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「そ、その船は?」
「敵から回収した」
船を動かしオニュメント海域内へ戻ってきた。
そのまま横付けして、ロープで二つをしっかり固定する。
同じ規模の船だ。
広さも二倍で、心地よいね。
「……敵はどうしたんですか? 遠目から見て、そこそこの数がいたのは知ってますが」
「海の藻屑」
モニュメント海域に叩き落とした連中もいるだろうが、有象無象で心配はない。
海中潜ってこっちに接近しようが、ローヴォが気づく。
海の中の気配察知も、かなり長けてきているからな。
「ああ、そうですか」
「この船は後で倉庫に飛ばす。借り物じゃないらしいしな」
敵の物資は基本的に接収する方向で行くのだ。
こっちに利があり、向こうにない。
それが一番いい。
ニシトモもなんだかんだ金を欲していたことだしな。
これで今日は船二つゲット。
売ればかなりの額になるだろうし、なんなら自前で使ってもいい。
テージのマフィア達を、ローロイズに何人か住まわせ。
漁に勤しみつつモニュメント海域の外をクルージングしていただこう。
海賊の情報を収集しなければいけないしな。
取れた魚は毎日俺がローロイズにテレポートして、そのまま王都の倉庫に流す。
すると、陸ばっかりの王都で海の魚が新鮮に楽しめる店ができる。
サイゼが魚を調理して、俺が食うという好循環に。
さらに金まで稼げるのではないか!
取らぬ狸の皮算用ではあるのだが、素晴らしく良い案ではなかろうか。
川魚もいいし、肉も美味しいが、こうして海に来ると、海の良さを思い出す。
荒波を越えて得た魚は、まさに宝石のごとき美味しさなのだ。
「師匠ー? 口からよだれが出ていますけど」
「む」
なんか、食べ物のことを考えると腹が減ったなあ。
リアルで食べてるものよりも普通に美味しいと思えるのがダメなんだ。
それ目当てでゲームしてるやつも絶対いると思う。
ちなみにリアルでは基本的にスーパー飯だ。
トモガラに誘われて外食する時もあるが、なぜか言いくるめられておごらされるからな。
あいつめ、こっちでは今何やってんだろうな。
ハザードに負けてからこそこそ一人でどこかの狩場に潜ってるらしいけど。
「まだ食べ足りないとかですか?」
「いや、そんなことは……」
レストランで食べて、船の上でも食べて。
うーん、さすがに腹はいっぱいだと思うのだが……。
どうだろう、まだまだ入る気がしてきた。
スキルの使用とゲーム内アバターの燃費ってリンクしてるのだろうか。
「見直したぞ、さすがだ」
「さすがですローレントさん」
コーサーとそんな話をしていると、グレイスとフラシカがやってくる。
水着から護衛用の装備に変わっているので、しっかり他に敵がいないか見ていてくれたのだろう。
そっちこそさすがだ。
一方、エミリオはまだ水着姿のままである。
いきなりの強襲だったから、装備を変える時間がなかったんだろうな。
もし何かがあってもミサンガ渡してるし、大丈夫だろう。
あ……つーか、コーサーも水着姿じゃないか。
危機感がなってない。
今度の修行ではみっちりしごいてやることにしよう。
「あ、あの! ガイド様!」
「ん?」
水着姿のエミリオが前に出て言う。
「私を弟子にしてください!!」
「「エミリオ様!?」」
いきなりそんなことを言い出したので、グレイスとフラシカが驚いていた。
「な、何を言い出してるんですか!?」
「そうです! エミリオ様に腹筋なんて認めません!」
「グラシカさんの心配はそっちですか……?」
小声でツッコミを入れるコーサーを尻目にエミリオは言う。
「ガイド様は、本当は私の状況を知った上でガイドを頼まれた護衛の方ですよね?」
「……違うけど」
完璧にガイドをこなしていたというのにバレていたのか。
コーサーを呼んで船の先端で耳打ちする。
(どうする、どうやらバレているようだ)
(え、あれでバレてないって思ってたんですか?)
(む?)
(……巨大なタコ蹴散らしたり、いきなり海に潜って昆布取ってきたり、強襲してきた敵をあらかた蹴散らしたりすれば、そりゃバレますって……)
むむ……?
なんだって?
「どこからどう見ても釣りガイドだろうが」
「袴姿に麦わら帽子って……やっぱり最初から設定に無理がありますって……」
コーサーの言葉もわかる。
だが、一応体裁として俺は観光ガイドなのだ。
表向きは観光ガイドなのだ。
だからこそエミリオを向いて言う。
「今日は観光ガイドだ!」
グレイスも一応「そうです、観光ガイドです」とフォローを入れるが、フラシカは苦笑いを浮かべながら頬を掻いていた。
「今日はって……師匠……語るに落ちてると言うか……」
「普段はお前の師匠として稽古つけてやったりしてるから、観光ガイドじゃないって意味だ」
「ああ……まあ、はい」
「観光ガイドとして、常に安全には気を使うから敵が来たら倒すのはあたりまえだろう? 故に護衛じゃない。それが観光ガイドの仕事だ」
「もうなんでもいいです、はい」
そもそも王族の弟子なんか、ちょっと厄介すぎると思わないか。
繋がりを持つのは大いに結構だし、ニシトモもあの細目をさらに細めてニンマリするだろう。
だが、弟子はなあ……。
女の子の弟子って、ちょっと扱いに困りそうだ。
コーサーみたいに死地をあえて歩ませたりとかできなそう。
そんなことをしてしまったら、お偉いさんとか黙ってないだろうし。
よし、ここは勢いで押し通そう。
今日は武術家でもなんでもなく、ただの観光ガイドなので、観光ガイドの弟子なら取れる。
それならエミリオも諦めてくれるはずだ。
「フフ、なら観光ガイドの弟子にしてください」
「えっ」
少し顔をほころばせたエミリオに、先にそう言われてしまった。
意表を突かれてやや困惑する俺を、ローヴォが鼻で笑う。
この駄犬めが。
「観光ガイドの弟子でもいいのでお願いします」
深々と頭を下げながらエミリオは言葉を続ける。
「形振り構っていられないのは事実ですし、ガイド様は言いましたよね? 諦めないことが大事だと」
「……それと観光ガイドの弟子がどう関係するんだ?」
「観光ガイドは敵が来たら倒すのでしょう?」
「む」
「だったらその観光ガイドの弟子でもいいです。私は、諦めずに前に進めるだけの力が欲しいのですから」
……やっぱり観光ガイドの弟子を取るのもやめようかな。
女子供に居座られるのは鬱陶しい。
ツクヨイとラパトーラみたいな、ちょろちょろうるさく絡んでくる輩が増えるのは面倒だ。
頼み事とか、そう言うのはメッセージでやり取りできれば一番なんだけどな。
必要があれば俺から出向くのだし……まあNPCにそれを言ってもしょうがないけど。
「とりあえずその話は一旦置いといて、そろそろ陸に戻るぞ。海は終了だ」
エミリオの表情からは、私諦めませんよって感じの気合が伝わってくる。
このまま船の上で粘られ続けても面倒なので、一旦街に戻ることにした。
もう少しマイルドな表現にしようかなーとも思うんですが。
いやいや、GSOって逝かれたキャラとわずかなエグ味とその他諸々勢いで成り立ってるし、WEBはこんなスタンスで突き進みます。




