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 朽ち果てた小屋は荒らされていた。

 大型の獣が食べ物を荒らしたかのように、備え付けの机、椅子、棚はバキバキになっていた。

 どうしてそれでドアと窓が無事なんだ。

 フラストレーションを発散した獣が律儀にドアを開けて外に出て行ったとでも言うのか。

 まあ、恐らくそう言う設定の場所だろう。

 そんなゲーム内でロマンの欠片も無いことを思いながら、糞爺の話に耳を傾けるのである。


「元は南の森の山小屋なんじゃが……」


 と、スティーブンは語る。


 元々人の生活域だった南の森。

 だが天災と呼ばれるモンスターの襲来によって人々は生息域を追われてしまった。

 そして今のテンバータウンが築かれたと言う。

 開拓村から町へ、そして資源が豊潤な都市として栄えていた過去を持つテンバータウン。

 川も荒れ、農地も荒れ、魔物を孕む森は徐々に町に近づいて来ていた。

 そんなテンバーも、現在プレイヤー達の手によって、再び息を吹き返している所なんだと。


「その天災と呼ばれる魔物の事を、わしらはレイドクラスと呼んでおる。テンバーでイベントが行われるからのう、依頼されてちょくちょく魔物の調査を行っておったんじゃが、思った通りじゃった」


 俺が特殊なバトルゴリラと戦った話を聞いて、町長であるエドワルドに相談した結果。

 スティーブンは近隣の調査を請け負っていた。

 そして、レイドクラス再来の兆候を発見したと言う。


「レイドボスって事なんですかね?」


「……わからん」


 こそっとツクヨイが耳打ちしてくるが、芳しい答えを返すことが出来ないでいた。

 俺のゲーム知識なんぞ、トモガラの受け売りでしかないのだ。


「聞いた私がバカでしたぁ~」


「……決闘を」


「嘘ですすいませんごめんなさあい!!!」


「……聞いとるんか?」


 俺らの様子を見て溜息を付いたスティーブンは、壊れかけの山小屋で、辛うじて荒らされてない宝箱の鍵を開けて、中からスイッチがつけられた正方形の箱を取り出した。

 辛うじて荒らされてないと言っても箱は傷だらけのようだ。


「そのスイッチは?」


「これは元々ホームモニュメントとしてここにあった物をエドワルドが改造した物じゃな」


 それにツクヨイが反応する。


「え、エド師匠はそんなことまでできるんです?」


「元々錬金術の範疇だそうじゃ、お主もいずれできるやもしれんぞ?」


「わぁ!」


 ツクヨイ、にんまり。

 それを微笑ましく見つめるスティーブン。


「行きましょうよ」


「そうじゃったな、魔物の調査と共に、間引きも兼ねておる。お主らの実力を見せてもらおうかの」


「はい!」


 ツクヨイの元気の良い返事と共に、山小屋を後にした。

 俺は山小屋を荒らした犯人である魔物の正体が少し気になる所だ。

 爪痕からして、熊なのだろうか?

 それとも他の何かか?


 何にせよ森の調査だ。

 いずれ出会えるだろう。


「ん? どうしたローヴォ」


 袖口をくいくいと引っ張るローヴォ。

 顔を撫でながら尋ねてみる。


「がぁう……?」


 山小屋から出て真っ正面の森の奥を見つめながら。

 ローヴォは何かを訴えている様だった。


「何か居るのか?」


「がぁう?」


 うーんなんか居るかも。

 そんなニュアンスが感じ取れる鳴き声だった。

 どちらにせよ、低く唸ることが無いということは、差し迫った脅威ではない。

 そう躾けてあるので、気に留める必要も無さそうな。

 一応銛を投げておこうか?


「これ、何しとる、さっさといくぞ」


「あ、はい」


 スティーブンに促されて、銛を投げる前にそのまま山小屋からぐるっと時計回りに森を巡回して行くそうだ。

 昔樵夫をしていた物がつけた印があるらしい。

 スタンプラリーのチェックポイントのようだ。

 この依頼は魔物を調べつつ、そのチェックポイントを一周回って来ると言う物。


 モンスターは?

