねぇじゃん………。




 さて、一度落ち着いて考えよう。一体全体、俺の身に何か起こったのか?

 そう、俺は確か…自分の家に居たはずだ。最後の記憶は、……部屋でゲームをしていたハズ。仕事に疲れた心を、一人寂しく慰めていた。

 それから………それから? それからどうしたらコノ状況になる? ……分からない。


 骨の身体。息が無い、脈が無い、肉が無い。しかし、見える聞こえる走れる。感覚は薄いが、どうやって感じているのか不思議だ。生きてんのかコレ?

 これは所謂……スケルトン? 俺はアンデッド? モンスターに転生ってヤツですか? 自分、死んだつもりないんですが? カチャカチャと自分の身体を触ってみれば、………額に角らしき突起がある。なんじゃこりゃ。

 更に、あらためて周囲を見る。……見わたす限りの暗い荒野。地平線は岩山ハゲ山、草木一本ありゃしない。空は相も変わらず雷雲が覆い隠し、今にも嵐が来そうな雰囲気だ。そんな中に生き物の姿は影も形も見当たらない。……ふむ、アンデッド日和ですな。


 そう考えたのがいけなかったのだろう、日頃の行いというやつだ。

 少し離れた地面がモコモコと盛り上がり、そこから白い手が出てくる。白骨だ。その手が宙を泳ぎ、赤黒い地面を掴み、そして周囲を盛り上げて、ソレが立ち上がる。

 ソレは骨。全身から腐肉を散らすように、土を落としながらゆっくりと現れる薄汚れたスケルトン。めっちゃ怖ろしい。

 その様を、呆然と見つめるしかなかった。しばし、骨と見つめ合う俺。


 ――………貴方が、俺のブラザー? あ、角あるじゃん


 カタカタカタッ!


 ブラザーは運命の出会いを喜ぶように声?を上げ、腕を広げて俺に歩み寄る。……でも、その手は握り拳じゃね?

 疑問の答えは、空気を裂くグッドなフックだった。


 ――何ぃっ?!


 いきなりのご挨拶に俺は驚き、拳を避けようと後ろへ傾く。しかし、慣れない動きで足をもつれさせ、尻餅をついてしまう。

 結果としてはソレが良かった。一撃目が目の前を空振り、直ぐに繰り出した二撃目も、転んだ俺の頭の上を素通りした。ナイスなコンビネーションフックだ。


 ――あぶっ、危ねぇ!? 何故だっ、何故なんだブラザー?!



 俺は再びパニくった。自分、文化系なんで。ケンカとかしたこと無いですし。突然キレる若者の対処とかも知らん。

 そんな俺の混乱にも構わずに、ブラザーは待ったなしで襲い掛かってくる。今度は足を上げ、踏みつけの構え。いかにも硬そうな踵が振り下ろされる。


 ――ひっ、ひいいいぃ〜〜〜っ!?


 Gの様にカサカサと地面を這ってその脅威から逃げ出しす。俺が一体何をした?!

 もう何が何だか理由も分からず逃げ惑う俺を、骨はカタカタと笑いながら追いかけて来る。

 必死に走る。後ろから骨の音がついて来る。それを振り切ろうと懸命に手足を動かす。あんなヤツはもうブラザーなんかじゃない!


 ――うおおおあああぁーーー!!


 俺は脱兎の如く荒野を駆け抜けた。




 只々どこまでも続く荒野を走りまわり、ようやく骨から逃げおおせた。暗い世界の中では時間の感覚は曖昧だが、かなり走りまわった気がする。

 あの骨はホントに一体何だったのだろうか。俺達は骨仲間だろ?角あるし。あんなにホラーでクレイジーじゃアンデッド軍団つくれないぞ? いや、作るつもりも入るつもりもないんだが。

 しかし、気持ち的に疲れたからついつい膝に手を着いて休んでいるが、その実まったく疲れていない。便利だな、アンデッド。先程までは必死だったので分からなかったが、改めて自分の骨の身体を動かしてみる。飛ぶ、曲げる、走る、持つ。

 身体が軽い。腹の肉が震えない。息だって上がらない。風を切って走る感覚は素晴らしかった。生前?は肥満体だったので、あんなスピードで走れた事なんてない。今も自分の半分ほどの高さがある岩をダンベルの様に上げ下げしている。スゲー、ビバ骨。

 というか、何気に同種と思われるスケルトンを振り切ってたし、実は俺、スペック高い? 強いの?


 ――……ふは、ふははっ、ふぁ〜はっはぁ!!


 夢の異世界無双の予感に気持ちが高揚してしまう。いや、ここが異世界とか自分がチートとか、何一つ確定してないんですけどね? あと自分インドア派なんで、戦いとか運動全般ダメダメなんですが。

 でも、ここが本当に異世界で、魔物転生だっていうのなら、……あるでしょう、アレが?


 ――ステータスッ!


 ………ボコボコッ!


 ……お約束を唱えたら、ウインドウとかじゃなくて、骨が出た。地面から、五体………。


 カタカタカタッ!


 ――ぬあぁっ!?


 こりゃ敵わんとシマウマの様に逃げ出した。


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