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 ――男は、女以上に強さに惹かれる。

 そして、強い者を求めるのだ。


 はい、戦ってみたい相手ナンバーワンとして、最近頭角を現しつつあるのは、妹弟子であるツクヨイ。

 魔法職との戦闘は中々無い。

 一度決闘をしたことがある魔法職のオッサン。

 同じ魔法使い同士なら前衛としてグロウしている俺のスキル構成なら大きなアドバンテージを取れる。


 だが、その他の魔法職だったらどうだろうか?

 プレイヤースキルもないオッサンをいたぶったところで勝ち鬨を上げるつもりも無い。


 例えば、エアリル、アルジャーノ、ツクヨイ。

 生産職ではなく戦闘スキルをメインに上げているメンバーである。

 近付くメリットを活かせるとしたらエアリルとアルジャーノには対抗できるな。

 ただ、二人で来られたらどうかはわからない。

 光属性魔法の支援効果はなかなか侮れないからな。


 そして気になる相手。

 ツクヨイだ。

 何度も一緒に狩りをしているが、俺のアドバンテージが全く通用しない手合い。

 接近戦に持ち込むことで本領を発揮する魔法使いってどうなのよ。

 俺も闇属性構成にしておけば良かった?

 いや、初志貫徹。

 このキャラクターも愛着湧いてるから今だキャラクターデリートなんて考えない。


「死にさらせえええ!!!」


「ぎゃああああ!!!」


 接近して来た相手の首を切り飛ばしながら前進する。

 途中で連携を組んで来ているのか、飛来する弓矢、魔法を鬼魔の長剣の元に両断して行く。


 っていうか、魔法職で魔力をその身に纏って戦うことが出来る俺相手に、遠距離魔法で攻撃してくる戦略は間違っている。

 そう思わんかね?


 魔法職の対前衛職向けの基本的な戦い方は、遠くから攻撃を浴びせる。

 そう言うことなんだろうな。

 魔法職は火力だ。

 このゲームはそう言う認識で魔法職を目指す人が多いようで。


 小手先メインのスキルよりも。

 威力特化である魔法スキルを取得する人が多い傾向にある。

 支援を完全にアルジャーノに任せっきりにしているエアリルもそうだ。

 詠唱からのデカい攻撃。


 接近を許してしまっている時点で、その戦闘も穴だらけだとは思うがね。

 パーティ戦でモンスターを相手にすると、実に理に適っているんだろうな。


「くっ!! 一発で全部持ってかれた!?」


 ローブから、苦い顔をのぞかせる魔法使い。

 長剣で首を一閃すると、パリンとガラスを割った様な音がした。

 たしか、【マジックプロテクト】っていうお手軽ダメージ軽減スキルだろうな。


 うん、便利だ。

 外道の一撃を完全に防ぎきる。


「――ッ!?」


 九割持って行かれたのがMPだかHPだかは知らんが。

 二撃目を当てればもうガードは出来ない様だった。

 急所攻撃に弱いよな、この【マジックプロテクト】ってスキル。


 首をはねると基本的にHPは全損する。

 割合カットでダメージ軽減する【マジックプロテクト】は即死攻撃を一度軽減したとしても意味ないよね。

 結果的にMPの無い魔法職なんて、ただの雑魚と変わらないんだからな。

 プレイヤースキルを磨いて、守備力でも上げとけってことだ。

 生半可なプレイじゃ勝てないよって運営が言ってるんだな。


 そんなことを考えながら、乱戦の渦中を進んで行く。

 多対一は慣れたもんだな、体力が続く限り、俺の道を防ぐ奴はひとつきして動きを止めてそのまま首を切り落してやる。

 いつのまにか、必至こいて闇魔術を扱うちんちくりんの元へ辿り着くのだった。


「ひゃああああ!! なんか首が飛びまくってるってローレントさん!?」


「うす」


「な、何しに来たんですか!!!!」


「戦いにだけど?」


「――出会わないって一番重要でしたああああ!!! 一先ず逃げます!!!」


「逃がさないけど」


 逃げたら均衡が崩れてしまうよな。

 闇魔術の黄金ハメコンボを使用して何とか周りの敵を翻弄していたツクヨイ。

 動くと【ダークサークル】が消える。

 アドバンテージが無くなってしまうよな?


