-77-
あれから三人で、破竹の勢いで狩りを執り行った。
マグネットエルボーとか言いつつ、十八豪とコボルトクリフと挟み込んで顔面に肘鉄をかましたりしていた。
コボルト素材は彼等の使っている防具もたまにドロップするようだった。
猟師ならば、そのまま利用できるのだろうか。
魔石の利用価値が高いから糞みたいなドロップアイテムは要らないんですが。
【錆びたナイフ】
鉄素材の錆びたナイフ。
磨かなければ攻撃力は期待できない。
【古木の小盾】
素朴な素材の古い小盾。
どうやって防御するのが不思議なくらい脆い。
使えない、使えないよこれ!
だた、古木の小盾は良く燃える。
山の南東側奥へ行く程に、ヤマオオハシは姿を消して、オニオオハシの群れが多くなっていた。
コボルトもコボルトクリフ・リーダーと呼ばれる統率者を持つグループへと変わって行った。
索敵部隊ではなく、明らかに侵入者を阻むような出現。
一対一では余裕でも、統率され、八体程のグループになるとそれは一個分隊として力を持つ。
徐々に戦闘も厳しくなり、HPの減りも目立って来た。
さて、あまり深入りはしないでおく。
この先に何が待ち受けているのかはわからない。
経験則からして、大体初見エリアでは死ぬことが多いからな。
[プレイヤーのレベルが上がりました]
[テイムモンスター:ローヴォのレベルが上がりました]
[テイムモンスター:ローヴォがクラスチェンジレベルに到達しました。クラスチェンジ先を指定してください]
トモガラと俺はレベル27へ。
十八豪はレベル26へ。
うむ、取得グロウもドロップアイテムも、そこそこの収穫となった。
ローヴォがクラスチェンジを迎えた、これは帰宅案件だ。
クラスチェンジ先は一体なんなんだろう。
ワクワク感を押しとどめながら、俺達三人は道を引き返す。
途中でトモガラの放置した魔力を持つ丸太を回収しながらだ。
「そろそろちゅーはいのんでねる」
「お、眠たくなってやがるぞ、人造人間め」
「殺すよ?」
テンバータウンへ戻って来て、十八豪はログアウトすると言ってフラフラと町の中へ消えて行った。
俺と同じようにどこかクエストでログアウト先を確保してるのかもしれないな。
そしてトモガラは即行丸太を持って木工所へと向かい。
俺も俺で、スティーブンの家へと引き返した。
「今日は早かったんじゃな」
「ええまあ、クラスチェンジしそうなので、早めに」
スティーブンがリビングの椅子に座ってパイプをふかしていた。
ローヴォと共に三人程座れる大きめのソファーに座ると、首輪を外してやる。
[クラスチェンジ先、もしくはマイナーチェンジ先を指定してください]
◇クラスチェンジ
・シルバーウルフ
・ホワイトウルフ
・ブラックウルフ
◇マイナーチェンジ
・リトルレトリーバー
・リトルマスティフ
・リトルブル
・リトルバーナード
・チワワ
ええ……、どういうこと。
現れた物を見て困惑した。
犬だ、犬が選べるようになっている。
一体どういうことなの、と首を捻れど答えは出ない。
ここは注視すべし。
◇クラスチェンジ
さらに強い力を持った上位種へ。
◇マイナーチェンジ
一つクラスを落とすことで、また新たな能力を持った系譜へ。
簡単な説明のみでした。
全てのチェンジ先を見て行く。
・シルバーウルフ
銀の毛を持つ大型の狼。
無属性魔法スキルを持つ。
・ホワイトウルフ
白い毛を持つやや小型の狼。
氷の上位属性を扱える。
・ブラックウルフ
黒い毛を持つ狼。
闇属性を扱える。
シルバーウルフ、イイネ。
俺と一緒で無属性魔法スキルって言うのもすごく良い。
お揃いだぞ、ローヴォよ。
さて、マイナーチェンジだ。
・リトルレトリーバー
賢さ、忠誠心を兼ね備えた中型サポートドッグ。
覚えた生産スキルを使用可能。
・リトルマスティフ
何事にも臆しない、勇敢な大型ガードドッグ。
虎や獅子を唸りで黙らせる程。
・リトルブル
恵まれた身体能力を持つ、獰猛な小型バトルドッグ。
どんな傷を負っても、攻撃をやめない。
・リトルバーナード
知性、包容力を持つ、大型ヒーラードッグ
状況に応じた回復支援ができる。
・チワワ
絶望的に脆い、魔法特化の超小型マジックドッグ。
圧倒的魔力と全属性適正持ち、サポートにも火力にも。
ええっと……、は?