 初めにエンカウントしたのはカニでした。



【グレートフレッシュ】Lv5

近場の沢に潜むフレッシュシザーの上位種。

種族値は下等。それでもハサミには注意。



 そう言えば、いつだかアップデートがあったらしい。

 例によって、俺はインフォメーションメッセージはスルーしていたみたいだった。

 これもトモガラとツクヨイ辺りが知らせてくれた。

 種族値ってなんすか、レトロゲーの大名詞、ポケ○ンすか。

 いや、未だセールし続けるポ○モン。

 実は仮想フィールドダイブ型のVRゲーとなるべく、RIO社と提携を結ぶ話も昔上がっていたみたいだが、そんな中でも山ごもりとか普通に行っていた化石人間である俺にはよくわからない話だ。


「種族値って結局なんだっけ?」


 ツクヨイに尋ねてみると。


「確か、劣等、下等、上等など。モンスターによっては進化の系譜が変わって来たり、成長する度合いが違って来たりするみたいですよ」


 つまるところ、未だ二つの町を拠点に活動している俺達には関係のない話だった。

 と、言う所だろうか?


 未だ何のパターンもわからんモンスターに、マップに、クエスト。

 まあ面白みがあるし、その方が自由度が高いと言えばそうだな。

 攻略法が決まると途端に自由度が無くなってしまうようにも感じるし。

 ゲーム内情報をこれでもかとひた隠しにする運営方針には賛成である。


「そうじゃな、等級は変わらんよ。じゃが種族によっては絶対的な隔たりがあるんじゃて」


 スティーブンも会話に混ざる。

 ゴブリンがオークに勝てるのか?

 ホブゴブリンならば一瞬でオークを殺しきるだろう。

 レア系のクラスチェンジゴブリンも一対一で何とか勝てるだろう。

 だが、条件を全て揃えた時。

 ゴブリンとオークには絶対的な隔たりがある。


「それだと人はどこに入るんですか?」


 グレートフレッシュという巨大沢ガニのモンスターに、三節棍で【エナジーショック】を叩き付けながら、極々自然に思い浮かんだ疑問を投げかけてみる。


 わらわら横移動で集まってくるグレートフレッシュ。

 ツクヨイの【ダークボール】も飛び回り、吸い付き爆発していた。

 そんな中で、


「……今だ判明しておらんな」


 一歩下がって俺達が戦う様子を見ていたスティーブンは、ひと呼吸おいて口を開く。


「宗教によっては神が作り出した一部であったり、そうなると人は唯一、神と同列なる存在とそして位置づけられる。じゃが、一人では無力じゃ。それでも長い年月をかけて培われた技術と力で単体でも遥かな戦闘力を持ちうることも可能じゃ」


