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 残念ながら掲示板メモには載っておらず、結果的にテンバーの町を歩き回るハメになった。

 思えば、久々に歩くというか、ほとんど門までの道、もしくは公園への道、スティーブンの家の道、他は懇意にしてもらっている生産職メンバーの工房とか、俺の行動範囲は随分と狭かった。


 初の遠出がレベル二十近くになってノークタウンに馬車で行ったくらいだもの、町よりフィールドに出てる時間の方が多いのは当たり前。

 生産職ではない、生産職ではないのだ。

 すっかり漁師をサボって自由気ままに冒険ばかりしていた。


 それに釘を刺すように、スティーブンからの頼みごと。

 強制ではないが、言いつけは守らなければ後が怖い。

 ここで破門になると、夢のテレポートがついえてしまうことになるという。


「公園、もう屋台やってないな」


「くうん」


 ローヴォは儚げに泣いていた。

 でもサイゼとミアンがログインしているみたいなので、プレイヤーの第一拠点の定食屋にいるのだろう。


 ローヴォよ、そう悲しむことも無い。

 いつでもサンドイッチは食べれるぞ。


 アイテムボックスから朝食の残りを適当に詰めたバケットを取り出して、ローヴォに見せてみたが、そっぽを向かれてしまった。

 いっちょまえに味しめやがって。


「大分静かになったけど、まだまだ人はいるみたいね」


「ん?」


 振り返ると空き瓶がダース単位で入れられた小箱を抱えたレイラが立っていた。


「何してるんだ」


「ポーションの空き瓶回収よ。経費削減」


 そういって胸をはるレイラ。

 すっかり姉御肌が板に付いて、鑑定してみたら中級薬師のままだった。

 流石にまだ上級は無理か。

 薬師レベルがハイレベルな代わりに、戦闘スキルにはマジで振ってないらしい。


「サイゼの屋台が無くなれば新しい何かが来る筈よ、……ほらあそこ」


 懐かしそうにいつもの屋台のあった場所。

 備え付けられていたテーブルや椅子を眺めているレイラは、一つの屋台を指差した。


「いい匂い、……やきとりかしら?」


「いや、この匂いは違う」


 近付いてみる。

 よく見たらやきとりもどきを売ってる店だった。


「へいへい、俺のやきとりもどきはうめーよ、やべーよ」


「……ひとつ、貰えるかしら?」


 レイラの顔が呆れ返る。

 その理由に、やきとりもどきを自称する男は、裸一貫だった。

 厳密に言えば下着型インナーを身につけているのみ。

 オンラインゲームでは裸、無課金ユーザーだというのだ。

 これもトモガラから聞いた話なので定かでは無い。


「懐かしいな」


「味が?」


「いや、俺も同じ時代があった」


 スキルを買いたくて初期装備を売った。

 そしてそのままインナーのままフィールドに出て、白い目を向けられつつ、森へ向かいプレイヤーキラーに殺された。

 良い思い出ではないが、右も左もわからなかった頃である。


「なんで裸なのかしら?」


「屋台と、肉と、野菜を仕入れるので全て金は使った。足りなかったから必要な物以外を売った」


 漢だ。

 真の漢がそこにいた。

 俺と何気に裸秘話背景も似通っているという。


「一つ下さい」


「へい、あいにくだがガーリックソースしかない」


「構いません」


 ニンニクとかあったっけ……。

 とか思いながらかぶりついてみた、ローヴォも欲しそうにしているので半分わけてあげる。


 うむ、美味い。

 一昔前のコンビニでこんなの見たことある。

 チキンステーキが串になったやつ?

 それに近いね。


「いいじゃない、もう一つ貰える?」


「じゃんじゃん食べて行け、テーブル席のポジションは流石に高くて借りれないが、端っこならほぼただ同然だ、俺は端っこでB級屋台グルメマスターになる」


 裸漢は夢を語る。

 邪魔な物を全て取っ払っても夢を目指す。

 良い心意気、感服ものだ。


「じゃ、他に何かやりたいことってあるの?」


「……焼き鳥屋がいい、だがタレが無理だ。後はラーメン屋もやりたいな、他にはなんだ、そのまま酒も提供できるようになって、俺の考案したB級グルメを出せるフードエリアがいい、勿論野外だ、ガーデンだ」


