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音もなく近づき、そして水の中に一人、また一人と陥れて行く戦法。
これについては、あまり芳しい成果を得られなかった。
なんか……いるんだよ。
沼の中に、湿地帯の水の中に、ナマズのような、ドジョウのような。
奴が!!!
【カンディリア】Lv1
このモンスターはクラス1から変化しない。
だが、レベルが上がると同時に数が増える。
基本的に急所攻撃。
……カンディルだよな?
小さく透明っぽくてしなやかな体つき。
見た目は見事なカンディルだ。
アマゾンの超危険な魚である。
そして恐ろしいことに、多分鑑定結果と名前を見たらわかると思うのだが……。
プラナリアっぽい要素も含まれている。
切ったら増えるとかじゃないのが救いだが、レベルアップと同時に増えるらしい。
レベル1固定で、クラス1固定と特殊なモンスターなのだが……恐ろしいな。
それに、基本的に急所攻撃とか、なめてんのか。
邪魔されて、消し炭にしている最中にPKに居場所がバレた。
道衣の隙間から太ももに食いつかれた時はびっくりした。
肝が冷えたといってもいい。
まあゲームの世界だから、現実にて不能になることはないとは思うが……恐怖だよなあ。
「まさかローレントか!?」
「いると思ってたぜ! 情報通りだ!」
「囲え! 奴をみんなで真っ先にやるんだ!」
「でもよお! あいつどれだけPKいたところで返り討ちにしてきた奴だぜ!?」
「馬鹿野郎! 俺らもレベルアップして強くなってんだろ!」
「今ならいけるぜ? ハハッ! 今回は攻撃だけじゃなくてサポートも充実してっからな!」
「回復はまかせろぉ!!」
「よーし俺は索敵だぜえええええ!!」
水中から今度は木の上に。
俺とローヴォの体についたカンディリアは全部マナバーストで全部吹き飛ばした。
「探せぇ! 気配の方角はこっちだぜぇ!!」
そんな脅威があるとも知らずに、PKは来る。
水中作戦は失敗。
次は、大立ち回りでPKの軍勢を相手にするわけなのだが……閃いた。
「ローヴォ」
「ぐぉん?」
「下の沼にいる奴らをPK達にぶちまけたらどうなるかな?」
「……ぐぉん」
なんでもいいけどこっちに飛ばして来るなよって意思が伝わってきた。
俺と違ってローヴォは生身だから、嫌なところを噛まれちゃったらしい。
本当に、マナバーストあってよかったよなあ……なんて思いながら、PKが集まってきたところで沼に石柱を落とすことにした。
無論、俺らはしっかりガードしている。
ローヴォとともに厚手のローブを見にまとってからの攻撃だ。
──ドボォン!!
「な、なんだ!?」
「水柱!?」
「こ、攻撃か!? 備えろ! 備えろー!!!」
突然起こった水柱におののくPK達。
そして、一本のマングローブの上に潜む俺に気づくと、声を上げてザバザバと水の中を走って近づいて来る。
何匹か食らいつけばいいかと思って、水しぶきを立てたのだが……必要なかったようだ。
「ふくろだ! ふくろにしちまえ!!」
「ヒャッハー!! ローレントキルしたら動画サイトにアップしてやんぜー!」
「これで有名PKの仲間入りだー!!」
俺を倒したら有名PKになれるのか……。
そんなことより、普通に有名プレイヤーを目指したらいいのに。
俺の中のPKの位置付けでは、クラフトあたりがまだマシかなって思っている。
あいつは確か……監獄制が開始されて早々自主したそうな。
その理由はわからない。
心境の変化でもあったのだろうか。
とりあえず、PKから足を洗うことなのだろうと思って、俺から監獄に伝言を送っておいた。
俺を殺したかったらPKにならなくてもいつでも来いってね。
出所が楽しみだ。
「ぐぉっ!?」
さて、ザブザブと沼に入ってきていたPK達の様子が変化してきた。
痛覚設定を切っている者から、激痛に顔を歪め始めたのだ。
カンディリアさん、ついに侵攻を始めたのか。
