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 難所という難所は無かった。

 全体的にレベルが高いクエストエリアだと思う。

 最後のチェックポイントは、開けた場所にそびえ立つ大きな木だった。

 人の身体に、鳥の足と翼を持ったモンスターが群れていた。


「あれ、倒すんですか?」


「ひええ」


「いや違う。この辺一帯を管理しとる鳥人の一族じゃよ」


 スティーブンが杖の先に青い布を結びつけて振る。

 木の上でたむろしていた一羽。

 いや、この場合、鳥人だから一人かな?

 それに気付いた一人が空に飛び上がってバサバサとこちらへやってきた。


「その布は、古き同胞達の印ですね」


「うむ、見張りご苦労。族長は?」


「呼んで参ります」


 鮮やかな青色の毛並みが優雅に舞う。

 手足の先は鳥のそれであるが、中央の体つきは人間そのものだな。

 モンスターかと思った第一印象とは打って変わって。

 見張りと呼ばれていた鳥人には柔和なイメージを抱いた。


 おっぱいもデカいし。

 鳥だから胸筋鍛え上げられてんだ。

 うむ、垂れない良い乳。


「で、でかい……」


 隣でツクヨイが狼狽えている。

 それは身長か、胸か?

 どっちでもいいや。


「一般的には、ハルピニアと呼ばれておる。遠い昔に、存在していた鳥人の国から取られとるんじゃ」


「ハルピニア人ってことですね! わぁ、その末裔ってことですか? なんだか良いですね! 歴史を感じます!」


 さっきの見張りと共に、一際色鮮やかなハルピニアが姿を表す。

 サイズがデカいな、何もかも。

 族長だろうか。


「スティーブン、久方ぶりだ」


「うむ、元気にしとったか」


「私達の巣は問題ない。ただ、一部の森が少しおかしいのだ」


「わしも定期的に見回っとるが、魔物が大量発生しとる箇所があるのう」


「感謝する、若い者達はその森の調査に係っきりになっていてな」


「いいんじゃよ、古の盟約に従っとるだけじゃ」


 横から話を聞いているだけじゃ理解できなかった。

 ハルピニア達はこの森を管理しているのだろうか。

 そして手が足らなくなる程の何かが起きて、スティーブンが駆り出された。

 そんな所かな?


「あの、私も何か手伝えることがあれば!」


 ツクヨイが手を挙げて進言する。

 巨大な鳥人間の視線が、そんなツクヨイに向く。

 身長差は二倍近くありそうだった。


「そう言えば、この物達は?」


 射抜いた瞳にツクヨイの身体がビクッと揺れる。


「わしの弟子じゃ、そう脅かすな」


「そうか」


 スティーブンが間に入ってツクヨイの頭を撫でてやっていた。

 怖さと優しさで涙目になるツクヨイ。

 マジでちんちくりん成分増量中だな。


 バサッと風切羽ねか何かがはためく音がして、ハルピニアの族長はツクヨイの前にしゃがみ込んだ。

 そして翼の先に付いた人間の物と良く似た五本の指があるふさふさした手でスティーブンの真似をして頭を撫でてやる。


「驚かしてすまなかった。……だが、何も心配しなくてい。我々の問題は出来る限り我々で片を付けなければならない。スティーブンについて、ここへやって来たのか?」


「は、はい!」


 元気の良い返事をもらったハルピニアの族長は、打って変わったように美しく凛々しい顔を綻ばせた。


「ありがとう」


 それだけ言って見張りの女性と空へ飛び上がる。

 同時に、空から一際大きな羽が二つ程、俺とツクヨイの元に落ちて来た。

 ヒラヒラ舞いながら手に吸い込まれるように。



[称号“ハルピニアの盟友”を獲得しました]



