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 そうして次に向かった先は、無駄に切り株がうようよ居る場所だった。

 樵夫の木を伐った後の切り株が魔物化したものだ。

 と、スティーブンは豪語していた。

 名前は【ルートオブイビル】と言う。


 禍根ですか。

 そうですか。

 どう考えても、スタンプ系の亜種なんだけど。

 鋭い木の根で攻撃してくる以外、変わった物は無かった。

 ドロップ品は恨みの木片。

 呪われているのだ。


 スティーブンは一際大きな木を叩いて。


「ふむ、この辺はまだ大丈夫じゃの」


 それだけ言って次へ向かうのだった。

 あっさりしているが、実際に戦っていた俺達はとんでもない疲労感に襲われている。

 流石に連戦に次ぐ連戦。

 俺も少しずつ消耗しているし、完全にインドア派のツクヨイはぐったりしている。


「げ、ゲームでこんなにつかれるなんて……」


 連続ログイン時間が長いせいなのかもしれない。

 彼女に、一度ログアウトするか尋ねてみる。


「いえ、まだやります。さっきもすぐレベル上がっていたので、大変ですけど」


 やる気は十分のようだ。

 それでこそ弟弟子と言うものだ。

 この場合、妹弟子かな?


 切り株地帯を抜けると、ちょっとした沼地へと出た。

 青々としていた景色が、急に褐色へと移り変わる。


「あまり外れるな」


 道を、ということかな。

 落ち葉が地面を隠し、ぬかるんでいることも相俟って、沼との違いがわかり辛くなっている。

 ぐにぐにとした感触の地面。

 もし踏み外して沼を踏んでしまえば、底無し沼一直線だろうな。


「これは、歩き辛いですね」


「ブースト、取っておくと便利だよ」


 【ブースト】以外にも、【魔纏】のお陰で身体補正は高い。

 それに元々ゲーム内でも道場へ通っていた。

 レベルアップと共に上がる裏ステータスとやらは、多分並みの魔法使いより身体能力値は高いだろう。


「レベルはどれだけ上がったんじゃ?」


「二つ上がりました。過去類を見ないスピードです!」


「ほう、なら一番最初よりも格段に動きやすくはなっとるじゃろう」


「え? そういえば確かに、……疲れてない」


 いいや、お前疲れてただろ。

 重石も何も背負ってない状況で、ただレベル上がっただけで身体が軽くなるとか。

 流石にゲームでも無い。

 無いったら無いだろ。


「身体が! かるぅい! ひゃっほーです!」


 そう言って飛び跳ねたツクヨイ。

 最早何も言うまい。

 言うだけ無駄だろうと感じるのだ。


「おい師匠」


「言うだけはただじゃ、結果オーライじゃろう」


 よくわからないテンションではしゃぐツクヨイを見て。

 愉快そうにパイプをふかすスティーブン。

 あんたがそれでいいなら、それでいいけどさ、もう。

 やや空気がまどろんだ、そんな状況でローヴォが声を上げた。


「グルルルル!!!!」


「近くに魔物の気配!」


「うむ」


「は、はい!」


 武器を手にもち警戒態勢を取る。


「キャア!!」


 襲撃は下からだった。

 ドロドロとした手がツクヨイの踝を掴み、落ち葉が積もった泥濘の中へ引き摺り込もうとする。


 スティーブンは!?

 転移で距離を取ると、杖をついてただ見ているだけだった。

 自分らで処理しろってことかよ。


「つかまれ!」


「はい!」


 得物は、ヌンチャクと鬼子の長剣だ。

 三節棍はアイテムボックスに入れてある。

 とりあえず長いものと言えば、漁師装備として背負っている銛だな。

 逆に持ち直して、持ち手の方をツクヨイに向ける。


「ぐうっ」


「大丈夫ですか!?」


 引き摺り込む力が予想以上に強かった。

 そして長めに持ったのが仇になった。

 手の中を滑って、切っ先の返し部分が手のひらに食込んだ。


「さっさとダークサークルを使え!」


「ひゃ! ひゃい!!」


「そんなに怒らんでも良かろう」


 別に怒ってないんだけどな。

 座標は腰まで土に埋もれていても、ツクヨイの【ダークサークル】は地上に広がる。

 異界の門から出て来たちんちくりんサキュバス見たいな感じになった。

 ついでに【ダークボール】も限界数出現。

 泥濘に潜むモンスターに向けて、闇雲に攻撃を加えて行く。


「ダークサークルの感知でわかります、下にモンスターが潜んでいるんじゃなくて、この泥濘自体がモンスターみたいです!」


 ツクヨイの声を聞いて、スティーブンの方を見てみる。

 しわしわの口で口笛ふいてやがる。

 知ってて言わなかったなスティーブン!

