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改めてローブを脱ぐと、おいてある道着を身につける。
くさいのかなと思ったが、そうでもなかった。
この道場というのはいわゆる空手、柔道、ボクシング、その他諸々のどれに分類されるんだろう。
打ち合ってる様子を見て、色々と気付く点がある。
「着替えて来ました。……武器は何でもありなんですね」
「そうだ、基本は素手からだが、元々対モンスターようにだれでも自衛できるように作られている!」
だから、農具や工具を持った人が多かったのか。
流石に危ないと思うんだけど。
「で、お前は魔法職なのに、剣を使うと?」
「あ、すいません」
慌てて適当な場所に長剣を置く。着替える時って装備スロットを操作するだけだから、ついつい武器を外すのを忘れがちになる。
「では、……マルス、こっちにこい」
「はい師範代」
茶髪の青年がこちらに向かってくる。
素手の状態で互いに顔を合わせ、一礼。
「ルールはどうするんですか?」
「僕はなんでも構いません」
師範代にそうきいてみるが、マルスが代わりに返答するのである。
その様子に師範代も頷いていた。
そうか、何でもありか。そうかそうか。
「始め!」
彼の職業カテゴライズが、武術家、村人、農民、どっちに入るのかわからないが、とにかく黒い帯を身に着けていることがその実力を窺わせる。
帯の色で階級分け、強さ分けとかあるのだろうか。
そうこう思っている内に、低く身を屈めた状態から顔に向かってフックが飛んでくる。
咄嗟に腕で受けた。
弾き飛ばされて捥げたんじゃないかってくらい痛かった。
「師範代、ダメです。この人慣れてないですよ」
痺れた腕に手を当てていると、俺の頭の上に表示されてるHPと痛がる様子を交互に見たマルスが、立ち上がって首を振っていた。
「それも一つの試練だ。お前も手加減を覚えろ」
やれやれと首を振ったマルス。
「勉強ばっかりやってきた魔法職が、一体何を求めてここへ入門したと言うのでしょうか、健康維持気分ならそこの子供と一緒に遊んでると良いですよ」
ムカ。
なんつう言い草だろうか。
「……手ほどきの続きをどうぞ」
言い返すと、マルスはムッとしていた。
「怪我してもしりませんから」
再び付きが飛んでくる。
ステータス表示は無いが、隠されたステータスと言う物があると師範代は言っていた。
要するに、装備を振り回したり、身につけたりする時に必要になってくるアレだろうか。
スキルを成長させることも身体の成長に関わっているとしたら。
【スラッシュ】の威力だけ上げている俺の状況は一体どうなるんだ。
流石に大剣を自在に振り回すことは叶わなかったが、人の身体なら別だ。
低い位置からのフック。それはもう見た。
「せい!」
「ッッ!?」
動きを線で読む、マルスは俺を甘く見ている。
油断ゆえに、トリッキーな動きは無いだろう。
そのまま大きく身体を密着させると、袖と襟を掴んで背負って転がす。
本来ならこれで一本なのだが、ここでは違うだろう。
明確な終わりが無いので、絞めにかかる。
「まて! おわりだ」
師範代の掛け声で、マルスの首元から手を離した。
彼は首を手でおさえ咳き込んでいた。
「卑怯だぞ!」
マルスは充血した目で叫ぶ、かなり荒い言葉遣いになっていた。
「いや、油断していたお前の負けだ」
「くっ、……ありがとうございました」
お互いに一礼してマルスは「今日は帰ります」と一言告げて去って行ってしまった。
師範代が近づいてくる。
「ふむ、剣を持っているということは、そう言うことだったのか」
「はい」
多分師範代が思ってることと俺が想像していることは違う。
だが面倒なので二つ返事で答えておく。
「魔法職なのに柔術を使うのか? マルスを倒したということは、黒帯を与えてもいいが……」
「剣術が、特に刺突系の物を学びたいと思っています」
そういうと、師範代は、
「組み伏せて……、突き刺すのか……、物騒なことだな」
と顔を歪めていた。
魔物相手にタイマンを張るつもりは毛頭ないんですが……。
「これはあくまで自衛の手段で、魔物相手には刺突武器が一番良いと思うので、そっちの方で修練をさせて頂くとうれしいのですが」
「理に適ってるな、刺突系は鈍らじゃなければ誰にでも通用する。よし、うちの基礎はどの武器でも通用するが、本格的に刺突系の剣術が習いたいのであれば、一筆書くが?」
