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 テンバータウンからそのまま西の農地へと向かう。

 以前見たときよりもさらに広大な農耕風景が広がっていた。

 ついにここまできたかって感じの景色である。


 農耕都市アラドにも負けず劣らず。

 そして空路や陸路がテンバータウンからもついにできたわけだから、魔導エンジンを積んだトラクターが多く動いている。

 人力じゃなくなった分、耕地の規模が拡大するのも……さもありなんだな!


「終わったんですか?」


「うん」


「随分と早かったですね。そこまで骨のない相手だったとかでしょう?」


「いや……」


 俺はニシトモにアマゾンに生息する危険生物カンディルによく似た魔物を沼地で見つけたことを報告した。

 その恐ろしさと厄介さと、PKを捕食したことによって大量に増えてしまったことをである。


「なるほど……できれば私たちの方でも早急に隔離の方向で動こうと思います」


「うん。できれば契約魔法に空きができたら契約させて一匹残らず消滅させる」


「それがいいでしょう」


 ニシトモはなにかと利用できる手立てがないか思案すると思ったのだが、俺の案をすんなりを受け入れていた。

 どこか違和感を覚えながら彼の顔を見ていると、俺の思考を読み取ったのか、相変わらずの糸目で笑いながら言う。


「過ぎたるは猶及ばざるが如しってやつですよ」


 なるほどな。

 何事もやり過ぎは良くない、って格言だ。

 本当にそうだよなって思うよ。


 昔はやるならとことんやってしまえと考えていた。

 引き際? バランス?

 それらが大事と言うならば、完膚なきまでに一色に統一する。

 並び立つものがいなくなれば、孤高の存在に至れば。

 余計なことは考えないで済む……ってね。


 一色にしたところで、その道の先には何も無いもんだ。

 こうして自分では無い他の誰かと関わることで、色は生まれ風景は鮮やかになる。


 と、ゲーム廃人が申しています。

 でも現実に近い感じのゲームだからいいよね!?

 プレイヤー総数も相当いるし!!

