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[プレイヤーのレベルが上昇しました]
[テイムモンスター:ローヴォのレベルが上昇しました]
[スキルポイントを振り分けで下さい]
皆一つずつレベルアップしていた。
流石にその先のクラスチェンジモンスターは出現しなかった。
最も、出現していたら生きて戻れなかった可能性もある。
◇スキルツリー
【エナジーショック】
・威力Lv1/15
・消費Lv1/5
・熟練Lv1/10
・詠唱Lv5/5
レベルアップで得たスキルポイントは、もちろん【エナジーショック】の詠唱パラメーターへと振っておく。
これで、スキル名を唱えるだけで発動という形になる。
そうだ、魔法スキルについて十八豪が取得していた【無詠唱】というスキル。
詠唱が無くても効果を即発動できるという物だが……。
最大の利点は、詠唱時間を長く取ると威力が増幅するということ。
相対的なバランスが考慮されているらしい。
例えば、【無詠唱】がマックスで、魔法スキルの詠唱パラメーターが最小レベルだったとする。
【エナジーボール】の威力はマックスで数値を10とする場合。
【無詠唱】によって強制的に発動すると、威力は半減する。
【エナジーボール】の詠唱パラメーターがマックスだと、【無詠唱】にて十分な威力の【エナジーボール】が発動するのだが、ここへ更にオーバーラップタイムという物が存在する。
“サービスでそこだけ教えて上げるよ”
という十八豪の粋な計らいによって【無詠唱】のスキルマックスボーナス【オーバーラップタイム】という物について教えて頂いたのだ。
心の詠唱の中で、溜を作ることで約三割増しの威力増幅が見込めるらしい。
“追加詠唱ってスキルと選べたんだけど、戦闘スタイル的にこっちをとったんだよ”
聞けばそれなりに教えてくれる十八豪は、良い奴だ。
こちらが分を弁えてさえいれば、彼女も相応に答えてくれる。
【追加詠唱】……、何となくだが、魔法スキルの効果を高める物だと想像する。
知り合いで取得している人がいないので知る術は無い。
そんな話を聞くと……。
欲しくなってくるじゃないか【無詠唱】とやら。
そんな便利スキルがあるのにも関わらず。
魔法スキル【アポート】はスキルマックスになると無詠唱行使が可能になる。
破格スキルであることを再度認識した。
「ありがとうございます。今回のクエスト報酬ですが、物資ですか? グロウですか?」
無事にテンバータウンへと辿り着き、荷下ろしを終えたニシトモが、帳簿という行商人専用アイテムを操作しながら話しかけてくる。
ニシトモの俺へのプレゼントは無いのだろうか。
それとなく聞いてみると。
「もちろん、わかっていますよ。現物支給、それとも今後の買い取り価格に色を付けさせてもらう。どちらかお選びください」
「……色で!」
男から宝石類を貰うのはなんか嫌だった。
毎度のこと受け渡している素材の買い取りについて色を付けてもらう。
今でも多少つけてもらってるというのに、良いのだろうか。
「ええ、大丈夫です。今後ともお手伝いできる事があれば」
「よろしく」
固く握手を交わす。
手を離すとニシトモがふと口を開いた。
「そうだ、一応クリアオニキスもご準備していたんですが……」
「む」
「小売価格は今の所六万七千グロウ。購入します?」
ええ、メッチャする。
それを聞いたツクヨイが飛び上がっていた。
荷下ろしを手伝わされてぐったりしていたツクヨイが、それはもう大胆に飛び上がるのだ。
「ひぇえ! ぶ、ぶぶぶブラックオニキスはいくらなんです!?」
「八万五千グロウです」
「ちーん」
ツクヨイは、それだけ言って思考停止してしまった。
それをみてニシトモはニコニコと笑っていた。
これは、わざとだな。
「どうです? 加工費はサービスしていますよ?」
ニシトモが箱から取り出したのは無色透明の玉が取り付けられた腕輪だった。
……腕輪の素材は見たことあった。
銀じゃなかろうか、これ。
「ご名答、銀素材を使用すると魔力補正に相乗効果を生むそうです。ちなみにこれを作られたのは、ガストンさんではございません。彼は今武器防具作りに忙しいですから」
