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「よっしゃ、最悪船に積んだ爆薬ごとぶつかっちまうか?」
「なら障壁のスクロールを忘れるなよ。肉スライムになっちまうからな」
「ハハッ、抜かりねえよ。なんなら偽造師も読んで、事故に見せかけてお陀仏させちまえばよかったか?」
「無理だろ。あいつら法外な値段ふっかけてくるからな。ってかあんな奴らと仕事とか、気持ち悪くてやってらんねぇだろ」
「違いねえや。まあ、死体も残らねえくらい木っ端微塵に……」
ごぼぼっ。
「ん? 昆布?」
「昆布? どうした?」
「いや、昆布が一瞬変な動きしたと思ったんだけどよ?」
「引き潮だから、海藻も見えてくるだろ。それに海の中も風みたいに海水の流れがあんだぜ?」
「そりゃ知ってるけどよ。潜った漁師に聞かれてたらヤベェかなって思ったんだ」
「この辺は昆布多すぎてろくに釣りもできないって噂の閑散とした場所だぜ? 前が見えねえくさい昆布があんだ、これじゃ漁師も寄り付かねえよ」
「そうだな……まあ魚か。あ、そうだ。これ終わったら魚でも食べ行くか」
「そうだな。ローロイズといえば魚だろうし、殺し祝いでもしてこよう……ぜ……?」
ザバァ。
「ん? どうした?」
「い、いや……おい、後ろ……う、後ろだ……」
「後ろ? いったい何を言って……」
「よう」
「──ほわあああああああああああ!?」
「──こ、昆布!? 昆布の化け物だあああああ!!!」
誰が昆布の化け物か。
確かに全身に昆布をまとっているが、これは不可抗力だ。
まさか、群生している昆布の中に魔物が混ざっているなんて知らなかった。
キラーケルプ。
今しがた地味に殺されかけて、根元からぶち抜いて倒した魔物である。
うごめく触手のように昆布を使い、なかなか強かった。
……海に水着装備で狩りに赴いた女性プレイヤーはとにかく危険な代物である。
カンディリアさんより、危険かもしれない。
さて。
「人間だ馬鹿野郎」
ビビってくれた隙をついて、手に持った昆布で目の前にいた男の首を締める。
普通の素材昆布よりもかなりしっかりしたのがキラーケルプから取れる昆布だ。
名称は魔昆布。
【魔昆布】
魔素をよく含んだ昆布。
魔素系素材によくある特性を持つ。
噛み切れないほど硬いので一般的な食材には向かない。
だが、特殊な調理法を使用することでその味は……。
マ、マコンブ?
言いやすいんだか言いにくいんだか、よくわからんネーミングだ。
食材には向かないと書いてあるが、特殊な調理法を用いることによって……何やら変な説明書きが使われていることから、なんとなくそれすればめっちゃ美味いのかもしれない疑惑が出てくる。
特殊な調理法って出汁とるとかかな?
なんにせよ、ローロイズのレストランでは昆布の風味はなかった。
そして、漁師も嫌うとこの暗殺者たちが言っていたことから、これはこの地の料理に革命をもたらす食材なのかもしれない説が浮上した。
「くっ、名前持ちの魔昆布!? 職業持ち!? どうなってんだ!!」
「だから人間だってば」
昆布について考えていると、首を絞めた人は窒息。
残った奴らが攻撃を仕掛けてくるのだが、絞めた男をハンマー投げの要領でぶん回して全員海に叩き落とした。
ザブンザブン!
「くそっ!! 昆布気持ち悪い!」
「そ、そんなことより、あぶぶ! た、助けてくれ! がぼがぼ! 俺泳げなっ! あぶぶ!」
「ちょっとまってろ、あいつ蹴散らしてすぐに助け──な、なんだ!? 何かが足に絡みついて!」
魔昆布だな。
泳げない状況で魔昆布に捕まるとか、災難だ。
そして海中での戦い方を知らない奴にとっても魔昆布は災難だ。
水中補正がついた水着装備。
もしくは水属性の魔法補助がついている状態ならば、まだ戦えるかもしれん。
だが、一般的な装備を身につけている状態だと、水は驚異。
動きを取られて、酸素も足りなくなる。
レベルを上げて人外になろうとも、息ができなければ死ぬのだ。
「ス、スクロールだ!」
「ダメだ、て、手足が動かせねえ!」
「た、たす──」
倒して急いで船に逃げた俺とは違って、気が動転した暗殺者たちはあれよあれよと昆布に飲み込まれていった。
引き潮でその体を伸ばせなくなった昆布は窮屈そうに蠢いている。
うーん、なんというか意外とこれは怖いかも。
サメの映画が怖い怖いというが、昆布映画も怖いのでは?
うごめく昆布。
アリだと思います。
頭が二つに分かれてたり。
幽霊になったり。
竜巻になったり。
タコと合体したり。
そんなことさせるくらいならばサメ以外で映画を作ればいいのに。
ドキュメンタリー以外で昆布映画があるなら、是非とも見てみたいと思った。
「あっ、ラッキー」
暗殺者を飲み込んで、再び元の静けさを取り戻した町外れの波打ち際。
磯の岸壁に、干からびた昆布を発見だ。
これでたこ焼きに新たなアクセントを付け加えることができるだろう。
目的のものは手に入れたし、さっさとコーサーたちの元に戻ろうかな。
「おっと、この船……頂いていくか」
敵が放置した船なのだが、そこには大量の爆薬が積まれている。
物騒なので貰いましょうね。
船ごとストレージに転移させておいた。
メッセージで爆薬あるから気をつけろと言っておこう。
そこそこでかい船だ。
敵さんのものとはいえ、手に入れられたのは大いにありがたかった。
マルタあたりにくれてやれば喜ぶだろうし、むしろこっちに連れてきてあいつも、そして神徳丸親方とその弟子共々正真正銘の海の男にしてやるべきか。
運良く第一波、第二波と暗殺者の攻撃を未然に防ぐことができたのだが、船の上で飯を食べた釣りも終わりを迎えるだろう。
そうすれば次は陸に上がるのだが、そこからが正念場だと感じる。
なんとも敵さんの動きが慎重というか、いまいち活発的ではない。
海の上は捨てて、陸に上がってきた時が勝負だと思っているのだろうか。
なんにせよ。
どんとこい。
たこ焼きの具にしてやろう。
更新遅れてすいません!
社員旅行で箱根に行ってました。




