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南の森の奥。
徐々に傾斜が厳しくなって行く。
この辺りから【ファイトモンキー】というおちゃらけた猿のモンスターがちらほらと。
「キキッ!?」
一閃の後、断末魔。
トモガラの投擲した手斧がファイトモンキーの頭蓋を勝ち割った。
「うわ、珍味だって」
「錬金素材だよ」
トモガラの言葉を訂正しながら、ビンに詰めておく。
猿の頭を丸ごと、そして頭蓋骨をパカッと開いて脳を食べる料理がある。
十六夜を連れてくればその禁断の料理が可能になる。
絶対にやらないけど。
ファイトモンキーと戦う上で重要なことは、一瞬で殺しきること。
バトルゴリラの居るエリアには既に入っている。
ローヴォも辺りを警戒しながら俺達の先行を努めてくれるが、猿に呼び出されると一発アウト。
まず何が起こるかというと。
――ズゥン。
こんな風にデカい岩が……。
は? え?
「ウォォォン!!」
敵とのエンカウント。
危険を知らせるローヴォの遠吠えが響く。
「でけぇ岩だ!!」
トモガラが叫んだのも束の間、既に岩の上には筋骨隆々の霊長類。
握力五百キロを余裕で越えてそうなゴリラが佇んでいた。
「ギャアアア―――!!!」
俺をひと睨みしての咆哮。
トモガラなんか見ちゃいなかった。
それで理解する。
初めから、この大猿は俺のことをロックオンしていたのかもしれないと。
「無視すんな!」
俺を狙って飛び上がったバトルゴリラ。
その頭上から山の傾斜を利用して飛んだトモガラが、スキルを唱えて強化しながら、頑強な筋肉と頑丈な体毛に覆われたその背中に斧を振り下ろした。
刃物なのに打音が響く。
タイヤのようなやや硬質なゴムを殴ったときのように。
トモガラの顔が歪む。
そして後ろを払うようにバトルゴリラの肘が炸裂する。
「トモガラ! ッ!」
山岳用の杖として使っていた六尺棒で距離を取り、いなすようにバトルゴリラの横っ面に押し当てる。
身体能力を上げるスキル【ブースト】を使ってる暇なんて無かった。
「フィジカルベール!」
かなりギリギリだ。
そしてとんでもないことが起きた。
全身使って力を込めた結果、ついに六尺棒が折れてしまった。
ショックはデカい。
口を歪ませたバトルゴリラの手の甲が羽虫を払うように俺の顔面に直撃する。
首がねじ切れる程の一撃、身体も引っ張られて回転しながら山を転げて行く。
あれ、強くない?
【バトルゴリラ】Lv13・憤怒状態
ファイトモンキーがクラスチェンジした中位種。
従えてハーレムを形成し、戦いを好む。
・古代牙獣の眷属
目を疑った。
俺の知ってるモンスターではない。
俺の知ってるバトゴリじゃねぇ!!!
たしかレベル6前後だった筈。
そして【群れのボス】と書かれていた気がする。
それが今は何だ?
古代牙獣の眷属って何じゃそりゃ。
その動きから、前のゴリラよりも格段に強化されたゴリラだということが想像できた。
[回復のスクロールを使用しますか?]
[yes/no]
HPが雀の涙程になっていた。
中級回復ポーションをストレージから、そしてクリスタルも起動して回復のスクロールを使用しておく。
トモガラも立ち上がって鉞を持って虎視眈々と狙っている様だった。
合わせるようにローヴォも唸りを上げながら警戒している。
「おい、毒の準備しろ」
無言で頷いた。
現時点でのチート級アイテム。
チェインバイパーの神経毒。
プレイヤーキラーの手に渡ったらかなり厄介な代物だ。
だがしかし、現時点であの蛇の奇襲を避けれるなんてガチの最前線プレイヤーくらいだろう。
時間はかかったが、ぶっちぎりで最前線を走ってるのは俺とトモガラである。
譲れない所だ。
プレイ時間だってぶっちぎりだ。
生半可な廃人には届きそうも無い。
と、トモガラに言われたので、そうなのだろう。
周りの反応を窺ってみたが。
『まあ、否定はしないである』と、ガストン。
『はいはい、リアルの仕事の話をするのはNGよね』とレイラ。
『拙者はぶらっくぷれいやぁ、廃人と比べないでほしい』といつもログインしてるツクヨイ。
『見習いたいですね』と十六夜。
『……仕事辞めたら、ローレントのせいだからねっ!』とセレク。
色んな反応が返って来た。
誰も否定してこなかったのでそうなのだろう。
「全力なのに、超かてぇ!」
「あれ、両手とも鉞にしたの」
「今戦斧作ってる最中だ。まあ、樵夫スキルに斧の耐久減少を軽減する物があるだけなんだがっ!!!!」
手斧を投げて、腰から鉞を引っこ抜く。
