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鍛冶屋を探す途中、トモガラにメッセージを送っておいた。
武道場で稽古を詰むと、ブーストに最適化がかかる。とのことを。
今頃第二の町からその先へとパーティを組んで出払ってそうだから、返信はずっと後だろう。
噴水公園へ向かう。
相変わらず新規プレイヤー陣でごった返していた。
初心者用の装備に、町中では武器を装備したままにしない方針で行く。
目立つのは良くない。
「安いよ〜! ポーション買わないかい?」
露店風呂敷を広げたポーション屋に声をかけられる。
「いくらですか」
「初級ポーションなら一つ200グロウさ、材料持ち込みだと薬草一束あれば100グロウで卸すよ!」
ふむ、それなりに安かった。
道具屋で購入した時は300グロウだったから、露店ならではの安さだな。
「ちなみに薬草ってどこで手に入れれば良いんですか?」
「それなら西の草原にそれなりに生えてるよ。あとは北の森にも、でも南の森の方が多いね。森の先がまだ解放されてないからみんな北に向かうけど、採取場としては南のが優秀かな?」
なるほど、北にばかり意識してたけど。
南にも森が広がっていた。
西の草原と北の森には足を運んだが、まだ行ってない所が一杯あるのか。
レベル上げも兼ねて少し言ってみるのが良いかもしれないね。
「ありがとうございます」
そういって踵を返すと、
「ちょちょっと! 買って行かないの〜?」
露店プレイヤーが縋ってくる。
確かに、冷やかすだけってのも頂けない。
「すいません、武器を作らないといけないもので」
「だったら、私達の職人のグループにお願いしてみない? 紹介するわよ」
その女は言った。
紹介する代わりに狩りに行ったらポーションの材料でも採取してくれると助かるって。
あんまり目立ちたくないのだが、こういった生産職とコネクションを持っておくのは良いと聞く。
なら二つ返事で了承しておこうか。
「わかりました、フィールドに出た際は心に止めておきます」
「やった〜! 私はレイラ、あなたは?」
「ロー……」
迂闊に名前を言って良い物か。
一瞬迷ったが、信頼には信頼で返そうと思う。
でもこの感じだったら口が軽そうなイメージがあるな。
「あんまり目立ちたくない系? 大丈夫よ、生産職はその辺硬いんだから!」
「安心しました。ローレントです。今思ったんですが、普通名前って頭の上に表示されるんじゃ……?」
プレイヤーキラーだと思われる二人は名前が表示されていたし。
「イエローネームとレッドネーム以外は基本表示されないわよ」
なら安心した。
健全なプレイヤーはブルーネームだと言われているらしい。
「ってかローレントって……、聞いたことあるわね」
「掲示板見てたんですね」
「ああ、やっぱり。色々と興味深いけれど、生産職は余り深くつっこまないのが掟みたいなもんだから安心してね」
そう言って微笑むレイラ。
彼女は露店の物をしまうと、こっちよと歩き出した。
噴水公園を出て、町をしばらく歩くと鍛冶屋が見えてきた。
彼女が名前を呼ぶと、店の奥からゴツゴツとした体格を持ったスキンヘッドの男が姿を表した。
「紹介するわ、鍛冶職人のガストンよ。で、こっちのローブの人はローレント」
「よろしくお願いします」
「よろしくである」
ガストンはジロっと俺を目視すると、会釈もせずに無骨に挨拶を返した。
汗塗れになっているのを見ると、鍛冶屋の中はとても暑い環境なのだろうか。
「で、何用であるか」
「大剣と刺突用の剣を一つ作ってほしくて」
「何かこだわりはあるのであるか?」
沈黙する。
振り上げた状態で転位して、その重さを利用するから出来るだけ重たい方が良いんだよな。
「大剣は装備できる限界の重さを、刺突用の剣はとにかく鋭くしてほしいです」
刺突系の武器はレイピアとかがおすすめなのかな。
でもそんな飾りっけが欲しいわけじゃなくて、純粋にとどめ用に持っときたいだけだから。
