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-589-※※※メトログリード※※※


 なにがどうなっているのかわからないが、とにかく太陽が昇らない都市。

 それがメトログリード。


 ネオンの光が夜空を照らし、星は姿を隠す。

 ここへ来たプレイヤーは、みんな夜の都市部を思い浮かべる。


 ブラインドの隙間からそんな町並みを見下ろして。

 顔の右半分に黒い翼のタトゥーを入れた男が呟く。


「眠らない……街ですか」


 十分に貯めてそう呟いて、そしてグラスに入った蒸留酒を煽る。


「ふぁぁ……格好つけないでくださいヴィリアンさん。はたから見てて痛いですよ?」


「仮眠明けですか?」


 ガリガリでボサボサ頭の白衣を身につけた男が、あくびをしながら名もないビルの3階にある、看板も掲げてないバーのカウンターに裏から姿を表した。


「ええまあ、ちょっとしんどい作業をしていまして」


「ここは眠らない街なのに、ロマンのかけらもないですね」


「別にこっちは悪役ロールなんかする気はさらさらありませんし。それに……ログアウトもいいですけど、こっちで仮眠をとることによってログアウトよりも多くのMPを回復できますので」


 ヴィリアンと呼ばれた男は、酒を煽りながら「やれやれ」とため息をついた。


 悪役ロールをする気がないと言いながら、それをやってるどのプレイヤーよりもマッドなサイエンティスト役をこなし、そのままプレイヤーやNPC、さらには街を巻き込んだ大騒動を起こした張本人が何を言っているんだと、言いたげな表情をする。


「目的達成のためなら善悪なんて関係ないですねぇ」


 それを察して言い返しながら、ジョバンニはコップに牛乳とコーヒーを注ぐ。


「それに酒を入れて飲んでみては? 香りづけにもなりますよ?」


「お酒飲めないんですよ。それに寝起きはコーヒー牛乳です」


「砂糖入れすぎでは?」


「溶けきらないくらいがちょうどいいんですよ」


「はあ……」


 このヴィリアンが、ジョバンニに頼まれて王都で適当な騒動を引き起こした張本人。

 ともに騒動を引き起こした中心人物だというのに、二人しかいないバーにはなんとも言えない空気が流れていた。


「で、映像は持って来たんでしょうねえ?」


「ええ、もともとそれが貴方の依頼ですし」


「ならさっさと見せてください」


「はいはい、メッセージで直接送付しますか?」


「いえ、プロジェクターを製作したので、これを使いましょう」


「……時代錯誤ですね……いや時代錯誤というか、ファンタジーにはとても似つかないというか」


「メトログリードの存在がまず雰囲気ぶち壊しですから、そういうのは言いっこ無しです」


「それもそうですね……」


 ヴィリアンはそうして会話を切り上げると、そのままジョバンニが用意したアイテムを用いて、バーの壁に映像を映し出す。

 その映像は、王都西方の森で巻き起こったとある騒動の模様だった。

 ゴブリン、ギジドラ、それからアジトのPK集団。

 さらには適当にスケープゴート役にしようと釣った適当なパーティとの戦いまで。

 全てが記録されていた。


「はぁぁあああ……いつみても良い手際ですよねえ……」


 ひとしきりそれを見たジョバンニは、コーヒー牛乳を一気に飲み干すとうっとりとした表情をつくる。


「彼がもしPK側にいたとすると……ハザードさんと双璧をなして、もう最強のタッグになると思うのに……何でこうなんでしょう、やっぱり出会いが間違ってたんですかねえ?」


「そう聞かれましても」


「あの生産組連中がやっぱりネックですねえ。うざったい雌どももいますし、結局その辺のしがらみから解き放ってあげないと、あの人はいつまでのそのままな気がするんですよ私は」