「まあそれはいいわ、気になったのだけど、なぜガーリックソース? 普通に塩こしょうでよくないかしら?」


「ブリアンちゃんの所のニンニクは、ソースに加工して使うだけでスタミナが増す、その分食欲も増すが、そこそこの効果を持つスペシャルフードになる、調味料も利かせてるぜ、だがゲームだから美味さの次は効果も重要だぜ」


 それが、生き残る為の一つのやり方なのかもしれない。

 彼なりの商売戦略と言った所だろうか。

 おみそれした。


「そうだレイラ、ステファンって誰かわかる?」


「相変わらず名前覚えないのね……、黒帯はなんでしめてるの?」


 半目で見つめるレイラ。

 黒帯で思い出した、そうだステファンって道場の師範代じゃないか。

 ぶっちゃければ、自己紹介とかせずに鑑定で名前見てるから、師範代は師範代としか覚えてない。


 俺、記憶障害持ち?

 そんなことを思いながらも、掲示板にステファンは師範代、マルスはその弟子であるとメモって行く。


 気を取り直して、レイラと裸漢と別れた後、道場へと向かった。

 門をくぐる前に、スキルポイントを【息吹】に振っておこう。



◇スキルツリー

【息吹(最適化)】

・効果Lv9/10

・消費Lv1/10

・熟練Lv10/10

※称号”道場二段”スキル。



 効果Lv7→9へ。

 着々と育っている感が出ている。

 レベル三十で【アスポート】を覚えられることを考えると、丁度良いくらいにスキルを上げて行けてるんじゃないか。



Lv26

・効果Lv10/10

・消費Lv2/10

・熟練Lv10/10


Lv27

・効果Lv10/10

・消費Lv4/10

・熟練Lv10/10


Lv28

・効果Lv10/10

・消費Lv6/10

・熟練Lv10/10


Lv29

・効果Lv10/10

・消費Lv8/10

・熟練Lv10/10


Lv30

・効果Lv10/10

・消費Lv10/10

・熟練Lv10/10



 うむ、計算してみたが何とかピッタリこなせそうだった。

 気になる【エナジーボール】はどうなのだろうか。



◇スキルツリー

【エナジーボール】

・威力Lv3/5

・消費Lv1/5

・熟練Lv1/5

・詠唱Lv1/5



 威力マックスまであと少しだというのに。

 ギリギリ足りないではないか。


 スキル強化の書が欲しい。

 熱望するぞ、スキル強化の書。

 トモガラがログインしたら、ホブゴブリンを狩りに行ってみようかな。

 よし決めた、毎日ホブゴブリンのシークレットエリアへ行こう。

 金策にも繋がるし。


「待っていたぞ!」


 相変わらず暑苦しい声がした。

 そして腕を組む師範代の隣にはマルスも立っている。

 青い髪の青年は、どこか垢抜けたような印象がある。


「師匠に言われたもので」


「それでも遅い!」


 次はマルスが返事をするのだった。

 どこか垢抜けた印象を受けたマルスだったが、その一言を聞く限り、ああこいつ、ただ熱血馬鹿になっただけなのかもしれないと、溜息が出たのだった。


「何故溜息が出る!」


「いや、失礼しました」


「なら勝負だ!」


「ええ」


 構えのまま飛びかかってくるマルス。

 身体強化は?

 一先ず要らない、フィジカルベールもまだ使わなくて良いだろう。

 それが鍛錬になるならば。


 頭を切り替え、すぐ鍛錬主体で考える。

 俺も同じ脳筋見たいなもんじゃないか、そう思うと少し笑えた。

 師範代も一つ頷くと、声高らかに。


「——始め!!」


 そう告げるのだった。


「脛当て、手甲、それがお前の戦法かローレント!」


 ステップを踏んでから、マルスの右足が重心になる。

 左足の送り脚を後ろから右に捌き、俺はそれを読んで右からの攻撃に備える。


 ややマルスの上半身がぶれた。

 未熟故に?

 そうではない。


 フェイント。

 右へ踏み込み打つ、ではなく、本命は下。

 左送り脚を流し、そのまま左ひざを付く、落とした身体を起点に大きく身体を回して脚払い。

 対する俺は、何がどうなったかはわかっていながらも、対処できずに脚を払われた。


「これで投げれないだろ! いくぞ、対お前用に考えた組打撃だ」


 初邂逅で一本背負いして、絞め技を極めた。

 それを覚えていたのだろう。

 得物に強襲する虎のような素早い動きでマルスが俺のマウントポジションを狙って来た。

 柔道ですぐに身体を捻って背を向ければ、そこで「待て」がかかるだろう。


 だが師範代はどうか?

