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ログインすると人で溢れている。
今回はずーっと昼設定なんだそうだ。
そして予め設定された時間枠で、バトルコミュニケーション・オブ・エンカウントと同じように町中バトルの制限が解放される。
一足先に第一拠点のサイゼの店へ向い。
備え付けられたディスプレイから流れるそんな説明を聞いていた。
「いい店じゃないの」
「ローレントさんはずっとゲーム開始時から利用してるんですぅ~」
「アタシだって、こいつとはこのゲームが始まる前からフレンドだよ?」
「むっ、聞き捨てなりませんねセレクお姉様!」
「ねえ、とりあえず静かに食べれないの?」
「わぁー! 敵です敵です、ぶらっくぷれいやぁは敵が多いんですー!」
六人掛けのテーブルで、俺の対面には何故か十八豪、ツクヨイ、セレクが座っていた。
十八豪とはたまたま行きずりで出会って、飯を食うと言ったら付いて来た。
いつも奥のテーブルを使わせてもらってるので、同じように広めの席をゆったり使っていると、セレクが何故かすっと相席して来て、そこに少し遅れてやって来たツクヨイがあーだこーだ言いながら間を割って座る。
そんな状況だった。
「なにこれ、面白っ」
ミツバシとマルタのコンビがカウンターに座ってこっちを見ていた。
助けろ。と視線を送るが、首を横に振られた。
「なんであるか……、これは?」
「さあ? アタシに聞かれてもわかんないわよ」
ガストン、レイラのコンビが続けて入店。
いつのまにか、客足がほとんど居なくなっている様な……。
「……来た」
「やっはろー、なんか騒がしいわね……、って何よあれ」
「ローレントさん、今日は色男みたいだね」
アルジャーノ、エアリル、ブラウの顔見知りパーティの三人が姿を表す。
その後ろから、イシマル、ニシトモ、トモガラが来店。
三人とも笑いを堪えているのがよくわかる。
「フフフ、私はアイスティーください」
ゾワッとした。
いつのまにか隣に十六夜が居た。
「十六夜さ! やたらはやいっぺよー!」
ブリアンもどしどし来店。
っていうかいつの間に十六夜となりに座ってんだよ。
やべーよ、怖いよ。
「あー! 十六夜さんそれは指導、指導はいりますよ! 私一点追加!」
「え、なら私はペナルティキックです」
よくわからん言葉で騒ぐツクヨイに、十六夜は笑いながらよくわらかない返しをする。
もう良いや、とりあえず食べよう。
いまだ注文できていなかったので、とりあえず食に逃げることに。
「……オーク肉のていしょk」
「厨房さーん、アタシは海鮮マリネね。お代はこいつ持ち」
「あ、あたしはクッキー追加」
「私はサラダでいいです!」
「あ、セレクさんクッキー半分保ちますので私も摘んでいいですか?」
俺の注文は?
便乗するように皆注文してるけど、びた一文払わねーからな。
「あれ、アルジャーノは?」
「ん? トイレじゃないか?」
「はぁ……、ブラウあんた、本当にデリカシーないのね。タイアップイベント時間になったらとりあえずエアカッター受けなさいよね」
「いや、とりあえずでウケるもんじゃないんだけど」
苦笑いするミアンが注文の品を持ってくる。
おかわりのコーヒーとアイスティー、そして直に出せる茶菓子のクッキーだ。
とにかく、今の隙にミアンに注文をしなければ。
「俺の注もn――」
「ステーキ……」
アルジャーノいた。
右となりに十六夜が陣取っているんだが、左となりにアルジャーノいた。
……四面楚歌だ。
「えーと、ステーキ定食ですね。豚ですか? 牛ですか?」
「牛……」
「はい、かしこまりました」
ちょっと待って、行かないで!
俺まだ注文してないんだけど!