 そう、俺からは逃げられない。

 戦うしか無いと判断したツクヨイは、【ダークボール】の幾つかをこちらへ仕向ける。

 それだと他のプレイヤーを対処できないんじゃない?

 と思ったが、俺も一緒だよな。


 遠くから漁父の利の虎視眈々の狙っている輩が居る。

 そっちを一先ず片付けて行こう。

 銛を投げる、投げるぞ。

 ストレージに溜め込んでおいたぶんを大解放じゃい。


「そ、そんな!」


「おい、トッププレイヤーがぶつかるみたいだぞ!」


「好都合じゃんか!」


「……私は巻き込まれると思うから下がっておくよー」


「大体今はイベント開始直後で一番混雑してるから! こんなバトル、元ネタのBCoEでも無かったから! ゲームってレベルじゃねーぞ! 暴動だ暴動!!」


「だから今がチャンスなんだほげええええ!!! 痛い! 痛覚オフってるけど俺の頬を何かが貫通した!!! た、助けてくれ!!」


「お、おい、グロいぞ! 銛が貫通してるよ! ってか痛覚オフにすっから感覚鈍ってるんじゃないの!?」


「――黒い爆発だ!! 何だあれー!!」


「あのちんちくりんからじゃね!? と、とりあえず惹いた方が良くね!?」


 大混乱だった。

 俺を近づけさせない為だろうか、それとも逃げる為だろうか。

 ツクヨイの【ブラックスタッド】からの【ダークバースト】によって、人の波が割れ、活路が開かれる。

 【ダークサークル】が消えた。


 ――好機と見た。

 跳躍、そして宙から重力を利用して切り落す。


「はわわわ! ダークサークルダークサークル! クールタイム!? 間に合ってええええ!!」


 運がいいな。

 クールタイムを終えた【ダークサークル】がストップしたツクヨイを中心に広がって行く。

 そして【ダークボール】が六つ全て飛来する。


 闇魔法の弾は、素のままでもそこそこの質量を持っている。

 一つの弾を手甲にて受け流す。

 ボーリングの弾とは言わないが、軟式テニスの弾がかなりの早さで飛来して打ち付ける様な感覚かな。

 絶妙な弾力感。


 十八豪の水弾は、これより重く更に粘性と流動性を持っているんだよな。

 脅威だと思う。


「はわわっ!? 勝てるかも!? ダークボール! 全部行っちゃって!!」


「甘い」


 跳躍の勢いを殺されて、地に堕ちた俺に【ダークボール】が群がってくる。

 既に【ダークサークル】内であって、ギリギリレベル差で異常状態をレジストしている感覚。

 これで視界が消えたら暗黒の異常状態なんだろうか。


「エナジーショック」


 詠唱後、――黒弾が弾ける。

 長剣の間合いに居た三つを薙ぎ払い。

 後ろから迫って居た二つを肘鉄で叩き潰し。

 全てを躱して顔面に肉薄した一つを長剣を投げ捨て右手で掴み握りつぶした。


「う、嘘……」


 一瞬で【ダークボール】を消し去った俺を、唖然とした表情で見定める。

 初期魔法スキルの【エナジーボール】もそうだが、射出されてから打つかるまで、そして打つかってからダメージが刻まれるまで、衝撃が伝わるようにダメージタイムという物が発生する。


 【魔纏】の効果なのかしらんが、全身と武器にまで衝撃判定のある魔法スキルへと変化していた。

 要するに、すごいヘッドバットとか。

 すごいドロップキックとか。

 衝撃を利用したすごいジャンプとか出来る。


 なんか、そういう戦車とか昔あったよね。

 つまり、ダメージタイム内であれば、そう言うことが出来る。


 一度【ダークサークル】から出ると、怖じ気づくツクヨイに向かって跳躍。

 このままトップキリングだな!


