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主人公以外の視点があります。
ご留意ください。
※※※レストランサイド※※※
「ねえ、前から知り合いだったなら、どっちが勝つと思う?」
テーブル席からコーヒー片手に二人の男の戦いを観戦するセレクが、腕を組んでジッと戦いを見据える十八豪に尋ねた。
「……聞いた話になるんだけど、それでもあくまで憶測の範囲ってことになるよ?」
「ええ、それでいいわよ」
「バトルコミュニケーション・オブ・エンカウントで、あの二人のワンオンワンの戦いは九十九勝一引き分け」
「それってどっちが?」
もちろん。とひと呼吸おいて十八豪は告げる。
「トモガラだよ」
セレクがコーヒーを少し吹き出す音がする。
周りで聞き耳を立てていた人達も、顔を苦笑いさせて体勢を崩していた。
一部の女性陣の視線は、何故かローレントに。
ツクヨイが縋るように十八豪に尋ねる。
「このままだと、負けちゃいます?」
「あら、一丁前に心配してくれてるのかい?」
勝ち誇った笑みを向ける十八豪に、ツクヨイがその小さい肩を大きく揺らして抗議する。
「違います! 私の兄弟子なんです! 兄弟子が負けたら……、なんか嫌じゃないですか……」
「ハッハッハ! 嘘だよごめん。冗談さ。BCoEの話にはまだ先があって、ローレントは身体が光ったりするだけのアビリティや、身体から天使の輪っかがでるだけのゴミアビリティで戦ってたのさ、それで引き分けまで持ち込んだ。正直気持ち悪いくらいさ、ガチガチに良アビリティで固めるトモガラ相手に最後は引き分けに持ち込むんだから……」
「はぁ……?」
ついつい瞳の奥が熱くなるように語ってしまった十八豪。
顔に溜まった熱を左右に振って散らす。
少し冷静さを取り戻して、いまいちわかっていないツクヨイに更に付け加える。
「アタシの元カレから聞いたんだけど、トモガラは良く愚痴ってたらしいよ。これだけやってもちっとも縮まらねぇってさ……、それがどんな意味かわかるかい?」
「わかりません!」
「ああ、そうかい……。話したアタシがバカだったよ」
ガックリと肩を落とした十八豪に、旧友であるアルジャーノが質問する。
「……引き分けの後は、……どうなったの?」
「ああ、戦ってすらいないよ。あの二人」
「……そう」
そこへセレクが。
「ねえ、結局どっちが勝つの?」
「……それは最後に立っていた方」
「アルジャーノ、それは誰だってわかってるわよ……」
※※※本編※※※
パワーで劣っているのだろうか?
攻撃をヌンチャクで受けているが、地味にHPが削られて行くのがわかる。
だが対応は出来んこともない。
咄嗟に思いついた、砂をアスポートにて眼前転移。
「わかっちゃ居たけど、うざってぇ!」
トモガラの撹乱に成功する。
左からの大振りをしゃがんで躱す、トモガラはそのまま一歩前進して薪割り。
脳天からまっ二つになりかねない攻撃。
「だらああ!」
「――ッ!」
トモガラは標的である俺を見据えたまま、気合いと共に突っ込んでくる。
砂利を眼前転移させた筈だが、しゃらくさいとばかりに見開いた目を、黒目をぎょろりと俺に向けて斧を振り下ろす。
眼球に細かい砂が直撃している状況だろう、ペナルティなんかつけよ。
HPはちょいちょい減っているのはわかる。
「しゃらくせぇええ!!」
「おわ!?」
ヌンチャクを両手に持ち、斧の刃が後頭部に直撃するのを鎖でガードする。
あまりにも強い力を受け流すだけで、押し切られる軌道上から自分の後頭部を避難させるだけで精一杯だった。
刹那的、――ギャンッ。
鉄と鉄が打つかり合う音。
そして摩擦に寄って捩じ切れる悲鳴が聞こえた。
「俺の斧も黒鉄製だぜ? まあ、力の掛かり方が違うんだよ」
そのままトマホークの投擲が来る。
まっ二つに壊れたヌンチャクを放り投げてバク転しながら回避する。
その時掴んだ砂を転移させ、時間を稼ぐ。
「新しい転移スキルの精度は悪いみたいだな」
眼前ではなく、頭上に転移した。
頭から砂を被ったトモガラが斧を片手に歩いてくる。
魔樫の三節棍でこいつの手斧に対応できるだろうか?
……難しそうだ。
ならどうする?
毒でも使うか?