「いつだかミツバシ達と集まって飯でも食べようぜって話をしてただろ? だから今日は知り合いがこうして集まってんだよ」
流石にヤバそうだと思ったイシマルがどしどしとやって来る。
剛胆そのもの、少しだけムッとした女性六人の表情なんか気にもとめていない。
それに便乗するように、俺も席を立つ。
「そうだ、船はどうなった。アレから完成にこぎ着けたのか?」
「うんにゃ、結局買う事になったぜ」
答えたのはマルタ。
こいつもこいつで確か図々しい性格をしていたよな。
後ろからミツバシが「良く行けるぜ、あそこに」とぼやいていた。
「ニシトモにお願いして、資材一式を運んでもらった。後はイベントの合間に組み立てるだけかな。一応イベントには参加するけど、俺は第二陣プレイヤーだしお前達に追いつけそうも無いからな」
「へえ、なら推進機も買ったの? 高いのに良くやるな」
「ご心配なく、ローレントさんとマルタさんの共有財産として貴方の懐からも私の方で半分出しておきましたよ」
おいニシトモ。
俺のグロウを使ったってことか?
「まー、俺はいいって言ったんだけどな。ニシトモが共有財産にすれば問題ないってさ」
「ちょっと待てニシトモ、ちょっとまて」
「何でしょうか? ローレントさん、この間は大きな取引ありがとうございますお陰でこちらもかなりの準備が整いましたよ、お礼と言っては何ですが推進機をもう一つプレゼントしましょう」
「おお、助かる……、じゃねーよ。どうせ二つ買ったら安くなる様な交渉してたんだろ」
「正解です。でも今はパイプを太くする時期です。ローレントさんいいですか? タイアップイベントが終わってから船をもう一艘造って、筏を結び早いところクラリアスと呼ばれるボスモンスターを倒さなければ活動域も広がらないんですから」
「そうであるな」
そこにガストンも入ってくる。
「出資者というか、そこに尽力してくれた協力者には、我が輩からも武具の無償修理を請け負うのである。ここに居る生産メインプレイヤーは予々同意してくれているのであるよ」
「そうね、言わば団結式って感じよ」
レイラも頷いている。
そうか、もう準備が整いつつあるのか。
「すまん、レベル上げばっかりに拘っていた」
素直に反省するところだろう。
彼等へ、物資の提供はある程度していたが、個人的にゲームを楽しむことばかりに執着していたな。
「いいや、チームワークも大事だが、基本的に個人の力量が大きく影響する。俺とローレントは一応二次転職をすませてあるからな、チームの柱ってことだ」
トモガラが話に入って来た。
そう言えば、こいつも二次転職したってメッセージが来ていたな。
他には転職者はいないのか?
と聞いてみると。
「アタシは丁度昨日二次転職したばっかりだね」
「私は二十七レベルなんで、後少しです!」
「……まだ二十五」
「私はタイアップイベントが終わったら丁度転職できそうです」
上から十八豪、ツクヨイ、アルジャーノ、十六夜である。
この分だとレベル三十越えが四人になりそうな勢い。
セレクは「私は装備つくってあげてるもん」とクッキーを高速でポリポリ食べていた。
「っていうか、そこの女性は一体誰なの?」
レイラがそろそろこの茶番も終了ね。と言わんばかりに声を掛けた。
それに対して珍しくトモガラが答えてやる。
「ああ、別ゲーで俺とローレントと一緒にずっとやってた仲間だ。まあ今回のタイアップでもそうだけどBCoEで同じギルドだったんだ」
「へぇ……、なら十分に期待できそうな戦力なの?」
「まあソロでやって行ける勢だからな、こいつも」
「なるほど、よろしくね。私は中級薬師のレイラよ」
「水属性魔法使いの十八豪、こちらこそよろしく」
姉御肌同士、なんだかんだ気が合いそうな雰囲気だった。
「氷結女帝……」
「知ってるのか?」
アルジャーノがぼそりと呟いた言葉に反応する。
同じように反応した十八豪の凍る瞳が、じっとアルジャーノの顔を見る。
アルジャーノもその海王星みたいな瞳で見据えている。
「おまえは」
「……そう」
氷結女帝、十八豪がプルプル震える。
そしていきなりアルジャーノに抱きついたのだった。
「アドリアーノ!!」
