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どうやらニシトモは、俺らがフィールドに出たと知って、脇目も振らずに西方の森を目指したそうだ。
行商プレイヤーが行商の荷物をほっぽり出す。
それが一体どういうことか……。
「積み込み作業、手伝って下さいね。バイト代は払います」
「重たいですぅ」
「そう?」
「ローレントさんみたいな脳筋じゃないんです!」
ツクヨイは、裏ステータスを知らないな。
重たい物を持っていれば、レベルが上がると同時に筋力値のステータスも上昇するのだ。
剣を持ってレベルが上がれば、前より簡単に振れるようになる。
そう言うのを鑑みて、トモガラの鉞はかなり重たい仕様になっていることが多い。
「それを脳筋だっていうんですぅ! まっするぷれいやぁ!」
そんなこと言われても、魔法職だからインテリの仲間入りだよ。
俺。
積み込み作業が終了し、俺は幌馬車の隣を歩き。
ツクヨイは疲れましたと言って、幌馬車の荷物に紛れてぐったりしていた。
ちんちくりんだからこそ、積み荷に混ざれるのである。
「……かなり最初の頃です。私もトモガラさんも最前線攻略を掲げていました。もっとも、私は生産職なんかやってませんでした。ただのしがない剣士職みたいな物です」
その時、ケンドリックとは知り合っていたらしい。
アンジェリックとも、フレンド登録するような仲だった。
「これでも、ブーストだけで剣士として成り立つくらい、一応腕は立つんですよ?」
貴方やトモガラさんと比べたらちょっと齧ったくらいでしょうがね。と、力なく笑うニシトモ。
中々難航する最前線攻略。
そんな中、突如現れた異色のプレイヤーが、次々と新しい物を持って来た。
それと同時にテンバータウンを拠点にする生産職チームが町の開発でもしてみないかと言い出したこと。
ノークタウンでは、露骨な攻略組のお陰でプレイヤーバッシングが起きる最中だった。
「トモガラさんは攻略組の中でも、ひたすら強く、神のように崇められていました。ケンドリックが変わったのは多分それもあります」
攻略の為だったらトモガラは協力する。
かなり利己的な考え方の上で動いて入るが、礼節を持てばそれに自分なりに返す奴である。
ケンドリックからすれば、急にトモガラが従わなくなった。
そんな所だろう。
あくまで推測だがな。
「私もそう思っています。アンジェリックさんも、結構いれこんでいたみたいですね」
「……今でもニシトモは交流があるみたいに感じたけど」
「私は商人ですから」
そう言って微笑むニシトモ。
うむ、ただ馬が合わないだけで取引を辞める。
野心家であるニシトモの辞書に、私怨のみで利を捨てるという選択肢は無い。
俺からすれば、戦場は違えど、同じ戦士にように思える。
「そこは気にしてないよ」
「ふふ、ありがとうございます」
「つ、続けてくださいニシトモさん! 一体あの美人さんと何があったんですかっ!?」
起きて来たツクヨイが幌馬車から顔を出した。
うきうきとした表情。
「いえ……、道を違える前に、トモガラさんに捨てられたと勘違いしたアンジェリックさんを慰めていただけですよ。元々仲間だった訳ですし」
それで、アンジェリックはプレゼントがどうとか言っていたのか。
少しだけ納得。
「テンバータウンから遠方の女性へプレゼントを持ってあの危険なクエストエリアを渡り歩く行商プレイヤー! かなり萌えるじゃないですかぁ!」
「いえ、そんな大層な物ではありませんよ。その頃は駆け出し、師匠である道具屋の店主と供に、戦いながら道を往復するだけでしたから。——そうだ」
ニシトモは自分のアイテムボックスから何かを取り出して、ツクヨイに手渡した。
綺麗にラッピングされた木箱。
「あ……」
おずおずと開いたツクヨイの口から声が漏れる。
「今ではそこそこ融通が利きますからね」
「ブラックオニキス……、闇属性の魔力が込められている魔法石の一種です」
何だそれは、宝石と違うのだろうか?
