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「まて」


 獰猛な表情で歩を進めるトモガラを止めた。


「なんだよ」


「交代な、この間譲っただろ」


 それだけ言うと、トモガラは舌打ち一つして大人しく引き下がった。

 強い相手が居れば戦ってみたい血筋だと言うのだ。

 あの時は大人しく引き下がったが、今回は許すつもりは無い。

 トモガラも筋を通すように俺に譲る。


 同じような血が流れているのだろう。

 ゲームにはまり込んでいるのを亡き曾祖父が知り得たら、北海道の名も無き山に巣くう熊の相手をさせられ兼ねないぞ。


「すぐ終わらせてやんよ、それまで精々生き残れ」


 こちらを見ずにそれだけ言って、トモガラは手斧をレアゴブリン達に投擲した。

 俺も頷くと、トモガラからホブゴブリンに向き直った。

 ローヴォは大人しく座っている。

 俺らの空気が、そうさせるのだった。


 空気読める犬。

 流石過ぎる。


 何故一緒に戦わない?

 この間の戦いにローヴォはいなかった。

 リベンジマッチみたいな物だ、状況も。

 俺達は前よりも更にレベルを上げて、新しいスキルを身につけてここへ来た。


 無粋。

 たった一言に尽きるのだ。


 合わせるように、ホブゴブリンのレベルも上がっている。

 だが、上昇率は俺らの時より低い。

 含めて、格上だとしても、前と同じ状況で戦うことにこそ意味がある。


 ホブゴブリンの凶悪な咆哮。

 手元に既に大剣は無い。

 身を軽くするべく、六尺棒のみ手元に構える。

 半円を描くように歩を進め、円運動と供に六尺棒を繰り出した。


 メイスによって弾き返される。

 膂力も凄まじく押し返される。

 単純な力では到底及ばない。

 突き、掛け、殴打。


 切り札と言えるのは、大剣の転位。

 まだ使わない。

 大剣を織り交ぜながら戦うと、このホブゴブリンは確実にそれを含めた対応を取ってくる。


 向こう側に大剣という脅威が置いてある。

 使う気は無いということを示しておく。

 当然、【アポート】も使わない、悟られるからだ。


 六尺棒が弾き返される度に、手元から離れそうになる。

 堪える、反発せずに、円を描くように、球体を作るように受け流し、右の攻撃を左の攻撃へと転じさせる。


 力押しするなら、弾き飛ばされても手元に即転位で振り抜くことが出来る。

 だが使わない。

 そこは技術で補うの、——だ。


「ぐはっ」


 初めて両手で振るっていたメイスを片手にして、空いた方の手によって殴り攻撃が来た。

 この間はメイルでトモガラの大剣をボロボロにして楽しんでいた。

 今回俺の六尺棒が中々折れないから手を変えたのだろうか。

 元々の素材もあるが、折れないように受け流してる俺も褒めてほしい所。


 薙ぎ払われて横跳びする。

 逆らわずに、片手を付いて側転。

 捻りを加えて正面を向き直る。


 HPは?

 三割減ってら。


「ブースト! フィジカルベール! メディテーション・ナート! エンチャント・ナート!」


 間合いを計り、余裕を持って詠唱して行く。

 中級回復ポーションをストレージから出して頭上で割る。

 みるみる内にHPが回復して行く。


 ホブゴブリンが駆けて来た。

 袈裟気味に振り下ろされたメイルを搔い潜ると、交差するように内側から逆の拳が飛んで来た。

 身体へ接近する俺を押し出すように。

 肘を折り、左腕の手甲で、ホブゴブリンの手首を弾く。


 六尺棒は?

 邪魔なのでメイスを避ける時に逆らわずに放り投げた。


 ホブゴブリンの体勢が崩れた。

 左脇腹が大きく見える、そのままレイピアを突き立ててやりたい所だが、生憎装備してない。

 首を折って、返し技の肘鉄を躱す。

 そのまま流れるようにメイスによる一撃が左から来る。


 だが、一瞬。

 ほんの一瞬だが、無防備な身体の正面が露になる。

 コンマ数秒の世界。

 感覚を全てマックスにしている俺には付いて行ける世界だ。


 筏が川に浮く水の音。

 浮力の感触。

 この間の筏での釣りは、中々に良かった。


 同じように、メイスが風を斬る音。

 ホブゴブリンの息づかい。

 そして一瞬でHPを全て削ってくる程の、攻撃への恐怖。


 今しかない。

 頭上にテレポートさせるのは、大剣。

 そして素早くスキルを放つ。


「スラッシュッッ!」


 硬い衝撃音を上げながら肉質にめり込む感触がする。

 倒したか?

