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さて、それから少しこのローロイズという海沿いの都市を見て回った。
海の見える二階建てのレストランからもその風景を一望できていたのだが、はやり波止場を近場で見れたのは大きい。
港につけている船は帆船が全てである。
蒸気機関の代わりに魔導エンジンを積んだ船がいくつもあるのだと思ったが、帆がない鉄の船はなし。
中世っぽいのであるが、魔導エンジンがあればそんな船が一隻はあってもいいだろう。
あれかな、魔石の節約とかかな?
化石燃料のような立ち位置だったり、お金の代わりになるものや価値を証明するものに宝石と魔石がランクアップしているので、そういう世界観とか位置づけかな。
だから風がある時は魔石の節約をするのだろう。
コスパ命だ。
ゲームの中の人も節約するのだ。
さて、潮の香りがなんともリアル。
海の中に見える魚をローヴォが興味深そうに目で追っている中、俺とコーサーはフラシカ達からもらったガイド予算を持って、船をチャーターしにきた。
「……遊覧船ですか」
「海の上が一番平和だぞ?」
「確かにそうですけど」
近海は魔物はいなさそうだしな。
沖合に船が漁に出ている。
その辺までは基本的にこのローロイズのモニュメント領域だと思っておいていいだろう。
地図を見たが、この都市の中心は海の側だ。
メトロポリス規模の都市ゆえに、地図を見れば一発でどうなっているかわかる。
基本的に孤立した都市が大きくなればなるほど、円形に外壁が建つ。
テージシティもそんな感じで、王都なんか上から見たら綺麗な円形である。
そこから人口の山みたいなのがあって、白亜の城がそびえ立つ。
農耕都市アラドは、町の区画を小さくしてその分農地にモニュメントの有効範囲を当てていたりするのだが、このローロイズは海に特化している。
領海内は魔物がポップしない。
ゆえに安全が保障されており、遊覧船というものが存在する。
それにかこつけての今回の遊覧船ガイドという運びになった。
「色々なルートは別の観光ガイドからパンフレットを貰ってきた。これに沿ってやればいいだろう」
この町の、ガイドをパクる、エセガイド。
いい句ができたぞ。
「……はあ……」
船をチャーターするために、観光波止場の受付へと歩いていると、コーサーがため息をついていた。
せっかくナウでヤングな格好してるのに、なんでため息をついているんだろうか。
「どうした?」
「いやその……これも修行の内とかで、私一人で船を漕ぐ展開になりそうで……」
なんだ、そのことを悩んでいたのか。
コーサーの視線を追ってみると、風がない中頑張って進む手漕ぎ観光船の一団がいた。
十人以上客が乗っちゃ船を二人で頑張って動かしている。
「大変そうだぁ」
それを見て、面倒になっただろうか。
全くコーサーめ。
「こっちは乗るとしてもあの側近二人と王女と俺ら二人の五人だぞ? ちょろいさ」
「漕ぎながら、エセ観光ガイド役をするのが実際厳しいのではって思ってるんですよ」
「む?」
「師匠、外向けの人じゃないでしょう?」
「……なにがいいたいんだ?」
「この際はっきり言っておきますけど、外交向きではないですよ」
「……否定はしない」
言い返そうかとも思ったが、言い返す言葉も出なかった。
「あの服屋の店員に絡まれた時、私を売りましたね?」
「…………」
黙秘だ。
コーサーめ、それを根に持っているのか。
くっ、どうしたらいい。
修行甘くすればいいのか?
いや、ここは運とキツくして忘れさせてあげるのが一番だな。
とりあえず今をしのぐために言葉を濁しておく。
「ま、まあ心配はいらんさ」
「どういうことですか?」
「漕ぐ必要はない。俺が船は動かすからな」
「え? 師匠が漕ぐんですか?」
「……違うな。手漕ぎをチャーターする必要がどこにある」
そして、そんなことを言いながら俺とコーサーは、遊覧船チャーターの受付へと赴いた。
なんですか、と聞かれたところで俺は答える。
「魔導エンジンを積んだイイヤツを貸して欲しい」
「え!? 魔導エンジン!? 予算オーバーですよ!?」
顔を歪めるコーサー。
「いや、心配はいらない。俺から少し継ぎ足す。なんなら魔導エンジン単体は持ってるから、換装可能な船を貸してもらえれば十分だったりする」
資金は潤沢にあるしな。
ニシトモ的な価値観でいくならば、この王族護衛は重要な依頼だろう。
それに対してお金を惜しむようなことは、彼なら絶対しないはずだ。
「……魔導エンジンをお持ちで……?」
「ああ」
訝しむような目線を出す受付の人。
まあ、無理もないだろうな。
船を持たずエンジン単体だけを持っているという人間はあまりいない。
「……ああ、そういえば師匠船持ってましたね」
「船は俺のじゃないが、その船のエンジンは俺が買ったやつだよ」
厳密にいえばニシトモに村開発のお金あげて、それで彼が勝手に買ってたやつだったような気がする。
村が奪われる前まで稼がせていただきました。
それから水運が機能しなくなったので、船自体はノークタウンに戻し、機関部はストレージの奥底に眠っているというわけだ。
「すいませんが、安全上の問題でこちらが用意した物以外を使われますと、有事の際に責任を負いかねます。魔導推進器式の遊覧船のグレード表記が書かれた物がこちらにございますので、そちらをご参照の上で検討をいただければと思います」
「わかった。なら、十人乗り程度で最新のモデルをお願いしたい」
「畏まりました」
一日貸切だと、いくらだろう。
値段を見ると50万グロウ。
手漕ぎの最小単位が1万グロウからだとすると、五十倍の規模だ。
「魔石代って、込みですか?」
コーサーが尋ねていた。
意外とマメだな。
「このグレードからは基本的に込みになります。こちらで一日分と見込まれる燃料は補給しておりますので大丈夫です。故障の際は備え付けの無線がございますのでご利用ください。あと、破損等の保険も込み込みとなりますが、人身事故の際は船の破損はこちらですが、負傷させた相手への賠償は借主の責任となります」
「事故保険もつけてもらえますか?」
「対応グレードがありますが、こちらもこの表記に従ってご選びください」
「一番いいので!」
「……おいコーサー、俺がお金出すんだぞ」
「師匠運転で事故保険つけないなんて、バカバカしいにもほどがありますが」
ぐぬ、まあ襲撃が予想されるから、保険もつけておこう。
そして結局全責任をチャーター会社に押し付けする一日保険にも加入し、含めて100万グロウほどになった。
側近二人からもらった予算は20万グロウ。
ひえー、だいぶオーバーした。
もっとも、予算をもっと出せないのかと聞いて見たが、極秘依頼のようなものなので予算自体はないらしい。
近衛給金の一部と、依頼主の王からポケットマネーで渡された額でなんとかしろとのこと。
まあ、海に出るって判断は俺が下したようなもんだから。
仕方がないな。
全ては王女を守り切った時に、事件が明るみに出た時に報酬が発生するようだが、この依頼の報酬は王族とのコネクションだと考えておこう。
ミドルとその弟子ハザード。
貴族の区画でのさばっていた。
俺もそこに殴り込みのカチコミをぶち込んでやるんだ。
ついでに言えば、非常用ゴムボートもストレージにあります。
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