「はあ」


「色々とドーピング手段を確立させて彼の居る位置に普通のやつらを高めようと思っても、なんともうまく行きませんし、期待していたリアードドさんなんか巨大化無しだったらバフ無しの生身でボコボコにされたっていうじゃないですか? 達人連中を起用しても、結局ゲーム慣れしてない頭が硬い人たちばっかりで二進も三進もいきませんし、でもまあ日進月歩って言いますよね? こうしてデータを集めて一からコツコツやって行くってことが、何事も大切なんですよねえ……聴いてますかヴィリアンさん?」


「あっはい」


 ドーピング手段ってところから、酒を飲みながら聞き流して外を眺めていたことは黙っておいたヴィリアンだった。


「やっぱりまだまだデータが必要です。とりあえず、これからも随時そのデータ収集のために動いていただけますかね?」


「その辺は抜かりなくやりますけど、ちょっと私の方でも問題がありまして」


「なんですか?」


「ニシトモと呼ばれるプレイヤーが、巨額を投資してテンバータウンから東の湿地帯をプレイヤーたちから買い占めを始めてるんですが、ちょっとそれに対抗しないと後々面倒くさいかなと」


「ああ……裏を経由した貴族から、奪ったあの土地は死守しろって言われてますからね」


「できれば組織の方に資金の融通をお願いしたいと思ってます」


「勝算はあるんですか? 金を出すのは構いませんけど、出した分だけ必ず働いて欲しいですから。私ってほら、割と現金なタイプなんで」


「……」


 よくわからない無駄なアイテムをお金使いまくって錬成しまくってるのを知っているヴィリアンは、心の中で「絶対に違うだろうに」と思った。


 言葉に出すと、このマッドサイエンティストはひねくれてしまいそうなので、笑顔を保ったままで言う。


「奪った拠点という心臓部は確保してますし、こっちも巨額の資金を投資して、価格を吊り上げてやればニシトモにはそれだけで痛手だと思いますよ? 確保できなくとも、そうして資金を目減りさせてやるのが目的だったりしますし。それで湿地帯が獲得できれば、それはそれで儲けなので、正直な話……負けはありません」


「なら5億出します。好きに使ってください」


「どうも」


 そんな感じでなもないバーでの話し合いは終わる。


 5億という大金は、もともとジョバンニが裏に関わる貴族から騙して巻き上げた金と、繋がりのある貴族からの出資金である。

 彼らが欲しがっていた土地に使う分ならいくら出しても何も突かれないのだ。


「そもそもジョバンニさん」


「なんですか?」


「この交通の便が悪いメトログリードより、奪ったあの拠点に住めばいいと思うんですが」


「却下です。あれだけしでかした私は、当然彼からロックオンされてます。今はハザードさんとも離れ離れになってしまっていますし、テレポートで届く距離だと瞬殺されてしまうので。メトログリードにも来たら、また新天地を探さないといけないですよまったく……でも……クフフフ、楽しいですね、彼との追いかけっこ……くふっくふふククク」


「あっはい……それならそれでいいです」


 ヴィリアンは、悪役ロールをロマンチックにプレイしている分。

 自分でもそこそこやばいやつだろうとは自覚して居るのだが、さらにナチュラルボーンでやばそうなジョバンニに辟易とした気分になる。

 本来であればあまりお付き合いしたくないタイプだ。

 だが、彼は言うことを聞けばお金をいくらでもくれるし、言い知れないカリスマ感がある。

 だから、こうして遠い場所までわざわざ会いに来るのだ。


「では、私はそろそろ」


 ドアノブに手をかけたところで、ジョバンニから待ったの声がかかる。


「そうだヴィリアンさん。あなたがスケーブゴートにしようとしたパーティとはまだ繋がりを持っていてください」


「なぜですか?」


「私もこういう身内感のいざこざは渦中にいた覚えがありますし、こういう恨みつらみはうまくコントロールすればうまい具合に役に立ちます。それに、あのエニシと呼ばれたプレイヤーも気になりますしね」


「では、監視対象にしておきます」


「よろしくお願いしますねえ、クククク」








本当はちょっと長めだったんですけど、変に話数稼ぐのもアレなんでさっくり敵陣模様。

ニシトモが一人経済戦争を地味に仕掛けていたという。笑







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