 いや、まだだ。

 両断できなかった、確実に殺せた訳ではない。


 現にHPもまだ半分も残していた。

 嘘だろ、これだけやってまだ半分残ってんの。


「ゲヒ」


 骨まで突き立った大剣の横腹にメイスが食込み。

 容易に砕け散った。


「ゲヒヒ」


 メイスには破壊属性でも付いてるのか。

 武器を壊したゴブリンも愉快そうに顔を歪めて笑っている。


「おげっ」


 不意にゴブリンの膝蹴りが俺の腹に入る。

 意識が飛びそうになるのを必死で堪える。

 完全に動揺していた。


 そうだ、回復のスクロールだ。

 ストレージから回復薬を転位しようして、やっと思い出した。

 回復のストレージを最初から使っておけばよかったんだと。


 ホブゴブリンが出て来るのは十分前。

 全然こと足りる。

 と思ったら残り二割にまで減った俺の体力が回復して行く。


「情けねぇな、鈍ってんだろ」


 トモガラがスクロールを使用したようだ。

 そして追撃が来るかと思われたホブゴブリンだが、怒りに顔を染めてトモガラの方を向いていた。

 肩には手斧が刺さっている。


「残り時間三分だ、さっさとしろ」


「おう」


 HPも半分以上回復した。

 頬を軽く叩くと、再び向き直る。

 二対一だ。

 悔しいが、未だに対一では敵わないな。


 気付けば、トモガラの装備が両手とも大剣に変わっていた。


「本気モード?」


「いや、仕事道具を壊されたくないだけ」


 それだけ行って二人で組み合う。

 うずうずしていたローヴォも俺が目線で合図してやるとすぐに参戦した。

 三分しか無い。


 残りHPは半分。

 トモガラの投擲分はすぐに回復してしまったようだ。


 正面に構えるのはトモガラ。

 俺とローヴォは両翼から攻撃に当たる。

 トモガラの猛攻を片手メイスで弾いてしまうなんて、俺の時あんまり本気出してなかったんだな。

 ってか剣を前にすると嬉々として壊しにかかるホブゴブリン。

 頭おかしいだろ。


 俺より先にローヴォが隙を付いて肩口に噛み付いた。

 そして、少し遅れて俺も大剣を転移させて、振りかぶる。

 腹を弾かれ襟首を掴まれる。

 そのまま肩を振り上げるホブゴブリン。


 膨張した肩の筋肉でローヴォの顎は容易に外される。

 そして俺も空中で投げ出される。


「取っちまえ」


 トモガラの声がした。

 わかってるさ、振り上げられる瞬間、俺も自ら飛び上がった。

 身体を捻らせ、ホブゴブリンの手首を持つ。

 そのまま空中へ飛ばされる勢い、全身を捻ってホブゴブリンの肩を外しにかかる。


「ゲバッ」


 腕越しに、ガポッという感触が響いて来た。

 手応えはあり。

 そして、ホブゴブリンの腹には大剣が二本、刺さっていた。


 HPは?

 ゲホゲホと口から溢れ出る血と供にどんどん減って行く。

 そして、消滅し倒れると共にタイムアップになった。



[制限時間が終了致しました、強制退場になります]



 元の位置に戻されるのであった。

 ギリギリ過ぎる。

 だが、クリアだ。


[シークレットエリア”滝壺裏の集落”のプレイヤースコアはSランクです]

[報酬をお受け取りください]

[プレイヤーのレベルが上がりました]

[テイムモンスター:ローヴォのレベルが上がりました]



 インフォメーションメッセージが流れて行く。

 奥の宝箱もゲットし、エリアボスまで倒した。

 と、言うことは完璧クリアといって良いだろう。


「俺がやった時はA+ランクまでだったのにな」


 そうぼやくトモガラ。

 エリアボスを倒した結果がSランクと言う物だろうか。

 さて、報酬だ。


 まずSクラス賞金10000グロウ。

 そしてエリアボス討伐が上乗せ15000グロウに。

 美味すぎ。


 トモガラから聞いた話によるとA+クラスは、9500グロウなんだって。

 Aクラスは9000グロウ。

 その辺はどうでも良いや。



【魔石(中)】素材

色々な素材として利用できる。

価値に比例して大きさと色艶が変わってくる。


【小鬼の魔結晶杖】

レア・ゴブリンマジシャンの持つ杖。

無属性魔力を上げてくれる小さな魔結晶が付けられている。

・無属性魔法スキルの威力向上(中)



 ドロップ報酬で良い物はこの辺りだった。

 魔結晶杖ってすげーな。

 というか、装備に用いれるのね、魔石。

 確か、魔結晶は高純度の魔石をどうこうした代物だと、ツクヨイがいっていた。


 結晶にするには不純物を限りなく除去しないといけなくてですね。

 魔石の小さいのでも、膨大の数がいるんですぅますぅ。

 とちんちくりんがピョンピョン飛び跳ねながら力説していたのを思い出した。


「おい、宝箱あけたか? 俺は魔結晶だった」


「まだ開けてない」


「はよ」


 急かされて開けてみる。



【スキル強化の書】50%

スキルのパラメーターを1ポイント強化する書。



「……」

「……」


 ……。

 俺とトモガラは言葉を失った。


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