「私からの個人的な贈り物だ。そこの耄碌の弟子ならば、我々との盟友でもある。好きに使え」


 良く通る済んだ声が、遥か上空から聞こえて来た。

 それを聞いたスティーブンがぼやく。


「なんじゃ、わしには無いのか」


「師匠ならば悠然と構えておけ。今回の報酬はあの“若作り”に送り届けておく」


 ふむ、と呟いて髭をひと撫で。

 スティーブンは踵を返して元来た道を帰るようだ。

 ことの詳細に付いては余り語るつもりは無いようだな。


「あ、あの! 私! 感動しました!」


 両手をギュッと握りしめ声を震わせるツクヨイ。

 こうして見ると、ぶらっくぷれいやぁとやらの要素が一つも見つからないよな。


「大きな女性になります! あんな風にそれも飛んでみたいし!」


「え、ああ、がんばれよ?」


 よくわからん宣言と共にやる気になるツクヨイ。

 俺からは牛乳を沢山飲めとしか……。

 後はエリック神父の居る教会で必至にお祈りでもしてろとしか……。

 まあ、願うくらいなら俺でも出来るし。

 彼女が大きな女性になれますように。



 帰り道はテレポートで何とかしろよ。

 と愚痴でも吐きたくなるが、これも修行なので飲み込んでおく。

 再び森の魔物と連戦につぐ連戦で、ツクヨイは再びバテバテとなってしまっていた。

 そんな帰り道のクエストエリアで、一つの発見をする。


「竹だ……」


「武田? 友達ですか?」


「黙ってて」


「ふええ、怒られました」


 かなり山奥まで、南の森から踏破して来たが……。

 今まで欠片すらみたことが無かった竹林が、目の前に広がっているのだった。

 何本か伐り出しておきたい所。

 斧なんて持って無い。


「ブースト! スラッシュ!」


 仕方が無いので大剣を思いっきりぶつけてみた。



【竹】素材

軽くて丈夫、白と黒の魔物を呼び寄せる。



 やや割れてしまったが伐り出すことに成功する。


「なんじゃ? これがほしいのか?」


「ええ」


「確かに軽く、丈夫じゃが、中身はスカスカじゃぞ? それにこいつを食べる魔物が少々厄介での」


「パンダですか? 会いたいですパンダ!」


「なんじゃ、知っとるのか。というか何を興奮しとるんじゃ……?」


 喜びを表現するように飛び跳ねるツクヨイ。

 インナー見えてるぞ、黒いの。

 まるで孫の変わり様に驚くジジイのようにスティーブンが言う。


「パンダは、光と闇の魔法を使う厄介な魔物なんじゃぞ?」


「パンダはモンスターではありません! 愛玩動物です! 生物進化の過程でもそれが定説だとされて来ましたよ!! むふふ、パンダ、パンダパンダパンダパンダ」


 ……こええ。

 目が蘭々に輝いている。

 俺もスティーブンもドン引きする程にだ。


 はっきり言っておこう。

 パンダは、れっきとした熊だ。

 猛獣の類いだぞ。


「ここに住むバットパンダは、人のあじを知っとる。過度な期待はせんことじゃな……」


 付き合いきれないと、スティーブンは溜息をついたのだった。

 そう、人のあじを知ったジャイアントパンダにであったことがある。

 羆にペンキでも塗ったんじゃないかってくらいの体格で、笹しかない森の中でひたすら人に飢えていた。

 北の森のエリアボスであるスターブグリズリーみたいにな。

 愛玩動物は侮れない。

 こっちがオモチャにされかねないぞ。


「がうがう?」


 ローヴォが俺の袖を引く。

 最初にあった、森へ入る時と同じ反応だ。

 何かを訴えている。

 だが、視線は感じないよな。


「うおおお、パンダちゃん出ておいで!! 笹ですよ~笹~!」


 馬鹿ツクヨイの子守りをするスティーブンも、何の違和感も感じてなさそうだった。

 それでも袖を引くローヴォが気にかかる。

 野生動物の勘という奴だろうか。

 すっかり野生動物ではなくペットと化した駄犬であるが、今一度その本能を信じてみよう。


「おい、あんまり動かない方が……」


「――キャアアアアア!!!!!」


 甲高い悲鳴が聞こえた。

 どこか黄色い悲鳴だが、ツクヨイの元へ走る。


「きゃわいいきゃわいい! おいで~笹ですよ~! 美味しいですよ~!」


 パンダがいた。

 そしてさらに子連れの母親みたいだった。

 小さな子パンダが三頭、戯れ合っている。

 そんな状況で、ツクヨイは手に笹を持って近付いて行く。


「いかんな」


 スティーブンが杖を握りなおす。

 ……ごもっともだ。

 流石に、子連れの熊に不用意に向かって行くバカがいるかよ。


「ツクヨイ! ストップ! 止まれ!」


「きゃわいいきゃわいいでへへえへへへうひひひひ~」


 頭湧いてんのか!!!

