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更新遅れてすいません!


 食い荒らすような魔物がいないモニュメント域の海。

 言わばモニュメント海域。領海。


 上質な仕掛けと的確な位置どりで入れれば食いつく。

 まさに入れ食い状態とも言えた。

 エミリオとフラシカは、次にまた次にとベラードや他の魚を釣り上げて行く。




【アラカブ】Lv3

海底に住む貪食な魚。大口を開けて食らいつく。




 あ、あらかぶ?

 アラカブってこと?

 またはカサゴだよな?


 海系モンスターの開発元は、まさかの九州出身とか?

 それも限られた地域になってくるぞこれは。


 カサゴは唐揚げだっていう人もいるが、普通に俺は味噌汁で食べたいかな。

 なんだって魚は味噌汁が一番美味しいと思う。


 はっ、味噌。

 味噌だよ、味噌どこだよ。

 米はある、日本酒もある。

 醤油もある。


「むわー!! お、重いいいいい!! 師匠おおおお!!」


「だ、大丈夫ですかコーサーさん!? 加勢しますから落ち着いてください!」


 くそ!

 味噌だけ、ねーじゃねーか!!!


 なんだこれ、なんか怒りに打ち震えそうだ。

 そんな気持ちをひた隠しにして、俺はエミリオの釣ったアラカブをぐわしと掴んだ。

 コーサー達は知らん。頑張れ。


「大量だな」


「は、はい! 私も自分で針から外してみたいです」


「そうか。このアラカブって魚はゴツゴツして鋭い体と背びれに気をつければ持ちやすい。こんな感じて、口元を掴んでみるんだ」


「はい!」


 で、口の中に指突っ込んで針を持ったらぐりんと抜き取る。


 飲み込みすぎて取れない時は、糸を切るしかなかったりするのだが、今回の使用している糸は限界まで強度をあげているので無理やり中身ごとむしり取っても可。


「……こうですか?」


「そうだ」


 アラカブを手に持って、針を取るエミリオ。

 釣りを始めてから、顔つきが幼くなったというか、年相応になったというか。

 喫茶店で出会った当初のように、覇気がない表情はさっぱり消え去っていたと思ったんだが、急に表情が暗くなる。


「どうした?」


「……確か……ガイド様は、私の目を見て諦めと申されていましたよね……?」


 バッチリ聞こえていたみたいだな。

 さて、なんて返そうか。

 どうにもごまかしようがないぞこれ。


 だが俺が何か言い返す前に。

 エミリオは生かしてある魚を見ながら言葉を続ける。


「この魚達も、こうして釣られたら……もう諦めるんでしょうか……?」


「うーん……難しい質問だなあ……」


 魚の気持ちなんてわからない。

 あの湿地帯にいたカンディリアさんと契約したら、ローヴォやノーチェ、ルビーみたいに意思が伝わってくるのかもしれないけど。

 結局のところ、どれだけ頑張っても結果がそこまでであれば、事実そこまでなんじゃないかと思う。


「結果論だと、どうすることもできないな。何か外的要因によるすごい幸運とか、気まぐれがない限り、今ここにいる釣り上げられた魚達は食べられる運命にある」


「そうなんですね……」


 難しい顔をしながら考え込むエミリオ。


「だが、諦めているかという問いには、肯定はできないかな……見てみ」


 エミリオから竿を借りてそのまま海の中に落とす。

 すぐさま竿先が震え、手元にヒットの感覚が伝わってきた。


「最後まで無心に踠いてるだろう? それが重要かも知れんぞ?」


 思考する力がないから、バタバタと体をクネらせ暴れることしかできない。

 だが、何もしないでブラリとぶら下がるよりは、いくらかマシだと言える。


「そしたら、──ほら」


「あっ」


 釣り針にかかっていたベラードはもがいた末に針から逃れて海へと帰って行く。

 少々もったい無い気もするが、それがこの魚の運命だったってことにしておこう。


「運命は変わるかも知れん」


 よく言うよな。

 チャンスを掴むためには、チャンスが来た時にしっかり掴める準備をしておけって。


 結局そこは結果論だと思う。

 何か行動を起こさないと、その後の結果は変わらない。


 変わるか変わらないか。


「どうせ結果は同じだ。なんて決め付ける人もいるが、先のことなんて誰もわからない」


 成功か、失敗か。

 それを考えるのは、答えを出せるのは。

 全てをやりきった後でしか無理なんだよな。


 もちろんリスクはつきものだ。

 博打とかでも、一気に賭けを仕掛けた方が良いっていうしな。


 リスクを取るよりもコツコツ堅実に進めた方が良いって人も多いだろうが、俺はそうは思わない。

 武術の世界は基本的に日々の鍛錬の上に乗っかった博打みたいなもんだからだ。


 前提なんだよ。

 コツコツ堅実っていうのは。


 持てる力を全て使い、最後に勝利をもぎ取るための前提だ。

 それを怠った時点で、同じスタートを切った物には負ける。


「……かもしれない、なんですね」


「単純に、良い方か悪い方かで迷ったら良い方に望みを掛けるのがいいぞ」


 まあ、この王女的には結局帰ってからも何かしらの騒動が起こるだろう。

 暗殺者をこんなに遠くまで差し向けてくるほど、敵さんからすれば都合が悪い存在みたいだしな。


「……」