遅かったな。
早ければ、飛び散った水に乗じて襲いかかると思ったのだが、どうやら俺の石柱の衝撃で死んでたっぽい。
さすがクラス1でレベル1。
耐久性は紙。
だが、その攻撃性は俺の予測通りとんでもなかった。
大量のカンディリアが、PKの下半身に食らいついている。
「な、なな、なんじだあ!?」
「う、うわああ、ま、まとわりついてるううう!!」
払っても払っても、膨大な数のカンデリィアは取れない。
本来、現生している種であれば、アンモニアに反応して股間からギュルギュルと食い破りに行くっぽいけど、ゲームの中では急所特攻。
そしてPKが浸かる下半身の急所っつったら一つしかないので、御愁傷様である。
激痛に溺れる奴もいれば、そうじゃない奴もいる。
痛覚切っていて痛くはないのだろうが、それでも違和感と不快感はとんでもないだろう。
見た所全部男っぽいしな。
いや、女でも……まあ、うん……。
「ぎゃあああああ!!」
そして一人が溺れ死んだ。
その瞬間、とんでもないことが起こった。
クラス1でレベル1。
次のレベルまでの必要経験値は微々たるもの。
それが、3次転職したプレイヤーをみんなで倒したわけだ。
みんなが一斉にレベルアップして、過剰にレベルアップして。
……結果。
「うわあああああああああああ!!!」
──うわあああああああああああ!!
PKに混じって俺も戦慄の声を心の中であげる。
カンディリアが大量に分裂した。
数で言えば二倍三倍とかの比ではない。
明らかに、過剰に。
沼にいたPK達をあっさり飲み込んでしまえるほど、分裂。
そして数の暴力にて、さらにPKの一人を飲み込んで、分裂。
その工程を何度も繰り返し、繰り返し、繰り返し。
PKがいなくなり、湿地帯の一つの沼地に静けさが戻った頃には。
俺の足元にはおびただしい数のカンディリアさん達がいたのである。
「……これはやばいな」
「あぉん……」
なんとなく持ち帰れたりはしないだろうかと、アイテムボックスからロープにつながった桶を出して、上から掬いあげてみようと試みたのだが……桶を敵だと判断して群がり、一瞬で消えた。
貪欲すぎる。
木製ではなくて、石製とか鉄製のものならばなんとかなるのかもしれないが、いま持ち合わせはない。
レイドボスを倒した後で、湿地帯は水没することはなくなっている。
そのおかげでこういった沼は孤立して、他の水源と行き来ができないのだが、もしそれが解放されたらやばいことになるな……。
…………。
……使えるなこいつら。
契約魔法で一匹でも死ななくしてしまえば後は増えるだけなのが良い。
この場所は覚えておこう。
契約魔法のレベルを早急に上昇させて自分のものにしてしまいたい。
とりあえず沼地に少しでも入ってしまうとジ・エンドなので、俺とローヴォは二人仲良くテレポでテンバータウンに戻りましたとさ。
カンディリアさん、ほっといたら増殖する危険性があるのですが、レイドボスとレイドボスが使役するモンスターが無限召喚される上位互換なので、封殺されていたり。
数が少ないと容易に食われて負けてしまったり、カンディリアさん以上にキバウオ(と、いうなのピラニアの集団性の魔物)の数が多かったので、動きが取れない状況でした。(初期では)
ですが、レイドボスの影響で湿地帯が一部水没。
それで活動域を伸ばした結果、討伐によって沼が一つ孤立。
そこで小魚を食べてある程度増殖してカンディリアさんの楽園ができるという奇跡が起き。
さらにそこをたまたま発見したローレントがPKを餌にして大増殖してしまう奇跡。
たぶん、レイドボス復活(あるのかわかりませんが、稀に復活もしくは別所の奴がくることがあるかもしれません)とかして、再び水没系地形以上が発生したら解き放たれて東の川とその先の湿地帯はえらいことになります。
レイドボスによる地形以上効果は様々です。
マナズマは水没。
エンゴウは山が禿山になる。等。
更新遅れてすいませんでした!!!1