「うおおおおお!! 何だか知らんが幼気な少女がやられそうだ!」


「暴漢だ! 皆で助けるぞ!」


「うおおおおおおお!!!」


「ふえ?」


 思わぬ邪魔が入った。

 レジストできずにツクヨイの闇魔法の異常状態の餌食になっているにも関わらず、なだれ込んでくるおっさんプレイヤー達。


「イエス! ロリータ! ノータッチ!」


「きゃああ、レイプ魔ローレントよ!」


「守れ! 守るんだ! その笑顔を!」


「なにわけわかんねーこと言ってんだ! だが少女は俺が守る!」


 雑踏共が、押し寄せるのだ。

 それぞれに色んな正義を抱えて。


 だが現実は非情だぞ、願望だけじゃ生きて行けない。

 死にたくなくても人は死ぬのだよ。


「羆に素手で勝てるわけないだろ!!!!」


「話の次元がわけわかんねーですうう!!!」


「こっちの話だよ!」


 剣を片手に取り出したのは三節棍。

 片手で操って盾として利用する。

 三本の矢は折れない。

 三本重ねた三節棍の丈夫さったら無い。


 もともと硬い魔樫を使っているんだ。

 そしてそれを魔法職である俺が使っているんだ。


「エナジーショック!」


「おわっ!」


「ヤバイぞ、波動拳つかってくるぞこいつ!」


 足を払って、踏み抜いて行く。

 屍が道を造る、届け俺の刃。

 青ざめた表情をする妹弟子の首をはねるまで俺はとまらない。


 ボルテージが上がって来た。

 そして、身体がどんどん加速する様な気がする。

 持っているのは魔樫の三節棍と鬼魔の長剣。


 なるほどなるほど、さながら魔が差したと言うことか。

 心に巣くう鬼に魔が差した。

 楽しくなって来たよ、おい。


 足首を掴まれた。

 手首を切り落せ。


 噛み付いて来た。

 顎を踏み砕け。


 貴様らの視界に、その眼球に俺の戦いを焼き付けてやる。

 やっぱりこうじゃないとな、戦いは。

 長らく忘れていた物が蘇ってくる様だった。


 キルポイントが破竹の勢いで溜まって行く。

 敵を引き寄せる渦の中心にいればそりゃそうか。

 心は台風の様に荒れ狂っているのかって?

 いいや、台風の目って静かなんだぞ?


 至り冷静に相手を倒すことだけを考えているんだなこれが。

 おっと、百人連続キルボーナスだって。

 うまいうまい。



[プレイヤーのレベルが上がりました]



 インフォメーションメッセージを聞き流しながら、ツクヨイに肉薄する。

 消滅までラグがある、もしくは地味にHP残っているのにペナルティで動けないプレイヤーの上を進んで行く。


 彼女の領域は地面の黒曜だ。

 涙目で俺を見上げて動けないツクヨイの目の前についに躍り出た。

 首に三節棍を掛けて、既に長剣は振り上げてある。

 両手に持ち替え全力で振り下ろす。






 ビーーーーーーー!!!!





「……終わりか」


 戦いの終結を告げる音、剣は届かなかった。

 ちなみに、物理的には届いていて、袈裟状にツクヨイの肩口から太ももに掛けてすっぱぬいた。

 町ではダメージが通らないので、いくら斬ったところでHPには影響は無いみたいだ。


「はえ……い、生きてます……? 胴体繋がってます……?」


 ぎゅっと目を閉じていたツクヨイが、そーっと目を開けて身体を確認している。


「お、おっぱいが若干斬れて減ってしまって……」


「んなわけない、じゃーな」


 ブザーに合わせて公園の上に上げられている巨大モニターもそれぞれのポイントレースみたいなものが写し出されている。

 二度目のブザーが終わって、ポイントを大きく取っている物が表示され、それに関わるポイントトップキリングという物が導入されるようだ。


 当然だが、俺のポイントはトモガラを大きく抜いて一位だった。

 そりゃそうか。

 トップキリングには至らなかったが、草刈りの如く雑草共を刈り尽くしていたからな。

 久々に燃えて、すごく充実感がある。

 うむ、楽しかった。


 トモガラは二位。

 ……暫定三位に久利林。


 どこかで聞いたことあるプレイヤーネームだな。

 それを負っているのが十八豪で、最後が三下か。

 三下って誰だ?


 みしも? 

 みした?

 聞いたことが無い名前がちらほら見えるので、チェックしておくことも大事かな。

 次のブザーがなったらマップに表示されるであろうポイントトップの人達を優先的に狙うべきだしね。


 来週行われるのが闘技大会。

 上位陣はその大会の本戦かなにかに出てくる率が高いであろう。

 よし、そうと決まれば武器のメンテナンスだ!

 スティーブンの工房へ向かおう。


「助かった、です……?」





ついに九十九話。





三下さんくるよ。

ついでに、みんなレベルアップ祭りですよ。

タイアップイベント。

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