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カニのモンスターで溢れかえった沢のフィールドを何とか沈静化させた俺達は、次の標的へ向かう。
ツクヨイは今のでレベルが上がっているようで、最初とは打って変わってほくほくとした表情をしている。
……現金なやつだ。
溜息が出る。
他のチェックポイントも同じようにモンスターの大群だ。
沢の次は、脱毛症の如くぽっかり広がった薬草の群生地。
ついでに採取しておくかと思ったが、スティーブンに肩を止められた。
「よく見てみるんじゃ」
「む」
目を凝らし、耳を凝らすとキチキチ音がした。
スティーブンが指先に【エナジーボール】を作り出して群生地の中心にとばす。
弾ける音と共に、大小様々なカマキリが飛び出して来た。
「ハキャアアア!!! ッパア!!!」
色気の無い声と共に、ツクヨイが飛び上がった。
それを尻目に、スティーブンが横目で眼球だけ動かして「な」と伝えてくる。
な、じゃねーよ。
ともかく、鑑定だ。
【ドラッグマンティスベビー】Lv1
薬草漬けになったカマキリの赤ちゃん。
小さいが、カマの切れ味には注意。
【ドラッグマンティス】Lv6
回復ポーションをその身に宿す、狂ったカマキリ。
下等種族であるが、厄介な回復力と毒性を持つ。
【ラージドラッグマンティス】Lv5
高濃度のポーションをその身に宿す、狂ったオオカマキリ。
厄介な回復力と毒性を持つ。
副作用か、身体が大きく変容している。
下等のマンティス種とは少し違う系譜。
流石に俺もこれはきもいと思う。
複眼が紫色に光ってこちらを見ている。
俺達を敵性だと判断されたのだろうが、自分らの楽園を守る為に一挙としてこちらへ襲いかかってきた。
パニックを起こすツクヨイの肩をつかんで大きく揺さぶる。
「ひぇええ!! はう! はうっ! ……はれほれぇ、あれ、今川の向こうにおじいちゃんとおばあちゃんが……」
「耄碌ジジイならここにいるぞ。目を覚ませ」
「誰が耄碌じゃ」
気を取り直して、戦うとしよう。
ツクヨイは相変わらず固定砲台というか、砲台ではないが罠みたいな戦法をとらせておく。
わらわらと群がる小カマキリと中型のカマキリは任せて。
俺は一回り大きなラージドラッグマンティスを狙いに行く。
あれはツクヨイじゃ難しそうだ。
バトルコミュニケーション・オブ・エンカウントでも、専ら遊撃だった。
いや、全員遊撃だったな。
マジ終わってるチームだったけど、面白かったよね。
薬草の群生地、カマキリを踏みつぶし駆け抜けながら思った。
もう戦いの記憶しかない。
ジジイと修行に行った思い出とか、トモガラと修行した思い出とか。
あれ、マジで戦いの思いでしかねーし。
俺、高校時代とかあったっけな……。
……あれ?
「前を見ろ」
「ほぐっ!」
真横に転移してきたスティーブンにローブの後襟を掴まれて、気道が絞められ息が詰まった。
言葉と共に、オオカマキリの鋭利な刃が俺の顔面スレスレを舞う。
間一髪だった、スティーブンがいなければ切り裂かれていただろう。
戦いの最中、余計なことを考える俺が悪いのだ。
「すいません」
「……考え事か? お主にしては珍しいのう。笑って相手を破壊するお主が」
俺を何だと思っているのだろうか。
思考は切り替える物だろう、戦うときは死ぬ気で戦って。
戦い終わってから、倒した相手を弔うもんだ。
さて、気を引き締めよう。
得物を持ち替える。
鬼子の長剣が、血を欲しているのだ。
【鬼子の長剣】製作者:???
オーガの系譜に至る魔物の剣。
子鬼であるが、その攻撃力はまさに鬼。
使い手の意志によって下級魔剣へと至る。
・攻撃:27
・耐久Lv5
・耐久98/100
・成長62/100
順当に成長している。
耐久値はガストンに打ち直してもらって復活している。
そのせいで、成長の数値が少しだけ落ちてしまったのだが、狩りをしているうちに戻った。
耐久レベル5という鬼の様な耐久。
これ、沢ガニとの戦いでも使って良かったんじゃない?