「一応お願いします、でも通えるかまだはっきりわからないので、その旨も」
「気にするな、いつでも好きな時で良い」
その後、ちびっ子達をすっ飛ばして、町の主婦やおじさん達と一緒に武道場で稽古を積んだ。
稽古を積むと言っても、型にそって身体を動かす程度、だがこれで【ブースト】のスキルが手に入っていた。
◇スキルツリー
【ブースト(最適化)】
・効果Lv2/10
・消費Lv2/5
・熟練Lv2/5
なんじゃこりゃ。
初めからLv2スタートだし、魔法職なのに必要レベルが掲示板でみたアレと一緒だった。
「驚いたか、戦い方にはそれぞれにあった身体の動かし方がある。すると自分にあったスキルが身に付くんだ。ブーストという初級スキル一つにもこういったカラクリがある」
稽古を終わらせた俺に、師範代は親指を立てながらそう言った。
グローイング・スキル・オンラインのグローイングって色んな意味があんだな。
そして【黒帯】を手渡される。
「マルスに勝ったから、階級的に黒帯でいいだろう。その道着もやるよ、サービスだ。なかなか軽くて丈夫だからな、使うと良い」
「ありがとうございます」
【道着】軽くて丈夫な素材で作られた服。
・動きを阻害しない。
・防御Lv3
・耐久100/100
【黒帯】軽くて丈夫な素材で作られた帯。色で階級と性能を表す。
・防御Lv1
・身体能力系スキルレベルボーナスLv1
・耐久100/100
黒帯には魅惑の効果があったじゃないか!
初心者用のローブと比べてみる。
【初心者の服】最安価の布で作られている服。
・安い。
・防御Lv1
・耐久100/100
【初心者のローブ】最安価の布で作られているローブ
・安い。
・防御Lv1
・耐久100/100
この初心者用の装備。
実はチュートリアルの品物で、非売品なのだが、買い戻しは可能なのである。
さっそく道着を付けようかと思ったが、……魔法使いのイメージじゃないよな。
元よりローブに剣を持ってることと、道場に足を運んでいること事態。
一般的な魔法職から外れてる訳だが、それも仕方ないね。
とにかく【黒帯】は儲け物だった。
さっそく黒帯だけ身につけとく。
今のスキルツリーは、
プレイヤーネーム:ローレント
職業:魔法使い見習いLv5
信用度:20
残存スキルポイント:0
◇スキルツリー
【スラッシュ】
・威力Lv7/10
・消費Lv1/10
・熟練Lv1/10
・速度Lv1/10
【ブースト(最適化・黒帯)】
・効果Lv3/10
・消費Lv3/5
・熟練Lv3/5
【アポート】
・精度Lv2/10
・距離Lv2/10
・重量Lv6/10
・詠唱Lv1/1
【投擲】
・精度Lv1/3
・距離Lv1/3
【掴み】
・威力Lv1/3
・持続Lv1/3
顔がほくほくしてくる。
【ブースト】のレベルがオール3に。
レベルで言うと、約3レベル分も得をしたということだ。
これで【アポート】に問題なく振ることが出来るはずだ。
序盤で相当苦労していたグリーンラビットの群れとか、いや、森の入り口も一人で踏破しきれる位かもしれないな。
まだログアウトの時間ではないので、次へ向かうことにする。
刺突系の武器を買いに行かなくてはならない、持ち金はトモガラとの狩りで少しだけ得た分がある。
素材は相変わらずグリーンラビットの肉か皮しか無いが、どっかで料理してくれる場所を探さなくてはいけない。
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プレイヤーネーム:ローレント
職業:魔法使い見習いLv5
信用度:20
残存スキルポイント:0
◇スキルツリー
【スラッシュ】
・威力Lv7/10
・消費Lv1/10
・熟練Lv1/10
・速度Lv1/10
【ブースト(最適化・黒帯)】
・効果Lv3/10
・消費Lv3/5
・熟練Lv3/5
【アポート】
・精度Lv2/10
・距離Lv2/10
・重量Lv6/10
・詠唱Lv1/1
【投擲】
・精度Lv1/3
・距離Lv1/3
【掴み】
・威力Lv1/3
・持続Lv1/3
◇装備アイテム
武器
【凡庸な長剣】
装備
【初心者用のローブ】
【初心者用の服(全身)】
【黒帯】
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お読み頂きありがとうございます!