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視点戻ります。

 焼け落ちた木々の匂いが立ち込める。

 街から少し離れた場所の森の中に作られた煉瓦造りの建物は半壊。

 そして転がる死体が十数ほど。


「まさか……これほどとはね……」


 四肢を全てへし折られた男が、うつ伏せで這いずりながらそう言っていた。


「言いたいことはそれだけか?」


「うぐ……」


 慈悲はない。

 ローヴォにやったことをそっくりそのままこいつらにやり返しただけだ。

 暗殺者とかそう言う裏家業の連中は拷問は得意中の得意だろう。

 だが、基本的に痛みを最小限にして精神に苦痛を与え、スマートに情報を聞き出すことが優先だ。

 その対象に口も聞けない動物が加わることがない。


 タブーだな、タブー。

 いたずらにプレイヤーをキルするPK行為と何ら変わらない。


 こいつらはそれを犯した。

 だから同じ様にやり返した。


「あの賢者が代理寄越したと聞いていたけど……こんな……」


「御託はいいから、誰に指示されたのか言え」


 目の前でボロ雑巾の様になっているこのシャムと言う細身の男は、ブラッドリーと呼ばれる暗殺集団の中でもそこそこのいる位置にいるらしい。

 昼間の海に色々とちょっかいをかけて来た暗殺者や使われた元海賊に指示を出していた奴でもある。


「指示? 言うわけないでしょ?」


「良いから言え」


「やだよ? バカじゃないの? ハハッ!」


 まあ、そうだろうな。

 情報を吐けと言われて吐く様な奴がそれなりの地位にいる訳が無い。


「って言うか、お兄さん分かってるの?」


「む?」


「僕に手を出すと、いよいよブラッドリーの上層部が動き出すよ?」


 どうやら脅しをかけている様だった。

 鼻で笑ってやる。


「それがどうした」


 そもそも王族暗殺の護衛に回っている時点でえらい騒ぎになっているだろうな。

 ブラッドリーだかクーパーだか知らんが、かかってこい。


「そっくりそのまま根絶やしにしてやる」


 それだけ怒っていた。

 またローヴォに怪我をさせてしまっていた。

 いや、それで済むなら普段の戦闘だって同じだろう。

 だが身内が拷問にあう。

 それが神経を逆撫でしていた。


「情報を得られんものを面白半分にいたぶる奴らなんぞ、ただのお遊び素人集団と変わらない」


「クク、それ、お兄さんだって一緒でしょ?」


「そうだな。お前も俺も言うのは勝手だよな。だが、ここでどう脅しを掛けようと……」


 そのまま羅刹で首を切り落とした。

 男にしては少し長めの髪の毛を目の前に持ち上げると、


「え……?」


 ボロボロになった自分の体を見たシャムが目を丸くする。


「……もうお前の死は確定だ」


「な、なんだよこれ……どう言う事だよ……これぇ……」


「情報なんぞいらんわ。かかってくるなら全部倍にして返してやる」


 なんならこのまま首だけ生かしといてやるから上層部のいる場所に連れて行け。

 上層部もこいつと同じ様な目に合わせてやる。

 元を断てば次の依頼先を見つけるまでエミリオも大丈夫だろう。

 つーか、エミリオを相手にすると危険だと認識されて依頼を受けなくなるから安心だ。


「あんたも大概、僕らと一緒って言うか……もっとひどいよね? 反吐がでるよ?」


「どうとでも言え」


 暗殺者に言われたところで何とも思わない。

 これが親しき友人とか、そう言うのに抵抗がない人に言われたらちょっとは心にくるかもしれないけど。

 昔はそんな事なかったんだけど、今は違うよなあ、なんて思いつつさらに言葉を続けるシャムに耳を傾ける。


「あー、なんかこの状況にも慣れて来たね?」


 随分と余裕になって来たな。

 最初は驚いていたものの、さすがは暗殺者のそこそこのポジションにいた奴と言ってもいいのだろうか。


「で、僕はいつ死ぬのかな?」


「時期に死ぬんじゃないか?」


「あっそ。まあ、今回はちょっと相手が悪かったのかなあ? でも、君のお仲間さんは僕と同じ立場でさらに僕よりちょっとだけ強いベンゼルって武闘派の奴が出向いてるから、無事じゃ済まないかもね?」


「問題ないな」


「へえ、そうとは言い切れないかもしれないよ? 君が置いて来たばっかりに、無残にやられてるかもね?」


 絶対に負けないことが前提にあるから、こいつの言葉はまるでピエロだな。

 コーサーは現状不死身だ。

 死んだところでデスペナルティの後に復活する。

 っていうか、俺の弟子だから勝つ。


「師匠! 大丈夫ですか! ……って大丈夫みたいですね。ああ、今回もえげつない」


「ほらな?」


 ちょうど良いところにコーサーが姿を現した。

 どうやらベンゼルと呼ばれる奴を倒して来たらしい。

 さすが俺の弟子だ。


「あれま……はあ、今回は本当に相手が悪かったってことだなあ……」


 シャムはため息をつくと、笑い出した。


「ククク……でも、護衛対象から離れて暴れてるのってまずくない? プククク!」


「な、生首がクツクツ笑ってる……キモい……」


 コーサーがどストレートな言葉を口にしていた。

 オブラートに包めとは言わないが、これくらいでキモいとか顔を真っ青にして言ってんじゃないよ。


「その言い方ちょっとひどいね! でもまあ、僕もキモいって思うだろうけど……プククク!」


 シャムはヘラヘラと笑っている。

 一体どうしたのだろうか。

 聞いてみる。


「何がおかしい? とうとう諦めたのか?」


「ハハハッ! 確かに僕はもう死んだものとして受け取れば諦めもつくけど……誰かが死んだくらいじゃ任務は止まらないよ? 莫大な金を受け取ってるだろうし、さっきも言った様に上層部も動き出してメンツのために君たちを狩るだろうしね?」


「それはさっき聞いた」


「うんうん、これから頑張ってね? ブラッドリーを鼻で笑ってたけど、規模で言えばかなりのもんだから、これから命を狙われる無限連鎖に入ったかもよ?」


 粘着PKと同じだな。

 そしてPKとPKKでの無限連鎖だ。

 これはGSO初期からずっと起こってるから、プレイヤーに対してそれを言われてもあまり響かない。

 裏稼業とかだったら表の信用問題にも特に関わってこないだろうし。


「さて……教えておくけど。暗殺は遂行されるよ? 残念だったね? 君らの身内に、今回の首謀者が一人混ざってるんだからさ! プクククッ!」


「何?」


「まっ、誰とは言わないけど……僕たちがやられたら最終手段で手にかけるだろうね! あれ、なんか目が見えなくなって来たな……あー、残念教えてあげたいんだけど、もう僕死ぬみたい? バイバイ!」


「待て」


 シャムがそろそろ死んでしまう直前で気になるメッセージが届いたので、その照合のために生かすことにした。

 アポートで手元にポーションをいくつか引き寄せて木桶に蓄えると、そこに生首を浮かべる。

 前にもこう言うことやったなあ……。


「あれ? 死んでない? 延命措置とかさ、極悪非道にもほどがあるんじゃない? 命の冒涜だよ!」


「暗殺者に言われたくないなあ……」


 コーサーの言う通りだ。

 さて、とりあえず聞いてみるか。


「で、身内に敵がいると言っていたが、その相手はフラシカという近衛の者か?」


 そう言うと、シャムの目の色が少し変わった。

 ビンゴだな。


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