-6-
装備が整った。長剣を腰に差した俺に、
「やっぱ長剣なの?」
「問題ない」
「ありありなんだけどな」
そう独りごちるトモガラと共に、さっそく西の草原へと向かう。
グリーンラビット程度なら全然狩れる。
「こう狩るんだ、アポート!」
ほうけ面で眺めているトモガラに俺の戦い方を見せてやる。
引き寄せた小石を拾って投げる。躱されたが第二頭、着地の瞬間を狙って長剣を投擲する。
命中した。
「アポート、スラッシュ!」
その間に走って近づいて弾き飛ばされて怯んだグリーンラビットに剣を手元に引き寄せると【スラッシュ】を当てる。
威力ももうすぐマックスになる【スラッシュ】は兎のHPを削りきった。
光の粒子になって消えて行く。
様子を見ていたトモガラが、呆れたように行った。
「……なんつーか、よくやるぜ」
癪に障ったので、トモガラの戦い方を見せてもらうことに。
彼のレベルは10。グローイングは【ブースト】の派生【マッシブ】を使用しているんだとか。
「まぁ、獲物がこれだしな」
と背負っていた大剣を掲げる。
そして、彼は【ブースト】と【マッシブ】の二つを呟くと淡く光りだす。
大剣は重たくて遅いが、攻撃力は必然的に高くなる。
知り合いの鍛冶屋に特注で作ってもらったそれは、北の森のエリアボスである”スターブグリズリー”のドロップアイテムから出来ているそうだ。
「序盤でも申し分ない威力だぞ」
【マッシブ】は膂力が大きく上がるようで、軽々と大剣を振り下ろして草原のグリーンラビットは光の粒子になって消えて行ってしまった。
強過ぎる、俺も大剣持とうかな。
多少無理しても重たい武器を持った方が良いだろう。
「……俺も大剣にしようかな」
「さっそくブレてら」
「キャラクターデリートじゃなければ何でも良いのだよ」
武器の所持であれば、たしかメインとサブの二つまでスロットが用意されている。
片手剣と盾、弓とナイフ、両手持ちの武器でも制限は無い。
ただ、弓や片手剣などのように片手に持ちながらというのは出来ない。
「だとしたら長剣じゃなくて刺突剣にした方がいい」
トモガラが助言する。
確かに、叩き斬るもので被ってる、バトルの幅が無くなるかもしれないからな。
「ブースト系は持ってるだけで身体の動かし方に補正がかかるから取っとけ」
そう言うトモガラに二つ返事で頷いた。
ある意味制限を解除することを口実にスキルは一杯取って置いて損は無い。
それから、二つレベルが上がるまでトモガラにパワーレベリングを行って貰った。
彼の大剣を借りて見たが、かなり重く、とてもじゃないが隙が大きくて扱えなかった。
なら【アポート】を使って見てはと思ったが、レベルアップのポイントを全て重量につぎ込まないと転位が難しかった。
今のスキルはこんなもん。
プレイヤーネーム:ローレント
職業:魔法使い見習いLv5
信用度:10
残存スキルポイント:0
◇スキルツリー
【スラッシュ】
・威力Lv7/10
・消費Lv1/10
・熟練Lv1/10
・速度Lv1/10
【アポート】
・精度Lv2/10
・距離Lv2/10
・重量Lv6/10
・詠唱Lv1/1
【投擲】
・精度Lv1/3
・距離Lv1/3
【掴み】
・威力Lv1/3
・持続Lv1/3
町へ戻ってくる。
トモガラは第二の町から更に先の町へ向かうみたいで、噴水公園の中央にある大きな噴水で行き先を指定するとそのまま消えて行った。
一度行ったことのある町だと、あれが使えるのだろうか。
便利だな。
便乗して連れて行ってもらうことはできないようだった。
まぁ無粋だからそんなことはしないけど。
早く大剣を購入して、森の先へ進みたい所だが、先に【ブースト】のスキルを取っておくことにする。
そのスキルを取得するには、武道場へと赴かなければならない。
除いてみると、道着を身につけたNPC達が何やら打ち合いをしている様だった。
胸に師範代と書かれた刺繍を施した道着を身につけている人に声をかける。
「すいません」
「戦いの根本とは! 身体の動かし方! 君も入門するかね!?」
圧がすごかった。
「あの……」
「我が道場では! 健康の一環として! 初心者にも優しく教えている!」
指を指す方向には子供NPCがわらわら先生とおもわしき人に群がっている状況。
「いえ、ブーストのスキルを貰いたくて来たんですが」
「ああ、そういう人ね。スキル自体は1000グロウで受け取り可能だ。まったく、最近の奴らはスキルを取るだけ取ってろくに鍛錬もせずにフィールドに駆け出して……」
恐らくプレイヤー達の事だろう。掲示板を見た感じ、【ブースト】は持ってるだけでと言ったトモガラの情報が早くも書き込まれ、道場にてお金を払ってでも取るべきだと言う声が多かった。
ブツブツと文句を言う師範代に教えをこう。
「ちなみに、入門したらどうなるんですか?」
「武道の基礎的な鍛錬を行ってもらう。だいたいの奴が説明を飛ばして話しを聞かないが、ブーストを取得する以前に、動かす身体を作り込む事から始めないとろくに使えないからな!」
なるほど、あくまでゲームだから余計な説明を聞かずに攻略情報だけ見て進んで行く奴が多いのな。
俺もチュートリアル飛ばすし、ろくに説明書も読まないからその気持ちはわかる。
「魔法職なんですが、ついていけますかね」
道場の鍛錬については、割りかし乗り気。
カンを取り戻す意味を込めて、やってみても良いかもしれない。
俺の質問に師範代は、
「ふむ、正真正銘のビギナーか。一応隠しステータスってのがあるのは知ってるか?」
衝撃の事実だ。
それは知らなかった。
「近接職も魔法職も遠距離職も、最初の素体は一緒だな。それに職や成長させたスキル、そして今までやって来た戦いの分だけ、レベルアップと共にステータスもシフトして行く。慣れて行くんだ。この始まりの道場では、身体の動かし方に慣れる為の訓練を行っている」
【ブースト】というスキルは、身体能力を上げるだけではない。
良い事聞いた。
俺は二つ返事て「入門します」と告げた。
一応トモガラにだけメッセージを送っておくことに。
さっきの掲示板でもかなり【アポート】が質問攻めに合っているし、情報を隠すことは恥ずべきことだと誹謗中傷する意見も増えて来た。
気をつけないと。
個人情報は出来るだけ秘密にしておかないと。
「じゃあ、入門料500グロウいただこう!」
「……」
「冗談だ、とりあえず一度実力を見ておこう。道着は奥の部屋にあるから好きに使うと良い」
師範代は奥の部屋に向かうようにアゴで指示する。
ツイッター@tera_fatherです。