 そう思って鑑定してみた。



【ツクヨイ】闇属性魔法使い:Lv26

・下級錬金術師

・状態異常中【魅了】



 頭湧いてるみたいだった。

 罠だな、これは。


「兄弟子なら何とかして来い。子持ちのパンダは相手を魅了し近寄らせて生きたまま貪る。家族でな」


「ああもう!」


 スティーブンも丸投げだった。

 転移はしてやるぞい、と一言。

 ちょっと待てと言う暇もなく俺はツクヨイとパンダの目の前に強制移動させられる。


 嘘でしょ。

 丁度母親パンダが口から涎を撒き散らしながら豪腕を振りかざした所だった。


「くっ!!」


 ツクヨイを抱きかかえて横飛びする。

 頭と首をカッチリ抑えてあるので、大ダメージは無いだろう。

 俺の身体をクッション代わりにと思った。

 ダメージを負っても背に腹は代えられないからな。


 走って追いついたローヴォが俺の背中を少し押して、運良く藪のクッションへと突っ込むことになる。

 落下先を見てみると、尖った竹があるじゃないか。

 危ない所だった、ナイスローヴォ。


「……あの」


 ツクヨイの真っ赤になった顔面が、五センチ先にあった。


「こ、これは一体全体どういうこと……、ですか? 何が何だか」


「パンダの魅了に取り憑かれて捕食されそうになってたんだよ」


「いや、そうじゃなくてその……、み、密着して」


「すまん、ついつい首を決めてしまっていたか?」


 湯気が出そうな程に顔が真っ赤になってきたので、急いでツクヨイを話す。

 そして後転しながら起き上がって藪から抜け出した。


「あ……、やっぱりかなり逞しい身体つきですぅ……」


「熊のことか!? とりあえずこっち来てるからどっかいけ! 危ない!」


「ひどい!」


 ひどいって言う問題じゃないんだけどな……。

 獲物を逃さんと、パンダは唸りを上げてこちらへ猛然と向かって来ている状況で、暢気にお喋りしている場合ではない。



【バッドパンダママ】Lv6

子連れのパンダは凶暴だ。

光と闇の魔法で姿を消し、そして魅了を使って人を操る。

下等種であるが、彼等の特殊魔法をレジストできないと必ず餌食になるだろう。



 子供の鑑定は割愛。

 さて、戦いに入る前にやっておくことがある。

 ヘイトが俺ではなくツクヨイに向いている様だった。

 一度自分の獲物と認識した物を追う習性があるのか?


 俺が無視されると言う状況は如何せん頂けなかった。

 鬼子の長剣を抜き、そして片手で銛を持つ。

 何をするかって?

 子殺しだけど?


「ピイイイイイイイ!!」


 一投の元に一頭を殺す。

 断末魔の鳴き声が響く。

 そして二投目に入って、親パンダのヘイトがこちらへ向いたようだ。


「グルアアア!!!!」


 残念ながら遅い。

 黒毛で覆われてる目元は的だな。


「キアアアアアア!!」


「やめてえええええ!!!」


 心無しか、親パンダの鳴き声が悲痛な感じになった様な……。

 あと、何故かツクヨイも叫んでいる様だった。


「恐ろしい奴じゃな……」


「ひどい! ひどいです! 見損ないました!!」


「キアアッ! ァァッ!! クアアァァ……」


 親パンダは、息絶えた子供達の元へ。

 血を止めようとペロペロと舐め続ける。

 まあ、人を襲った末路だ。

 俺は何も悪くない。


 もう、敵意は無いようだ。

 モンスターの戦意喪失するのか?

 そんなことを思いながら、すっかり小さくなったように感じる親パンダの首に鬼子の長剣を振り下ろす。

 うむ、この長剣の礎となれ。



[プレイヤーのレベルが上がりました]

[称号“外道”を獲得しました]



 何故かレベルが上がった。

 そして意味不明な称号を手に入れた。


「こんな形でレベル上がりたくなかったです……」


 あれ、称号は得てないのな?

 俺だけ?


 とりあえず、泣くくらいなら素材は要らないよな?

 俺が全部貰っちゃっていいよな?

 はい、子パンダの分も余すことなく貰ってやったぜ。



なろうサーバーの調子が悪いのか、アクセスできませんでした。


あと、30レベルからスキルポイントが3ポイント入るのを忘れていました。

覚えている箇所だけ修正しておきます。




次からいよいよタイアップイベントに突入しそうです。

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