「買う、代金は差し引きで」
「現状、少し足りない形になりますね」
うぐ、と変な所から声が出た。
そうだ、生け簀の木材大量受注がかなり響いているのだった。
「銀素材の台座はサービスしているのです、破格ですよ」
「わかっていますとも」
ニコニコ顔のニシトモに、俺もぎこちない表情で返すのである。
だが、腕輪ならば欲しい。
無属性魔法補正(中)の効果を持つ装飾品が欲しい。
現状一番お金になる物は何だろうか……。
「一つ、個人依頼なんですが、受けて頂けますか?」
「……話の内容による」
「ええ、受けて頂かないと、困ります」
「ふぐ」
あくまで俺は断れる立場じゃないと。
そう言っているのか貴様あああ。
と、思っていると、ニシトモは「くっふ! すいません、冗談です」と破顔し、一つの依頼書を俺に手渡した。
「元よりいつか頼むつもりだったんですが、最近銀が出回ってる分、黒鉄が不足して来ているみたいです。みんな、新素材が好きなんですね。ガストンさんは貯蔵オンリーらしいですけど、他の鍛治師や細工師の方々は、この機会にと様々なアイテムを加工して売りさばいているみたいです」
ああ、なるほど。
その分黒鉄の価格が下がっている……、というか、皆の目が行ってない間に集めて銀ブームが過ぎ去る時に大放出して利益を上げよう。
そう言う魂胆か!
「ご名答です、出回りで実際ノークに負けてるんですよ。私の師匠である道具屋の主人が言っていました。テンバーまで回って来ないってね」
「そうなのか」
「ええ、ノークに居るケンドリック達の装備見ましたか。フルプレート黒鉄で固めてるみたいですよ」
それはすごく重そう。
黒鉄は、元々掘り出し物市で見つかったのが最初だった。
その後師匠のクエストエリアみたいな所で俺が持って来るようになるが、それも数回程度。
全体的に見ると、まだまだ量は不足しているらしい。
「ガストンさんが銀の件で動かないのも、銀は余り武器防具に向かない性質があるみたいです。確かに魔力補正が微弱ながら付いた物が出来ますが、魔法職には少し重たいらしく。前衛職が使うには、鍛治師が打った鉄よりも脆いとのことです。耐久消費スピードも速いもので」
ニシトモは続ける。
「まあ、自然素材に銀を少しあしらうという方法もあるみたいですが、魔力補正(微)の効果すら付かずに、ただ【微弱な魔力補正がつく銀があしらわれている】程度の説明しかありませんから」
ギンヤンマから出る銀よりも。
今消耗している銀装備の方が多い可能性があって、いずれブームは終わる。
それが、ニシトモの見立てである。
本当にそうなのかはわからないが、何となく説得力がある言い方だった。
「ローレントさんのパイプにある黒鉄を百個単位で買いたいのです、その分対価は払います」
百個単位って、ワイルドベイグランド百体も狩らなきゃいかんのな。
流石にプレイ時間的に厳しいかもしれん。
百体狩ったとしても、その全てから黒鉄がドロップするとは限らない。
一週間くらいかかりそうなんだが……。
そうすると闘技大会イベントが始まっちゃうんだよな。
「うーん」
「ちなみに、お代はこのくらい見込みで」
「やりましょう。三日以内で何とかします」
値段を聞いて即決してしまった。
行き当たりばったりだなーとは思うが、それが一番面白みのある選択肢だと思っている。
[依頼が発生しました。-黒鉄百個納品-]
[承諾しますか? yes/no]
やると答えちまった物はしょうがない!
もちろんイエスで!
これで依頼が成立した。
「納期については記載してませんので、お気をつけて」
納期の三日は指定されなかった。
これで指定されていたら俺、少し危うしだったかもしれないなあ。
朝も夜もスティーブンを駆り出して、老体に鞭を打たせてあの荒野へ連れて行ってもらう。
師匠使いが荒い奴だろうか俺?
そんなことないない。
これこそ本当の師弟愛って奴さ。
そんなことを思いながらニシトモと別れる。
ツクヨイは、とりあえず放置でいいだろう。
もう町中だ、何かされる様な心配も無い。
そうだ、レイラの依頼は溢れんばかりの中級回復ポーションと共に完了しているよ。
次、久々に主人公修行回です。
因縁あの荒野での戦いと、百人組み手でも行いそうな雰囲気です。