こいつのことだ、血清を常備してるだろうな。
「おらおらどうした! ハイポテンシャル!」
トモガラの早さが、一段階上昇したように感じる。
一歩の踏み込みで、今までよりも更に長い距離を詰めてくる。
改めてスキルの確認をして、そのまま構えを取る。
ああ見えてトモガラは、異常なまでに慎重な男だ。
勝利の為なら何だってやるし、時間も掛け続ける。
それだけの才能があるのも知ってるし、誰よりも負けず嫌いだってことを俺も良く知っている。
――ひとつ、戦績を勝率だけで見ると、トモガラが俺を圧倒しているだろう。
だが。
「俺との対戦成績、言ってみ」
「……俺の全戦全勝だろ? あ、一回引き分けがあったっけな?」
「違う、実践形式だ」
それを告げると、トモガラは黙る。
バトルコミュニケーション・オブ・エンカウントでは、ネタスキルばっかり覚えさせられて苦渋を舐めさせられた、酷い洗礼を受けていたが今回は違う、自分の力でスキルは揃えて来た。
「……」
改めて構えよう、気を十分に身体へ送れ。
一連の動作がゲームでどう影響するのかは知らんが、気は十分である。
近接戦闘向けのビルドだが、魔法職としてのそれらしいスキルは得た。
そう遅れを取ることも無いだろう。
「九十九勝、一引き分けだよ。……この隠居野郎」
そう声を絞り出すトモガラ。
故あって隠居してるがな、俺は比較的まともな部類だと思う。
「いいや、お前は頭おかしい」
「お前もな」
そんな軽口を叩き合いながら、斧と素手が邂逅する。
モンスター相手に武具を使用していたのは、あくまで素手で対応できなそうになかったからだ。
巨大な虫なんか、カマキリなんか、イメトレ以外で相手にしたことないわい!
武具を持った人ならどうだ?
対処のしようはいくらでもある。
まあ、ゲームになれていない。
モンスター相手に遅れを取るのは、そういうことにしておこう。
振り下ろされた斧、腕をクロスさせ、回しながら溜を作り手甲で弾く。
そのままトモガラの樵夫チョッキを掴み足を掬う様に刈り飛ばす。
俺の腕の中で逆上がりするように一回転したトモガラは、回転によってチョッキと絡んだ俺の左腕を切り落としにかかる。
「エナジーショック!」
「ぐはっ! 発勁かよ!?」
厳密に言えば、単純に魔法スキルによる密着攻撃。
威力が強いと思われてるのは、単純にトモガラの魔法防御が弱いせいだと思う。
腕は無事だ、そのまま踏み込んで拳を開き、捻り抜き手。
単純明快な追い打ちだが、拳を作る際に適当な小石を無詠唱で手の内に【アポート】させておくと便利。
抜き手を放つ際にいい具合に射出されるぞ☆
狙いは顔面だな。
喉仏を捻り潰しに行くのもいい。
「うぐっ! ずりーな! 視界奪いやがって!」
反射で人は目を瞑る。
トモガラもある程度はその部分をコントールできるようだが、甘いな。
事前作りが出来てないから急所を潰されるんだよ。
目つぶし狙いの抜き手を読まれ、顔を振って避けるトモガラ。
「俺が見えてるなら奪えてないだろ」
顔を振って避けられたのでそのまま直線上にある耳を捩じ切りに行く。
苦痛の唸りと共に、血を巻き上げてトモガラの左耳が千切れた。
「お返しだ」
「む」
痛みで怯むこいつじゃない。
右腕に、手甲越しに衝撃が伝わってくる。
これは折れたな。
トモガラの斧は【魔纏】と手甲の防御越しに、俺の骨を圧し折ることに成功する。
肉を切らせて骨を断つ、とはこの事也。
だが手甲は外骨格の役割を果たす。
中骨折れたところで肘と肩が動けば問題ないのだ。
「逝かれてるぜ!」
「ハルバードは出さないのか?」
「良く言うわ。あんな大振りなんか対魔物でしか使えねーよ」
トモガラの周りをフェアリーが飛び回り徐々にHPが回復して行く。
俺も出しておこう。
「まったく、初っ端から片耳かよ! でも片腕は奪った。腕の部位破壊ペナルティなら今日一日は活動できないだろ! っつーわけで、今は引かせてもらうぜ! バトルポイントラリーは俺が制すんだよ! フルポテンシャル!」
トモガラそう叫ぶと、すごい勢いで駆けて行った。
テンバータウンの方向へ、向かって行ったみたい。
ちくしょうしてやられたかも。
あのまま五感全部奪ってやるくらいの覚悟だったが、ここへ来て逃げの一手に転じるとは……、血気盛んなあいつが決闘を俺に申し込んで来ない理由がよくわかる。
「ローレントさん!」
「ん?」
慌てて駆け寄ってくるツクヨイ達。
サイゼの店からも続々と観戦してた仲間達が出てくる。
「お前ら、良くやるぜ」
「で、結局どうなったの?」
そう尋ねるのはマルタとレイラ。
「はめられた、……あいつ」
「アッハッハッハ!! 何やってんのさローレント、結局してやられてるんじゃないか」
笑う十八豪に、返す言葉も無い。
ゲームであいつに勝てたことは一度も無い。