悩ましい所だったりするのだった。
マイナーチェンジでクラスはリトルグレイウルフの時と同じになる。
だがその先がとても魅力的に感じる。
シルバーウルフ、ホワイトウルフ、ブラックウルフは基本的に狩猟戦闘向けだと言える。
グレイウルフ自体、何度か力不足を感じさせる部分が大きかった。
その分、奇襲とかに頼ってたんだけどね。
詳しく見てみると、マイナーチェンジする分、各方面に特化して行くようだ。
レトリーバー系なんか、生産スキルが使える、生産職向けのサポートドッグだろこれ。
それぞれ役割がある犬達が揃っている。
ぐわー!
迷う。
シルバーウルフ、ホワイトウルフ、ブラックウルフだけだったら迷わずシルバーウルフにしてたと思うんだけど。
この際犬でもいいんじゃないかと思えてくる。
安直な選択はNGだ。
よく考えよう、もっと確りね。
……。
まずクラスチェンジ系でどうだ。
選択肢が三つある。
これは簡単だな。
ウルフ系で行くとしたら、シルバーウルフしかない。
次、犬系。
まずはサポートドッグ。
必要無し。
次、ガードドッグ。
虎や獅子も唸りで黙らせる程だってさ。
ぶっちゃけ、カッコイイからあり。
マスティフ系の犬って、確か日本だと土佐犬のことだっけ?
いや、あんなチンピラみたいな犬はお断りだな。
俺が思い浮かべるのはチベタン・マスティフ。
説明からして、最終的にそこへ向かいそうだった。
……候補で!
次、バトルドッグ。
積極的に攻撃を仕掛けるイメージは中々良さそうだった。
ブルドッグ、それともピットブルなのか。
どちらにせよ顎はかなり強そうな犬だ。
噛みつきにステータス限界突破で振ってるんだろう。
恵まれた身体能力はスピード感もありそうだ。
……候補!
次、ヒーラードッグ。
思い浮かべるのはセントバーナードだったりする。
うむ、賢いし、良い奴だし俺は好きだ。
北の雪山に置き去りにされて、熊に怯えていた子供の頃を思い出した。
いきなりヌボっと現れたセントバーナードにビビった。
だが、そっと寄り添って、吹雪が止むまで待ってくれて……。
一緒に下山したあの日の冬。
だが、ゲームでは頼ることも無いだろう。
今回は候補外ということで。
次、チワワ。
絶望的に脆い、魔法特化の超小型マジックドッグって。
どこからツッコめばいいのかわからん。
圧倒的な魔力と、全属性適正を持つ犬種なんだってね。
後ろからの支援火力とかどうなんだろう、と想像してみる。
ダメだな、魔法スキル自体あんまり使ったこと無いから想像できない。
とりあえずチワワに良い思い出が無いので候補外で。
ここまで考えてみて、一つの結論に辿り着いた。
今まで冒険の中心になって来たのは一体なんだったのか。
ローヴォの役割は戦闘だけか?
