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更新遅れてすいません……!
せっかくの海だ、そしてそこそこ大きな船だ。
このまま沖合に出してひと漁行こうぜって感じなんだが、今回は要人連れ故に断念だな。
モニュメントの範囲外に出ないように気をつけながら、魔物の気配を読み取ってギリギリを進んで行く。
海上は良い風が吹く。
少し混じった塩の香りもそうだが、はやりなんの障害物もない風というものはいい。
なんというか、不純物が全くないイメージだ。
森林も、木から出るよくわからない物質が空気を濃くさせるというが、海もまた然り。
天然水で例えると、硬水とか軟水とかそんな感じじゃなかろうか。
もちろん海は軟水タイプかな、なんてね。
「街が遠い……」
遠くに見える街を見ながら、ぼんやり呟くエミリオ。
「実は私もこんなに遠くまで海を移動したのは初めてです……うぷぷ……ふ、船酔いとかは大丈夫でしょうか……? うっぷ……」
「グレイス……無理しなくていいですよ……?」
「いえ、なんのこれし……うっぷっ」
なるほどグレイスは船が苦手か。
彼女は船の縁で顔を真っ青にして口元を押さえている。
でもそうやって海面を見つめるから酔いがまわるんだよな。
「船室で寝たらすぐに良くなるから」
とりあえず吐かれたらせっかくの海が台無しになるのでそう促す。
「む? しかし……うっぷ……」
「グレイス……休んでくださいね……?」
「そうですよグレイスさん。何かあった際に使い物にならないのも困るので、ここはお言葉に甘えて大人しく、休憩しておいてください」
「わ、わかった……おえ……」
グレイスを船室に案内し、備え付けの毛布を渡しておく。
さすが、なかなか良いグレードの船。
なんでも揃っている。
今は帆をたたんでいるが、しばらくしたら帆を出してヨットクルージングみたいなことをしてみていいかもしれない。
御誂え向きの白塗りの船だしな。
「さてと……うーん、この辺りかな? ローヴォどう?」
「ぐぉん」
「なるほど、この辺か」
「……師匠」
そんな感じで海を見ながらローヴォを話していると、後ろからコーサーが声をかけてきた。
なんだろうか。
「時折ローヴォさんと会話してますけど、一体何を話してるんですか?」
「ああ……魚群探し」
海中の危険性ももちろんだが、同時に魚の群れも探してる。
深さは……かなりある。
底が見えないくらいの場所だと、海底すれすれにベラっぽいのもいるだろうし。
もしくは、アジとかサバとか青物の回遊ポイントも見つけたい。
大量に釣って、大量に〆て、一瞬で魚の木箱をストレージに転送。
メッセージでも魚が行くかもしれないことは生産組の奴らに伝えてあるので、王都の間借り倉庫でバイトしてるNPCが魚を全て保存して負いてくれる寸法だ。
水気をしっかり切って保存すれば、少しは持つ。
本来ならば熟成に氷魔法が欲しいところなのだが、誰か亜種派生の魔法スキル持ってるプレイヤーはいないのだろうか。
いたら高時給で雇うのにさ!
結局のところ……最悪自分で雪山に持って行くしかないのかもしれない。
地形利用しましょうねぇってことだ。
ゆくゆくは俺も転移ゲートを扱いたい。
そして倉庫は全部雪山に作って食材をどっさり……腹減るな、なんだこれヨダレ出てきた。
「ぐふ」
「し、師匠?」
「ふむ? ああ、魚食べたい」
「……散々食いましたよね?」
「他にも色々海の幸はあるんだよ。本来ならば、モニュメント領域をちょっと出て、素潜りしつつ海中の魔物を相手したいのだが、それは許されない?」
「断じて許されませんね」
断じられてしまった。
残念だ。
まあ、錨下ろして早速釣り始めるしかないよな!
「みんな釣竿を持て」
「……いつの間にかもう敬語ですらなくなってますね……」
コーサーの嘆きを無視して、エミリオ、フラシカに釣竿を持たせる。
「これが、釣竿というのですか?」
「なんだか私が知っているものとはやや違いますね。棒先に糸が結び付けられているのかと思いましたけど、棒身についた輪状の針金を通して、根元の方の……これはなんですかね?」
「糸を通しているのはガイドで、根元のまき軸はリールと呼べ」
「リールと言うのですね。ありがとうございます。リールに糸が多めに巻かれています。不思議な構造です」
「最新式だからな!」
この船よりも価値のある、最新式の釣竿である。
海の都市ということで、釣具屋も当然存在し、俺ももちろん下調べはしていた。
川と異なり、海はかなりの深さがある。
だったら釣り先に糸をくくりつけたものでは不可能だってことで、このローロイズでは手巻きタイプのものが使われているらしい。
手首を動かしてリールをぐるぐる巻くのではなく、木枠に糸をつけた物に手で巻いて行くスタイル。
うむ、すでに俺は作ってあったりするのだ。
ってことは、ローロイズでは俺の釣竿は最先端。
ニシトモにその旨をスクリーンショット付きで報告すると、今度連れて行けと言われた。
まあ、素人目でも金になるよなあこれ……!
「本来だったらこういった木枠のものを使う。コーサーはこれだ」
「ええ、私も最新式のが……」
「魚と綱引きしろ」
「……」
古い木枠の手巻き竿を見せつつ、説明する。
「特殊な加工で限界まで強度を上げた竹の竿身と、糸が擦れ無いようにこれまた特殊な加工を施したガイド。さらに糸もハントスパイダーの一番良い糸を限界まで強度を引き上げた特殊加工品。正直末端価格100万グロウはくだらない製品でもあり、今日は観光ガイド兼釣り体験ガイドということで持ってきた」
「ふ、チャーターした船と同じくらい……」
「あ、あの……こちらの予算的に足りますかね……?」
流石に一本100万だという価値を聞いて、フラシカも口元をひくつかせる。
「問題ない。釣りを楽しもう。釣りはいいぞ」
「は、はあ……」
そんなこんなで釣りがスタートしたのであった!
がんばって毎日更新に戻れるようにしたいと思っております。