 難しい表情をして考え込むエミリオの頭を撫でる。

 そして手首に俺の分のミサンガをつけてやる。

 第二弾アップデートから仕様変更で、とんでもなく制作コストが高くなりセレクでも入念に準備しないと作れなくなった兎のミサンガだ。

 まあ、死亡回避ってだけで破格の代物だからな。

 プレイヤーにそこそこシビアなこのゲームだ、そりゃ規制もするだろう。


 エミリオは見た所、それらしい護身アイテムは身につけてないからあって損はない。

 今の俺は護衛であるが、それを隠した観光ガイド。

 いきなりミサンガとかアクセサリーっぽいものを王族に渡すと変な誤解を生んでしまったり、不敬罪みたいなことにもなりかねないので、いい感じの話の流れでいい感じに自然に護身アイテムをつけることに成功した。


「あ……これは……」


「これをつけていれば、もし何かが起こっても一度なかったことにできる。まさにおまじないのアイテムだな」


「とても凄いものを……お持ちなんですね……」


「まあ、元々は知り合いに作ってもらったものなんだが、今の俺にはあってないようなもんだから」


 このミサンガは、ジョバンニとの戦闘を見ていたセレクが「あの時ミサンガがあれば負けてなかったから、しっかり持っておきなさい。ってか無くなったら制作依頼しなさいよね」とブーブー言いながら後に渡してくれたもの。


 非常にありがたいのだが、この状況下では念には念を入れてエミリオに渡しておくことにする。

 死亡リスクが高い人が優先的につけるべきだし、その方がミサンガ冥利につきると思わないか?


「前に祖父からいただいていたお守りは、この間壊れてしまっていたので……すごく嬉しいです」


「なるほど」


 同じような護身アイテムはすでに壊れて無いってことは、エミリオ一回死んでるってことか。

 ……なんとも、なんと言っていいのやら。

 年端もいかない少女がそんな酷い目に遭って心が折れないはずがないってことだよなあ。


「まあ、何が遭ったのかはわからないけど、とにかく諦めなかったらなんとかなるだろ」


「はい」


 我ながらなんとも無責任な言葉を投げたとは思う。

 が、しかしだ。

 事前ではなく現場で不安要素がちらつくとありもしないミスを招く。

 この場合は盲目的に良いことを信じるのが良い心のあり方だろうな。


 魚と一緒だ。

 考えるな、抗えってやつ?


「そこのコーサーとか、逆に元来た道に戻ることを諦めてこの場にいるようなもんだからな」


「それはどういうことですか?」


「あいつはもともとレベル30にも満たないただのチンピラだったけど、俺が拾って育て上げた。結果、王都タッグ戦でもランカー入りするくらいには強くなった。そしてこれからもさらに強くなる」


「え、闘技場で戦っているのですか?」


「まあ、修行の一環でたまにな」


 そんな話をしている中、コーサーはフラシカと一緒に釣り糸を手繰り、なんか馬鹿でかいタコみたいなモンスターを釣り上げんとしていた。


「うおおおおおおおおお!! なんだこいつーーー!!! すげぇうねうねしてます師匠おおおおお!!」


「コ、コーサーさん! 流石にリリースしましょう!? こ、この魔物はやばいですよ!!」


「ダメですフラシカさん! 師匠がやれって言ったことはとりあえずやらないと!」


「ちょ! もうここまで引っ張ったんだから! コーサーさん! コーサーさん!」


「釣り上げるのがこの綱引き勝負の勝敗ですよ! 後は私が頑張りますからフラシカさんは下がっててください!」


「も、もう知りませんからね!」


「うおおおおおおおおお!! 釣ったどおおおお!! も、もう限界なんであとは師匠お願いしますパタリ」


 ……コーサー、釣り上げるだけ釣り上げて、あとは俺任せか。

 でもまあ、クラス4後半のタコは相手として上々。

 途中でフラシカも加勢していたが、よくぞ引き上げたと言っていい。


「今回は褒めとくぞ」


「し、師匠ぉ〜」


 だが、フラシカとエミリオは10メートルはくだらない巨大な軟体生物に慄いている。


「ガ、ガイト様……その……」


「大丈夫だ心配ない。タコの急所は心得ている」


「いや、そんな問題では……? 早速ここでミサンガ使ってしまいそうですが……」


「それを頼りにしてる内じゃ、諦めてることと同じだぞ」


 まあとりあえず、さっさと倒してしまうか。

 もちろん倒したら食べるぞ。

 あのレストランではタコは出てこなかったからな。


「あ、安心してください皆さん……師匠は強いですから……」


「コーサーさん、ぶっ倒れながらそんなこと申されましても、説得力ないですよ……」


 でもこれだけ大きな代物だと、ここにいる連中では食べきれない。

 だから箱詰めして王都の倉庫にでも送って、生産組連中にもお裾分けだ。


 よーし。

 今日は船の上でタコパだタコパ。








ローレント「ふふ、まだただのガイドじゃないとはバレてないはず。俺はただのガイド、ただのガイドさ」


コーサー「………………えっ……」







タコとのバトルは割愛かなあ。

多分魔法撃って、刀で斬り裂いて、噛み付いたり目玉潰したり、いろんなことして叩き潰すと思います。

そこはご想像で。






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