 あと口笛から音出てないぞ、出来ないならするなよ。



【マドマイア】Lv2

最下級魔人に名を連ねる泥沼の魔物。

作り出した泥沼に引き摺り込み、獲物を魔素として分解する。

魔人となる未来を夢見て。種族値不明。



 ポエムってんじゃねーよ運営。

 種族値不明って何だよ。


「クラスチェンジの回数で言えば、お主のテイムモンスターと同じくらいじゃよ」


 スティーブンから補足が入る。

 レベルで言うと、二十七ってことかな。

 二つレベルを上げたツクヨイは二十五レベル。

 少し厳しいかな。


「エナジーショック!」


 彼女の支援の為に、地面にぶつけてみた。

 邪魔な落ち葉がばさっと舞い上がる。

 枯れ葉の絨毯の下では、彼女の下半身に絡み付く泥が蠢いていた。


「出れるか!?」


「ダメです! 動けません! ……あ、ちょっと離れていてください、やってみます」


 言われるがままに、その場を飛び退く。

 グループを組んだ時に見えるHP表示を確認すると。

 【ダークサークル】内で吸収循環が機能しているのか、対して減っていなかった。


「できれば、回復のスクロールだけでもお願いします!」


 それも言われるがままだ。

 手にダメージを負っているし、このままマドマイアと継続戦闘になりそうなので使っておいて損は無いだろう。


「ダークバースト!」


 吸収して大きくなった【ブラックスタッド】全てが、ツクヨイの後ろで爆発した。


「わきゃー!!!」


「おわー!」


 色んな物を巻き上げて弾け飛んだ泥濘。

 杖を抱えたツクヨイが涙を目に溜めながら必至な顔で助けを求めてくる。

 無論、助けないことは無かったが、吹っ飛んだ先が俺だったので、ただただ着地のクッションにされてしまっただけだった。


「いたた……、ご、ごめんなさい! こんなに吹っ飛ぶなんて思ってなかったんですぅ!!」


「いいよ、もう」


 衝撃ですり減ったHPは回復のスクロールによって戻って行く。


「無茶をするのう……、若さとは良い物じゃ」


 のほほんとする髭白髪は黙ってろ。

 と、声高らかに言ってやりたい気持ちです。

 マドマイアはどうなった?


「ま、まだ蠢いてます!」


「あれを食らってもまだ生きてるのか」


「魔人の亜種で最下級とは言え、魔人は魔人じゃ」


「はわわ、もうおしまいですぅ」


「冗談言ってないで倒すぞ!」


 補助スキルを身に纏い、駆け抜ける。

 山中の泥濘地帯は、かなり足を取られる。

 砂浜を走るように、とんでもない負荷はかからない。

 山中を走ることは無いからな。

 だが、杖をつきながら歩いたとしても、いつのまにか身体に負荷が蓄積して行く。

 それが山だ。

 道も平じゃないし、小さな段差が数千、数万にも渡ってあるわけだからな。


 その際、無足という足運びが重要になる。

 転んで寄りかかる様なイメージ。

 自然な重みで身体を加速させる。


「ほう……、この泥濘を、その速さで」


「あ、足跡がほとんどないです」


 まあ、地面を蹴る反発で動いてないからな。

 相手のHPは残り一割を切っている。

 徐々に回復しつつある状況だ。

 バラバラになった状態から、中心に寄せ集まって行くように行動するマドマイア。


 鬼子の長剣で一刀両断した。

 ついでに消し飛ばしてやる。


「エナジーショック!」


 両断の後、――ゴパッ!