そんなことを考える。
鎌を刃でウケる。
何故か金属が打つかる音がするのだった。
相手は双剣使いと言っても過言ではない。
出来るだけ次の刃が来ないように立ち回る。
「ブースト」「マジックウェポン・ナート!」「マジックアンプ・ナート」
スキルを掛けなおす。
主要スキルである【魔纏】は、無詠唱可能なので既に起動させている。
全身に魔力を纏うイメージ。
もちろん剣にも張り巡らせる。
それに加えてマジックウェポンで攻撃力は増しているだろう。
早い所【ハイブースト】を覚えたい所なのだよ。
それに変わるスキルがあれば良いのだけど。
ちなみに【魔纏】で身体能力が上がることは無い。
地味に道場五段スキル【闘気】が、身体能力というかその辺も格段に上がっていた。
なので五段を取る際に、魔闘スキルで似た様な物が来てくれたらと思う。
素早い鎌の連撃にもこれで対応できるようになった。
所々切り裂いて行くんだが、傷口から汁が滲み出て塞がって行く。
埒があかないな……。
「エナジーショック!」
つば迫り合いになりながら、剣先で【エナジーショック】を発動する。
衝撃が鎌を弾く。
その隙に足を一つ切断する。
「ローヴォ!」
一対一の時はすっかり大人しくしているローヴォを呼び、バランスを崩したオオカマキリの足に食らい付いて行く。
片方の鎌がローヴォを狙う。
翡翠色の目が輝いた。
オオカマキリはバランスを崩して、ローヴォを狙う鎌は空を切る。
ナイスローヴォ。
高い位置にあった顔が下がった。
チャンスだな。
エナジーショックで受けた鎌を大きく弾くと跳躍。
「エエエエイ!!!」
振り下ろす。
大きな首がぼとりと落ちた。
いつも使っているポーションよりも臭みが激しい液体が噴き出す。
血液が高濃度ポーションなんだな。
剣に付いた液体を振り払うと、鞘に納める。
「あんまり噛むなよ、毒かもしれない」
頭を失ってもキチキチ動くオオカマキリ。
下っ腹に噛み付いたままだったローヴォに下がるように言う。
「おわったかの?」
声がした方向を振り返ると。
殲滅したカマキリの死骸で溢れていた。
スティーブンはツクヨイのサポートをしていたようで、息を付いて座り込むツクヨイに手を貸していた。
強敵相手に、そこそこ消耗した。
まだチェックポイント二つ目なんだが……、保つのだろうか。
「よし、ここはもう良いかのう……。次じゃ」
「ロ、ローレントさん……、わたし……」
よせ、みなまで言うな。
俺は溜息を付いて首を振る。
肩を落とすツクヨイの頭を撫でて、スティーブンに続いて歩き出す。
「もっと、もっとなでなでしてください。回復足りないです」
「はぁ?」
「あ……」
手当ては確かに手を当てるだけで効果があると言う話を聞いたことがある。
だが今はそんなことしてるよりもさっさとチェックポイント回った方が良いだろう。
久々の強敵相手に少し高揚した。
一から強くなる実感が湧いて来て、おらワクワクして来たぞ。
「薬草の採取は良いんですか?」
さっさと歩くスティーブンに尋ねてみた。
「まあここはいわゆる魔力スポットと呼ばれる場所じゃ。誰かがこうして見回りに来ないと、無限に魔物が積み続ける。厳密に言えばこれは薬草ではない。魔薬草と呼ばれる、今のお前達からすれば毒草の類いじゃ」
要するに、取るだけ無駄だと言うことだった。
スティーブンが言うには、扱うには今の俺達では無理だろうとのこと。
いずれこのエリアも特殊な状況以外で採取に来れるようになるのかもしれないな。
このまま開拓を進めて行けばきっと。
採取は禁止にされているが、ドロップアイテムは貰える。
カマキリからは鎌が取れた。
それだけである。
ちくしょうめ!!!!
後書きは後で追加します。
積極的に出してほしいキャラ居たら感想もしくは活動報告のコメントにお願いします。
出来るだけ頑張ります。