違うだろ。
フィールドを冒険する際の索敵が一番重要。
そしてそれを十二分にこなしてくれていたのがローヴォだった。
ここは正当後継者のクラスチェンジ、シルバーウルフで行こう。
「それでいいですか?」
本人に聞いてみた。
「うぉん」
どうでも良さそうだった。
ただ、さっき外したセレクが作ってくれて、エアリルが宝石を取り付けてくれた首輪を気にしている。
せっかく気に入った首輪が惜しいのだろうか。
クラスチェンジしたら大きくなるもんな。
「クラスチェンジは……、明日でもいいか」
「わおん!」
寂しそうにしていたので今日は工房で生産活動しながら一緒にいることにした。
もちろんその間は首輪をつけとく。
【合わせ翅と翡翠の首輪】製作者:セレク、エアリル
飛蝗、蜻蛉の翅を合わせて繋ぎ合わせた首輪。
中央にはやや小さめだが翡翠が組み込まれている。
軽く、跳躍力、空中機動にやや補正がかかる。
身代わりを得る程の魔力は持たない翡翠だが、身につける者に僅かな幸運を呼ぶ。
・幸運(微)
・耐久33/100
鑑定したら大分耐久がすり減っていた。
幸運(微)の効果がどれだけ出ているのかわからないが、ローヴォはかなり気に入っていた。
ひょっとして、光り物が好きなのか?
人と同じ日常に溶け込むほぼ犬みたいなエセ狼だからな。
蜘蛛糸でちょこちょこ網を結わえているとスティーブンがやって来た。
「なんじゃ、まだクラスチェンジしとらんのか?」
「ええ、首輪がお気に入りで、クラスチェンジすると体格が変わって装備できなくなるので」
「ほお、その首輪……、ああパンドラストーンから出た宝石か」
「ええ、幸運を司る翡翠です」
「なら付けたまま、クラスチェンジを指定してみよ」
「え?」
「いいから、はよせい」
言われるがままに、クラスチェンジ先を再び表示する。
[クラスチェンジ先、もしくはマイナーチェンジ先を指定してください]
◇クラスチェンジ
・シルバーウルフ
・ホワイトウルフ
・ブラックウルフ
・ラッキーウルフ
◇マイナーチェンジ
・リトルレトリーバー
・リトルマスティフ
・リトルブル
・リトルバーナード
・チワワ
一つだけ選択肢が増えていた。
ラッキーウルフ、一体なんだこりゃー。
・ラッキーウルフ
幸運を呼ぶ不思議な灰色狼。
翡翠色の瞳を持つ。
体格、能力はグレイウルフと同程度。
首輪は付けたままでクラスチェンジしなきゃいけないっぽいな。
……本当にこれで良いのだろうか。
「わおん! がうがう!」
「ほう、テイムモンスターが自分から選んどるようじゃな、珍しい」
スティーブンが自分の髭を撫でながら「ほう」と眉を動かした。
なら、決定だな。
迷わずクラスチェンジ先はラッキーウルフを選ぶ。
うむ、なんだかスッキリとする選択だった気がする。
[テイムモンスター:ローヴォをクラスチェンジさせますか?]
[ラッキーウルフでよろしいですか? yes/no]
もちろんイエスで!
光に包まれたローヴォ。
クラスチェンジの光は、やや翡翠色に輝いていた。
そして、収まる。
◇テイムモンスター
テイムネーム:ローヴォ
【ラッキーウルフ】幸運狼:Lv1
グレイウルフと同じ性質を持つ。
その瞳は幸運の翡翠が宿り、淡く輝いている。
[グレイウルフの基本スキル]new
[幸運の瞳]new
テイムモンスター装備
【合わせ翅と翡翠の首輪】
※躾けるには【調教】スキルが必要。
幸運の瞳とは、翡翠色の瞳のことだろうか。
それ以外は、前と変わらず。
代わり映えしない?
いや、いつものローヴォが良いのだよ。
「大事にするんじゃな」
「はい」
さて、今回はそろそろログアウトだな。
予定があるし。
クラスチェンジ回でした!
クラスチェンジはオーソドックスなんですが、マイナーチェンジって言うのを入れてみました。
何となくデチューンして改造して、新しい種族を!
とか、そんな想像が頭を過りましたので。
皆さんだったらチェンジ先、何を選びますか?
私はそうですねーマスティフ辺りが好きなのでそっちで選びたいですねー。
余裕を持って更新!
一日一更新ペース維持できてます!
毎度のことですが、評価、ブクマ、ありがとうございます。
一日一更新、誤字修正、そして感想にも返信できる余裕が持てるよう頑張ります。
是非これからも、よろしくお願いします。