ちなみに彼の装備は腰に鉞を二本と手斧をさげている状態。
あれ、三つ装備してないかと思ったが、樵夫の仕様が武器以外に仕事用の斧を携帯できるんだとか。
「良いな、その仕様」
「釣り竿でも持ってろ!」
口から漏れていたようだ。
トモガラはそう言いながら大きく跳躍した。
手斧弾かれるがその隙を付いて疾走。
ローヴォも身体を低くして一気に眼前へと飛びかかる。
「ふんっ!」
「ギャアア!!」
ローヴォを薙ぎ払う一撃を大振りにした鉞で弾き飛ばす。
ヌンチャクでなぐってもびくともしなかった手が指が、何本か拉げていた。
威嚇と共に悲痛な叫び声なのか。
「斬れないのがおかしい!」
ごもっとも。
その間に俺はウエストポーチ型のアイテムボックスからチェインバイパーの毒腺を詰め込んだビンを取り出し、銛の切っ先をビンに突っ込んでチート毒を塗る。
「よこせ!」
「へいぱす」
もう一本も同じように塗布して、そのまま投げつけてやれ。
ビンの蓋を開いた時、ゴリラの鼻が微かにひくついた。
感づかれたのかもしれない。
その予想は予々当たっているようだ。
トモガラの投擲した銛は、柄の部分を弾かれてまっ二つになってその辺で折れている枝の一部になってしまった。
「スティング!!」
超加速。
その言葉が似合う程、トモガラの攻撃を弾いたゴリラの隙を付いてスキルを使う。
出来るだけ近く、近くへと。
腕、身体を伸ばしてスキルを使用した。
銛で分厚そうな体毛を越えれるのか。
刹那的にそう思ったが、自分の腕を信じるしか無い。
「やったか……?」
動きが止まる。
そして次の瞬間俺はぶっ飛んでいた。
辛うじて視界に入ったのは、俺を薙ぎ払ったバトルゴリラの左腕。
「ッ」
トモガラが舌打ちしながら飛びかかった。
ローヴォはどうなった。
俺の襟首に噛み付いて引きずっている。
バトルゴリラに呼び出されたファイトモンキーの投石が、さっきまで俺が転んでいた場所に降り注ぐ。
サンキューローヴォ。
HPはどうなった?
回復のスクロールが、妖精さんが徐々に回復させている。
殴られたインパクトの瞬間、HPはガチで尽きてしまったかと思ったのだが、ギリギリの所で踏みとどまっていたようだ。
マジで、【フィジカルベール】をマックスにしておいて良かった。
心からそう思う。
ローヴォは一体どこへ行っていたのやら、と思ったが、かみ殺したファイトモンキーの死骸がその辺に溢れていたので、こいつもきっちり仕事をこなしていたのだと納得した。
「……いや、毒状態っぽいぞ!」
いそいで確認する。
【バトルゴリラ】Lv13・憤怒状態(猛毒)
ファイトモンキーがクラスチェンジした中位種。
従えてハーレムを形成し、戦いを好む。
・古代牙獣の眷属
※憤怒の効果により症状無効(継続ダメージは発生)
憤怒状態ってなんだよもう!
いい加減どうにかなりそうだった。
明鏡止水。
相手のHPを見てみろ、徐々に減って行っているのは確かじゃないか。
そして減って行くHPと共に、バトルゴリラの猛威もどんどん増して行く。
この憤怒状態、HPの残量によって攻撃力でも増すと言うのだろうか。
一撃貰ったトモガラのHPが八割減った。
ぎょっとした顔をするトモガラ。
俺が受けてたら一撃で死んでいただろう。
「ギャアアアアアアア!!!」
悲鳴ではない、怒号。
ファイトモンキーはその声でどんどん増えてくるし、トモガラの回復も追いつかない。
真っ赤に充血したその目が俺を見据える。
そして牙を剥き出しに大きく咆哮。
初めて鳥肌がたった。
ソロでは決して挑んで行けない相手。
格上。
VRの世界だが、自分の唾を飲み込む音が、感触が、妙にリアルに感じた。
そして怒り狂ったバトルゴリラは、俺をかみ殺そうと飛び上がって……。
――そのまま息絶えたのであった。
お待たせしました。
再び毎日更新頑張ろうと思います。
待たせてしまい誠に申し訳ございませぬ。
女の子のイメージ。
エアリル……ゆるフワ系の髪型の癖して、目元はキリっとして真っ赤なリップが似合う女。
アルジャーノ……まんま、ハルヒの長門○キ。ながもーん。
十六夜……ギリシャが3/4、日本が1/4というクォーター、髪は金髪を後ろで束ねている。ぼけーっとしているが実は頭の中で何を考えてるのかわからないタイプ。天然腹黒。
リアルブリアン……超絶美人農家の娘。はっきりした顔立ちで、リアルでは実は訛ってない。
他、女の子登場してたっけ?
出来るだけ女の子を一杯登場させるつもりなんですが。
その二倍男も増えそうですねぇ。
がんばります。
あ、タイトル新しくします。
モチベーション維持のためです。