「飾りっ気はお任せします。ほとんど無くてもいいです」
「ふむ、趣向が合うではないか。武器は見せ物ではないであるからな」
ガストンが何故か饒舌になっていた。
こころなしか無骨な表情の瞳に熱がこもっているようである。
「ベースになる大剣を選ぶのである、しっくりくる重さを決めるのである」
重要なのは【アポート】で転位できるギリギリの重さだということ。
手で持ってみて無理でも諦める。
後、値段も含みで考えないといけないな。
事実、それが一番大事な要素だったりする。
結局一番安いのしか無理だった。
二つの意味で。
【凡庸な大剣】3000グロウ
重たいが破壊力はなかなかの物。
切れ味よりも、叩き潰す系。
・攻撃20
・防御Lv1
・耐久Lv1
・耐久100/100
持ってた素材とか全部売りさばいたから全然手が届くな。
何気に防御と耐久が付いている。ちなみに長剣は攻撃10だから約二倍。
その分取り回しは難しいんだけど。
「すいません、一度地面においてもらえますか?」
「一体なんであるか? まぁわかったである」
一応【アポート】で転位できるか試さないと。
精度、距離、よりも重量を上げてった方が今は良い。
「アポート! ……うぐっ」
重くて蹌踉めいてしまったが、転位できることには越したことは無い。
ただ、これを背負ってずっと歩かなきゃいけないのはちょっとな。
大剣の装備って基本背中に背負うもんだから。
それを考えると、どっちも刺突系の武器を持った方が良いのかも。
でも攻撃力は捨て難い。
「それがアポートってスキルなの」
「ふむ、珍しいであるな」
二人が揃って感想をもらす。
どこで手に入れたの?という言葉は無かった。
聞かれても、爺さんに一杯プレイヤーが押し寄せる状況は見過ごせないから教えないけどね。
「なるほど、だから重たいのであるか」
「どういうこと?」
ガストンの呟きにレイラが反応する。
「頭上に転位させて、そのまま振り下ろす。そう言うことであろう?」
「その通りです、背負うのがネックなんですが」
「身体能力を上げるスキルを持っていればいいのである」
その手があった。
【ブースト】をせっかく手に入れたのだし。
俺の様子を見ていたレイラはツーテンポ遅れて「すごい」と言葉をもらしていた。
「では先端部分に重心をおくのである、刺突武器はまだレイピアくらいしか作れないのであるが、それでいいのであるか?」
「申し分無いです」
まだサービス開始で序盤の序盤みたいなものだ。
長剣大剣とか初級武器以外の派生を作れるということは、ガストンは相当やり込んでいるのだと予想できる。
「しばらく待つのである、フレンドを送ってもよろしいか?」
「あ、私もいい?」
こうして、俺のフレンドリストはトモガラ、ガストン、レイラの三人に増えた。
二人にはお礼を言って、さっそく長剣片手にフィールドに出ることにする。
料理屋は後だ。
というか素材は全てレイラに上げて代わりに初級ポーションを幾つか頂いた。
食べる分の肉はもう残っていない。
その前に、道具屋でアレを買っておかなくては……。
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プレイヤーネーム:ローレント
職業:魔法使い見習いLv5
信用度:20
残存スキルポイント:0
◇スキルツリー
【スラッシュ】
・威力Lv7/10
・消費Lv1/10
・熟練Lv1/10
・速度Lv1/10
【ブースト(最適化・黒帯)】
・効果Lv3/10
・消費Lv3/5
・熟練Lv3/5
【アポート】
・精度Lv2/10
・距離Lv2/10
・重量Lv6/10
・詠唱Lv1/1
【投擲】
・精度Lv1/3
・距離Lv1/3
【掴み】
・威力Lv1/3
・持続Lv1/3
◇装備アイテム
武器
【長剣】
装備
【初心者用のローブ】
【初心者用の服(全身)】
【黒帯】
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お読み頂きありがとうございます!