願わくば、このタイアップイベントが終わってからの、来週の闘技大会にて雪辱を晴らさでおくべきか。
「してやられてるっていうか、片っぽは耳千切れてるし、もう片っぽは腕折れるまでやってんだぞ……、おかしいっておい」
「マルタ、対人戦のローレントって大体こんなもんよ」
顔を歪ませて震えるマルタの肩を、レイラがぽんぽんと叩く。
それにガストンも頷いている。
「そういえば、PKプレイヤー拷問する時もえげつなかったですよね」
「ローレントさんの狩りは大体えげつないですよ?」
十六夜とツクヨイ。
リアル心の底ブラックプレイヤーと、ちんちくりんぷらっくぷれいやぁの二人だ。
名前もどことなく似ているしな。
大体、拷問することになったのも十六夜が余計な奴らを釣れてくるからで、俺が外道の称号を得たからツクヨイはテイムモンスターをゲットできたんだろうが、と言ってやりたい。
「なるほど、欠損ペナルティでは少し能力値が低下しますからね。バトルポイントラリーの上位入選者はスキルポイント等が貰えるみたいですから、厳しい戦いになりそうですか?」
「……レイラ」
「無いわよ、部位欠損治せる薬なんてまだ」
HPの減りは元に戻るが、このペナルティがややこしいところだ。
バトルポイントラリーとは、戦闘成績に応じてバトルポイントが溜まり、その数値で報酬が決まると言う物。
勝てばポイント多数。
名勝負を繰り広げればポイント多数。
引き分けでも負けでもポイントは貰える。
1ポイントだけでも持っていれば、参加者とみなされて全員にスキルポイントが3ポイント配布。
全体の10%で5ポイント。
5%で7ポイント。
1%で10ポイント。
上位三人入選で10ポイント+パッシブスキル。
ぶっちゃけかなり美味いイベントだと言える。
パッシブスキルが何なのかはわからんが、上位五人に入るには一日でもイベントを休むのは忍びないのである。
そう考えると、より一層トモガラのやらかしてくれたことが痛手になる。
人が少ない時間帯って、上位入選者とか上位陣の争いになる。
必然的に強い奴らが集まって来るので、ペナルティを抱えてどこまで出来るのだろうか。
「こうしちゃいられない」
「よくやるわぁ~」
レイラが小言をぶつけてくる。
少し拉げた手甲はガストンがこの場で補強してくれた。
もともと魚の鱗で弾性はあるから、鉄みたいに打ち直す必要は無いらしい。
指の動きを確認する、HPが満タンになったのでそれほど激痛は無い。
単純に右腕の動きが少し鈍い程度だった。
手甲の紐で確り縛り付けて固定しておけばいいだろう。
改めて装備しなおすと。
ローヴォと共に激戦区であろう町を目指す。
一応第一拠点もバトルエリア内に入っているのだが、俺らの戦いを見た後じゃ挑んで来る様な奴は居なそうだった。
「ローレント! ……町であったら敵ってことだね?」
「……ああ」
「ペナルティ抱えてたって、アタシしは容赦しないよ?」
「望むところだな」
「ろ、ローレント。上位入選したら……、ご褒美あげるわ!」
「お、おう……」
セレクのご褒美って何だろうか。
とんでもない装備かなにかを渡されるんだろうか。
それはそれで期待が高まるが、顔を赤くする意味が分からん。
「……私が勝ったらご褒美欲しい」
アルジャーノ、それは意味不。
「ああ~~!! 兄弟子なら私にもくださいぃぃ!!」
「ふふふ、なら皆さんこの場で戦いましょうか。専有権をかけて」
うは、もう知らね。
とりあえず十六夜の雰囲気がグロテスクになってきたから俺は逃げるようにテンバータウンを目指した。
目指すはイベント上位三名だな。
いや、トモガラボコボコにして優勝だろ。
身体が光るアビリティ。
【フラッシュアーマー】……目くらましの閃光を放つアーマー。敵にも味方にも閃光効果。
天使の輪っかアビリティ。
【エンジェルドミナント】……デスした場合、五秒だけ猶予時間を貰える。死亡時にデスカウントはされているので緊急用助命アビリティは使用不可能。
そこまで悪いアビリティでも無いんですが、普通に良アビリティを積んでるプレイヤーからすれば、邪道珍道の域。
プレイヤースキルで化けるとも言われてますが、実践するプレイヤーは中々居ません。
【道連れ】とかいう外道アビリティもあれば、【フラッシュバン】は道具で使用できます。
【フラッシュアーマー】よりも、【ライトアーマー】で防御上げた方が泥試合に強くなるとされています。混戦時に使用しても、ただ発光して敵味方諸共みたいになりますからね。
いずれバトルコミュニケーション・オブ・エンカウントでもちょろっとしたものを連載したいですねー。
ここまで読んで頂きありがとうございます!
皆様の、ブクマと評価が励みになっております!
感想返信できずに本当に申し訳ないです!




