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-624-※※※コーサー視点※※※


「執事舐めんなよだって? フハハ笑止。別に舐めてはいないが、たかが執事が一流の暗殺者に勝てると思うなよ? なんだ? 貴様は一流の執事だってでも言うのか?」


 ナイフを乱雑に投げながら、そのナイフよりも早く踏み込んで切りつけて来るベンゼル。


「同じ一流だったら暗殺者の方が職業的上位なんだがなあ!」


「ひっ!」


 執事舐めんなよと言った手前だが……。

 ぶっちゃけ起死回生のスキルなんてないんだよな……。


 スキルも、家事系の作業に対して効果が働くものばかり。

 職業【執事】は戦闘系の職業ではないから当然だ。

 戦う執事、なんてものは存在しない。

 いや戦闘職業を持った人がサブで執事を得ていたら戦う執事だけど……。


「執事だぞ? むしろ執事ごときに翻弄されていた部下が雑魚すぎて話にならないんだけどな」


 ベンゼルの言葉は無視して、どうするべきか考える。

 とりあえず執事スキルの【スムーズムービング】を使用。

 物事を円滑に進めることができるってだけのスキル。

 様々な仕事をこなさなければならない執事職についてるスキルだ。

 スキルを使用しなくても常に起動しているのだが、もう一度使用すると細かい動作がやや素早くなるらしい。


 パンパン!


 ライフルを右肩に背負い直しながら右腕で銛銃を屋根に打つ。

 そして左手に構えた魔銃で威嚇射撃。

 銛銃のトリガーをもう一度引いて、一度上へ跳び上がる。


「なかなかいい動きだ。だが……」


 うわっ、ついて来たよ。

 蜘蛛みたいに壁の突起を掴んでクライミングして来るよこいつ。


「いついかなる時も敵地に侵入しなければならない暗殺者には通用しないぞ」


「蜘蛛かよ!」


「暗殺者10ヶ条の一つ。蜘蛛のように音もなく動き、忍び寄り、そして相手を殺す罠をはれ……だ」


「知らねえよ!」


 何だこいつ怖え、怖えよ。

 師匠助けて!

 いや、師匠は今ローヴォさんの助けに向かっている。

 来るはずない。


 パンパンパン!


 追いすがって来るベンゼルに向かって射撃。


「フハハ! 銃は通用しないと言っているだろう!」


 家と家の間の壁を跳ねまわりながら、魔銃を避けるベンゼル。


「いまだ!」


「ん?」


 弾丸を躱して壁を蹴った瞬間を狙って次はライフルで撃ち込む。

 空中にいれば避けられないはずだ。

 この間、俺もトリガー引いて4階建の建物に向かう途中で、不安定な空中にいるんだけど、スムーズムービングのおかげで、割と簡単に師匠みたいに空中での行動が取れた。


「チッ」


 頭部を狙った一撃は首を振って咄嗟で避けられる。

 図体が大きいくせに動きも素早く反射神経も常人以上とかまじかよ。


「よくも私の顔に傷をつけてくれたな! 今のは私じゃなければ死んでいたぞ! 殺す!」


 掠ったことで、余計に逆上させてしまったようだ。

 相手はライフルによる一撃を警戒してなかなか大きな隙を見せない。

 それが救いだった。


 そうして銛銃から射出されたワイヤーは俺を屋上へと運ぶ。

 ベンゼルの視界から消えた一瞬を狙って、適当に置いてあった木箱に隠れる。

 無くても自分のアイテムボックスから取り出してそれっぽく偽装する。


 一応言っておくが……これは隠れているわけではない。

 注意深く隙を探っているのだ。


 スムーズムービングの利点は、動作が余計な音を立てないことにある。

 何でこんな効果がついているのかわからないが、アンジェリック姐さんは地味な効果は使い所によってはとても優れているものだと言っていた。

 大体が、お付きの騎士達の鎧がガチャガチャうるさいからみんな執事職取らせて静かにさせるって使い方だったんだけど、あの地下室の時もこうやって忍び込んだんだよな。


 師匠も、今でこそ反則じみたテレポートを使えるけど。

 元々は手元にアイテムを引き寄せるだけの地味なスキルだったらしい。

 なんちゃらとスキルは使い様だってことだ。


 うん。

 起死回生のスキルがなくたって、何とかしなきゃだな。


 現状あるもので、自分のできることを全て使って戦う。

 このくらいの困難を乗り越えなければ弟子をしている意味がない。


「次はかくれんぼか? めんどくせえな……つっても屋上に隠れる場所なんて一つしかないだろう?」


 足音が近づいて来る。

 流石にバレるか。

 そりゃそうだよな……前もって潜伏していた訳でも無い。


「一応言っておくが、一流の暗殺者にかくれんぼなんて通用しない。なぜなら……一流の暗殺者は潜伏する技術ですらも超一流だからだ。裏を返せば潜伏事情に詳しく、そして索敵スキルだって上位の物を持っているぞ?」