 塊を作っていたマドマイアは左右へ弾け飛び。

 そのままHPも全損。



[プレイヤーのレベルが上がりました]

[テイムモンスター:ローヴォのレベルが上がりました]

[スキルポイントを振ってください]


プレイヤーネーム:ローレント

職業:中級無属性魔法使いLv32

信用度:85

残存スキルポイント:6

生産スキルポイント:0


◇スキルツリー

【アスポート】

・精度Lv2/30

・距離Lv3/30

・重量Lv3/30

・詠唱Lv1/1




「どうやらここは、こいつだけだったようじゃの。魔素溜まりも解消されとるし、元々奴が吸収し尽くしとったみたいじゃから、しばらく魔物は出現しないじゃろうな」


 手頃な石に座りながらスティーブンがパイプをふかす。

 俺もレベルが上がり、ツクヨイもレベルが二十六に上がったので、一度休憩といった運びである。

 今のうちにスキルポイントを振っておこうかと思う。


 ……【アスポート】に振るべきだよな。

 レベル三十一に上がった時のスキルポイントを振り忘れていたため残存スキルポイントは六だ。


 いやでも……。

 ぶっちゃけると他にも振るべきだよな、と考える。

 ほら【エナジーショック】とか一番振らないとアカン奴じゃん。

 それでも下手に変なのに振ってて【アスポート】の成長が遅れると目も当てれない。


 したいしたい!

 テレポでシュンシュンしたい!


 小さい頃、秘奥義的な物を教えてもらった時。

 幼い俺はこんな感じで駄々捏ねていたそうだ。

 色々考えた上で、まだ取っておくことにする。


 実際【アスポート】の出番が余り無い。

 引き寄せ、送り出し。

 魅力的とは言い難いスキルだ。

 そして期待すべき汎用性は……、手が届かない所に物がおける。

 しかも精度が悪い。

 今の所そんな感じだ。


 うん、取っておいた方が良いな。

 そうしようそうしよう。



◇テイムモンスター

テイムネーム:ローヴォ

【ラッキーウルフ】幸運狼:Lv4

グレイウルフと同じ性質を持つ。

その瞳は幸運の翡翠が宿り、淡く輝いている。

[グレイウルフの基本スキル]

[幸運の瞳]

テイムモンスター装備

【合わせ翅と翡翠の首輪】

※躾けるには【調教】スキルが必要。



 ローヴォも代わり映えしない。

 まあ、身体能力値とかは確実に上がってるだろうね?

 そうじゃなかったら、なんでレベルがあんのよ。

 って感じだからね。


「ローレントさん」


「ん?」


「前から気になってたんですけど、リアルでも何かスポーツやってるんですか?」


「……スポーツはやってないなあ」


 暇を持て余して、何故か形と色の良い落ち葉を集め始めたツクヨイが唐突に語りかけてきた。

 グラデーションがやや惜しい。

 自分の拾った落ち葉を見比べながら言葉を返すのである。


「ええ、じゃあ何を?」


「祖父母の家が道場でね、俺もトモガラも学校なんてほったらかしで色んな所へ連れて行かれて、放置されてた」


「……まったく理解できませぇん」


 詰まる所、大自然で生き抜く力を培ったのである。

 えっと、何だっけな。

 なんか辛過ぎてあんまり覚えてない気がしてきた。

 こう、思い出そうとすれば思い出そうとする程……。


 ――ぼんやりとしてるが地獄の日々」


「も、もういいです! 言葉漏れてます! 地獄ってなんですかあ!」


「いやあ、身体に染みた武術は覚えているが、なんかいまいちそれ以外が思い出せないんだ。……あれ、涙が出て来てこんにちわ、穴熊倒してそこで暖を取れっておじいちゃんが」


「はわわわわ!!!」


「……冗談だよ」


 本気で焦り始めたツクヨイの頭を笑いながら撫でてやる。

 俺が座ったくらいが撫でやすい、ちんちくりん。


「ば、バカにしないでくださいぃ! ぶらっくぷれいやぁとして看過できませんよ!!」


「すまんすまん」


「何をやっとるんじゃ……、そろそろ行くぞ」


 スティーブンが石から立ち上がり、腰を叩きながらこちらへ歩いてくる。

 チェックポイントは残す所一つだけだそうだ。




主人公の過去が、少しずつ……。

さて、皆さん。

鳥頭鳥頭と散々主人公のことをバカにして来ましたが。

実際にそうなんです。笑





絡ませてほしい女の子キャラまだまだ募集中。

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