「ああ、どうりで似てると思った」
抱き合う様子を見て、トモガラが表情を綻ばせる。
十八豪、こんなに女の子らしい表情もするんだな、と言うのが本音。
実際中身はオッサンだとしか思っていなかった。
結局のところ、BCoEで二人はフレンド登録していたらしい。
俺はギルド戦とか人数が必要な時に呼ばれていたので、この辺の絡みはわからなかった。
アルジャーノは銃持ちソロプレイヤーだと言う訳で、BCoEでもかなりの勝率を誇っていて、稀に俺がいない時にサポート要因として参加していたらしい。
その時の二つ名は【アドリアの真珠瞳】というもの。
狙った獲物は逃さないのと、名前からそれっぽいものを勝手につけられたんだそうな。
エアリルは物騒なゲームは好きじゃないそうで、アルジャーノと一緒にプレイはしていない。
「アル、今回は銃は持たないのかい?」
「ああ、私がお願いして光属性魔法を覚えてもらったから、完璧にサポート全振りみたいなものよ」
「ブイ……」
十八豪の質問に、エアリルが答える。
本人は楽しくプレイできたらいいのか、Vサインを作ってドヤ顔している。
表情には出ていないが、なんとなくそんな顔をしているように感じる。
「もともとBCoEでも銃を持った後方支援が得意だったわね、ソロでもアタシとやり合える位に強い相手だったけどさ」
あの十八豪が気さくに話す。
そんな様子、なんだかんだ溶け込んでくれて何よりだ。
「そろそろ時間ね」
「タイアップイベントの後は闘技大会である、我が輩達はボス戦の準備を進めておくが、戦闘組は出来るだけ出場して経験値を貯めてほしいである」
今回、しっかりと戦闘経験値が蓄積する。
そして死んでもペナルティが発生しないという好条件である。
格闘経験値の優遇措置がされてあって、勝っても負けても普通に狩りするよりは効率がいいという公式的見解だ。
「ブザーの後は、みんな敵ってこったな」
「よし、そういうミツバシを皆で狙おうぜ」
「やめて! そういうイシマルを狙え!」
「ミツバシ、川辺に逃げてしまえばこっちのもんよ」
「おいマルタ、お前どうせ後ろから落とす気だろ」
「ヤバイ、疑心暗鬼になりそうだ!」
ワクワクが伝わってくる。
そして、皆でテラスに集まり、ブザーを待つ。
とりあえず、テンバータウンへ入ってから俺達は町中戦スタートっていう括りになっているのだが……。
「戦いに興味ない生産職は、とりあえずサイゼの店に入っといた方がいいわね」
レイラが呟いた。
そう、ルールを律儀に守らない奴がいる。
ビーーーーー!!!
――ブザーが鳴った。
手にはヌンチャクと棍を持っておく。
ランダム転移によって偶発する開幕戦は、バトルコミュニケーション・オブ・エンカウントでは名物として成り立つんだぜ。
逃げ後れた生産職を巻き込んで。
トモガラの鉞が横ばいに来る。
……やると思ったよ。
「てめー!」
「ちくしょー!」
巻き込まれたのは俺の近くに立っていたイシマルとミツバシ。
逃げ後れたといって良いだろう。
咄嗟に伏せて、そのまま低い体制のまま前転でテラスから逃げ出す。
トモガラの頭上には、勝利ポイントと思われる数字がポップアップしては消えて行く。
砂を掴んで、「アスポート」の呪文を唱える。
トモガラの眼前に砂を転移させて追撃を封じる。
「チッ! 逃したか」
「相変わらずだな!」
鬼子の長剣で斧に渡り合うのは難しいか。
殴打武器で、ヌンチャクで刃渡りを削る作戦にする。
ローヴォ達は?
うむ、テイムモンスター達は、いやその飼い主とその他プレイヤ―達は、最初の一時間は観戦に回ったようだ。
レストランの中で俺達の戦いを見ている。
「……勝てるわけねぇですよ」
「ツクヨイ、勝とうと思っちゃダメよ? まず出会わない。それが一番大事」
「レイラお姉様……、肝に命じておきますう」
悟ったように見てんなよ。
いつのまにか二本に増えていた斧を器用に躱す。
「ブースト」「マジックアンプナート」「マジックウェポン・ナート」
既に【魔纏】は起動してある。
対人戦なら、今のスキルじゃ申し分ないくらい“戦える”。
苦手なハーレム回でした。
イベント終わったらいよいよエリアボス対策入ります。