 ここか、ここか、と言いながらベンゼルは鼻で笑いながら木箱を蹴り壊していく。

 しかも俺が潜んでいない木箱を選んで、あえてそっちから壊し恐怖心を煽る様だった。


「さて、ラストだ」


 最後の木箱が壊れて、ベンゼルと目が合う。


「死亡フラグを回収と行こ──」


 ライフルを構えていた俺を見て、ベンゼルの言葉が途切れる。


「お前が死ね」


 どうせバレることは織り込み済みだった。

 木箱ごとぶっ飛ばされたらさすがに痛いだろうが、それでも木箱がクッションとなって生存率は上昇する。

 そうじゃなければ、師匠がよく言っていた先手と後手の法則で俺が優位に立てる。

 木箱に隠れた状態でライフルを構えていれば、木箱を壊した相手に確実に先手を取れるからだ。


 ガァン!


 至近距離からの発砲。

 よし!

 発砲音とともに仰け反り、ベンゼルの顔面に弾丸が命中したのを確認した。

 顔をぶち抜いた手応えあり。


「……私が超一流の暗殺者じゃなかったら死んでたぞ……」


「!?」


 即死なはずなのに、ベンゼルの声が聞こえて衝撃を受けた。

 首をキリキリと動かしながら俺の方を向く。


「顔面打たれて死なない私は、やはり死亡フラグ立ってないな」


 その頬には風穴が空いている。

 どうやら、俺の撃った弾丸は頬を貫通して抜けてったらしい。

 運なのか、技術なのか。

 一流の頭に超と来てる時点で、ギリギリでそうやって避けたのだろうか……。


「うぐ!」


 首を掴まれてしまった。

 巨体が俺を持ち上げる。


 穴の空いた頬を血でぺちゃぺちゃ言わせながらベンゼルは喋る。


「さて、回収と行こうか」


「……さっきから死亡フラグ……とか……回収、とか……ウッセェな……」


 そもそも師匠によって契約を結んだことで、俺は不死身だ。

 確か24時間後に復活するらしい。


「フハハ、回収しなければ、誰が回収するというのだ?」


「一つ言っておくけどな……お前が回収する死亡フラグとか、そもそも存在しないから」


「フハ?」


「そもそも俺は死んでも生き返るし、テージシティのコーサーファミリーっつーのはウチのことだよ」


 パンパンパン!


 俺の首を掴む手首に発砲する。

 袖口からむき出しになった手首を弾丸が貫通し、拘束が解かれる。

 その瞬間右腕に組みついて、師匠がやっていた様な関節技でへし折ってやった。


「グウォォォぉぉおおおおおお!!」


 腕を抑えるベンゼル。

 だが、その視線はまだ俺に向いていて、すぐさま無傷の左手を用いてナイフで貫きに来る。

 動き的にはベンゼルの方が早い。


 こう言う時は……相手の懐に入れ、死地に迎えと師匠はよく言っていた。

 今がその時だ。


 ナイフで突くために踏み込んで来たベンゼルと接触する。

 その時みぞおちに掌底をいれて、片足の関節も逆から蹴りつける。


「ぐぅっ! だがナイフの間合いだぞ! 血迷ったか!」


「あえてだよ!」


 そう言いながら、軍服のベルトにつけておいた手榴弾を取り出して起動させた。

 それを見て目を剥くベンゼル。


「自爆する気か!?」


「どうせならお前の死亡フラグも回収しといてやるよ。一緒に爆発しようぜ? まあ、生き返るけど」


 っていうかそもそも絶対自爆なんかしたくないけど。

 ブラフだブラフ。

 俺の一言で、死にたくないと思ったのか。

 ベンゼルは大きく距離を取ろうとする。

 だが、彼の服にしがみついてついてった。


「クソがああああああ! 不死身なんて聞いたことないぞおおおお!」


「……やっぱ死ぬの辞めた」


「本当か!? フハハ、いいぞ! スカウトしてやる、高級取りとして貴様を雇ってやる!」


「いや、お前は死ね。って言うか、セリフがずっとフラグ立ってんぞ。最初から最後まで」


 それだけ言って、俺は銛銃を後方に発砲して、しっかり屋上への出入り口の扉あたりに刺さったことを確認すると、トリガーを再び引いた。


「私の死亡フラグだって!? ウソだあああああああ!!!」


 ベンゼルの悲痛な叫びが聞こえた後、爆発音。

 爆風によって屋上を家から家にゴロゴロと転がった。

 落ちなかっただけ運がいいな。


 ギリギリまで粘ったから、投げ返そうとする暇もなく爆発しただろう。

 何とか勝てたよ。師匠。姐さん。







コーサー勝利。

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