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さて、コーサーにフラシカを呼びに行かせてスティーブンの別荘に全員集合となった。
スティーブンが帰ってくる来たらどう説明しようかなと思っていたのだが、全くそんな気配はない。
「師匠、どうするんですか?」
「そうだな……このままゲートを使用して、南の果てであるテンバーでゆっくり観光でもしてもらうか……」
なんとなく、テレポートでの要人警護は師弟クエストの意義が薄れるのでやめておこうかと思ったのだが……。
拷問の結果、屋敷の奴らがわりかし本気で人数を揃えていることがわかった以上、これも止むを得ない。
「せこいですね」
「いつも逃げてばっかりのコーサーに言われたくはないな」
「逃げてないです! 戦略的撤退です! っていうか、逃げても結局意味ないじゃないですか! たまには逃がしてくださいよ! お願いします!」
などと訳の分からないことを言うコーサー。
確かに逃げも大事だが、今のお前は死んでも24時間後に復活するタイプだから命を賭せよな。
「あの暗殺者の口ぶりだと、まだまだ後ろに控えている奴がいるっぽいからな、物理的に距離を取るぞ」
「では護衛として私がテンバーに」
「お前は俺と本陣特攻だ」
「……わかってますよはいはい」
諦めたように察するコーサーである。
そうだ、それでいい。
お前はそのまま転げ落ちるようにして視線を何度も味わえ。
感覚が研ぎ澄まされても、相手の殺気に恐怖しない程度にな!
「えっと、それはどう言うことですか?」
俺たちの会話に耳を傾けながら聞き返すフラシカ。
その問いかけに、俺はスティーブンの家に標準搭載されいてる転移ゲートを開いた。
行き先はテンバータウンの彼の家。
スティーブンとの師弟関係って今思えばすごく奇跡だよな。
移動の手間が省けて素晴らしく良い。
このゲームって他のゲームによくあるマップごとのポータル的なものとかないし。
「これからこのゲートを用いて、テンバータウンに戻ってもらう」
「テンバー? 南境の田舎町ですか?」
プレイヤー達のおかげでそこそこ発展して、お偉いさん達がこぞって欲しがる南の辺境を知らないのか?
まあ、王城勤務の公務員みたいな立ち位置だろうし、さもありなんだな。
「この家は、テンバーのスティーブンの家に繋がってるからな」
「待て、ここローロイズで情報にあった敵を打ち砕くのではないのか?」
「ガイド様の戦っている姿をぜひ見学したいです! あの拷問もなんとか見れました!」
正義感の強そうなグレイスは戦いたいらしい。
エミリオも中途半端にやる気に満ちているようでもある。
「いや命優先だな」
「しかし!」
「でも!」
「ならば、一緒に来るか? 敵陣ガイドを受け持ってやる。だが……命の保証はしない」
その一言で黙る二人である。
「まあまあ、海の次は山でいいじゃないですか、いろいろ観光できて」
空気を読んだフラシカに促されるように、して彼らとともにゲートをくぐる。
「……本当に移動したのか……?」
「うむ」
テンバーの家に来たグレイスの感想。
そう思うのも当然だな、内装がほとんど変わってないし。
そんなことを話していると、
「騒がしいですね……来客とか予定ないんですけど……」
奥の部屋からとんがり帽子をかぶった女の子が現れた。
ツクヨイだ。
「あれ、ローレントさん? どうしたんですか? それにこの人たちは誰なんですか?」
質問が多いな。
「王族とその護衛である近衛兵と一緒にテンバータウンの観光ガイド」
「……いきなりいろいろ聞いた私が悪かったです。ちょっと意味がわかりませんですはい」
「そのまんまだよ」
「ってことは王族のNPCって……ええええ!?」
驚くツクヨイは「失礼しましたあ!」とひれ伏していた。
それを見てコーサーが「やっぱりこれが普通の反応ですよね」とかホッと呟いてる。
「今はお忍びですから、そこまでかしこまらなくてもいいですよ……?」
苦笑いするエミリオはツクヨイに手を差し伸べて顔を上げさせた。
「そういえばガイド様、ここはテンバーの賢者様の家ってことですよね? と、言うことはこの人も賢者様もお弟子さんのような方なんでしょうか?」
「妹弟子みたいなもんだ」
「ツクヨイと申します。ハハァ、よしなによしなに」
「いやその……私のことはエミリオでいいですよ? なんとなく同世代っぽいですし」
よく分からんかしこまり方をするツクヨイに、苦笑いが止まらないエミリオ。
俺もちょっとそのかしこまり方は逆に失礼なんじゃないかと思ってしまった。
つーか、同世代って……ツクヨイ一応専門学生だって言ってたよな。
ってことは18歳以上なんだが……。
「ではエミリオ様と呼ばせていただきますね!」
本人は特に気にしてなさそうなので、このままにしておくか。
血反吐吐きながら毎日更新。
話が間延びして来たんで颯爽にバトル描写に写りたいところです。