尋ねると、ニシトモは違うと答えるのだった。
「現時点で宝石の出所は掘り出し物市。もしくは、貴方が手に入れたパンドラストーンくらいしかありません。かなりの効果を持ち、現時点で一番高価なアイテムでもあります」
「なるほどね」
ローヴォを見る。
そのくらいのアイテムだからこそ、クラスチェンジに影響があったのだろう。
そう、自分の中で納得しておく。
「魔法石は違います」
彼が言うに、オニキスという魔法石に属性魔力を込めることで、色艶が生まれ、相対した効果を持つという。
ブラックオニキスは、装備品に加工することによって、闇属性魔法補正(中)という破格の効果を持つ代物だってさ。
一体いくらしたんだろうか。
「こ、こんなの受け取れません!」
価値を知ってビビったのだろう。
ツクヨイがブローチにあしらわれたブラックオニキスをわたわたと手元で振るわせながらニシトモに突き返すのだ。
「いえ、錬金術はこれから先重要な要素になってくると踏んでいます。是非とも、お近づきの印に持っておいてください。お願いします」
真撃に目を見据えながら受け答えするニシトモ。
うわぁ、すげぇ男前っていうか、イケメン臭がすごいする。
そんなニシトモのお洒落プレゼント攻撃をダイレクトに受けたツクヨイは……。
「ぁ……ありがとう、ございます」
と、ブローチを大事そうに胸元に抱きしめてお礼を言うのであった。
ローヴォが溜息をつくのが聞こえた。
いや、その溜息、俺のターンだから。
というか、上手くツクヨイの恋愛話知りたい攻撃を躱したな。
まあ、ツクヨイがすごく嬉しそうにしてるから良いか。
女の子は、こういうシチュエーションに弱い。
覚えておきましょう。
「ローレントさん」
ニシトモに呼ばれる。
「アンジェリックは強い人を傍におきたがります。私もなんだかんだ会う度にスカウトされていますよ。もっとも、彼女の信者の一人に加わるつもりはありませんけどね」
「……何だかわからんが、放漫な女は好きじゃない」
それだけ言っておく。
雰囲気は、中々気が抜けない感じだったな、あの女。
だが、強さとはまた別の何かを感じた。
心を絡めとられる感じに近いかな。
「それを聞いて安心します。まあ——」
ニシトモは俺に顔を近づけて言う。
「貴方は何者にも囚われない、自由な魂をお持ちのような気もします」
「顔が近い」
衆道趣味は無い。
ヌンチャクで鼻先を霞めておいた。
「おっと、もちろん貴方にもそれなりのお礼を準備していますよ、ローレントさん」
不敵に笑うニシトモ。
なんだか、いつもミツバシ、イシマルと気ままにプレイしている表情と違っている。
ふーむ、色々あるのだろうか。
「ひゃあ! びーえるぷれいやぁ!」
その様子を見ていたツクヨイが再びトリップ。
なんだかんだ騒がしい奴だな。
そしてニシトモが揶揄うように、ツクヨイのテンションが下がる言葉を投げかける。
「もっとも、ローレントさんに渡す分は、クエストエリアを無事に突破してからですけどね」
「いやあああ! また、あの道通るんですかぁ!?」
頭を抱えるツクヨイ。
よっしゃ、腕が鳴る。
というか、今回はツクヨイとニシトモはサポートに回して、俺とローヴォメインで積極的に狩りたい。
レベルを上げたい。
頑張れば、この道中で必ずもう一つレベルが上がる筈だ。
何故かって?
平均レベルが上がっているからだよ!
レベルが上がれば【エナジーショック】の詠唱がマックスになる。
むふふ、手から衝撃を与える魔法スキル。
何となく、発勁の様な感じだな。
道場を免許皆伝、師範代まで行けばなんとなく取得できそうな気がするが……。
魔法職である俺からすればレベルが上がると同時に増えて行くのは魔力。
エナジーショックはレベルが上がれば威力も上がる、魔法スキル版の発勁みたいな物だ。
ぐふふのふ。
期待が広がる、闘技大会前に必ず使いこなしておきたい秘策だ。
「サポートを頼む。今回は俺が全部やりたい」
「え?」
「ひええ、大丈夫なんですか?」
「だから、サポートだよ」
本気出すぜ。
クエストエリアへ。
出没したのはシグナルウルフの群れ。
シグナルウルフ・リーダーもいる。
ローヴォには少し似が重いかな?
視線を送ると……。
「がるるるる」
馬鹿にするなと訴えるような翡翠の視線が帰ってくる。
シグナルウルフを見定める翡翠の瞳。
ただならぬ物を感じたシグナルウルフが目配りして陣形を整える。
「ブースト」「フィジカルベール」
「メディテーション・ナート」「エンチャント・ナート」
補助スキルを掛けて行く。
後ろの方でツクヨイの詠唱が聞こえる。
「ダークボール、ダークサークル、ダークベール」
闇魔法の支援を受けての立ち回りか。
基本的にサークル内に入ってくる敵の迎撃が一番だろうな。
得物はどうしようか、鬼子の長剣はもちろん。
レイピアに持ち替えておこう。
今宵の剣は、血に飢えている。
そう言うことだ。
ローヴォが後ろから追い立てて、不用意にサークル内へと進入してきたシグナルウルフの首筋にレイピアを突き刺し、鬼子の長剣で首を切り落として行く。
「……恐ろしい」
呟く声が聞こえた。
そんなことも気にならないくらい、ボルテージは上昇する。
鬼狂いだ、鬼狂い。
ぐふ、くはは!
【鬼子の長剣】製作者:???
オーガの系譜に至る魔物の剣。
子鬼であるが、その攻撃力はまさに鬼。
使い手の意志によって下級魔剣へと至る。
・攻撃:25
・耐久Lv5
・耐久98/100
・成長27/100
ご要望あれば、どうぞ〜。
フシギ○ネ出て来て、足挫いて、痛いという。