 いや、無いな。

 ならばここは正面から受けて立つ。

 無防備に後頭部を晒す必要も無い。


 そして彼は、一つ勘違いをしている。


 マウントポジションからのパウンド攻撃は強い。

 元々ボクシングに似たステップを刻む彼の本命は打撃。

 そして段位を持つマルスの打撃は熾烈を極めるだろう。

 手甲の守りを越えてきそうだ。


「させない!」


 攻撃がくる前に、馬乗りになったマルスの襟首を締めにかかるが、容易に腕を弾かれてしまった。

 そして振り上げた拳が、俺の顔面めがけて振り下ろされる。


ッッ!? ————てええッッ!!」


 ま、攻撃が届くことは無い。

 押さえよりも打撃メインになってやや上半身よりに馬乗りになったマルスの体勢は、俺の癖の悪い脚を自由にした。


 道場は、板間での稽古を行う。

 よって裸足である。

 男にしては長めの青い髪を、脚の指で挟んで思いっきり引っ張った。

 首がグワンと後ろにそれる。

 そしてブチブチブチと後頭部の髪が何本か抜ける音が、感触がする。


「ガハハハ!!! そう言うこともあるな! 懐かしい! 俺も昔やられたことがあったよ! 卑怯だと罵ってやったが何でもありルールの前には俺が如何に子供だったかと!」


 マルスの様子を見て師範代が笑っていた。

 形勢が逆転する、さっさと組み敷いて落とそうかと思ったが、マルスは歯を食いしばって後転し、そのまま全身のバネを使って身体を伸ばし立ち上がった。


「くっ、卑怯だとは言わないが」


 何か言いたげな表情は伝わって来た。

 せっかく勝てる所まで来たのに、卑怯な手で、いや脚で……、と思ってそうである。


「……では、”待て”と言うことで、もう一度あの状態から始めますか」


 そう言うと、ほう、と師範代が首を傾げた。


「いいのか? 背筋を重点的に鍛えてるマルスの打撃はそこそこの威力だぞ?」


「構いません」


「……一撃でくたばらせてやる」


 マルスの神経を逆撫ですることに成功したようだった。

 本意でないが、高がマウントを取っただけで勝てるとふんでもらうのは些か奢りが過ぎると言うもの。

 正攻法で蹴散らしてやる。


「では……」


 体勢はマルスが俺を転ばせてマウントポジションを取った辺りから。

 こいつ、既に構えてるし、脚で髪を引っ張られないように若干背を曲げている。


「——初め!!」


 同時に右ストレートが振り下ろされる。

 首を捻って躱すとすぐに左拳が降って来た。

 首を起こす、受けるならば額だ。


 ——バキッ。

 拳が折れる音か、俺の頭蓋骨が砕ける音か?

 構造的に拳だな。

 当たり前か。


「うぐっ」


 苦痛に顔を歪めるマルス。

 それでも、打ち勝とうとすぐに狙いを定めた右手が振り上げられた。

 ご丁寧に折れた左手で顔を抑えてやがる。


 俺は両手を左手に絡ませる。

 左手を五本指でマルスの左手首に掛け、返す右手で肘の部分を掴んだ。

 そのまま馬乗りになるマルスの脚を自分の脚で固定して、右に力を込めながら大きくブリッジ。

 ドサッと俺とマルスの身体の位置が逆転する。


 彼の身体を這い上がるように、匍匐前進するように上半身へ移動すると、痛んでいない右の腕を脚で固定して、襟首を持って締めにかかる。


 ジ・エンドだな。

 最後まで諦めなかった、タップしなかったマルスの腕から力が抜ける。

 それと同時に俺も離れて立ち上がり、礼をした。






格闘回です、少し早めの更新でした。

タイトルに関しましては、考え中ですね。

面白い、これだ!と思う物があれば良いのですが。


……グローイング・スキル・オンライン

そのまんまですかねwww


わさーっと、レベル上げさせてそろそろアポートの次の段階に行ければいいんですけどね。

うむ。


何かございましたら気軽にお問い合わせください。

感想、コメント、返信する暇が余りない状況ですが、全て読ませて頂いてます。

できれば返信したい。

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