 住んでる町より多いぞ。


 話を戻す。


「まあ……それだと俺も当てはまると思うけどなあ……」


「あなたのキャパシティーなら及ぶでしょうってことにしておいてください」


「そうか?」


「ええ、それが分というものですよ」


「なら、そういうことにしておこう」


 分相応という言葉があるが、この場合は畑が違うという言葉があっているだろう。

 俺を戦闘畑、ニシトモを商売畑で畑わけするならば、ともにその頂点に立つ資質を持っているとも言える。

 俺がいうのだから間違いないが、ニシトモは別のゲームでも莫大な資産を築いていただろう。


 頂点とは、一つの畑で常に一つ。

 共存はできない。

 勝つか負けるかで優劣が決まるまでは、争いは絶えない。


 故に。

 畑違いだからこそ、こうして良い関係性を築けているのだ。


「さて、なら帰るか」


「あ、そうだ。ここへ戻った時、十八豪さんが貴方のことを探していましたよ?」


「十八豪が?」


 何の用だろうな。

 絡まれる所以はないのだが、久々だから会いに行こうか。


「はい、稲作してる区画にいるとのことです」


「まだ熱心に米作りしてるんだな」


「スキルで色々な工程をスキップすることができますから、そろそろ日本酒の製作へと移り始めようというところですね。彼女は今や酒蔵の主ともいえるでしょう」


 すごい情熱だな……。

 まさに酒豪ともいえる。


 もともと日本酒が好きだったイメージはないのだが、ここへ来て若干無理やり感のあるキャラ立ちである。

 まあ、なんにせよ顔を見せにでも行くか。




「遅いぞタコ助」


 前に見せてもらった稲作区画には大きな建物はなかったのだが、酒蔵らしき物がおっ建ててあった。

 空樽を積んだ門の手前で、作業服を身にまとい首からタオルをぶら下げた金髪ショートカットの女が腕を組んで仁王立ちという絵面である。


「……怒ってんの?」


「怒ってない」


 怒ってたら開口一番水弾飛ばされかねないだろうしな。

 彼女は言う。


「こっちだよローレント」


 見せたいものがあるのだろうか。

 素直に彼女の後に続いて酒蔵へと入ると。


 蛇口のつけられた一つの樽がまるで御神体のように飾り付けられていた。

 ……日本酒が好きすぎてついに宗教すら起こしかねないな……いや、もう起こってるのか。


「起こってんじゃん……」


「はあ? 何言ってんだい? とりあえずほら……」


 そう言いながら彼女は透明の液体をコップに注いで俺に渡す。

 匂いは……酒だ。

 少し甘め? とも言い切れないなんとも表現しがたい香り。

 日本酒はあまり飲まないから、どう言う感想を述べたらいいのかわからなかった。


「これがテンバータウンで今後名産となる日本酒。その名も“十八郷”の生酒さ」


「へえ……」


 樽に“十八郷”と書いてあるのでなんとなく意味はわかる。

 でも作ってるやつが十八豪ってプレイヤーネームな訳だが、そこんところで語弊は生まれないのだろうか。


「これから火入れを行なって、テンバータウン、テージシティ、ノークタウンの重役を招いた試飲会をやるってニシトモが企画してるみたいなんだけど……まあその、先にやっぱローレントとか生産組の連中に飲んで欲しくてさ」


「そうだったんだ」


「生酒はすぐに劣化するから、普通じゃ飲めないんだよ!? ほらさっさと飲みなタコ助!」


「はいはい」


 ってことで、試飲。

 うーん。


 口当たりはまろやか。

 含んだ時の香りは突き抜けると言うよりジワリと広がる。

 でも爽やかな感じもあって、なんというか……。


「飲みやすい?」


「生酒は癖が少ないからね」


「刺身が食べたくなるなあ」


「だろう? だろう? あたしも刺身が食べたいと思ってたから今度捌いてくれないかい?」


「捌けなかったっけ?」


「あんたほど上手くないからさ」


「なるほどなあー」


 とは言え、生食できそうな魚にはまだ出会っていないような気がする。

 やはり、海へ赴いて見なければいけないのだ。


 淡水魚が生食厳禁だなんて言われている理由は、海水魚と食生活が違うからである。


 海水魚は基本的にプランクトンやそれらを食べる小魚を餌とする。

 だが、淡水魚はコケや藻、あとは淡水に住む貝とか落ちてきた虫を食べるからな。

 虫とか貝ってのが、寄生虫がヤバイ。

 それを主食にしている淡水魚も同じように、寄生虫がヤバイ。

 だから極力火を通すのが重要になってくる。


 まあ、そう言った観点から川魚の生食には生魚大好き日本人でもあまりいい顔をしない。

 ゲームでそれが有効なのかはわからないが、確か釣った魚を焼かずに食べようとして毒状態になったプレイヤーがいるとかいないとか、そんな噂があったようななかったような。


 だから迂闊に食えないのさ。

 初期の蛇解体したらしっかり牙の奥に毒腺あるのがお察し。

 その辺もリアルに作っているのだろうし、魚の生食は厳禁である。

 NPCが生で食べている地域とかがあれば、それに倣って食べられそうではある。


「なら生で食べれる魚を探しに行く」


「……へ?」


「地図的に北の方行かないと海はなさげだ。川をずっと下れば海にはたどり着くかもしれないから、ちょっとその手で考えてみようかな……」


「いや、ちょっと待ちなローレント」


「ん?」


「それ、時間かかりすぎじゃないか?」


「生酒もかなり時間かけたと思うし、それに合う刺身用の魚を探すんだったら、それなりの苦労も必要だろう」


 それに、刺身と日本酒はとても美味しそうだ。

 実食して見たいと心の底から思うので、俺は王都の次は海に行くことを決めた。

 その間にスティーブンと色々動かなければならないこともあるのだろうが、とりあえず海は確定にしておく。


「いや、刺身はその……やっぱ普通に日本酒を飲む会的なものにしないかい?」


「いや刺身だ。十八豪からはブリアンとニシトモに山葵を見つけて生産できるように言ってくれ」


「ちょま──」


「よし、美味い日本酒だった。最高の日本酒には最高の肴が必要だから、早速行動に移すぞ。じゃあな」


「──このタコッ──」


 取り急ぎ、さっさとレベル上げと十傑入り、頂点取りを果たすべく王都へテレポートした。




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