「ふむ……」


「まあ、高みを目指すことじゃ。死なないように、生きる為にの」


 考え込む俺とツクヨイにスティーブンはそう言って笑う。

 ゲーム内設定だと、どんな立ち位置に要るんだっけな、プレイヤーって。

 その辺を詳しく調べても、無駄にロマンが無くなるだけか。

 今はこの世界でひたすら戦闘を楽しもうかな。


「ふむ、こんな所にグレートフレッシュが居るのはおかしいと思っておったが、やっぱりか……」


 スティーブンに先導されて、森を進むと水音が響いて来た。

 そして背の高い草をかき分けて行くと、綺麗な水が流れる沢があった。


「うげっ」


 ツクヨイが顔を青くして声を上げる。

 水音と混じって、キチキチキチキチ。

 沢の段差の下の部分には、フレッシュシザーと呼ばれる沢ガニモンスターが大量にひしめき合っていた。


「卵持ちは、必ず殺すのじゃ」


「了解です」


 卵持ちとは言わず、全て狩り尽くす所存だ。

 沢ガニって小さいけどちゃんと食べれるんだぞ。

 それにグレートフレッシュでも、普通にフレッシュシザーでもかなりの大きさだ。

 ドロップアイテムは甲素材に蟹身と蟹味噌。

 狩らない訳が無いじゃないか。


 さっきのグレートフレッシュで実は蟹味噌が出た。

 それをローヴォが興味津々に見つめていたので、食べさせてみた。


「アウォォォォン!!」


 俺と共にカニの集団に飛び出すこいつは、すっかりグルメウルフだったりする。

 良いもの食べさせ過ぎたかな……。

 いいや、俺の教育方針はのびのび自由に、でも責任は自分で取れだ。

 すっかりカニの口になった俺らは勇猛果敢に飛び出して行く。


「血の気が多いのう」


「ホントですぅ、蟹おえええ」


 単体ならばカニさんだ〜、で済むツクヨイだったが。

 絨毯の様に敷き詰められたキチキチ集団には辟易していた。


「ダークサークルは使えるかの?」


「はい! 今はブラックドレインを上げています!」


「なら十分戦えるかのう」


「え?」


 優しい目つきが、鋭くなる。

 その変容にツクヨイは固まってしまった。

 そして指が鳴る。


「はわっ!?」


 声を聞く限り、慣れない浮遊感だっただろうな。

 横目で様子を見ていたが、俺が蹴散らした場所にツクヨイもとばされた様だ。

 あわあわと慌てふためくツクヨイ。

 スティーブンの声が聞こえる。


「闇魔法の鍛え方の基本は、渦中へ。……じゃ!!」


「ひえええ!」


「さっさとダークサークルを展開せんか。カニ共が押し寄せてくるぞ?」


「ダークサークル! ダークボール! ふえええ、鬼いいい!!」


 通常よりも個数が倍となった六個の【ダークボール】が出現し、混乱するツクヨイを守るように囲む。


「ローヴォ! サポート!」


「がう!」


 混乱している様なので、ローヴォをサポートに向かわせる。

 レベル帯は、ツクヨイに合わせているのだろうか。

 膨大な数に戸惑うこともあるが、冷静に対処すればなんてことは無い。


 硬い相手には剣ではなく鈍器を使う。

 キチキチと挟みや節部の音を立てながら向かってくるフレッシュシザー共。

 その挟み、圧し折ってやろう。

 とりあえずツクヨイの周りから片付けていく。


「修行にならんぞ」


「パニックにしてどうするんですか」


「はわわ! はわわわわ〜〜!!!」


 良いから立て直せ。

 と、言いたい所だが、急な転移に戸惑ってるみたいだな。


「ツクヨイ! 立て直すぞ! 行商の道中を思い出せ!」


「は、はい!」


 闇魔法の基本は、いかに自分の領分で戦えるかだろう。

 だいたい、どの分野でも自分の実力を一番発揮できる所で戦うのがベスト。

 闇魔法が基本的に受け身スキルだとするなら、連携を組んで迂闊な行動をとらない行商クエストの時のシグナルウルフよりも、勝手にわらわら群がってくるカニ共は絶好の得物となる。


「ダークサークルに入った敵はどうなる!?」


「はい! 異常状態かかりました!」


 暗黒状態に陥った大量のフレッシュシザー。

 まるで将棋倒しに折り重なり自滅して行く。

 俺も上から踏みつけるようにバコバコ潰して行く。


「ブラックスタッド!」


 混乱するフレッシュシザーの集団に、刺を生やした黒球が突き刺さり。

 大きく膨れ上がって行く。


「ダークバースト!」


 ツクヨイの言葉と共に、膨れ上がった黒球は炸裂する。

 そして黒い粒子は【ダークサークル】を循環しツクヨイへと還る。

 ぶっちゃけ端から見てて、すげー効率良いよな、闇魔法。

 本人が混乱してりゃ、意味ないけど。


「よし、一人でいけそうだな?」


「はい! すいませんでした!」


「がうがう」


「ありがとうローヴォちゃん! ぶらっくぷれいやぁの本領発揮しますよ!」


 持ち直したツクヨイを確認すると、俺とローヴォは遊撃に回る。

 フレッシュシザーに混ざって時折姿を見せるグレートフレッシュを倒さないとな。

 流石にあれの軍団はツクヨイには厳しそうだった。

 スティーブンは満足そうに髭を撫でていた。

 ちくしょうめ!



女性プレイヤーでもっと出して。

絡ませてよ!

ってキャラクター居ますか?



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